すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が発散する母性の愛(1)

2016-04-24 07:52:21 | 映画
男たちはアンドロイド・マザーの夢を見るか?

 すべての男はマザコンである。

 自分の身を犠牲にし子を育てる母の無償の愛があるからこそ、息子は男として家庭を旅立てる。ゆえに、すべての男はマザコンである。

 映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン)は、未来の「僕」がタイムマシンで過去の自分に送ったサイボーグの彼女と僕(=ジロー)との愛や輪廻を描いたSF仕立てのラブストーリーだ。

「タイムパラドックスが穴だらけなのに、なぜか何度も観たくなる。この映画が気になって仕方ないーー」。ネット上では、よくそんな声を聞く。

 それはあなたが、主演する綾瀬はるかの姿に「母」を見ているからだ。身を挺し何度もジローの危機を救ってくれるサイボーグ綾瀬に、あなたは母の無償の愛を感じている。ゆえにこの映画は観た男性に本能的な思慕の情を起こさせる。すべての男は無意識のうちに胎内回帰願望を刺激される。

 だから何度も観たくなるし、この映画が気になって仕方ない。

 そう。本作最大の裏テーマは、無償の愛=母性である。見返りなど求めず、危険を冒してジローの危機を何度も救うサイボーグ綾瀬は母性の象徴なのだ。

機械の心が嫉妬する

 たとえば劇中で時間を遡行し、ふたりでジローの心の故郷へ帰るシーン。夕焼けをバックにサイボーグ綾瀬が主人公をおんぶするくだりがある。あれは「子供を背負う女=母性の象徴」という位置づけだろう。

 その証拠に「君の背中は機械だから冷たい(が母の背は暖かかった)」とジローにいわれ、サイボーグ綾瀬は背負ったジローをわざと落っことす。彼女はこのとき明らかにジローの母に嫉妬している。機械の心で愛を感じている。

 だが他方、クラブでジローがナンパした軽薄な女性には嫉妬していない。つまりあの程度の女はライバルに値せず、母性の象徴たるサイボーグ綾瀬の嫉妬の対象はあくまでジローの母であることを暗示している。

 実は故郷へ帰るシーンは、母性がこの映画のひとつのテーマであることを絵解きしたカギになる場面だ。「故郷へ帰るくだりは長すぎる。カットしてOK」という意見がネット上に多いが、重要なポイントを読み外していると思う。

 あの帰郷のシーンこそが、男たちの故郷=母の胸へと帰るこの映画最大の裏テーマを象徴するシーンなのである。

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