すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー戦術論】なぜ日本はいつも「悲劇を繰り返す」のか? ~すべてを決める試合運びの巧拙

2020-12-11 05:00:00 | サッカー戦術論
メキシコ戦後、原口元気の嘆きの意味とは?

 森保ジャパンが2020年11月に行ったメキシコとの強化試合の敗戦後、MFの原口元気はこう嘆いた。

「なぜいつも日本はこうなるのか?」

 善戦していても途中で引っ繰り返されるーー。

 敗因は、いつもハッキリある。ひとことでいえば試合運びのまずさだ。

 メキシコ戦では、後半の頭からフォーメーションを4-3-3から4-2-3-1に変えてセントラルMFを2枚配置してきたメキシコのシステム変更に日本は対応できず、前半に善戦していたにもかかわらず一転して後半に2点を取られて惨敗した。

 2018年ロシア・ワールドカップ決勝トーナメント1回戦で日本が体験した「ロストフの悲劇」では、日本はネガティブ・トランジションの悪さからベルギーにカウンターを食らって逆転負けした。

 1994年アメリカワールドカップ・アジア地区最終予選の最終節で起こった「ドーハの悲劇」では、1点リードしていた日本は時間をうまく使って試合を殺せず、みすみすイラクにチャンスを与えて2-2とされワールドカップに行けなかった。

「なぜ日本はいつもこうなるのか?」などと嘆いているヒマはない。

 歴史は何度でも繰り返す。

 敗因のロジカルな分析と反省、そして今後の修正が必要だ。

【参考記事】

【サッカー戦術論】「ロストフの悲劇」なんてなかった ~トランジションの重要性

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【サッカー戦術論】「ロストフの悲劇」なんてなかった ~トランジションの重要性

2020-12-10 06:53:57 | サッカー戦術論
セオリー通りだった「スーパーなカウンター」

 ロシア・ワールドカップ決勝トーナメント1回戦、日本対ベルギー戦の終了間際。

 あの日本のコーナーキックが終わった瞬間、ベルギーの選手たちは弾けるようにダッシュを始めた。何が起こっているのか、まったくわからず呆ける日本の選手たち。

 それを尻目にベルギーの選手たちはGKクルトワの素早いフィードからスルスルとピッチを激走し、日本陣に殺到して世にもスーパーなカウンター攻撃を決めて見せた。

 マスコミはあれを「ロストフの悲劇」と言う。

 冗談じゃない。あれは「ロストフの喜劇」だ。

 日本の選手がセオリー通り、ネガティブ・トランジションに対応していればふつうに防げた失点である。

ワンプレー終わったらすぐ切り替える

 日本の選手たちは自分たちのコーナーキックが終わり、ほっと一息、「精神的」に休憩した。だがマイボールでオンプレーのベルギーは当然のようにすぐ次のプレーに移った。

 たった、それだけの差だ。

 ワンプレー終わったら、すぐ次のプレーに移る。

 そのトランジションに対応できなかった日本は、いかに愚かで間抜けだったか?

 そしてセオリー通り、トランジションに対応したベルギーはいかに抜け目がなかったか?

 ただそれだけの話だ。

 マスコミはそれを「ロストフの悲劇」などと美談に変えて呼称し、日本代表を「悲劇のヒーロー」に仕立て上げた。とんでもない。あれは単なる「ロストフの喜劇」であり、悪くとも「ロストフの教訓」くらいには名付けて反省すべきだった。

 だが当時の日本代表監督は「あんなスーパーなカウンターを決められるなんて……」と、敗因にまったく気づく様子もなかった。

 そんなことでは困るのだ。

 歴史は繰り返す。

 あの「ドーハの悲劇」とやらのとき、もし日本がうまく時間を使って試合を終わらせていれば、日本はワールドカップに行けた。こういう試合運びの巧拙は勝敗に直結する。

 ロストフでも、それは起こった。

 歴史は繰り返すのだ。


【参考記事】

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【サッカー戦術論】カウンターに弱い日本式パスサッカー ~カウンタープレスのすすめ

2020-12-09 04:18:51 | サッカー戦術論
ショートパスが大好きな日本人

 森保ジャパンは(よくも悪くも)日本人らしいパスサッカーに落ち着きそうだ。そこでアキレス腱になりそうなのが、そのスタイルではカウンターに弱いことだ。

 日本人はもっぱら、味方同士が近い距離を保ってパス交換する。日本人は長いボールを正確に蹴るのが苦手だし「嫌い」だ。逆に日本人が大好きなのはショートパスである。

 ゆえにショートパスを使いやすいよう、味方と近い距離を保つことを「距離感が大事だ」などと言って有難がる。

 とすれば日本人のパスサッカーは、常にボールのあるサイドに人が密集する。逆にいえばボールのない反対サイドには、人のいないスペースがたっぷりある。

 となると敵にボールを奪われ、素早くその逆サイドのオープンスペースにボールを展開されれば簡単にカウンターを食らう。敵にサイドチェンジされた瞬間に、それまでパス交換していた3~4人の日本人はたちまちまとめて取り残される。日本人ならではのパス交換の距離が短い「小さいサッカー」は、致命的にカウンターに弱いのだ。

嵐のように襲いかかるカウンタープレス

 ではどうすればいいのか?

 この対策として有効なのがカウンタープレスである。

 前線でボールを失った瞬間に、素早い攻守の切り替えから複数の選手が連動しながら嵐のように敵にプレスをかけ、ボールを即時奪回してしまうのだ。

 前述の通り、日本人のパスサッカーはボールの周辺に人が密集しがちだ。だが、ものは考えようである。これは逆にいえば、失ったボールの近くにはカウンタープレスに使える味方の「駒」がすでにたくさん配置されていることになる。

 つまりカウンターに弱いという日本式パスサッカーのピンチを、チャンスに変えるわけだ。そして素早いネガティブ・トランジションからカウンタープレスをかける。

 では、もしこのときファーストプレスをかわされてオープンスペースへボールを運び出され、カウンターを受けたとすれば? 

 そのときの対策としては、事前にSBを内に絞りながら最終ラインの前に一列上げておく。で、「偽SB」としてあらかじめ危険なバイタルエリアを予防的にカバーリングしておく。

 そしてもし前線でボールの即時奪回がむずかしい場合には、敵の攻撃をなるべく遅らせて速いカウンターを許さない。敵のパスコースを背中で切りながら、ミドルサードへリトリートしてブロック守備に移行する時間を稼ぐ。

 これでカウンター対策は万全だ。さあ、ワールドカップへ行こう。

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【サッカー戦術論】ポジショナルプレーは将棋の定石だ

2020-12-08 07:06:03 | サッカー戦術論
基本をおさえて創造性で勝つ

 ポジショナルプレーは将棋の定石のようなものだ。

 こういうと「定石通り指しても将棋には勝てないぞ」と反論がきそうだ。お説ごもっとも。サッカーのポジショナルプレーにしても、選手のすべてのプレーを機械のように規定するものではない。

「こうプレーすれば有利を得られるが、そこから先はあなたの創造性で考えて下さい」

 そういうことなのだ。

 一方、将棋の定石もあくまで「基本」であり、この基本を積み上げたそこから先は個人の創造性が上回ったほうが勝つ。

 まさにポジショナルプレーは、将棋の定石と双子の関係にある。

数と質、位置で優位を稼ぐ

 ポジショナルプレーは、試合の各局面ごとに数的優位、質的優位、位置的優位を稼いでプレイする。

 まず数的優位は読んで字のごとしだ。ある局面でプレイヤーの人数に数的優位を作ってプレイすること。

 次に質的優位とは、例えばマッチアップする敵の選手より味方の選手の能力が高ければ、あえてそこで1対1を作って有利を稼ぐことだ。

 例えば味方の右WGが特に優れていれば、それと逆サイドの左のゾーンでパス回しを繰り返して敵の選手を左サイドに引きつける。そこで空いている逆サイドの味方の右WGに向けてサイドチェンジを入れ、あえて彼のマーカーである敵の左SBと1対1の局面を作って勝負するわけだ(アイソレーションを作る=孤立化を図る)

 3つめの位置的優位は、例えば一例だが死角になりやすいCBとSBの間(ニアゾーン)でボールを受けるなど、位置的な優位を稼ぐことだ。

「5レーン理論」とは?

 さてポジショナルプレーを実行するための「5レーン理論」というものがある。

 これはピッチを縦に5分割し、中央のレーンを「センターレーン」、その両脇に「ハーフスペース」、いちばん外側の両サイドは「アウトサイドレーン」と呼ばれる。

 なぜこんなふうに5分割して考えるかといえば、ポジションごとの役割を選手に明示し理解させるためだ。

 例えばこの5レーンに選手がどう布陣するかといえば、5つの縦のレーンの中にはそれぞれ最大2人までしか入れない。

 またミドルサードとディフェンディングサードにある4つの「横のレーン」の中には、それぞれ最大3人までしか入らない。

 さらに隣り合うレーンに位置する選手は、常に斜めの位置関係を取る(アタッキングサードのみでは自由)。

 そしてこの通りポジショニングすると、あちこちに無数の三角形ができるのだ。つまり三角形を作ればパス回しがスムーズになりやすく、また選手同士がお互いを補完しやすい関係になるわけである。

 三角形を作っていれば、ボールを奪われた時にも敵を取り囲みやすく、ネガティブ・トランジション(攻→守への切り替え)時にも有効だ。

 このような5レーン理論は、もちろんビルドアップにも取り入れられる。例えば基本フォーメーション4-2-3-1でビルドアップするとしよう。

 このときビルドアップ時に例えば左SBが前に高い位置取りをし、そのぶん2CBと右SBが空いた左にスライドして3バックを形成すれば? すなわち5レーンをすべて埋める3-2-4-1でビルドアップする形になる。

偽SBは守備時に予防的カバーリングをする

 また偽SBといって、SBが絞って一列上がるポジションを取る。こうすれば攻撃時には偽SBが前後のリンクマンになる。そんなやり方もある。

 一方、守備時には、偽SBは弱点になりやすいアンカーの両脇を埋めているため、予防的カバーリングとしても役立つのだ。

あとは創造性の勝負だ

 こんなふうに言葉で説明するとわかりにくく感じるが、実際にピッチでポジショニングしてみれば一目瞭然。プレイしやすい。

 ただし冒頭で書いた通り将棋の定石と同じく、こうした配置はあくまで「基本」であり、90分間、「その位置から動かない」などというものではない。

 これまた将棋と同様、そこから先は「創造性」が勝負を決めるのだ。

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【サッカー戦術論】日本が世界で勝てるサッカーとは?

2020-12-07 05:16:24 | サッカー戦術論
トランジションと縦への速さが命だ

 日本が世界で勝てるサッカーとは、どんなサッカーだろうか?

 まず日本人の俊敏性を生かし、3人目の動きとサイドチェンジを入れながら素早く攻守を切り替える。そんな機動的なパスサッカーをめざす。これがゲームモデルである。

 3人目の動きを重視する時点で、人もボールもよく動くスタイルになる。

 また日本人によくあるショートパスを同サイドでただ延々とつなぐサッカーはやらない。同サイドでパス交換することにより敵をボールサイドに引きつけ(オーバーロード)、そこで一気にサイドチェンジを入れて敵が手薄な逆サイドでの1対1に勝つ(アイソレーション)。これでゴールに向かう。

 加えて最大のポイントはトランジション(切り替え)を重視する点だ。

 ボールを失っても足を止めず、素早いネガティブ・トランジションから守備の態勢に入る。

 逆にボールを奪取したら、素早いポジティブ・トランジションから縦に速いカウンターを見舞う。これがプレー原則だ。

ポジショナルなビルドアップ

 最終ラインからは、ポジショナルなビルドアップを行う。

 まず2CBの間にアンカーが落ちるサリーダ・ラボルピアーナだ。これで両SBを高く張り出す。またCBとSBの間にアンカーが落ちるケースもある。

 ほかには、左(右)SBを前に高く押し出し、2CBと逆サイドのSBが中央にスライドして3バックを形成するパターン。

 またボールを保持したCBは、前にスペースがあれば持ち運ぶドリブルで前へ出て位置的優位をかせぐ。

「脱日本人」的なパスの種類を

 一方、パスの種類については、まずボールスピードが速いことが最優先だ。ヨーロッパの選手はまるでシュートのようなインサイドキックを蹴る。ゆえに敵にカットされにくい。日本人もそこに学ぶべきだ。

 また第2に、パスは2タッチ以内で回す。

 第3には、ショートパスを横や後ろ(バックパス)にこねくり回す日本人的なパス回しから脱したい。

 そのためまず第一選択は縦パスだ。縦への速さを求める。縦にパスが通るなら、当然そうすべきだ。これにより攻めが速くなる。つまり敵が守備の態勢を崩しているうちに速く攻め切れる。

 またパスの長さは局面によるが、基本的にはショートパスだけでなくミドルレンジやロングパスも重視したい。

 フィールドを斜めに横切る長いサイドチェンジで空いたサイドにボールを運んで、ピッチを広く使う。

 また攻撃の最終局面では、前線の選手の足元へ正確につけるロングパスや、敵のライン裏に落とす正確なロングパスを重視する。つまり「大きなサッカー」だ。

ゲーゲンプレッシングで即時奪回

 最後にネガティブ・トランジションの挙動についてだ。

 まず敵のビルドアップに対しては、マンツーマンによるハイプレスでハメに行く。そのとき陣形をコンパクトに保ち、ライン間にスペースを作らないよう注意する。またその背後では予防的マーキングと予防的カバーリングでカウンターに備えておく。

 これによりボールを奪えば速いショートカウンターが利く。

 また前線でボールを失ったら、複数の選手でゲーゲンプレッシングを行いボールの即時奪回をめざす。こうして前でボールを奪ってショートカウンターをかける。

 もし前でのプレスが無理な場合には、ミドルサードまでリトリートして4-4-2のゾーンディフェンスで待ち受ける守備をする。これで前の2人が敵のビルドアップを規制し、縦パスを防いでボールをサイドに追い込む。こうしてサイドでボールを刈り取る。

 さあ、このサッカーでワールドカップへ行こう。

【参考記事】

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【サッカー戦術論】ストーミングとポジショナルプレーは融合する

2020-12-06 05:47:54 | サッカー戦術論
興味深いリバプールとシティの相似化

 最近のプレミアリーグでのリバプールの戦い方を見ていると、当初は対立概念であるはずだった「ストーミング」と「ポジショナルプレー」が融合していく未来像が見えてきた。

 以前のリバプールは、以下の2つをゲームモデルにしていた。

(1)前線でボールを失えば、ゲーゲンプレッシングでボールを即時奪回して前からショートカウンターをかける。

(2)敵のビルドアップに対してはハイプレスをかけ、前線から相手ボールを追い込み、高い位置でボールを奪ってショートカウンターをかける。

 つまり相手ボールに「嵐のように襲いかかって」(すなわちストーミングだ)、敵陣でボールを奪い取りカウンターをかけるサッカーだった。

 だが最近のリバプールの試合ぶりを見ると、クロップはかなり柔軟になってきたようだ。

 前でボールを失っても即、襲いかからず、リトリートし自陣でのミドルプレスで組織的守備をする機会が増えたのだ。

 これはリバプールを研究してくるチームが増え、彼らが前からゲーゲンプレッシングしたときにできる後ろのスペースを突かれることが多くなったからだ。

ハイプレスの率も下がってきた

 またリバプールはハイプレスに関しても柔軟になってきている。

 いまや彼らはしじゅうハイプレスしているわけではない。敵のビルドアップに対し、これまたリトリートしてミドルプレスで待ち受ける守備をするケースが増えた。

 これらの変化に伴い、ポジティブ・トランジションも変化してきている。

 つまり以前はゲーゲンプレッシング、またはハイプレスによるボール奪取から縦に速いバーティカルなショートカウンターをかける率が高かったのだが、いまではボール奪取するといったんポゼッションしてボールを安定させることも多くなったのだ。

 実はボール奪取後にいったんポゼッションを確立させるのは、グアルディオラのマンチェスターシティのプレー原則とまったく同じだ。

 ほかにもリバプールには、シティとの共通点が増えた。

 前線でボール奪取するケースが減るにつれ、自陣で組織的守備をするケースが増え、ボールの奪取ポイントが低い位置に下がっているのだ。

 ならば必然的に自陣からビルドアップする必要があるが、今のリバプールはシティ(ほど顕著ではないが)ポジショナルなビルドアップも取り入れるようになってきている。

ポジショナルになる両チーム

 他方、マンチェスターシティも、前線でボールを失えばゲーゲンプレッシングで即時奪回するのはリバプールのゲームモデルと同じだ。

 リバプールと異なっているのはポジティブ・トランジションであり、リバプールのように縦に速いカウンターをかけるのではなく、シティの場合はいったんボールをつないでポゼッションを確立させようとする点だ。

 そして比較的手数をかけたポジショナルな攻撃をする。

 おもしろいのは、この点でも最近のリバプールはシティと似通ってきていることだ。

 おそらくこれはリバプール、シティとも、ボールの奪取地点が以前のように前線から、より自陣寄りへと変わってきているからだろう。

 つまり自陣での組織的守備からボールを奪うケースが両チームともふえているのだ。

 となれば必然的に自陣からポジショナルにビルドアップし、ポジショナルに攻める必要がある。おもしろいことに、この点で両者のゲームモデルは似通ってきている。

ストーミングとポジショナルプレイの融合は歴史の必然だ

 リバプールの変化は、必然だ。そうそうゲーゲンプレッシングやらハイプレスやらで、敵陣でボールを追い回してばかりはいられない。

 相手チームはそんなプレイスタイルを研究してきており、しかもゲーゲンプレッシングやハイプレスは後方にできるスペースが致命傷になることが多いからだ。

 つまり歩留まりは高いが、ギャンブル性も高い戦い方である。

 おそらく「老成」したクロップはそこを考慮に入れ、柔軟になってきている。

 いったんリトリートしてミドルプレスによる組織的守備からボールを奪い、あとはポジショナルな攻撃をかけるふるまい方に変わってきている。

 そう考えれば、こんなふうにストーミングとポジショナルプレイはいつかは融合する運命だったのだろうか?

 リバプールとシティに起こった変化を見ればそう考えざるを得ない。

 フットボールとは、こんなふうに進化していくのである。

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【森保ジャパン】GKシュミット・ダニエルをレジスタ化する

2020-12-05 07:38:10 | サッカー戦術論
敵を自陣に引き寄せ縦を突く

 森保ジャパンは、足元に優れるGKシュミット・ダニエルをビルドアップに組み込みたい。

 例えば開いたCB2人とシュミットで三角形を作り、組み立てしたとしよう。

 この日本のビルドアップに釣られ、もし敵が「チャンスだ!」と前進してハイプレスをかけてくれば、敵陣は間延びしてライン間にスペースができる。

 するとボールをキープしたシュミットは、そのライン間のスペースに素早く侵入した味方を狙ってパスをつけることができる。つまりライン間の中央レーンやハーフスペースに縦パスを出すわけだ。

前線で1対1の形を作る

 あるいは日本のこの反撃を想定し、敵がもしコンパクトな陣形のままハイプレスをかけてきたら? 

 その場合、前に張った日本のFWとそれをマークする敵CBは、1対1に近い形になっている可能性が高い。ならばその前線まで縦に速いパスを入れれば、ボールを収めて一気に攻め切れる。

 シュミットは前線の選手の足元へ正確につけるロングパスや、敵のライン裏に正確に落とすロングパスを蹴れるはずだ。それを利用しないテはない。

 あるいは別にシュミット自身がボールを蹴るのでなく、近くにいるCBが代わりにパスをつけるのでもいい。吉田と冨安なら同様に正確なロングパスを出せるだろう。

 こんなふうにGKを含めたビルドアップで敵をおびき寄せ、敵のライン間にスペースを作る。あるいは前線の味方のFWに敵CBと1対1の形を提供し、ロングパスでそこを一気に狙う。

 いかがだろうか?

 攻撃的なGKシュミット・ダニエルをレジスタとして使う。

 この形は森保ジャパンの切り札になるに違いない。

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【森保ジャパン】パス出しだけでなくゴールを取る重要さ

2020-12-03 08:04:00 | サッカー戦術論
目覚めつつある鎌田大地

 鎌田は前で攻めに絡むだけでなく、相手ボールになったら自陣バイタルエリアあたりまで下りて守備をやり、マイボールになったら前線へ上がって行き攻撃に絡む、というスタイルを確立しつつある。

 つまり複数の機能を果たすことだ。

 守備と攻撃が分業されていた往年の古き良き時代のサッカーと違い、現代サッカーは1人2役、3役を求められる。鎌田はそれに気づいたわけだ。

 ただ話はそこでは終わらない。鎌田が守備と攻撃をどちらもこなせるようになったとしたら、今度は自分で得点を取ることを求められる。

 スルーパスを味方に出したら「見事なパスだ」「天才だ」と褒めちぎられる甘っちょろい日本サッカー界とちがい、欧州の最前線では点の取れない攻撃的MFは認められないからだ。

 その意味では鎌田はもうひと皮むけ、あのチェコ代表(当時)パベル・ネドベドのような選手をめざしてほしい。

 欧州の強国とはいえなかった当時のチェコ代表チームは、守備からのカウンターを身上としていた。

 そのなかにあってネドベドはまず守備を、それからパス出し、そして最後はゴールを決める仕事もしていた。

 鎌田がネドベドのような1人3役をこなすには、まだまだインテンシティの高さと運動量、勝負強さが足りない。

 だが鎌田はそれができるはずの選手なので大いに期待している。

ゴールを求められる久保建英

 同様に、所属チームのエメリ監督からゴールを求められているのが久保建英だ。

 日本におけるMFといえば「鮮やかなキラーパス」を出した時点で「すごい」「天才だ」と持て囃される。だが上にも書いた通り、欧州のMFに求められるのはそれだけじゃない。

 久保はまだまだ日本的な「10番」(パス出しまで)の仕事でとどまっているが、欧州でプレイするMFである以上、監督からゴールを求められるのは当然だ。

 久保は典型的な「ボールプレイヤー」であり、ボールのない所での働きが物足りない。

 パス出しをしてワンプレイ終わると足を止めてしまったり、自分がボールを失うと「はい、この先は僕の仕事じゃありません」とでもいうかのように足を止めてしまう。

 つまりワンプレイ終わった瞬間のトランジション(切り替え)に問題がある。

 現代サッカーではトランジションに優れているかどうかは死命を制する。欧州では、ワンプレイ終わったら「ひと休み」するような選手は使われない。

 鎌田がそこに目覚めたように、久保の次なる大きなテーマはトランジションにある。

 がんばってほしい。

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【サッカー戦術論】敵をブロックして時間を作る

2020-12-01 03:36:27 | サッカー戦術論
対人プレイをおろそかにしない

 対人プレイの強さには、時間と空間を支配する力がある。

 例えばボールを保持したAが「味方Bにあのスペースへ走り込んでほしい」とひらめく。だがBはまだ動き出さない。

 次の瞬間、ボールをキープするAに対しマーカーが寄せてきた。

 このときAは激しくマーカーをブロックしながら、味方Bがオープンスペースへ走り込むための時間を作った。かくて気づいたBはそのスペースへ飛び込み、パスが通って目的を達したーー。

 サッカーでは「判断を速く」「プレイスピードを速く」のような、とかく時間軸に対して直線的なプレイばかりが取り沙汰される。だが敵をブロックして味方のために時間を作るような、曲線的なプレイも重要だ。

 そして敵をブロックするためには単にフィジカルに優れるだけでなく。マーカーから遠いほうの足でボールをキープしたり、寄せてくるマーカーに対し腰を入れてボールに触らせないようにする能力も要求される。

 日本人はこうしたカラダの使い方が基本的に下手だ。まだまだ日本人にはやるべきことがたくさんある。

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【森保ジャパン】選手の自主性でできること、できないこと

2020-11-28 06:01:18 | サッカー戦術論
意思統一が必要な集団プレイ

 森保ジャパンでずっと気になっていることがある。

 それは相手チームの最終ラインがボールを保持してビルドアップしようとしている際のハイプレス(のハメ方)がひとつ。

 そしてもうひとつは、味方が高い位置でボールを失ったときにボールを即時奪回しようとするカウンタープレス(ゲーゲンプレッシング)である。

 ハイプレスやカウンタープレスは、当然ながら複数の選手が意思統一し、同じ共通認識がなければできないプレイだ。

 だが森保ジャパンの試合を見ていると、大迫と南野がいるときは前からハイプレスやカウンタープレスを行い、いないときには行わない。

 そして行わない場合は、高い位置でボールを失うとプレスなしで全体がリトリート(後退)している。

 不思議な話だ。

 当然だが、ハイプレスやカウンタープレスは大迫と南野の2人だけでやるプレイじゃない。

 想像だが、これは大迫と南野に前からプレスをかける強い意識があり、ゆえに彼らが試合に出るときにはほかの選手に声をかけ、彼ら2人が自主的に指示しているのだと思われる。だから、できるのだ。

「これは草サッカーのチームなのか?」とあきれてしまう。

監督がプレー原則を示しておく必要がある

 繰り返しになるが、彼ら2人だけにその意識があるだけではうまくいかない。

 例えばある選手は前からプレスをかけたが、ある選手はプレスをかけずにリトリートした、なんてことになったら目も当てられない。

 とすれば相手チームの最終ラインがボールを保持しているときにはハイプレスをかける(または特定の相手や特定の時間帯、点差によっては、かけない)。

 また高い位置でボールを失ったらカウンタープレスする(同上)、などと、複数の選手がハイプレスやカウンタープレスを行う際の「プレー原則」(約束事)を認識しておく必要がある。

 つまり大迫と南野がいれば勝手にそうなるが、いなければそうならない、というのでは困るのだ。監督が「うちのチームはこうプレーする」と、きっちりプレー原則を事前に示しておく必要がある。

自陣での組織的プレッシングにもルールがある

 もちろん高い位置でプレッシングするのでなく、逆にリトリートする場合にはミドルサードまでか? それともディフェンディング・サードまで後退するのか? というような約束事にしても同じだ。

 さらには引いた位置での組織的守備にも決まりごとがある。

 例えば先日のメキシコ戦では、日本は攻撃時には4-2-3-1、守備時には4-4-2になる、という約束事があった。

 で、初めは、日本が守備に回って組織的プレッシングの局面になれば、鈴木武蔵と鎌田が2人で横に並んでビルドアップする敵の2人のCBにプレスをかけていた。

 ところが途中で数人のメンバー交代があり、武蔵と鎌田が退いて南野がワントップに入ってからは南野が敵のCBに1人だけでプレッシングしていた。

 果たして「チームとして」はどちらのやり方が正しいのか?

 ひとつのセオリーとして、2トップが中にポジショニングし、敵のアンカーへのパスコースを切りながらスライドする方法がある。

 すなわちボールホルダーの敵CBにFWがつき、敵CBがドリブルで前進できるコースを切る。

 で、もう1人のFWは、敵のアンカーをマークする。こうして敵CBの2人とアンカーの計3人を2トップでスライドしながら防ぐ方法だ。

 では「チームとして」は、どちらのやり方をしようとしているのか?

 判然としない。

 なぜか?

 当然、監督が選手に指示してないからだ。

 こうした意思統一は選手まかせでは絶対にできない。現に選手まかせだったから、ああなってしまったのだ。

指針がなければ烏合の衆だ

 サッカーでは一事が万事このとおりで、複数の選手が共通認識を持ち、同じ意図に基づいて同じ方向性でプレーできなければ試合が成立しない局面が必ずある。

 ところが森保ジャパンでは、これが「選手まかせ」になっている可能性が非常に高い。

 致命的である。

 選手個々の自覚を促し選手の自主性やインスピレーションにまかせる、といえば聞こえはいいが、裏を返せば監督の職場放棄だ。

 サッカーには、選手まかせではできることとできないことがある。

 このことはハッキリ認識しておくべきだ。

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【森保ジャパン】大迫依存を脱し「プランB」を持て

2020-11-21 07:31:36 | サッカー戦術論
裏抜けタイプのFW育成を

 森保ジャパンの欧州遠征は、FWの大迫がクラブ事情で代表を途中離脱したため、奇しくも意図せずして大迫がいない場合のプランBを模索するための旅になった。

 前線でボールが収まる大迫はターゲットマンとして有用だ。ゆえに森保ジャパンの攻撃は、大げさでなく大迫を起点にするケースが多い。

 大迫が前で収めてボールを落とす、はたく、展開する。いわば大迫は森保ジャパンにとって「最前線のゲームメーカー」と言ってもいい存在だ。

南野と鈴木武蔵、浅野がプランBに挑戦した

 では大迫がいない場合のプランBとは何か? もうおわかりのように大迫とはまったくタイプの違うFWを起用したゲームモデルの構築である。

 で、今回の欧州遠征ではこの試みに南野と鈴木武蔵、浅野が「ポスト大迫」として挑戦した。

 だがまず南野は前で使うとゼロトップであり、彼の適正とはちょっと違う。で、今回は残る鈴木武蔵と浅野がプランB構築に挑んだことになる。

 いうまでもなく彼らは2人ともスピードを生かし裏抜けを狙うタイプであり、大迫のスタイルとは180度ちがう。

 ゆえにこのプランB作りが成功すれば、フィニッシュのバリエーションが大きく増える結果になったはずだ。

 だが率直に言ってこの試みは100%成功したとは言い難い。

 まず浅野はパナマ戦の後半25分から途中出場し、スピードを生かして縦横無尽に暴れた。だがこのケースではパナマが浅野にスペースをたっぷりプレゼントした状態だったため、もろ手を挙げて喜べない。

 そして何より重要なことは、浅野はこのとき点を取ってない。

武蔵は無得点だがスペースを作った

 一方、鈴木武蔵はコートジボワール戦とメキシコ戦にワントップで先発出場した。つまり浅野よりはるかに多くのチャンスを与えられた。そして浅野と同様、点を取ってない。

 ただ武蔵の場合は特にメキシコ戦で、裏抜けを狙ってオープンスペースに何度もスプリントした。そのことによってメキシコの最終ラインを下げさせ、敵のバイタルエリアを広げた。この働きは見逃せない。

 武蔵が得意な裏抜けを実現できなかったのは、逆にいえば裏のスペースを狙ったスルーパスが2列目から出なかったせいだ。受け手の問題というより、出し手の問題である。

 その意味では日本の二列目の選手は(日本人が大好きな)足元にボールを出すだけでなく、一気に裏のスペースを狙う感覚を磨く必要がある。

 とはいえ武蔵はあの敵GKとの決定的な1対1を決められておらず、個人的にはこの点を最重視してマッチレポートでは「もう彼をテストする必要はないのでは?」と半ばキレて書いてしまった(笑)

 だが冷静に考えれば敵の最終ラインを下げさせた武蔵の働きは無視できないし、なにより彼にはフィジカルがある。よって前言を撤回し、浅野ともども今後もリストに残すことを提案したい。浅野のスピードも非常に魅力的だ。

 ただし2人にくれぐれも強調しておきたいことは、FWでありながら点を取っていないということは非常に重い事実であり、今後はその点を改善すべく努力してほしい。

 日本には、「点は取っていないがいい働きをした」「無得点だが機能した」というFWならばいままで掃いて捨てるほどいた。そこから頭ひとつ抜け出すためには、やはりゴールが絶対に必要だということを強調しておきたい。

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【欧州遠征まとめ】森保ジャパンはチェンジ・オブ・ペースせよ

2020-11-20 07:07:14 | サッカー戦術論
チームの現在位置と修正点

 10月、11月の欧州遠征では、コロナ禍のなかカメルーン、コートジボワール、パナマ、メキシコという良いチームと得難いテストマッチができた。

 それにより森保ジャパンの現在地と課題が浮かび上がってきた。そこで今回はそれらをまとめてみよう。

 まずビルドアップに関しては、GKに権田を使うのか、シュミット・ダニエルを使うのかでまったく変わってくる。

 これまで森保監督は権田を使うことが多かったが、今後は足元に優れビルドアップの第一歩になれるシュミット・ダニエルを使った場合のビルドアップを確立したい。

 例えばゴールキックのルールが改正され、ペナルティーエリア内で味方がパスを受けてもよくなった。そのためエリア内にCBを2人置き、GKと合計3人でビルドアップの起点を作るチームが多くなった。

 森保ジャパンでこの形をそのまま採用してもいいし、あるいはもっと大胆にエリア内に下がるCBを1人にしてもいい。もし仮に相手チームが同数の2人でプレスをかけてきても、シュミット・ダニエルならこなせるだろう。

最大の課題はプレイに「変化」がないこと

 このほか、まず全体にいえることは「変化」が少ないことだ。例えばプレイによる緩急の変化や、爆発的なスピードアップのほか、パスの出し方にも偏りがある。一本調子で単調なのだ。

 例えば森保ジャパンは(というか日本のサッカーは、と言い換えてもいいが)、パスを出す場合にはロングパスでなくショートパスを、スペースにではなく足元に出す、という大きな偏りがある。

 もちろんこれは選手のタイプや適性によってこうなるケースも多いが、結果的にこの種の偏りがあると相手チームはこっちのプレイを読みやすくなる。「このチームは一気にウラを突いてこないぞ」というふうに。

 ゆえにパスなら、足元、足元、だけでなく裏を狙うパスも織り交ぜる。例えばパスの受け手であるFWがライン裏を狙う動きをし、これにより敵の最終ラインを押し下げて敵の陣形を間延びさせる。

 そうすればライン間が広がってスペースができ、これで今度はその裏をかいてライン間に侵入した選手に基点になるパスを出すことも可能になる。

一気に局面を変えるサイドチェンジを

 同様に「単調」という意味では、サイドチェンジが少ない点もあげられる。

 どうしても日本人は足元にショートパスを出す展開になるため、同サイドでプレイし続けるケースが多い。

 よって遠くが見えている選手が少ない。このため要所で大きなサイドチェンジを入れ、変化をつけるような戦い方に欠けている。

 ショートパスによるポゼッションだけではどうしても単調になるわけだ。

トランジションを重視せよ

 また変化がない、という意味では、トランジション(切り替え)の遅さも気になる点だ。

 例えば急所で敵がボールロストした。このとき敵は攻めにかかっていたため守備体形が崩れている。ならばここで速いカウンターをかければ一気に攻め崩せる。

 そんな局面で、わざわざいったんバックパスして遅攻にしたり、ショートパスを複数つないで手数をかけてしまう。つまり攻めをスローダウンさせてしまうわけだ。

 こんなふうにカウンター一発で決められる場合は、素早いトランジションから急所を突く鋭い縦パスを入れたい。

 日本人はいつもまったく同じリズムでプレイしており、「爆発的に加速する」ような変化に乏しい。「ここ」という局面ではグッとインテンシティを上げてリズムを変えたい。

勝ち切るための試合運び

 試合運びという点でも「単調さ」は目につく。

 例えば前半はハイプレスで、敵のビルドアップに対し前から激しくプレッシャーをかける。また前でボールを失えば激しいカウンタープレスでボールを奪い返して攻める。

 こうして前がかりの攻めで得点を取りリードしたら、今度は陣形を低く構えて4-4-2でブロックを組みゾーンディフェンスで敵を待ち受ける守備をする。これによって時間を使い、試合を終わらせる。

 こういう試合運びの変化で有利を得ることも重要だ。試合運びのうまさはまさに勝敗を分ける。

 まとめると、日本人は和を重んじて組織的かつ献身的なプレイをするが、そこに加味すべき加速度的なアクションや緩急の変化がない。

 この点は個々のプレイから試合運びに至るまで、一貫している。まずリズムを変えることが次なるステップにつながる大きな一手になるだろう。

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【サッカー戦術論】ゲームモデルとプレー原則とは何か?

2019-08-24 07:12:09 | サッカー戦術論
「機械のようにプレーせよ」ではない

 ゲームモデルやプレー原則という言葉がよく聞かれるようになったが、これらは誤解されることが非常に多い。人によっては「機械のように決められた通りプレーしろというのか?」「選手の創造性を否定するのか?」などと拒否反応を示す人もいるが、実はまったくそんなことはない。

 ゲームモデルとはひとことで言って、「チームとしてどんなサッカーをしたいのか?」である。つまり同じ戦術に基づきチームがコレクティブに戦うためのガイドだ。これなしで11人揃えても、そんなものは単なる烏合の衆にすぎない。基本的な方向性すらないのでは、意思疎通のある集団プレーのしようがない。

 例えば私がもし監督なら、攻守の切り替えが早く相手を自由にさせないプレッシング・サッカーをやりたい。トランジション(切り替え)を重視する時点で、足を止めて「お休みする時間」はない。また状況に応じて機敏にポゼッションとカウンターを使い分け、選手には考える力を要求する。これがゲームモデルである。

 一方、プレー原則というのは、そのゲームモデルを実現させるための約束事だ。これは(1)攻撃時、(2)守備時、(3)攻→守の切り替え(ネガティブ・トランジション)、(4)守→攻の切り替え(ポジティブ・トランジション)ーーの4つの局面でプレー原則が設定される。つまり「この場面では、ウチのチームはこうプレーしましょう」という最低限の決まりである。

 逆にいえば最低限の約束事だから、そこから先は個人の応用力が求められる。細かく選手を縛るわけでも何でもなく、「創造性がない」なんてことにはなりようがない。

ボールを失ったときのプレー原則は?

 では私が上で例示したゲームモデルを実現させるには、どんな場面でいかなるプレー原則が必要なのか? わかりやすい例をひとつ挙げれば、ネガティブ・トランジション時、つまり前線でボールを失ったときのチームとしてのふるまいである。

 自分たちはボールを保持して攻撃していた。で、そのとき最前線でボールを失った。では、そのあとチームとしてどうプレーするのか?

 私のチームはトランジションを重視する。ゆえにその場で足を止めずに集団でゲーゲンプレッシングし、ボールの即時奪回をめざす。で、ボールを奪えば高い位置から素早くショートカウンターをかける。

 反対にもしボールをすぐ回収できない場合には、背中で敵のパスコースを切りながらミドルサードまでリトリートし、ブロック守備に移る。これが我々のプレー原則だ。

 一方、これとは正反対の考え方もある。例えばボールを失ったら初めからディフェンディングサードまでリトリートし、低い位置にブロックを組むことだ。これにより組織的な守備からボールを奪い返し、ロングカウンターをめざす。そんなプレー原則に基づいた戦い方もある。

 粘り強い組織守備が得意なチームなら、こっちを選択するのもアリだろう。ただしこのプレー原則を選ぶ場合は、そもそも元になるゲームモデル自体が私のチームとは異なることになる。

ポゼッションとカウンターをどう使い分けるか?

 また私のチームは状況に応じてポゼッションとカウンターを使い分ける。ゆえに選手には状況を読む力が求められる。

 例えば敵ががっちりブロックを作り、守備態勢を整えている場合には、あわてて攻める必然性がない。そこでこんな局面では、ポゼッションによる遅攻を選択することがプレー原則になる。じっくりボールを動かし揺さぶりをかけ、オーバーロード等で敵のゾーンにギャップを作ってから(敵の陣形にほころびを作ってから)フィニッシュに行く。

 一方、ボールを奪った時点ですでに敵の守備隊形が崩れている場合は、一気に攻め崩すチャンスだ。そこでこの場合なら、速いカウンターを選択することがプレー原則になる。ざっくりいえば、ポゼッションとカウンターの使い分けはこんなふうになる。

プレー原則が違えば別のチームになる

 少し話を戻そう。さあ、我々はボールを失った。そのとき、その場で集団でのゲーゲンプレッシングをプレー原則とするのか? それともディフェンディングサードまでリトリートすることをプレー原則とするのか? それによってチームとしてのふるまいは180度ちがってくる。

 そもそもボールを失ったとき、個人の裁量でめいめいがバラバラな動きをするのでは収拾がつかない。意思統一が必要だ。そこで上に書いたように「その局面ではゲーゲンプレッシングしましょう」というような最低限のプレー原則を決めておく。で、意思統一して有機的にチームとして動こう、ということだ。

 こんなふうに局面に応じて最低限の原則を決めておくだけだから、プレー原則は別に選手を縛るモノでも何でもない。「守備の時にはチャレンジ&カバーを心がけましょう」みたいな基本と同じだ。

 こうしたプレー原則まで否定するなら、もはや「戦術などという選手を縛るものは必要ない」というのと同じだ。それではサッカーにならないだろう。

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【サッカー戦術論】認知のスピードはフィジカルを超えるか?

2019-07-09 08:18:59 | サッカー戦術論
両者は相互補完の関係にある

 サッカーには、ひたすらスピードを競う陸上競技的な側面がひとつある。すると速さのあまり、敵味方の選手のカラダが接触しないケースも出てくる。

 例えば日本人のアジリティを生かした機敏なサッカーをすべきだと書いたこの記事のように、ファーストタッチの技術を極限まで高めたせいで、あまりにパスワークが速いため敵との接触プレイすら起こらない、というようなケースである。

 またスピードという意味でこれと似た方向だが、いまサッカーの最前線では「認知のスピードを上げよう」という取り組みもある。例えば敵はいまどの方向から迫っており、自分が使えるスペースはどこにあるか? そんな自分が置かれた局面を瞬時に脳で情報処理し、それを素早く認知して状況に応じた的確で速い判断をしよう、という考えだ。

 このとき瞬間的な認知をもとに、局面を戦術的に先読みして素早く次のプレイが行われる。この認知概念に沿えば、当然サッカーのプレイスピードはどんどん速くなって行く。

「対人プレイで時間を作る」という考えもある

 だが同時に一方で、サッカーにはこれらと一見矛盾する格闘技的な要素も強い。

 例えば敵をカラダで激しくブロックすることにより「時間を作って」プレイする。あるいは競り合いで1枚はがすことで時間的余裕を生み出し、次のプレイを行う、というようなケースである。

 この場合、当然カラダの接触は大々的に起こるし、むしろそのことによって「もともとなかったはずの時間を作る」。ゆえに、そのときスピードという要素は必ずしも第一選択にはならない。サッカーでは、こうした強靭なフィジカルによる対人プレイは非常に重要だ。

 つまり冒頭で書いた陸上競技的な概念と、この格闘技的な概念は矛盾している。

 すると、たちまちサッカー界では「どちらの方向へ行くのが正しいのか?」という単純な二元論が巻き起こる。いわく、スピードと認知を極限まで高めれば、接触プレイは消えて行くのではないか? いやいや対人プレイこそがサッカーの根幹であり、いくらスピードや認知を鍛えても接触プレイは絶対になくならないーーというふうに。

 つまり昔さんざん議論された「個か? 組織か?」論議とか、「アクションサッカーか? リアクションサッカーか?」みたいな不毛な二元論がくり返される。

 だがそもそもサッカーは「接触プレイか? 非接触か?」などという単純な二元論では語れない。上で挙げた陸上競技的な要素と格闘技的な要素はサッカーにおいては「車の両輪」であり、どちらが欠けても成立しない。両者は対立概念ではなく、むしろ相互補完の関係にある。

 とすれば正しくは、サッカーにおいて「ある局面」ではカラダの接触すら起こらないスピードの勝負が行われている。だが他方、「ある局面」では、敵をカラダでねじ伏せて時間を作る格闘技的なプレイが行われる、ということだ。サッカーはどちらが欠けても成り立たないし、どちらが欠けてもレベルアップしない。

 大切なことは、くれぐれも不毛な二元論に陥らないことである。

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【コパ・アメリカ総括・2】森保監督はプレー原則を示せ

2019-07-05 10:10:47 | サッカー戦術論
人が変わればサッカーが変わる属人性を超えろ

 森保ジャパンは極めて属人的な集団だ。ゆえにどの選手が試合に出るか? でまったく別のサッカーになる。おそらく監督がプレー原則を示してないからだ。

 ちなみに「属人的」とは、例えば企業である業務を特定の人間がずっと担当しているために、その人物にしかその業務のやり方が分からない状態に陥ることだ。これでは業務効率が悪く、多くは批判的な意味で使われる。

 そして森保ジャパンは今回のコパ・アメリカでも、同じように属人的な側面を露呈した。だが基本的にサッカーのチーム作りとは、監督がまずゲームモデル(コンセプト)を設定し、局面ごとにそのモデルを実現するためのプレー原則を選手に示すことで、だれが試合に出ても同じ戦術に従いプレイできるようにするべきだ。

 これは選手の「個性を殺す」という意味ではない。例えばスピードがあり裏抜けのうまいFWがいるなら、彼を生かすゲームモデルを設定しておく。で、それに基づきチームが動けばいい。

 ではプレー原則を持たない森保ジャパンの問題点は、コパ・アメリカのどの局面でどう出たのか? ここでは相手チームのビルドアップを制限する局面のほか、トランジションとビルドアップに絞って例示して行こう。

【敵のビルドアップ制限】

 チリ戦はハイプレスで入ったが、2列目が連動せず不発に終わった。これに関しては、前からプレスをかける第1プレッシャーライン(FW)に全体が連動し矢印を前にもって行くよう、ハイプレスをかける際のプレー原則を監督が選手に徹底しておくべきだ。

 一方、ウルグアイ戦とエクアドル戦では、日本はミドルプレスで対応した。この2試合では背中で敵のパスコースを切るカバーシャドーのうまい岡崎がFWで先発したため、ミドルプレスで敵の縦パスを制限する守備ができた。岡崎がいればできるが、そうでなければできない。極めて属人的だ。

 そうではなく岡崎が入らなくても同じことができるよう、ミドルプレス時のプレー原則をチームが共有しておく必要がある。岡崎は中を切ってボールを狭いサイドに誘い込んで奪うプレッシングや、敵の攻めを遅らせる前からの守備など、「シュートを打つ人」として以外にも、チームを助ける多くの仕事をこなしている。

 せっかくこんないい教材がいるのだから、岡崎のボールのないところでのプレイスタイルをFWのプレー原則のひとつとしてチームで共有しておけば、岡崎がいないときにも代わりの選手が同じことをやれる。そういう属人的でないチームは強い。

【トランジション】

・ネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)

 これも属人的だ。森保ジャパンは攻守の切り替えが速い南野と堂安がいるときは、ボールを失うとその場でゲーゲンプレッシングをかけ、高い位置でボールを即時奪回してショートカウンターをかける形になる。

 だがコパ・アメリカのように別の選手が出場すると、ボールを失った際はリトリートしてブロック守備を行うスタイルになる。試合ごとに監督が異なる指示をしているなら別だが、そうでないなら誰が出ても同じスタイルでプレイできるようにしておく必要がある。

 森保監督は選手にネガティブ・トランジション時のプレー原則を示し(即時奪回か? リトリートか?)、それに従い選手を日頃からトレーニングしておくべきだ。

・ポジティブ・トランジション(守→攻の切り替え)

 森保監督がオーダーしているのか、試合にだれが出てもポジティブ・トランジション時には縦への速さ(速攻)を求めている。具体的には、敵からボールを奪ったら速いタイミングでグラウンダーの縦パスを狙っている。ポジティブ・トランジション時に関しては比較的、属人的ではない。

 ただし例えば香川のようなタイプが入ると、ボールを奪うといったん安全に横パスをつないでまずはしっかりポゼッションを確立しようとする(遅攻)。その意味ではやはり属人的だ。

 ならば森保監督は選手にポジティブ・トランジション時のプレー原則を示し、試合にだれが出ても同じコンセプトに則ってプレイできるようにする必要がある。

【ビルドアップ】

 コパ・アメリカでは、セントラルMFの柴崎が2CBの間に下りてビルドアップに関わる、サリーダ・ラボルピアーナを行う場面があった。SBを中盤のラインまで押し上げてサイドにスペースを作り、そこにCBの2人が開くことで柴崎を含めた3人の最終ラインで敵の第1プレッシャーライン(2トップのFW)に対し数的優位を作り、ビルドアップをスムーズにする方法だ。

 ただしこれも属人的に「柴崎が入ったらそうなる」のでなく、だれがセントラルMFでもチームとして同じことができなければならない。

 ちなみに西野ジャパンはワントップの相手チームに対しても同じことを行っていたが、ワントップに3人の最終ラインでは非効率だ。サリーダ・ラボルピアーナはあくまで数的優位を作るためのものである、と監督が原則を示すべきだ。

【まとめ】

 若い森保ジャパンはコパ・アメリカでめくるめく可能性を示した。ではもしこのチームが、同じプレー原則を共有してゲームを行えばどうだろう? プレーがさらに効率化され、チームが同じ戦術に基づいて戦う強力なオートマチズムが完成されるはずだ。森保監督には、その具現化をぜひ期待したい。

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