美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その32)

2019年10月12日 22時16分41秒 | 経済

スティーヴ・ムーア
*今日の暴風雨のせいで、仕事はできませんでした。でも、おかげで、当英文の訳業は進みました。犬の散歩はけっこう大変でしたが。犬の、「散歩したい」という欲求は、「花も嵐も踏み越えて」いるようです。呆れながらも、どこかで感心しております。

スティーヴ・ムーア

*スティーヴ・ムーアは、スティーブン・ムーアともステファン・ムーアとも表記されることがあります。2019年5月に、トランプ大統領の、米連邦準備理事会(FRB)理事への指名を辞退した人物です。ムーアは大型減税を立案するなどトランプ氏と近く、利上げ反対でも足並みをそろえていました。5月の辞退の背景には、多額の税金未納問題などが報じられ、議会上院から承認を得られるか不透明な状況がありました。アンチ・トランプの嵐の犠牲者ともいえましょう。モスラーは、今回アップした文章のなかで社会保障民営化との関連でムーアを強く批判していますが、トランプ大統領はツイッターで「経済成長を志向する優れたエコノミストで、本当に優れた人物」と高く評価しています。2016年の大統領選でトランプ陣営の顧問を務めるなどトランプ氏に極めて近い側近として知られていました。

いまやあなたは、私が数前にスティーヴ・ムーアと取り交わした会話について読む準備ができました。彼は、ケイトー研究所の経済学部門の元リーダーであり、いまは、CNBCテレビ局のレギュラーであり、長年社会保障の民営化を支持しつづけてきた人物でもあります。スティーヴは、私の会議のひとつで
社会保障について語り合うために、フロリダにやってきたのです。彼は、人びとに、社会保障の支払いをすることよりも、株式市場にお金をつぎ込ませることを求める話題を提供しました。

*ケイトー研究所について、Wikipedia に次のような説明があります。
ケイトー研究所/財団は、アメリカ合衆国ワシントンD.C.に本部を置く。リバタリアニズムの立場から「公共政策と政府の役割に関して公に疑問を呈する」かたちで公共政策に「伝統的なアメリカの原理としての、小さな政府、個人の自由、市場経済、平和などの拡大のための議論を深める」ことを使命として掲げるシンクタンク。

彼によれば、人びとが退職したら、時間の経過とともに良くなる。そういうことを議論しました。次に、彼は、一時的な財政赤字の増加は、価値あるものであり、その後の拡張的な経過のなかでペイすると主張しました。なぜなら、株式市場につぎ込まれたすべてのお金は、経済成長と繁栄に貢献するから、と。

その点について、私は疑問を投げかけ、やり取りをしました。

ウォーレン:スティーヴ、政府に社会保障税という形で君のお金をあげ、その後それを取り戻すのは、機能的には、米国債を買うのと同じだよね。君は、政府にお金をあげ、その後それを取り戻す。ひとつだけ違うのは、得られる利回りだ。
スティーヴ:そのとおりだね。でも、米国債を手にすると、社会保障よりも、より多くの利子を手にするよ。社会保障から君は、たった2%の利子しかもらえない。社会保障は、個人にとって、筋の悪い投資だといえるね。
ウォーレン:そのとおりだね。投資については後で触れるよ。いまは、この話題を続けさせてくれ。君の民営化提案によれば、政府は、社会保障の支払いを減らし、被雇用者は、その減った分のお金を株式市場につぎ込むんだよね。
スティーヴ:そのとおり。ひと月当たり約100ドルだ。当人が承諾するならば、高品質の株式も購入できる。

*「高品質の株式」は、「high quality stocks」の訳です。おそらく、ハイリターンの株式のことを指しているものと思われます。あまり、自信がありません。

ウォーレン:了解。で、合衆国政府・財務省は、税収減を補うために、追加の財務省証券を発行し売らなければならない、と。
スティーヴ:そのとおり。その税収減は、将来における社会保障の支払い減をもたらすんだ。
ウォーレン:そうだね。で、私の論点を続けると、株を買う被雇用者は、ほかの誰かからそれを買うんだよね。そうやって、株の持ち主が変わるわけだ。つまり、新たなお金が経済活動のなかに投入されるわけではない。
スティーヴ:そのとおり。
ウォーレン:そうして、株を売った人は、そうやって金を得る。そうしてその金で国債を買う。
スティーヴ:そうだね、そんなふうに考えるのもOKだ。
ウォーレン:とすると、被雇用者は、社会保障にお金をつぎ込むのをやめ、その代わりに、株を買った。で、君が同意してくれたように、社会保障にお金をつぎ込むことと米国債を購入するのは機能的に同じことだったよね。で、株を売った人は、新しく発行された米国債を購入する。これをマクロレベルから見るなら、起こっているのは、株と米国債の持ち主がそれぞれ変わっただけのこと。社会保障を米国債と見なすことが妥当ならば、発行された株式と発行された米国債は、依然として同じまま。とすると、取引費用の発生を別にすれば、経済活動や貯蓄総額やほかのすべてに対して、社会保障の民営化が与える影響はまったくないことになるんじゃないのかい?
スティーヴ:でも、社会保障に加盟している人たちにしてみれば、社会保障の民営化は事態を変化させるものなんだ。
ウォーレン:そうだね。ほかの人たちからすれば、正確には、正反対の変化だけれどね。

*「ほかの人たちからすれば、正確には、正反対の変化だけれどね」は、ちょっと分かりにくいですよね。原文は「With exactly the opposite change for others」です。おそらく、「君が言う変化は、意味がないものだ」という意味のことを言っているのでしょう。

そうして、こういったことについて、合衆国議会や正統派経済学者たちは、まったく議論しないよね。どうやら君は、民営化の提案の中身よりも、むしろ「民営化」というレトリックに向けて、イデオロギー的なバイアスをかけているようだね。
スティーヴ:僕は、民営化が好きだ。なぜなら、それを信じているからね。君は、政府よりもっと上手に自分のお金を投資できると僕は信じているよ。

*トランプ大統領が、どれほどスティーヴ・ムーアを高く評価しようとも、社会保障の民営化の議論に関しては、ムーアは、モスラ―に原理的に論破されてしまったようですね。この議論は、他人事ではないと考えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする