「殻ちゃん ⑲」 松井多絵子
今年の関東の冬はとても寒かった。その2月上旬の朝、鈴鹿ひろ美からアキに電話。
ひろ美♠「オメデトウ。よかったねえ。殻ちゃん。今夜うちでお祝をするから皆で来てね」
アキ✿「 ありがとう。もちろん行くよ」
~早いものですねえ。アキは36歳になり娘の殻ちゃんは12歳。小学校の6年。勉強ができなくて、成績が悪かった殻のためにアキは教育ママになっていた。歌手もテレビドラマの端役の仕事も口がかからなくなり普通の主婦になっていた。本の好きな殻ちゃんと一緒に近くの図書館の常連になり、本を読みまくった。教科書も繰り返し読み、PTAにも参加した。
ひろ美♠「為せば成るんだねえ。難関の神山学園に受かるなんて。」
アキ✿「塾の先生のおかげだよ。5年生で入った小さな塾だけど、殻の国語の読解のテストの成績がいいから伸びますよって。熱心に指導してくれて。女神だよ、川上先生は」
あの2月1日の朝、アキは殻ちゃんと一緒に神山学園に向かって歩いていた、裸木の並木のかなたの赤レンガの校舎。憧れの学校だったが、無理だとあきらめていたのだ。昨年末の模擬試験で合格圏に入ったとき、川上先生に 「受けないと後悔しますよ」 と言われた。 「まあ 気楽にやりなよ、ダメでも高校でまた受ければいいんだから」、
とアキが殻ちゃんに話しかけたとき、傍らをスラリとした女とスラリとした男の子が過ぎった。その女の横顔を見たアキは 「まさか、ユイ?ユイに殻と同年の男の子が?」 以前、鈴鹿ひろ美がレストランでユイと男の子が食事をしていたのを見た、と言っていた。今もファッション雑誌で活躍しているユイは、独身の魅力あふれる女性なのだが。 (つづく)
☀女を変えるのは男かもしれないが、女が育つために仕事はある
(林真理子の語録より)
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