碧い山・青い海

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1708- 山本周五郎の時代小説

2017-08-11 | 学習
 山本周五郎の小説 武家草履(ぶけわらじ)を読む。藤沢周平の時代小説は片っ端から読んだり、朗読を聞いているが同じジャンルの小作品。周五郎も、読んではいるが「樅の木は残った」の様な重苦しい作品が多いのだが 朗読ならと聴いてみた。それが地味な内容だったが流石で 他に読み逃している作品も探して見たいと思った程だ。

 主人公、宗方伝三郎は出羽の国新庄藩藩士。200石の書院番を勤める家の跡取り。彼の生まれ持つ真面目さは、尊敬されるどころか周囲から疎まれたが清廉潔白を信条として育った彼は頑固な生真面目そのものだった。それが新庄藩に家督問題が起こり男子がみな早世し、跡目相続に二人の候補が挙がる。現藩主が推す人物を皆は賛同したが、宗方をはじめ数名が血筋が違う事を理由に異を唱えるが結局 反対したことの責任をとって、自ら藩を退くことになる。

 宗方は江戸に出て侍は捨てても、実直に過ごせる住処を捜し求めるが元禄時代、大衆文化花盛りの江戸はお金と遊びに人々が血まなこの時代。彼がそんな世相に失望し、行き場を失った彼は 死に場所を求めて地方を彷徨っていた。
お金も無く歩く力も無い、彼を助けたのはとある老人で孫娘とふたり慎ましく暮らす家だ。宗方はそこで知る二人の素性が 実は孫娘ではなく、孤児だった女の子を老人が引き取って育てていたのを知る。
 幸せではなかった女の子が懸命に生きる姿を見て、宗方もまた生きる道を選ぶ決心をするが 新庄時代に家人が草履を作っていたのを思い出し その草鞋作りを職に考えた。老人の紹介で天竜川を見下ろす街道の店に卸す事になったが いつの間にか長い旅でも合戦でもすぐに壊れない その丈夫さが定評となった。一足で30里(120km)歩ける草履など、布を多く使う儲からない品物なので 誰も作らなかったが彼は頑固にそれを守り続けたが 店から丈夫過ぎて 売り難いと言われ 草鞋作りをやめる・・と言う筋書きで話は更に続く。

 この短編は山本周五郎「つゆのひぬま」と言う傑作7編の中の一つ。この意味は「露の干ぬ間・・陽が昇る前の短いひと時」と言う意味らしいが この正義一徹と言う人物は時代小説には度々登場する。社会と融和できない人物がいて、話が難しくなり作品が面白くなるのだ。でも藤沢周平の小説も、山本周五郎の時代小説も 必ずこんな人物が一人登場することで これが共通点なのかも知れない。

 一緒に買った雑誌「人口減少2050年の日本」は興味を引くタイトルであり、日本の人口減問題も世界から注目される大きな課題だと理解した。それより他の記事で「強い社会を作る民族の純血と価値の喪失に熱弁を振るう極右政治家を見ると 恐怖や社会変動との闘いには分別とか協調は無力だ」と感じると言う方が 私には気になった。
 丁度、この「武家草履」を聴いた後だったので 最近の米国も自由と民主主義が堕落し価値の喪失が進みすぎると 反動で正義とか宗教とかの民族・純血主義が出て来るいるのかなと。
周五郎のこの作品は19世紀前半なのだが、武士道精神で正義を押し通す様な似たような人物が 20世紀の太平洋戦争となり この21世紀も同じ過ちを繰り返しては成らないとの警鐘のような気もする。

 武家草履を読んだ方のブログに、天竜川沿いの村の挿絵・・・なるほど、地図と小説の突合せで更に物語は深く読める




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