アレクサンドラ・ハーニー 『中国貧困絶望工場』 ( p.62 )
ウォルマートは ( 製品納入工場に適用される ) 倫理規定を定めており、工場が倫理規定を遵守しているかどうかを監査している、と記し、監査の様子が描写されています。これに対し、工場側は、本来の工場 ( 秘密の工場 ) のほかに、( 監査を受ける ) 表向きの工場を用意することで対処している、と書かれています。
この記述を読むかぎりでは、
中国企業 ( 工場 ) には問題がある、
中国企業 ( 中国人 ) は狡猾である、
と考えられます。
これに対して、( この記述からは ) ウォルマートは倫理を重視する、良心的な企業であると思われます。ウォルマートによる監査は厳しく、厳格になされている、と考えられます。
もっとも、「できるだけ早くやってください。遅くとも午後一時までには終わらせたいのです」 という監査担当役員の言葉や、「彼女は食事もそこそこに次の工場の監査に向かった。」 という行動からは、「監査は、型通りの、形式的なものになっているのではないか」 とも考えられます。現に、監査担当役員は、「公的には存在しないことになっている」 秘密の工場の存在には、気づいていません ( したがって秘密の工場に対する監査は行われていません ) 。
しかしながら、本来、このような監査は、中国政府 ( または地方政府 ) が行うべきものだと思います。したがって、ウォルマートの監査が多少、「型通りの、形式的なもの」 であったとしても、とくに問題にするにはあたらないと思います。どちらかといえば、この種の監査をウォルマートが行っていることには、ウォルマートの良心、倫理に対する姿勢が現れているとみるべきだと思います。
「ウラ帳簿・オモテ帳簿」 とは異なり、「表向きの工場」 を建設するには、膨大なコストがかかります。それにもかかわらず、「表向きの工場」 を用意せざるを得ないほどに、中国での競争は激烈なのでしょう。したがって、
これはたんに、狡猾、というレベルを超えています。
やむを得ない、そうせざるを得ない、のだと思います。
そしてまた、このような中国企業と競争せざるを得ない、中国以外の国々の企業も、大変厳しい立場に立たされている、といってよいと思います。
二〇〇六年のある晴れた朝、深南中路沿いにゆっくりと走るセダンには、ウォルマートの女性役員が落ち着いた様子で乗っていた。彼女は同社に納品された製品を生産している工場の監査に行く途中であった。その目的は、工場が同社の倫理規定に基づいて業務を遂行しているかどうかを確認することだ。具体的には、児童労働や奴隷的労働の厳禁をはじめ、労災、労働時間、最低賃金などの各種規則が遵守されているかどうかを見る。同社が役員による監査を実施しているのは、現在の労働集約的製品におけるグローバルサプライチェーン推進上の矛盾した二つの理由からである。すなわち、消費者や取引先は低価格製品を求めるが、悪い話は嫌がる。そこで、工場側で過去にあったかもしれない不都合な情報が流出することを懸念し、「搾取工場」ではないことを確かめることになるのである。
(中略)
監査担当役員は工場長に賃金台帳など諸記録の提出を求め、その日の午前中に面接をするので、生産ラインで働く従業員を一五人選ぶように要請し、次のように締めくくった。
「できるだけ早くやってください。遅くとも午後一時までには終わらせたいのです」
クリップボードを手に、彼女は工場内を手際よく見て回り、面接する従業員の職責を念頭に置いて仕事の内容を質問し、消化器や救急箱も細かく点検した。また、倉庫も点検した。生産ライン責任者の事務室に飾られている品質管理活動の記録にも目を通した。
工場長は彼女が何か見つけはしないかと用心深く見ていた。監査終了後、彼女が下した評価は「極めて良好」であった。工場長はこれを聞いて安心し、彼女を近所のレストランで広東スタイルの昼食 (回転テーブルに載せた蒸し魚、ご飯、スープ、野菜) で接待したが、彼女は食事もそこそこに次の工場の監査に向かった。
このレストランから車を飛ばして一〇分の場所では、同じ工場長の運営する別の工場が繁忙を極めていた。この工場も、先ほど監査を受けた工場と同じ製品をウォルマート向けに生産していたが、労働条件はまったく異なり、しかもその存在は秘密のベールに隠されていた。
この工場は門で閉ざされた工業団地内の目立たないところに建てられており、広東省政府には登録されていない。五〇〇名の労働者が平屋建ての工場で働いているが、ここには安全設備や労災保険はなく、法定労働時間を超過した勤務も日常的になっている。賃金の支払いは月給制よりも日給制が好まれている。この工場のオーナーによれば、ウォルマートはこの工場の製品を大量に仕入れているが、同社からは今まで誰一人として訪れたことはないという。そもそも、この工場は公的には存在していないことになっている。
ウォルマートは ( 製品納入工場に適用される ) 倫理規定を定めており、工場が倫理規定を遵守しているかどうかを監査している、と記し、監査の様子が描写されています。これに対し、工場側は、本来の工場 ( 秘密の工場 ) のほかに、( 監査を受ける ) 表向きの工場を用意することで対処している、と書かれています。
この記述を読むかぎりでは、
中国企業 ( 工場 ) には問題がある、
中国企業 ( 中国人 ) は狡猾である、
と考えられます。
これに対して、( この記述からは ) ウォルマートは倫理を重視する、良心的な企業であると思われます。ウォルマートによる監査は厳しく、厳格になされている、と考えられます。
もっとも、「できるだけ早くやってください。遅くとも午後一時までには終わらせたいのです」 という監査担当役員の言葉や、「彼女は食事もそこそこに次の工場の監査に向かった。」 という行動からは、「監査は、型通りの、形式的なものになっているのではないか」 とも考えられます。現に、監査担当役員は、「公的には存在しないことになっている」 秘密の工場の存在には、気づいていません ( したがって秘密の工場に対する監査は行われていません ) 。
しかしながら、本来、このような監査は、中国政府 ( または地方政府 ) が行うべきものだと思います。したがって、ウォルマートの監査が多少、「型通りの、形式的なもの」 であったとしても、とくに問題にするにはあたらないと思います。どちらかといえば、この種の監査をウォルマートが行っていることには、ウォルマートの良心、倫理に対する姿勢が現れているとみるべきだと思います。
「ウラ帳簿・オモテ帳簿」 とは異なり、「表向きの工場」 を建設するには、膨大なコストがかかります。それにもかかわらず、「表向きの工場」 を用意せざるを得ないほどに、中国での競争は激烈なのでしょう。したがって、
これはたんに、狡猾、というレベルを超えています。
やむを得ない、そうせざるを得ない、のだと思います。
そしてまた、このような中国企業と競争せざるを得ない、中国以外の国々の企業も、大変厳しい立場に立たされている、といってよいと思います。