N・グレゴリー・マンキュー 『マンキュー入門経済学』 ( p.397 )
長期均衡にある経済についてもう一度考えてみよう。突然、いくつかの企業の生産費用が上昇したとする。たとえば、農業国で悪天候から凶作が起こり、食料品の生産費用が上昇したり、あるいは、中東で戦争が起こったことによって原油の輸送に支障が生じ、石油製品の生産費用が上昇するといったことである。
このよ任な生産費用の上昇によるマクロ経済的影響とは何だろうか。どの物価水準の下でも、企業は財・サービスの供給量を減らしたいと考える。したがって、図12-10が示すように、短期の総供給曲線はAS1からAS2へと左方にシフトする(起こったことによっては、長期の総供給曲線もシフトするかもしれない。しかし、単純化のために、ここでは長期の総供給曲線はシフトしないと仮定する)。
図12-10には、総供給の左方へのシフトの影響が描かれている。短期においては、経済は現在の総需要曲線上をA点からB点へと移動する。経済の産出量はY1からY2に減少し、物価水準はP1からP2に上昇する。経済が不況(スタグネーション。産出量の減少)とインフレーション(物価の上昇)を同時に経験することから、このような状況はスタグフレーションと呼ばれることがある。
スタグフレーションに直面した政策立案者は何をすべきだろうか。簡単な選択はない。一つの可能性は何もしないことである。この場合には、財・サービスの産出量はしばらくの間Y2に落ち込んだままである。しかしながら、結局は、賃金と物価と認識が生産費用の上昇にあわせて調整されて、景気後退は自然に回復していく。たとえば、産出量が少なくて失業率が高い状態が続くと、労働者の賃金に対して下方圧力が働く。賃金が低下すると供給量が増加する。時間とともに、短期の総供給曲線はシフトしてAS1に戻り、それにつれて物価水準が低下し、産出量は自然水準に近づく。長期においては、経済は、総需要曲線と長期の総供給曲線の交点であるA点に戻る。
スタグフレーション(物価が上昇し産出量が減少する)に直面した場合に、何もしなければ、賃金が低下することによって物価水準と産出量は元に戻る、と書かれています。
引用文中の図を示します。著者の主張が正しいことは「あきらか」です。
★図12-10 総供給の好ましくないシフト
物価水準 長期の
* 総供給 AS2
* x xx
* x xx
* x xx xx短期の
* xxx xx 総供給
*・・xx・・・・・・xx xx (AS1)
* xx xx x xx
P2*・・・・Bxx x xx
* xx:xx xxx
P1*・・xx・・:・・xxA
* :xx xxx
* xx x xx
* xx: x xx
* xx : x xx総需要
* : x
****************************
0 Y2 Y1 産出量
同 ( p.398 )
もう一つ、金融政策と財政政策を運営する政策立案者には、総需要曲線をシフトさせることによって、短期の総供給曲線のシフトの影響を一部相殺しようとする選択肢がある。この可能性は、図12-11に示されている。この場合には、政策の変更によって総需要曲線はAD1からAD2へとシフトする。総需要は、総供給のシフトがちょうど産出量に影響を与えないようになるだけシフトする。経済はA点からC点に直接移動する。産出量は自然水準のままだが、物価水準はP1からP3に上昇する。この場合、政策立案者は、費用の上昇をそのまま物価水準に反映させるので、総供給のシフトに受容的であるといわれる。
要約すると、総供給のシフトの話には二つの重要な教訓がある。
- 総供給のシフトによってスタグフレーションが生じることがある。スタグフレーションは、景気後退(産出量の減少)とインフレーション(物価の上昇)の組合せである。
- 総需要に影響を与えられる政策立案者でも、景気後退とインフレーションを同時に解消させることはできない。
スタグフレーションに際して、需要を増加させる政策をとった場合には産出量は増えず、物価水準のみが上昇する、と書かれています。
引用文中の図を示します。
★図12-11 総供給の好ましくないシフトへの対応
物価水準 長期の
* 総供給 AS2
* xx x xx
* xx x xx
* xx x xx xx短期の
* xx xxx xx 総供給
P3*・・xx・・・・・・xxC xx (AS1)
* xx xx xxx xx
P2*・・・・・・xx x xx
* xx xx xxx xx
P1*・・xx・・・・・・xxA xx
* xx xxx xx
* xx x xx AD2
* xx x xx
* xx x xx総需要
* x (AD1)
****************************
0 自然産出量水準 産出量
これも「あきらか」だと思います。こちらも、著者の記述内容について、とくに疑問はありません。
以上で、『マンキュー入門経済学』は読み終えたことになります。著者の説明はわかりやすいのですが、自分の意見を述べる機会がほとんどないので、引用していて「つまらない」ですね。
もっとも、このような状況は事前に予想していました。これを回避するため、最初にマクロ経済学とミクロ経済学を合わせた「入門」経済学を引用し、機会をみてミクロ編、マクロ編(さらに詳しく書かれた書籍)で「新たな」内容を読み込む(引用する)ことにしています。
なお、この教科書に書かれていた内容は、「通常の経済状態」を前提としている観があり、デフレなどの「特殊な場合」にあてはまるかどうか、やや疑問が残ります。これについては、今後も機会があれば考えたいと思います。
次は、もっと現実の問題に焦点を当てた本に移ります。
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