蛍のなき夏
♦ 近寄れば青の電飾点滅し今年も蛍を見ることできぬ 松井多絵子
この夏も蛍を見ることができないかもしれない。昨年も1昨年も、いいえ何十年も蛍を見ていない。私の少女期には東京でも蛍はほいほい飛んでいた。あれは半世紀も前だが。、先日読んだ歌集のなかに「ほたる火」が詠まれていた。ホタルが夜に発光する光、消え残っている小さな光、それは思い出のようだ。高齢になるほど思い出依存症になるのか。
ホタル以外の夏虫や蛾はよく見かける。昨日も夕方の居間の網戸に貼りついたように、やや大きな蛾、その白濁の羽は初老の女を思わせる。網戸を離れないのは私に何か云いたいからだろうか。母の化身かもしれない。なにか小言を言いたいのだ。「網戸は埃だらけじゃないの。部屋も散らかっているし」 などと。
夕食を終えたとき網戸にはあの蚊はいなかった。私を待ちくたびれて母はあの世へ帰ったのだろう。相変わらずセッカチだ。窓を開けると火星が私を見下ろしている。まるでホタルのように。汚れた地球の水は苦いのでホタルたちは空の奥へ逃れてしまったのだ。夜の8時、洗濯した干しものをベランダから除く。少し涼しい微風が寄せてくる。空のあちこちに星がまたたいている。ホタルたちの宴が始まっていた。
夏空のホタルの光、地球より去りしホタルか星の瞬き
7月29日 松井多絵子
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