印材のお話です。
篆刻に用いる石印材の99%以上が中国で採石されておりました。ある方の表現を借りれば、これだけ大きな地球上で、中国のわずか4か所の山(や地域)でしか採れないというのはある意味奇跡的なのだそうです。
その産地で大きく分類すると「寿山石(福建省)」「昌化石(浙江省)」「青田石(浙江省)」「パリン石(内蒙古)」となります。
ここまでワタシのブログは主に「田黄」「芙蓉石」「鶏血石」の印材三宝を紹介してきました。しかし、実は圧倒的に実用として用いられた石は「青田石」であります。日本の印人の多くが、古い時代の「古青田」が一番彫りやすいという評価をしています。あの高級印材で非常に高価な田黄の彫り心地と遜色ないと述べておられるのです。
そこで、本日は地味ながら、篆刻には最も一般的で大量に使われている青田石のご紹介であります。
その定義・特徴から説明いたしましょう
・産地 浙江省麗水市青田県にある丘陵地帯にあり、図書洞という山坑から採石される。
・ほとんどの石の色は、単調で薄茶や乳白色を混ぜたような薄緑色。これを総称して青い石と表現する。見た目は抹茶羊羹といったところでしょうか
・透明性は低いものが多く微透明が大半である。
・時代は古く、篆刻を石に刻むようになった1500年頃に、青田の鉱脈から発見された「燈光凍」・「魚脳凍」 という希少石が有名になり乱掘されたが、その材質の良悪の差が激しい。
現在は、その乱掘により良石は姿を消し、ほとんど良材の青田石の脈が尽きた、と言われております。今「図書石」と呼ばれる密度が荒く雑味のある安い石がほとんどになりました。ホームセンターなどに100円単位で売られる練習用の青田石はこの手で、磨いても艶が出ない、引っ掛かりがある・もろいといった質の悪い安物です。見た目も美しくありません。一説によると、中国一帯一路戦略の一つが、アフリカに青田に似た石の鉱脈を見つけ、これを確保するためと言われています。実際、すでに中国の印材屋さんで「青田石」はアフリカ産と公表している店もあるそうです。
安い印材(新青田)は、見た目でわかりますね。ツヤ感がなく透明度が低く白っぽいものです。下のはほとんどが「図書石」であります。
そして、良材では古青田・彫りやすい程度のいいのがこちらであります
どこで判断・区別するかは①印材として小さめのものが多い ②片側(頭頂部)が丸く成形され磨かれている ③印面が正方形の印材より長方形が多い ④透明度があって見た目が美しい、といったところです。
青田石は、その外観と採れた場所で高級石には名前がついております。数百年前に青田石の鉱脈が発見されたころ、極め付きの美しい青田石が見つかって往時の中国人書家などが蒐集したのが「燈光凍」であり「魚脳凍」であります。このレベルはそんじょそころには見つからない博物館級なので、写真からしか紹介できません。
こういう石があったらしいのです。青田石の中でも最上とされ石質は細密で、彫りやすいそうです。
下のも専門誌に掲された醤油青田で、もともと赤みのあった石をさらに時間をかけて植物の汁で煮詰め手脂で磨いたとか言います。
そしてわたしがまんまとだまされた「燈光凍」がこれ。真っ赤な偽物樹脂製でありました。その顛末は一生の不覚なのでここでは伏せておきます
さて、世の中で出回る高級・希少石の青田石として分類されるのは以下のものです
・醤油青田 赤みを帯びて古色豊かな半透明のもの手磨によって醤油で煮しめたような色
・封門青(石) 青田県の封門で産出された非常に得難い石。藍釘のない単色の青い石がいいとされています。
・藍花青田 藍色が混じった石で、ほぼ全部が藍色のものは高価。色は青で、「蘭花点」がある。蘭花点には、藍色と紫色がある。 蘭花青田というのもあって紛らわしい。
・菜花青田 黄色味が強い透明度の高い石
・魚脳凍 青白色と淡灰青色。 薄い半透明の中に乳白色の線や文様が流れる
・艾葉青田 寿山石に幻と呼ばれる「艾葉緑」があって、これに似ているとされているが、艾葉緑さえほとんど専門家も見たことがないため、どんな石かは諸説ある。青みを帯びた透明度・純度が高い石だと想像される
これ以外に10通り以上の種別があるようですがいずれも現物・写真もないのでわかりません(´;ω;`)
そこでワタシのコレクションであります。
下の写真は「藍花青田」で、右の石には「藍色」の点(藍釘)が入っております。
左は大変美しい半透明の青田で、色合いから「菜花青田」と見ていますが、もしかしたら封門石かも、とちょっと期待しております。
右の石は「青田凍」という名前でヤフオクに出ていましたが、透明度が高い「凍石」は青田石では大変少ないのです。燈光凍や艾葉青田の流れをくむようなとても美しく、貴重なものであろうと思います。
これは、微透明で淡い斑紋の入る赤みを帯びた石です。一見寿山石の桃花凍にも見えるのですが。緻密にして温潤な風合いは青田石であろう、と考えております。
下のは藍花青田などですが、一番右のがお気に入り藍釘が真っ青でとても見事なのです。