新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカは輸出国ではない

2014-02-26 10:58:30 | コラム
オバマ政権のTPP政策を疑う:

アメリカ西海岸最大の輸出企業に19年在籍して対日輸出を担当してきた身から見れば、オバマ政権が強力に推進しているTPPとそこに包含されている関税撤廃策は、およそ自国が国際市場でどれほどの存在であるかを自覚していないのではないかと危惧させるものがある。より具体的に指摘すれば、アメリカは基本的に輸出国ではなく、その経済が内需に大きく依存していることが自覚出来ていないとしか思えないのだ。

これまでに繰り返して論じてきたことだが、アメリカの製造業の重大な問題点を順序不同で列記すると

*労働力の質が国際的に見て高くないこと。

*主たる労組が業界横断的「職業別労働組合」(=Craft union)であること。

*研究開発(=R&D)の能力が高いが開発した技術の商業生産化が拙劣であること。

*国内需要依存の経済であり、嘗ては輸出とは内需を犠牲にして海外に高値販売を求めていた存在だったこと。

*労務費の高騰等を理由に製造業を空洞化して繊維・雑貨等のみならず工業製品まで輸入に依存してしまった。空洞化していった企業に戻ってくることを依頼しているとか。

*国内市場が国際的に見て一流とは言えない割高な国産品を寛容に受け入れてしまったことと、メーカーがそれに甘えていたこと。

*以上を総合的に国際競争力が低下したこと。


なのだが、最も顕著に国際的な競争力が低下した製品を挙げれば市の財政自体が破綻してしまったデトロイトの自動車産業であろう。

それだけではない。彼等の文化と思考体系では「我が社の製品こそが世界最高。それを買わない貴社が間違っている」というような、我が国の思考体系とは正反対である、およそ謙りの精神がない販売方針がその劣化した製品によって裏切られていったのだった。

しかも、四半期決算に象徴されるような短期間の利益を追求する余りに、折角挙げた利益を設備の近代化と合理化に回す努力を怠ってしまった。その結果、中国や韓国等のアジア諸国のみならずブラジル等の南米の新興国にも劣る古物化した非能率的な生産設備を抱えて、全産業界がそうではなかったとは言え、益々国際市場で取り残された存在となってしまった。

しかも、オバマ政権はリーマン・ショック以降の誰が手がけても容易に世界は言うに及ばず自国の景気回復が出来ない時期に荒海に乗り出してしまったのである。そこで景気回復と自国の貿易赤字解消に乗り出したのは当然であり、何ら非難するものではない。だが、彼の政権は自国が国際市場で置かれた地位とその実力と、何を如何に改善すれば輸出力が強化出来るかを見定めないままにTPP等に着目したとしか思えない。

私は1994年7月から、カーラ・ヒルズ大使の言を借りて再三指摘してきた「アメリカが対日輸出を増加させるためには識字率の改善と初等教育の充実が必須である」が依然としてアメリカの製造業とその輸出を立て直すための基本的な問題であることは変わっていないと思うのだ。オバマ大統領は「間もなく非白人の人口が白人を超える事態」がこの問題と不可分であるとご承知なのだろうか。

この問題をこれ以上論じ始めれば尽きないと思うのでここまでに止めるが、アメリカはTPP加盟国の関税を撤廃させて医療だの保険だのといったような分野に乗り出すというのだろうか。オバマ・ケア実施への体制も不十分と批判されていながら、外国に赴いてそこまでやれるほど人材に余裕があるのだろうか。