不定期連載として掲載した過去9回分をレビューしておく。
今回は、清戸迫76号横穴墓をとりあげる。
<彩色系壁画古墳>清戸迫横穴墓 福島県双葉町 7世紀前半
清戸迫76号横穴墓は、300基以上ある横穴墓群の一つ。1967(昭和47)年11月発掘調査した際に76号横穴墓から玄室奥壁に保存状態のよいベンガラによって描かれた壁画が発見された。当該壁画横穴墓は、現在判明している彩色壁画のうちの北限にあたるとされている。
(福島県立博物館公式Twitterより転載)
この壁画で注目すべきは、大きな渦巻き文である。この渦巻き文に何某らの意味があるのか、ないのか、文様は何でも良く、たまたま渦巻きを描いた・・・との見方も出来なくもないが、やや無理筋の見解であろう。やはり何某かの意味なり、願いを込めて描いたものと思われる。
以下、Wikipediaからの転載である。同横穴墓は、南東を開口部とし、残存の全長約2.6m、入口から奥壁まで3.15m、高さは1.56m、奥壁の横幅は2.34~2.8mの平面が隅丸方形である。
壁画に描かれているものは、正面左側の人物は冠帽や美豆良(みずら)が見られ、袴を着用し靴を履いている。 正面中央には7重の右回り渦巻文が描かれているが、これが何を象徴しているのかは、不詳との見方もある。渦巻文右側の人物は冑(かぶと)をかぶって左手を挙げており、その左側に馬を従えている。その他、弓矢を射ている人物をはじめ、猪、鹿、犬などが描かれている。
以上、Wikipediaから転載したものであるが、右回り渦巻文の意味するところは不詳であると記す。
渦巻文の先端は男性像の肩にとりつく、この男性が被葬者であろう。この渦巻文は、永遠の命を象徴しているものと考えられる。それは7世紀の古墳時代からのものでなく、縄文時代からの生命観であったかと思われる。
次の写真を御覧願いたい。山梨県北杜市の縄文遺跡である金生遺跡から出土した土偶である。女性土偶の腹は膨らんでいるのが定番で、妊娠している姿が現されている。その腹の中央に渦巻文が刻まれている。人の魂は生まれてくる子供に引き継がれる。魂は永遠に再生を繰り返すことを渦巻文は表しているであろう。
(山梨県北斗市HPより転載)
このように大きな渦巻き文は、すでに縄文時代から登場しており、その文様は古墳時代に至ってもポピュラーな存在であったかと思われる。もしかしたら、清戸迫の被葬者は縄文人の末裔であろうか。
ここで、弓矢を射ている人物の矢は、雌鹿にむかっている。その雌鹿の対面には猟犬が描かれている。まさに狩猟の場面が描かれており、被葬者の生前の姿かと思われる。実はこのような場面は、古墳の墳丘に並べられた埴輪でも再現されている。群馬県高崎市の保渡田Ⅶ遺跡出土の埴輪で、弓を引く人物像、背に矢を受け血をながす猪埴輪、猟犬であろう犬埴輪が一緒に出土している。それらを想定復元して並べたのが、猪狩りの場面である。
清戸迫横穴墓群からは、頭椎大刀、挂甲小札、鉄斧、勾. 玉、土師器片などが出土したようだが、埴輪は出土しておらず、保渡田Ⅶ遺跡で見るような埴輪による狩猟儀礼が、壁画で表現されていることになる。このような狩猟ができるのは豪族であり、当該横穴墓の被葬者は、当地の有力者または技能集団の長であろうと、双葉町教育委員会は見解を示している。
<不定期連載にて次回へ続く>
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