すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が描くアンドロイドの輪廻転生(2)

2016-04-24 18:57:09 | 映画
人間に生まれ変わった「彼女」はまた彼を選んだ

 映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン / 主演:綾瀬はるか)は、未来の「僕」=ジローがタイムマシンを使って過去の自分自身に送ったサイボーグの彼女と、「僕」との愛と葛藤を描いた作品だ。

 そしてこの映画の裏テーマのひとつが、サイボーグ綾瀬の発する無償の愛=母性であることは前回の記事で書いた。今回は、この映画のもうひとつの裏テーマについて書こう(ネタバレあり)。それは機械の彼女が体験した輪廻転生の物語である。

 サイボーグ綾瀬はジローとのふれあいのなかで、少しずつ愛が理解できるようになった。そして半ば人間化しながらも、彼を助けて身代わりに地震で破壊されてしまった。

 だが物語は終わりではなかった。

 なんと彼女は、未来で人間の女子高生として転生したのだ。

 だが、もちろん前世(サイボーグ時代)の記憶はないし、自分がサイボーグの生まれ変わりだなどという自覚はない。で、運命の糸に導かれるように、彼女は博物館に展示された寿命の切れたかつてのサイボーグ綾瀬と出会った。

「このサイボーグは、なぜ私と同じ顔をしてるんだろう?」

 好奇心にかられた未来の綾瀬は、オークションでサイボーグ綾瀬を父に買い取ってもらった。そしてサイボーグに埋め込まれた記憶チップを使い、いわば自分の「前世の記憶」を脳に再インストールした。この時点で前世が補完された人間の綾瀬は、文字通りあのサイボーグ綾瀬と完全融合した転生・綾瀬となった。

 そして地震後のラストシーンでは、主人公のジローと転生・綾瀬が結ばれるーー。

 彼女はサイボーグ綾瀬の記憶と意識をもち、サイボーグ時代の綾瀬と完璧に一体化している。なにより彼女は、人間として転生したのだから。そして生まれ変わった彼女は最後にジローと結ばれる。

 この解釈なら、サイボーグ綾瀬の方にしか感情移入できず、「最後に結ばれるのはサイボーグの方であってほしい」と願う人たちの心もサルベージできる。

 ただし、この物語は単純なハッピーエンドではない。

 人間の転生・綾瀬はラストで過去に介入し、ジローといっしょに生きて行くパラレルワールドを選んだ。歴史を変えられた時空はまた歪められ、いつか再び強い力でもとへ戻ろうとするだろう。その揺り戻しが起こす災難は、三たび彼と彼女を襲うはずだ。今度は、地震どころでは済まないかもしれない。

「それでも私は、彼といっしょに生きて行く」

「未来にくるであろう破滅も込みで、それでも私はまた彼を選んだ」

 この映画は、そういう物語なのである。


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【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が発散する母性の愛(1)

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【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が発散する母性の愛(1)

2016-04-24 07:52:21 | 映画
男たちはアンドロイド・マザーの夢を見るか?

 すべての男はマザコンである。

 自分の身を犠牲にし子を育てる母の無償の愛があるからこそ、息子は男として家庭を旅立てる。ゆえに、すべての男はマザコンである。

 映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン)は、未来の「僕」がタイムマシンで過去の自分に送ったサイボーグの彼女と僕(=ジロー)との愛や輪廻を描いたSF仕立てのラブストーリーだ。

「タイムパラドックスが穴だらけなのに、なぜか何度も観たくなる。この映画が気になって仕方ないーー」。ネット上では、よくそんな声を聞く。

 それはあなたが、主演する綾瀬はるかの姿に「母」を見ているからだ。身を挺し何度もジローの危機を救ってくれるサイボーグ綾瀬に、あなたは母の無償の愛を感じている。ゆえにこの映画は観た男性に本能的な思慕の情を起こさせる。すべての男は無意識のうちに胎内回帰願望を刺激される。

 だから何度も観たくなるし、この映画が気になって仕方ない。

 そう。本作最大の裏テーマは、無償の愛=母性である。見返りなど求めず、危険を冒してジローの危機を何度も救うサイボーグ綾瀬は母性の象徴なのだ。

機械の心が嫉妬する

 たとえば劇中で時間を遡行し、ふたりでジローの心の故郷へ帰るシーン。夕焼けをバックにサイボーグ綾瀬が主人公をおんぶするくだりがある。あれは「子供を背負う女=母性の象徴」という位置づけだろう。

 その証拠に「君の背中は機械だから冷たい(が母の背は暖かかった)」とジローにいわれ、サイボーグ綾瀬は背負ったジローをわざと落っことす。彼女はこのとき明らかにジローの母に嫉妬している。機械の心で愛を感じている。

 だが他方、クラブでジローがナンパした軽薄な女性には嫉妬していない。つまりあの程度の女はライバルに値せず、母性の象徴たるサイボーグ綾瀬の嫉妬の対象はあくまでジローの母であることを暗示している。

 実は故郷へ帰るシーンは、母性がこの映画のひとつのテーマであることを絵解きしたカギになる場面だ。「故郷へ帰るくだりは長すぎる。カットしてOK」という意見がネット上に多いが、重要なポイントを読み外していると思う。

 あの帰郷のシーンこそが、男たちの故郷=母の胸へと帰るこの映画最大の裏テーマを象徴するシーンなのである。

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