美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

高橋洋一は「使えるエコノミスト」である(その3)消費増税議論

2014年08月24日 23時40分19秒 | 経済


私がほぼ毎日、夕刊フジの高橋洋一氏のコラム「『日本』の解き方」を読んでいることは、以前に申し上げました。

確かに、氏には竹中平蔵流の新自由主義政策を持ち上げるという悪癖があります。そこは厳しく批判されてしかるべきであると思っています。

しかし、氏に消費増税批判をやらせたら天下一品であることもまた事実なのです。そこは捨てがたいところであるとも私は考えるのです。

その意味で、最近の同コラムは絶好調です。で、それをご紹介したいと思います。

八月十九日から二一日までの同コラムでは、消費税増税議論が展開されていました。それは、八月十三日に内閣府から発表されたGDP1次速報値をめぐるものです。その発表内容は、″二〇一四年四月~六月期のGDP成長率(季節調整済前期比)は、実質▲1.7%(年率6.8%)、名目▲0.1%(年率▲0.4%)となった。実質成長率については2四半期ぶり、名目成長率については7四半期ぶりのマイナス成長となった″という、予想どおりの悪いものでした。とりわけ私は、民間住宅が実質▲10.3%という数値に衝撃を受けました。そうして暗い気持ちになりました。なぜなら民間住宅投資は、関連する素材の需要喚起や耐久財などの消費を誘発する効果も見込まれ、景気への影響が大きいので、景気の動向を判断するうえでの重要な指標であるからです。その指標の数値の低下ぶりは、今後の景気動向が予断を許さないものであることを物語っています。

いま私は「予想どおり」と申し上げましたが、こういう結果になることが分かっていた人々は、こぞって消費増税に反対してきました。高橋氏も、消費増税が愚策であることを主張し、警鐘を鳴らし続けてきた有力な論者のひとりです。では賛成していた人々の反応は?、というのが、八月十九日のコラム「懲りない増税論者の行動原理(後略)」でした。

4~6月期GDPに対するエコノミストの反応が面白かった。3カ月前まで、成長率が「マイナス4%」程度で済むと予測し、消費税増税大賛成と政府の背中を押し続けてきたエコノミストが、発表の1週間前に「マイナス7%超」と見通しを修正して、実際の数字が「マイナス6・8%」と公表されると「想定内」とコメントしていたのにはあきれてしまった。

文中のエコノミストが誰なのかは分かりませんが、さもありなん、ですね。はじめに消費増税は正しいという結論があり、それを固持するための理由付けはどんどん変える、というのが増税賛成論者の特徴ですからね。彼らは、理由付け相互間の合理性や論理的一貫性などには頓着しないのです。″「マイナス4%」から「マイナス7%」に予想を変えた時点で、あなたの増税賛成論は破綻しているではないか″と難詰されても一向に意に介さないという不思議な特徴を持っているのです。それどころか、彼らは「7~9月には再びプラス転換する」などとうそぶいて、10%の再増税についてもまったく問題ないと主張する始末です。そういう、恥知らずで無茶苦茶な、彼らの言動を支えている合理性とはいったいなんであるのかについて、氏はこう語っています。

エコノミスト個人の思想というより、彼らの大半はサラリーマンであるので、所属会社の意向が大きいだろう。サラリーマンは会社の中で出世することが物心ともに最大の幸福になるので、会社の命令を無視して、個人の思想を優先することはまずありえない。そもそも会社が増税を応援するのは、財務省にいい顔をしたいからだ。その背後にあるのは、財務省が持っている権力へのすり寄りである。これは、会社にとって具体的な利益になる可能性がある。

軽減税率の適用を希望している新聞業界しかり、財務省所管の外為資金の運用者あるいはその予備軍の金融機関しかり、財務省の予算配分の受益者である政治家や公共団体しかり、国税庁、国税局と税務上のトラブルを避けたい一般企業しかり、というわけです。 このように、財務省の権力は幅広く強力なのです。その分、受益者群も膨大になります。このため、財務省をサポートする増税勢力は社会の至る所にいるのです。

大元締めである財務省にとって、増税が実現すれば予算歳出権が拡大し、財務省自体の権力がパワーアップする。それを見越して増税勢力も拡大するといった具合に、財務省と増税勢力の相互作用で増税スパイラルが加速している。

このように、「増税スパイラル」には申し分がないほどの合理的な根拠があるのです。始末がわるいことに、増税勢力は、社会的経済的エリートに集中しています。だから、サイレント・マジョリティの声なき声を織り込まない増税賛成・増税不可避の大合唱だけがマスメディアという壊れたスピーカーからうんざりするほどに鳴り響いてくることになるわけです。この「増税スパイラル」の問題点は何なのか。氏は、簡潔に次のように述べています。

この増税スパイラルの問題点は、財務省の権力に近い既得権者のみが有利になることだ。増税論者は財政再建のために増税が必要だという大義名分を唱えるが、実は財政再建のために必要なのは増税ではなく経済成長である。この点からみても、成長を鈍化させる過度な増税は国民経済に悪影響で、既得権者の利益にしかならないことが明らかだろう。

「既得権者」という新自由主義者が好んで使う言葉の頻出ぶりは、ちょっと気になるところでありますが、「財政再建のために必要なのは増税ではなく経済成長である」という見解に、私は100%賛成します。その意味で、私は徹底した経済成長論者です。経済政策の中心に経世済民の理念を置こうとするならばそうであらざるをえないのです。

話をGDPに戻すと、では、消費増税によって大きく減少したGDPは、増税賛成論者が言うように、今後本当に回復するのでしょうか。それについて論じられているのが、翌二〇日の「GDPは本当に回復するのか 当てにできないエコノミスト(後略)」です。取り上げられているのは、甘利経済財政・再生相の発言です。

甘利明経済財政・再生相は、「景気は緩やかな回復基調が続いている」としている。1~3月期と4~6月期の実質GDPの平均は昨年10~12月期を上回っていることを理由にしているようだ。昨年10~12月期、今年1~3月期、4~6月期の実質GDPは、それぞれ527.5兆円、536.1兆円、527.0兆円である(季節調整済みの値)。今年1~3月期と4~6月期の平均は531.6兆円なので、昨年10~12月期の527.5兆円を上回っているというのである。

「四~六月はチョット下がったけれど、一月~三月の数値を含めてならしてみると、ほら、去年の十月~十二月よりチョットだけ良いでしょ。だからダイジョウブだよ」と言っているわけです。この発言が、いかにデタラメで意味のないものであるのかを、氏は、次のように暴いてみせます。氏はまず″消費税増税の影響を考えるには、「増税なかりせば」の場合と「増税した現実」の値を比較しなければいけない″ともっともな指摘をします。

増税前の実質GDP成長率は2%程度になっていたのだから、「増税なかりせば」の場合、1~3月期はその前年同期比2%増で532.1兆円、4~6月期は前年同期比2%増で535.8兆円と計算できる。これから考えると、実際の実質GDPと増税しなかった場合では、1~3月期は駆け込み需要増でプラス4兆円、4~6月期はその反動減と増税による消費減少でマイナス8.8兆円分の差異がある。

以上をふまえて4~6月期の実質GDPを比較検討すると、増税しなかった場合535・8兆円であるのに対し、増税を行った結果は527・0兆円です。増税した場合のほうがしなかった場合より8.8兆円も低くなっているのです。今年1~3月期との平均が昨年の10~12月期より高いなんて言い草が、まったく筋の通らぬ寝言のようなものであることがお分かりいただけるでしょう。マスコミは、そのような馬鹿げた数値をありがたくちょうだいしてそのまま報道している場合ではないのです。経済産業省のパワー・エリートたちは、マスコミ連中などその程度の詭弁で煙に巻けるとナメ切っているのでしょう。まったくそのとおりですが。

もっとも氏によれば、″ものすごく落ちた後は、少しは上がるものだ″そうです。これを市場では、「死んだネコでも高いところから落とせば弾む」(Dead Cat Bounce)というとの由。氏によれば、経済のプロと目されているエコノミストのなかの少なからざる人々も、甘利大臣をあざ笑うことができないそうです。

日本の著名なエコノミスト40人程度によるESPフォーキャスト調査がある。1カ月前の7月調査では、平均値で4~6月期の成長率は前期比年率換算でマイナス4・9%、7~9月期はプラス2・65%と予測している。8月調査で4~6月期がマイナス6・81%、7~9月期がプラス4・08%。8月調査段階では各種統計が出そろっているので、4~6月期の数字を当てるのはたやすい。1カ月前より慌てて下方修正した分、7~9月期の数字を上方修正したような感じだ。

優秀なはずの「著名な」エコノミストたちは、なぜ七~九月の数字を上方修正したのでしょうか。前日の氏の話を加味すれば、おおよそのところは想像がつきます。要するに、あくまでも「想定内」という言い方ができるようなつじつま合せをして、増税路線の財務省にリップ・サーヴィスをしようという目論見なのでしょう。

しかし、平成26年度版の『経済財政白書』を見るかぎり、8%消費増税の影響は、「想定内」などとはとても言ってられません。消費税を3%から5%へ上げたことによってもたらされたいわゆる〈橋本デフレ〉の元年に当たる一九九七年と比べて、今回の消費増税によるマイナスの効果は、消費総合指数や資本財総供給や実質輸出や鉱工業生産においてむしろ大きく、住宅着工や機械受注に関してはトントンという惨状なのです。かろうじて、公共事業出来高だけが明るい材料となっています。藤井聡氏が唱導した国土強靭化計画のおかげです。しかしながら、それも財務省の緊縮財政路線によって脅かされているのが現状です。

私でさえ、このような状況になることは容易に想像できました。事実、このブログでもたびたびそう申し上げてきました。しかし、「消費増税を実施しても景気は悪化しない」と主張し続けた経済学者が少なからずいる、というのが残念ながら現実なのです。高橋氏は、翌二一日の「増税の景気への影響は軽微と主張していた経済学者の責任(後略)」で、そういう学者のひとりとして、土居丈朗(たけろう)氏を槍玉にあげます。

土居丈朗(たけろう)・慶応大学教授は、景気が悪い状態で増税をしたらもっとひどくなるのではないかという批判に対して、「消費税増税によって1997年に家計の消費が減少したという現象は観察されないという経済学の研究がある」「消費税が引き上げられるということが予告されたならば、それを織り込んで、できるだけ早めに買い物をしようと思うので、デフレが止まる」と主張していた。さらに、「消費税増税を含む緊縮的な財政政策は、むしろ円安要因になるということが経済学では知られているので、輸出が再び多くなるということを通じて、景気に対する影響は軽微である」と指摘。日本の消費税率と経済成長率が低く、欧州の消費税率と経済成長率が高いことを、「消費税率と経済成長率の関係」といい、消費税増税しても大丈夫と強調していた。

ついついいろいろと言いたくなってくるような、悪質でふざけた言い草のオンパレードであるとは思いますが、ここでは高橋氏の議論を紹介するのが主眼なので、控えておきましょう。氏の言葉に耳を傾けてみましょうね。

一連のロジックは、財務省の増税主張のロジックとまったく同じであった。土居氏が財務省の言いなりというより、ともに増税指向なので、結果として似てくるのだろう。財務省としては、土居氏のような学者がテレビなどで前面に出てくれれば弾よけになるので、うれしいだろう。

土居氏が財務省の御用学者を意図的にやっているという単純な話ではなくて、主張がもともと似ているので、おのずと財務省翼賛会傘下の既成マス・メディアでの露出度がはなはだしくなった、というのがふるっています。私の耳に氏の言葉が、″土居は役得目当てに財務省寄りの発言ができるような悪知恵などなくて、おのずと財務省の意に添った発言をしてしまっているだけの馬鹿にすぎない″と言っているように響くのは、ただの空耳でしょうか。

1997年の不況が消費税増税によるものでないという理屈は、当時の財務省で考えたものだ。筆者はその検討チームにおり、アジア危機が不況の原因とする説について「震源地の韓国のほうが早く回復しているので、アジア危機では説明できない」などと主張したが却下された。駆け込み需要によるデフレ脱却説も、駆け込み需要の反動減や消費増税による可処分所得減の影響を考慮していないので間違いだ。円安による輸出増でカバーできるという考えは、理論的にも間違いだ。十分な金融緩和であれば、マンデル=フレミング効果はないからだ。要するに、金融緩和の時の財政緊縮は、金融緩和に大きなブレーキをかける。さらに、長期の円高で、生産拠点が海外に移転したので、輸出がすぐ増えないという事情もある。

文中の「マンデル=フレミング効果」とは、平たくいえば、変動相場制のもとで景気刺激のためには金融政策が有効であり、財政政策は無効となるという考え方のことです。要するに氏は、十分に金融緩和をしていれば財政政策は無効ではないと言っているのです。むしろ金融緩和実施時の財政緊縮は、デフレ不況を長引かせることで金融緩和に大きなブレーキをかけるので、適切な財政政策こそが必要となるから、土居氏のように緊縮財政を是とするのは百害あって一利なしである、と言っているのです。まったくの正論というよりほかはありません。

こうした主張をしていた学者は土居氏以外にもいる。それらの学者は東日本大震災の復興増税も主張した人が多い。もちろん、セオリーは何百年に一回のショックは時間分散して吸収すべきなので、増税はまったく誤りだ。復興増税、消費税増税と続けて間違ったが、誰も反省していないのだろうか。

ここを目にすると、私の脳裏には伊藤元重という名が自ずと浮かんできますが、いまそれに踏み込むのはよしましょう。こういう、日本経済にとって害毒を垂れ流しているだけの、百害あって一利なしの、無駄飯食いの学者連中の虚偽を暴く高橋氏の鋭い言動を、私は支持するよりほかにないと思うのです。


すでにご賢察のことと思われますが、私が、高橋氏のコラムを紹介することで申し上げたいのは、消費増税10%などもってのほかだ、ということです。それを擁護するマトモな議論など、私は一度も聞いたことがありません。またこれからも、おそらくないでしょう。安倍内閣の最近における支持率の低下や地方選挙での自民党の不覚の根本原因は、集団的自衛権問題でもなんでもなくて、おそらく消費増税による一般国民レベルでの経済状態の悪化であると私は思っています。庶民の暮らし向きが思わしくなくなっているということです。もしも、安倍総理が10%増税を決断したならば、彼の思惑とはうらはらに、安倍内閣は十中八九短命に終わります。国民の心が完全に安倍首相から離れてしまうからです。安倍一次内閣は、経済で失敗し空中分解してしまったのですが、このまま推移すれば、同じ過ちを繰り返すことにどうやらなりそうです。そうなれば、日本国民をデフレ不況の泥沼にふたたび叩きこんだ愚かな首相、というのが彼の評価として定まることになるのではないかと思われます。日本を取り戻すもなにもあったものではありません。

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