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政治家の育成とシンクタンク

2019年07月20日 | サ行

 政治家の育成とシンクタンク

 参院選が始まって、七月五日、朝日新聞では「オピニオン」欄で、三人の有識者の聞き書きを載せました。題して、「選良」はもはや死語か」。
 その中で特に関心の持てたのが、現職の衆議院議員の一人である村上誠一郎の「まともな政治家どう育成」でした。

 全文を引きます。
 ──若い国会議員の中に発言も行動も「公人」としての自覚がない人が増えています。私からみれば、起こるべくして起こったことです。議員の質が落ちた最大の要因は、衆院の小選挙区比例代表並立制にあります。

 政党・内閣支持率が高ければ、候補者の能力が伴わなくても当選できるようになった。 「○○チルドレン」と呼ばれる議員の多くは、自らの政治信条や理念はどうでもいい、党の方針に従っていれば、政治家が続けられると考えています。自分の頭で物事を考えなくなっているのです。

 政党が候補者を選ぶ仕組みが変わったのも一因です。各派閥は全国にアンテナを張り巡らせて時間と手間をかけて選んでいました。いまは原則公募で、書類選考が中心になっています。学歴や勤務先、ルックスなどで短期間で決めようとするから「ハズレ」が多くなる。欧米の政党も公募で選びますが、党職員や議員スタッフとして数年間雇い、政治家としての資質や能力を試してから判断しています。

 議員を教育するシステムがなくなったのも痛手です。かつて派閥が勉強会を主催していました。私も若い頃はそこに参加して専門家から財政や金融、外交について学ぶ機会を得ました。最近は見識のある派閥の長が減り、勉強会の機会が少なくなりました。

 若手議員の規律が緩んできた背景には、政権・政党幹部の暴言をあまり糾弾しないメディアの報道姿勢もあるのではないでしょうか。「上があんなことを言って許されているのだから大丈夫」と思っているから、考えられないような発言や行動が出てくるのです。

 ただ、新聞やテレビが政治家の失態ばかりを報じるのは考えものです。財政再建、金融緩和の出口戦略、外交の立て直し……。日本はいま課題が山積しているのに、政治が本来やらなくてはいけないことが国民に伝わりません。

 政治家は尊敬されなくなり、国、地方ともなり手が急速に減っています。まともな政治家を育てるにはどうしたらよいかを国全体で議論する時期に来ているのではないでしょうか。参考にしたいのは、プロ野球選手の育成です。 広島カープは若い頃から選手の特性をみてじっくり鍛えることで、自前の良い選手を育てています。政治家だって、最初から何でも完壁にできる人はいませんよ。

 国のために働くという志を持っている官僚のOBは、政治家の有力な供給源だと思います。かつては事務次官や局長級で退職した官僚が地元で国会議員になることが多かった。それは、地元の有力者たちが物心両面で支えたからこそです。地方はそんな気風を取り戻してほしい。 (聞き手・日浦統)(引用終わり)
 
 私が関心を持てたのは、第1に、現在の政治家の腐敗の原因が生き生きと描写されていたことです。よく分かりました。 
 第2に、「官僚OBを政治家の有力な供給源」としたことです。これは自民党的観点ですが、一般化するならば、政治家の育成にはシンクタンクが必要だということです。なぜなら、役所は政権のシンクタンクだからです。日本ではほとんど自民党が政権を握ってきましたから、役所は自民党のシンクタンクになっており、役人を踏み台にして自民党の政治家になる人が沢山いるのです。
 逆にまともな政治家を産み出したいなら、在野のシンクタンクを作らなければならない、となります。これは私の年来の主張と同じです。
 なぜシンクタンクが必要かと言いますと、給料をもらって日頃から政治ないし行政を調査し、監視している人が必要だからです。第2に、落選した場合にも、戻ってくる場所が確保されていなければ、安心して立候補出来ないからです。

 私は、かつて2011年の12月21日の本ブログで、「真のシンクタンクを!」と題する記事を載せました。そこでは雑誌『文藝春秋』2005年10月号に載った堺屋太一と野口悠紀雄の対談を全文引いたあとで、要旨をまとめた上で、私見を「感想」として書きました。以下に再録します。

     対談の主要点の箇条書きと感想

 1、戦後日本の経済体制は、生産者優先、競争否定の理念の下、終身雇用、間接金融、直接税中心の中央集権的財政などを柱とした国家体制で、これは1940年ころに成立したものである。いわば消費者の犠牲のもとに供給側の成長を促し、外に自らの行政指導力を誇示していった。官僚主導と業界協調が人事的にも意思的にも一体となって経済成長に邁進していく。

 2、世界的に、1980年頃から、社会システムにおける官僚の影響力を減らし、自由化、市場化、グローバル化を進めようという流れが強くなった。ところが、その頃の日本はバブル景気を謳歌していて、世界の流れには無関心だった。

 3、かくして大臣の地位は限りなく軽くなる。今では大臣の方が官僚に遠慮している。官僚たちも所轄の大臣を無視して、直接官房長官や首相官邸に意見を具申するようになっている。金融庁でも、金融担当大臣よりも、金融庁長官の方が経験も人脈もある。だから、大臣が長官に遠慮している。

 4、小泉さんは、経世会の支持団体である農協組織や医師会、建設業界や郵便局ネットワークなどを潰そうとしています。その結果、職業の縁でつながった戦後の「職縁社会」を解体し、再び官僚主導に依存することになります。「職縁社会」を潰すのなら、それに代わる民の代弁機関、地域コミュニティや「好みの縁」でつながった政治力を育てなければならない。

 5、なぜ官僚が力を持っていたのでしょうか。理由はいくつかありますが、官僚の力の基本的な源泉は、情報を独占していることです。
 この場合の情報には2種類あって、ひとつは制度に関する情報。たとえば年金制度や税制は非常に複雑で、仕組みを正確に知らなければ政策論ができません。これを知るだけで大変なエネルギーが必要です。
 もう1つは、今現在進行中の事態についての情報。徴税であれば、事業所得の実態がどうなっているのか、といった類の情報です。官僚は、この2つの情報を独占することで、その力を推持し続けてきました。
 官僚は情報の収集のみならず、その発信も独占しています。そして業界との癒着が官僚の力を下支えしています。

 6、世間の多くの人は、官僚の意思決定は数多くのエリートが議論を重ねた上で1つの合意に至っていると思っているようですが、全く違うのです。かなり大きな政治的課題であっても、それこそ局長や担当課長、同補佐など、ごく少数の人間の意思がかなり重要なんです。

 7、確かに官僚が取り締まるべき分野をきちんと取り締まり、徴税、徴収を行なうことはもちろん重要です。しかし、官僚が国の重要政策を決めたり、民間業界に恣意的に干渉していくようなことはやはり問題です。これを止めさせる方法は、宮僚が国家指導の主体としていかに信用できないかを、日本人1人1人がきちんと理解するしかありません

 8、官僚に握られている情報についても、業界や官庁とは別の所に民間のシンクタンクを置き、そこで独自に知的蓄積を図る必要があります。

 感想

 お二人の結論は、8にあるように、国民のためのシンクタンクを作る必要があるという事だと思います。賛成です。しかし、お二人共、自分が旗を振ってこれを作ろうとしていません。これが中途半端なインテリの姿です。

 この座談会から6年経ち、政権交代も成し遂げられましたが、政治主導の挫折を経て官僚主導政治は前より強固になったのではないでしょうか。民主党ではだめだと言っても、自民党に返しても好い事も期待できない。どうして好いか分からない、というのが多くの国民の気持ちでしょう。

2019年の現在の考え

 今でも私見は変わっていません。それどころか、「民間の真のシンクタンク」の必要性はますます高まっていると思います。誰かが旗を振ってくれることを願っています。
 「それなら、お前が旗を振れ」と言うかもしれません。私がなぜ旗を振らないかと言いますと、金がないからです。松下幸之助さん程の金はなくても、「言い出しっぺは或る程度のものは持っていなければならない」と思います。私には、何もないのです。少しでいいから持っている人が言い出せば、クラウドファンディングみたいに集まるのではないでしょうか。
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