【掲載日:平成23年8月26日】
四の船 船の舳並べ 平安けく
早渡り来て 返言 奏さむ日に
相飲まむ酒そ この豊御酒は
天平勝宝四年(752)閏三月
出発を 旬日に控えて
大伴古慈斐宅 入唐副使大伴古麻呂餞宴
唐国に 行き足はして 帰り来む 大夫健男に 御酒奉る
《唐国へ 役目果たしに 往き来する 雄々し男児に 酒捧げましょ》
―丹比鷹主―(巻十九・四二六二)
櫛も見じ 屋内も掃かじ 草枕 旅行く君を 斎ふと思ひて
《櫛見んと 掃除もせんと 祈ります 旅の古麻呂の 無事を願うて》
―作者未詳―(巻十九・四二六三)
出発間近 難波在の大使藤原清河への賜り歌
そらみつ 大和の国は 水の上は 地行く如く 船の上は 床に居る如 大神の 鎮へる国ぞ
《この大和 海でも土を 踏む様な 船でも床に 座る様な 安らか旅を 叶えさす 神さん守る 加護の国》
四の船 船の舳並べ 平安けく 早渡り来て 返言 奏さむ日に 相飲まむ酒そ この豊御酒は
《四艘船が 舳先を揃え 無事に早うに 行き還り 報告終える その日こそ また飲もうぞや この捧げ酒》
―孝謙天皇―(巻十九・四二六四)
四の船 早帰り来と 白髪付け 朕が裳の裾に 斎ひて待たむ
《四艘の 船の還りを 祈るため 裳裾に白髪 結んで待つぞ》
―孝謙天皇―(巻十九・四二六五)
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遣唐使
それは 先進文物摂取のため 唐へ派遣の使節
選抜は 貴族子弟 優秀留学生 学問僧
帰国後 我が国文化発展に多大の貢献
選ばれしは 名誉この上なし
然しながら
船 脆弱にして 強風波浪に堪えず
遭難船続出 漂流 難破 漂着
生還率 実に 五割満たず
この度の 第十次遣唐使
大使 藤原清河
副使 大伴古麻呂
副使 吉備真備
清河 藤原北家
古麻呂 天平五年(733)留学生に次ぎ二度目
真備 橘諸兄元政治顧問
勝宝二年左遷で 筑前守 肥前守
急遽の抜擢 当年五十七歳
養老元年(717)留学生に次ぎ二度目
権謀術数渦巻く中 これらの派遣
藤原南家 仲麻呂の何らかの意思 働き居るか
もっとも
仲麻呂六男刷雄 留学生に名を連ねている・・・