ANO「あの時わたしは~E子の場合」TOKI
浦安のマンションの18階に住むE子は46歳、夫は49歳で子供はいない。6年前に杉並のマンションを売り、この新築のマンションを購入した。当時は工事中だったスカイツリーを部屋から見られるし夫の会社もやや近くなる。何より老後は眺望のよい処に住みたかった。
あの3・11の午後、E子は品川の実家にいた。腰痛の母上のために10時すぎにきて掃除をしたり、食事の支度をしたり。昼食後に母上とお茶を飲みながらおしゃべりをしていた時、ぐらぐらぐらぐら、いつもの地震とは違う。テレビが映す津波はまるでドラマのシーンだ。
※わたくし松井多絵子もあの午後はテレビから目を離せませんでした。そして詠みました。
❤ 手をのべて流れる家もトラックも掴めそうなりテレビへ寄りゆく
❤ 十メートルの津波をおもう電柱の高さの津波の迫りてくるを
❤ 海近き二階の家のその屋根に乗り上げし船には人影あらぬ
さて、E子は夕方ようやく夫に電話がつながり、ただならぬ様子なので実家に泊まった。
翌朝、浦安へ戻ったがエレベーターは休止。18階まで登らなければならない。杉並のマンションは1階だった。だからできるだけ高い所に住みたかったのに。両手に食品や雑貨のレジ袋が重い、すごく重い。ああ、杉並のマンションはよかったなあ、あそこに住んでいればとしきりに思った。ようやく18階へ。玄関を開けて驚く。そして居間の扉を開いてE子は絶句した。大切な大切なシャンデリアが粉々になり床に散乱している。少女の頃からシャンデリアのある家にあこがれていた。夫の反対を押し切って彼女のヘソクリをはたいて買ったシャンデリア。なんてこと!
昨年、スカイツリーは完成し居間のソファに座りながら見られる。しかし毎日毎日見ていると、ただの棒のように見える。
※ E子よ、3・11までは女帝のようにあなたに君臨していたシャンデリアが壊れてよかったわね。あなたが女帝になればいい。スカイツリーはあなたの用心棒に。 松井多絵子
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