美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その37)

2019年10月23日 23時58分46秒 | 経済


*ごく普通の経済学の教科書に載っている、いわゆる「節約のパラドックス」についての、分かりやすい説明と、そのことに対する無知がいかに恐ろしい結果をもたらすか、が述べられています。

ひどい無知による嘘っぱち#6:
私たちは、投資のための資金を供給するのに貯蓄を必要とする。
事実:
投資は、貯蓄を増やす。


今回は、最後から2番目の「嘘っぱち」が述べられます。しかしながら、重要性が最も低いというわけではありません。このinnocent fraudは、私たちの経済全体をむしばんでいます。なぜなら、この嘘は、現実の経済的資源を実物経済から金融経済に移すからです。そうなると、現実の投資は、公共的な目的から遠く離れた方向付けをされることになります。事実、これは私の推測ですが、このinnocent fraudのせいで、有益な生産と雇用から毎年20%以上のお金が流出しています。

*この次に「a staggering statistic,unmatched in human history」という文言が続きますが、直訳すると「人類の歴史と調和しないような、よろめく千鳥足の統計値」です。前の部分とのつながりがよく分からないので、割愛します。なにか気付かれた方、お気軽にコメントをください。

そうして、その嘘は、私たちがいまその渦中にある金融危機をじかにもたらします。

経済学の教科書にある、いわゆる“節約のパラドックス”から話を始めましょう。それは以下のとおりです。

すなわち、私たちの経済活動において、支出は、利益を含む所得の合計と等しい。で、支出は、経済活動の結果としての、販売用の産出に向けられます。

*この次に、「Think about that for a moment to make sure you’ve got it before moving on.」とありますが、これまた、その前とのつながりがよくわかりませんので、割愛しておきます。

もしだれかが、彼の所得より少なく支出することによって貯蓄しようと思ったら、少なくとも別のだれかが、その穴埋めとして自分の所得以上の支出をしなければなりません。そうしないと、売れ残り
が生じることになります。

売れ残りは、在庫の過剰を意味します。そうして、売り上げの低下は、生産と雇用の削減を意味します。

*モノが売れなくなれば、企業は、損失を減らすために、生産と雇用の削減をしようとします。

そうやって、所得の合計の減少がもたらされます。そうして、その所得の減少は、ある人が貯蓄しようとして支出を控えた金額の合計とひとしいのです。ある人が、節約して蓄えを増やそうとすることが、彼の失業をもたらし、所得の消滅をもたらします。なぜなら、彼の雇い主は生産物のすべてを売ることができないからです。

だから、“節約のパラドックス”とは、“所得を支出に振り向けないことによって節約し貯蓄するという意思決定は、所得の減少と追加の貯蓄がまったくないという事態をもたらすことである”となります。

同様に、所得を超え借金して支出するという意思決定は、所得の増加と投資と貯蓄をもたらします。この極端な例のポイントを考えてみましょう。

みんなが、わが国の自動車工場が作る新しい接続可能なハイブリッド・カーを注文したとしましょう。

*「接続可能な」は、「pluggable」の訳です。あまりしっくりこないのですが、とりあえず、そういうふうに訳しておきました。

その工場はいまのところそんなに多くのハイブリッド・カーを生産できないので、新しい需要に直面し、新たに人を雇い入れ、新しい工場を建てるために借金をします。つまり、新しい工場や機械すなわち資本財のために経済活動が活発になったのです。しかし、ハイブリッド・カーはまだ出回っていません。だから、私たちは、新しい生産ラインからどんどん出てくる新しい車を買う日のため、必然的に、お金を“貯蓄”することになります。この場合、新しい車を買うために支出しようという意思決定は、節約による貯蓄の増加をもたらします。

資本財の生産物に支出される資金は投資となり、同額の貯蓄をもたらします。

私は、次のような言い方を好みます。すなわち、“貯蓄は、投資の会計的記録である”。

*上記の言葉は、「貯蓄は、投資の履歴である」とも言いかえられるでしょう。
コメント
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