人間に生まれ変わった「彼女」はまた彼を選んだ
映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン / 主演:綾瀬はるか)は、未来の「僕」=ジローがタイムマシンを使って過去の自分自身に送ったサイボーグの彼女と、「僕」との愛と葛藤を描いた作品だ。
そしてこの映画の裏テーマのひとつが、サイボーグ綾瀬の発する無償の愛=母性であることは前回の記事で書いた。今回は、この映画のもうひとつの裏テーマについて書こう(ネタバレあり)。それは機械の彼女が体験した輪廻転生の物語である。
サイボーグ綾瀬はジローとのふれあいのなかで、少しずつ愛が理解できるようになった。そして半ば人間化しながらも、彼を助けて身代わりに地震で破壊されてしまった。
だが物語は終わりではなかった。
なんと彼女は、未来で人間の女子高生として転生したのだ。
だが、もちろん前世(サイボーグ時代)の記憶はないし、自分がサイボーグの生まれ変わりだなどという自覚はない。で、運命の糸に導かれるように、彼女は博物館に展示された寿命の切れたかつてのサイボーグ綾瀬と出会った。
「このサイボーグは、なぜ私と同じ顔をしてるんだろう?」
好奇心にかられた未来の綾瀬は、オークションでサイボーグ綾瀬を父に買い取ってもらった。そしてサイボーグに埋め込まれた記憶チップを使い、いわば自分の「前世の記憶」を脳に再インストールした。この時点で前世が補完された人間の綾瀬は、文字通りあのサイボーグ綾瀬と完全融合した転生・綾瀬となった。
そして地震後のラストシーンでは、主人公のジローと転生・綾瀬が結ばれるーー。
彼女はサイボーグ綾瀬の記憶と意識をもち、サイボーグ時代の綾瀬と完璧に一体化している。なにより彼女は、人間として転生したのだから。そして生まれ変わった彼女は最後にジローと結ばれる。
この解釈なら、サイボーグ綾瀬の方にしか感情移入できず、「最後に結ばれるのはサイボーグの方であってほしい」と願う人たちの心もサルベージできる。
ただし、この物語は単純なハッピーエンドではない。
人間の転生・綾瀬はラストで過去に介入し、ジローといっしょに生きて行くパラレルワールドを選んだ。歴史を変えられた時空はまた歪められ、いつか再び強い力でもとへ戻ろうとするだろう。その揺り戻しが起こす災難は、三たび彼と彼女を襲うはずだ。今度は、地震どころでは済まないかもしれない。
「それでも私は、彼といっしょに生きて行く」
「未来にくるであろう破滅も込みで、それでも私はまた彼を選んだ」
この映画は、そういう物語なのである。
【関連記事】
【映画評】「僕の彼女はサイボーグ」が発散する母性の愛(1)
映画「僕の彼女はサイボーグ」(監督:クァク・ジェヨン / 主演:綾瀬はるか)は、未来の「僕」=ジローがタイムマシンを使って過去の自分自身に送ったサイボーグの彼女と、「僕」との愛と葛藤を描いた作品だ。
そしてこの映画の裏テーマのひとつが、サイボーグ綾瀬の発する無償の愛=母性であることは前回の記事で書いた。今回は、この映画のもうひとつの裏テーマについて書こう(ネタバレあり)。それは機械の彼女が体験した輪廻転生の物語である。
サイボーグ綾瀬はジローとのふれあいのなかで、少しずつ愛が理解できるようになった。そして半ば人間化しながらも、彼を助けて身代わりに地震で破壊されてしまった。
だが物語は終わりではなかった。
なんと彼女は、未来で人間の女子高生として転生したのだ。
だが、もちろん前世(サイボーグ時代)の記憶はないし、自分がサイボーグの生まれ変わりだなどという自覚はない。で、運命の糸に導かれるように、彼女は博物館に展示された寿命の切れたかつてのサイボーグ綾瀬と出会った。
「このサイボーグは、なぜ私と同じ顔をしてるんだろう?」
好奇心にかられた未来の綾瀬は、オークションでサイボーグ綾瀬を父に買い取ってもらった。そしてサイボーグに埋め込まれた記憶チップを使い、いわば自分の「前世の記憶」を脳に再インストールした。この時点で前世が補完された人間の綾瀬は、文字通りあのサイボーグ綾瀬と完全融合した転生・綾瀬となった。
そして地震後のラストシーンでは、主人公のジローと転生・綾瀬が結ばれるーー。
彼女はサイボーグ綾瀬の記憶と意識をもち、サイボーグ時代の綾瀬と完璧に一体化している。なにより彼女は、人間として転生したのだから。そして生まれ変わった彼女は最後にジローと結ばれる。
この解釈なら、サイボーグ綾瀬の方にしか感情移入できず、「最後に結ばれるのはサイボーグの方であってほしい」と願う人たちの心もサルベージできる。
ただし、この物語は単純なハッピーエンドではない。
人間の転生・綾瀬はラストで過去に介入し、ジローといっしょに生きて行くパラレルワールドを選んだ。歴史を変えられた時空はまた歪められ、いつか再び強い力でもとへ戻ろうとするだろう。その揺り戻しが起こす災難は、三たび彼と彼女を襲うはずだ。今度は、地震どころでは済まないかもしれない。
「それでも私は、彼といっしょに生きて行く」
「未来にくるであろう破滅も込みで、それでも私はまた彼を選んだ」
この映画は、そういう物語なのである。
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