えくぼ

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鈴の音のような歌集「岸」

2017-06-30 09:40:26 | 歌う
俳句より長い本の題名が多い昨今、たった一字の「岸」という歌集。著者の岩尾淳子は「未来」の歌人、加藤治郎に師事している。

🔘自転車を水辺の柵に凭れさせ二人はちがう島を見ていた

歌集のなかのこの1首が歌集名の由来なのだろうか。共に暮らしていても異なる目標に向かって生きている、そういう二人は多いのではないか。

岩尾淳子は神戸在住の高校の先生である。この6月に「ながらみ書房」から刊行した歌集「岸」のあとがきに「おそろしい速さで過ぎ去ってゆく時の流れのなかで偶然に出会ったかすかな心象」を握りしめるように詠んでいることが記されている。

🔘あたらしい藤棚に蔦のびる日々うすむらさきの気分で語る

🔘遠き人のかたわらにいる心地してしばらく坐る睡蓮のそば

🔘この道を文字になるまで歩きたい挿絵のなかのしずかな月夜

🔘信号のみどりがきれいに見えている夕べあかるい道を帰ろう

🔘この家の隅々までを知りつくしぷつんと掃除機うごかずなりぬ

🔘よろこびを手放すようなさえずりが午後のわたしの耳に残りぬ

🔘月かげに灯の消えている家はあり自分で閉めた鍵を回せり

日常の些細なことが詠まれているが、読みながら幻想的な気分になる。儚い美しさ、握りしめないと消えてしまいそうな数々の歌が収められた歌集である。

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