ここから先には更なる難関が待ち受けている:
トランプ大統領とベセント・ラトニックの両長官とグリアUSTR代表は、どのような手法で8月7日からの実行段階に入っていく計画なのだろうか。アメリカの輸入業者や消費者は心からtariff作戦を歓迎しているのだろうか。
誤解されやすい報道の仕方:
宜しくないと言いたい。彼等は当たり前のように「日本とは15%で合意」と言って報じているが、私は「アメリカ大統領は日本からアメリカに輸出する貨物について、15%の関税はアメリカ側で輸入する企業・業者が負担するものであり、その支払い先はアメリカ政府(例えばU.S. Customs and Border Protection=税関・国境取締局)である」と言うように明記した方が良いと思う。
実際に「日本の輸出企業がアメリカ政府に納付する」と理解している人に、何回か出会った経験があった。また、前任期中のトランプ大統領と当時のスパイさー報道官は「多額の税金が国庫に入ってきている」と我が事のように喜んでいた。関税についての完全な誤解である。
合意文書の有無:
敢えて「無かったのは問題ではないか」と危惧する点を指摘しよう。トランプ大統領は何カ国と合意する予定かなのだ。即ち、その文書を英語だけで作成して事が足りるのかの疑問が生じる。相手国の言語での作成が求められるだろう。また、末尾に「この合意文書の準拠法(governing law)はアメリカ合衆国XX州の法律が適用される」としたら、当該国が納得するだろうか。難しいのではなかろうか。
この日本とアメリカとの間に合意文書が作成されていなかったことに関して、赤沢亮正大臣を責めるべきではないと思う。常識的にというか、手続き上でアメリカ側が事前に準備して会談に臨むのが普通のことなのだから。
この点は既に指摘したが、この他にこれから先にもしも正式な文書を作成して、責任者が署名しなければ発効させようがないかも知れないのだ。そうだったのならば、アメリカ政府の所管官庁が作成する合意文書は、恐らく数センチの厚さに達すると予想できる。ここは法律の専門家の領域だろうし、相手国の法務担当者との長時間を要するだろう摺り合わせは必須ではないか。
トランプ大統領は不動産売買契約書の内容が専門語で埋め尽くされていることは、先刻ご承知だろう。それでも尚、言わば徒手空拳で赤沢大臣をホワイトハウスに請じ入れられたのだ。日本だけではない。UKも韓国に対しても文書無しで合意に至ったのだろうか。合意に達した全外国が文書作成と署名を求めた場合の対応策は準備されていたのだろうか。
IEEPA:
何処か一国でも「IEEPAによる関税賦課は不当ではないのか」と、アメリカ合衆国連邦政府に苦情を申し入れたとの公式な報道があったとの記憶はない。あるいはあったとしても何かに忖度して取り上げられなかったのかも知れない。トランプ大統領は他国が不当廉売していなくても、tariff作戦に従うのは当然だという認識と前提に立っていたかのようだ。
関税とは「他国からの不当廉売への対抗策」として課される性質で、アメリカでは商務省から国際貿易委員会の調査と審議を経て賦課すると決定されるのである。今回のトランプ大統領のtariff作戦は不当廉売に対するペナルティーではなく、1977年10月28日より施行されたアメリカ合衆国の法律、国際緊急経済権限法または国際非常時経済権限法(International Emergency Economic Power Act)を持ちだして適用したのである。言わば、非常手段なのだ。
石破茂内閣総理大臣が唱える責任論:
石破首相の「辞任せず」の弁には誤りがある。「合意の内容を遂行する責務があるから辞任しない」という理由を強調された。これでは国際間の常道である正式な文書もなかった合意の実行を重視されても、トランプ大統領、乃至はベセント・ラトニック長官・グリア代表に「正式な手続きを経ていなかった不確実さというか略式の方式の改善」を要求する意図はないかの如きだ。これでは宜しくない。