すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【シリア戦・総括】ハリルの「秘策」は縦パスとハイプレスの融合だ

2016-04-06 05:27:04 | サッカー日本代表
スペースは必ずできる。ではどの選択がベターなのか?

 現代サッカーでは、陣形をコンパクトにすれば必ずどこかにスペースができる。ではどこにスペースができるのを「よし」とするか? それによって戦い方が決まってくる。

------------------------------戦術の選択とスペースの関係--------------------------------

(1)ハイプレス&ショートカウンター →スペースは低い位置(自陣ゴール寄り)にできる。

(2)ポゼッション・スタイル →同上(前がかりで攻め上がると、後ろにスペースができる)

(3)リトリート&ロングカウンター →スペースは高い位置にできる。

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 まず(1)のハイプレスは、敵のゴールに近いゾーンでボールを奪えばより得点が取りやすい、と考える戦術だ。しかし逆にロングボール等でプレスの網をかいくぐられると、自陣にあるスペースを突かれて失点のリスクが高まる。

 次に(2)のポゼッション・スタイルはどうか? 「ボールを保持する時間が長ければ長いほど、ゴールできる確率も高まる」と考えられていたのは昔の話だ。

 例えば引いてカウンター狙いの相手に対し、なかなかゴールを割れなければ? 高い位置でムダにポゼッションし続けることになり、低いゾーン(自陣のゴール寄り)にスペースができっ放しになる。で、ボールを失い、カウンターを食らえばこのスペースを使われて失点する。

 では最後に、(3)リトリート&ロングカウンター狙いならどうか? スペースは高い位置にできるため失点はしにくい。だが相手ボールを奪う位置が低くなるため、そのぶん敵ゴールまでが遠く、得点も取りにくくなる。

 すなわちどの選択も一長一短。サッカーに絶対的な正解はない。

縦パスでスイッチを入れる

 では我らがハリルの選択はどれか? (1)のハイプレス&ショートカウンター狙いに近いが、ただし前提条件がある。まずマイボールの時に、速いタイミングで相手陣内に長くきわどい縦パスを入れるのだ。もしこれが通れば決定的なチャンスになる。巷間、よくいわれる縦に速くである。

 そして他方、この縦パスが通らなくても、そのときボールを失うゾーンは必ず高い位置になる。つまり相手ゴールに近いエリアだ。わかりやすくいえば、縦にロングボールを放り込んだのと同じ状態である。

 その位置でボールロストするのを半ば想定し、前線にいる複数の選手がポジショニングする。で、すかさずネガティヴ・トランジション(攻から守への切り替え)を行い相手ボールホルダーにプレスをかけ、奪い返す。するとボール奪取地点は敵ゴールの近くだけに、絶対的なコレクティヴ・ショートカウンターのチャンスになる。

 つまり通れば「儲けもの」の縦パスで半分は勝負をかける。で、(いわばわざと)相手にボールを渡し、前からプレスをかける。縦パスでスイッチを入れるわけだ。ちなみにこの戦術はゲーゲン(gegen=ドイツ語:「カウンター」の意味)プレッシングなどと呼ばれ、ヨーロッパの最先端になっている。

 これがハリルの構想だ。単なるハイプレスでなく、その前段階の縦パスと組み合わせ攻守をワンパッケージで考える。で、その戦術を実行に移したのが先日のロシアW杯アジア2次予選・最終戦。シリア戦だった。

 ではテストの結果はどうだったか?

 日本はひんぱんにチャンスを作ったが、その多くでゴールできず、得点は5点に留まった(もし決定機をすべてモノにしていれば10点以上は取れた)。そして逆に自分たちが前がかりになりバランスを崩したところを突かれ、シリアに多くのチャンスを与えた(シリアにもっと決定力があれば少なくとも4点は失点していた)。

ピンチはざっくり3パターンあった

 シリアにチャンスを作られた原因は、何パターンかに分類できる。まず(A)マイボール時に前がかりになり前でボールを失った直後、高く構えた最終ラインの裏のスペースを狙われたケースがひとつ。

 次は(B)マイボール時に前がかりになったが、(特に後半は)疲労もありバックラインの押し上げが利かなかったケースである。このパターンでは最前線と最終ラインの距離が間延びし、中盤にぽっかりできたスペースを敵に使われた。

 最後は、相手ボールの時だ。(C)前でプレスがかかってないのに前がかりになっており、うしろのスペースを突かれたケースである(特に後半)。ざっくりいえば、ピンチを招いたのはこの3パターンに分けられる。

 では修正するには何をすればいいか? 

(A)のケースに対しては、ディレイをかけながら徐々にリトリートし、じっくり味方の帰陣を待つこと。(B)には、きっちり最終ラインを押し上げる。(C)の場合は、疲労などで前からプレスをかけられないなら重心を前にかけず、しっかり自陣にブロックを作ることである。

ハリルの方向性は正しいが……

 一方、試合運びの問題もある。(ただシリア戦は前から行くテストだったからあれでもいいのだが)、もしあれがW杯本大会の「ド本番」で、リードしている場合なら、相手ボールのときには無理に前からプレスをかけず自陣にブロックを作る。逆にリードしておりマイボールならば、ポゼッションしてうまく時間を使う、などの対処法が考えられる。

 結論として、前述したハリルの目指すサッカーはまちがっていない。それはハッキリしている。コレクティヴで勤勉な日本人に合っている。だがいかんせん、2次予選最終戦も決定力不足を露呈し作ったチャンスの数ほど得点できず、逆に守備に課題を残しているーー。

 目指す方向性は正しい。

 それだけに、勝負はあと2年でどれだけ課題を修正できるか? にかかっている。
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