【掲載日:平成25年3月19日】
風吹かぬ 浦に波立ち なき名をも 我れは負へるか 逢ふとはなしに
恋する二人 隠れて忍ぶ
知られて仕舞たら 噂の餌食
やっかみ噂 邪魔しの噂
根も葉もなしの からかい噂
紀伊の海の 名高の浦に 寄する波 音高きかも 逢はぬ子ゆゑに
《逢いもせん あの児と噂 偉ろ立った 名高の浦の 波音みたい》【寄物陳思】
―作者未詳―(巻十一・二七三〇)
朝東風に 井堤越す波の 外目にも 逢はぬものゆゑ 滝もとどろに
《外ながら 逢たことすらも 無いのんに 滝ごうごうの 酷い噂や》【寄物陳思】
―作者未詳―(巻十一・二七一七)
(井堤越す波=外に溢れる→外目)
風吹かぬ 浦に波立ち なき名をも 我れは負へるか 逢ふとはなしに
《風無しに 立つ波みたい 謂われ無に 噂されたで 逢たことないに》【寄物陳思】
―作者未詳―(巻十一・二七二六)
我が背子に 直に逢はばこそ 名は立ため 言の通ひに 何かそこゆゑ
《面向こて 逢うた云うなら 仕様ないが 言伝てだけで 何で噂や》【正述心緒】
―作者未詳―(巻十一・二五二四)
いくばくも 降らぬ雨ゆゑ 我が背子が 御名の幾許 滝もとどろに
《ちょっとしか 逢うてないのに あんたの名 酷い広がり 降る滝水みたい》【比喩】
―作者未詳―(巻十一・二八四〇)
人間守り 葦垣越しに 我妹子を 相見しからに 言ぞさだ多き
《他人見てん 隙にちらっと 垣根越し 見ただけやのに 五月蝿いこちゃ》【正述心緒】
―作者未詳―(巻十一・二五七六)
人言の 繁き間守りて 逢ふともや なほ我が上に 言の繁けむ
《間ぁ空けて 噂されん様 逢うたのに それでも世間 五月蝿いこっちゃ》【正述心緒】
―作者未詳―(巻十一・二五六一)