巻七（雑歌・比喩歌・挽歌）編（35）背向（そがひ）に寝しく

【掲載日：平成24年10月19日】

我が背子を　何処いづち行ゆかめと　さき竹の　背向そがひに寝ねしく　今し悔しも




生きて居いりゃこそ　仲良ようできる
後で悔やむは　甲斐なき仕業しわざ
玉は砕くだける　花散り枯れる
独り寝ね明ける　まんじり無しに

幸さきはひの　いかなる人か　黒髪の　白くなるまで　妹が声を聞く
《どんなにか　幸しあわせやろな　黒い髪　白しろ成るまでも　妹声こえ聞ける人》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一一）
我が背子を　何処いづち行ゆかめと　さき竹の　背向そがひに寝ねしく　今し悔しも
《あの人は　何処どこも行かへん　思い込み　背せぇ向むけ寝たん　悔やまれるがな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一二）
庭つ鳥　鶏かけの垂たり尾の　乱れ尾の　長き心も　思ほえぬかも
《鶏にわとりの　長なごうに伸びた　尾おぉみたい　のんびり気持ち　うちようならん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一三）
薦枕こもまくら　相あひ枕まきし子も　あらばこそ　夜よの更ふくらくも　我わが惜をしみせめ
《薦枕こもまくら　して寝たあの児　居おるんなら　夜よるの更ふけるん　惜おし思うのに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一四）
玉梓たまづさの　妹は玉かも　あしひきの　清き山辺やまへに　撒まけば散りぬる
《あぁあの児　玉やったんか　灰にして　山で撒まいたら　散って仕舞しもたで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一五）
玉梓たまづさの　妹は花かも　あしひきの　この山蔭やまかげに　撒まけば失うせぬる
《あぁあの児　花やったんか　灰にして　山で撒まいたら　消えて仕舞しもたで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一六）
名児なごの海を　朝漕ぎ来れば　海中わたなかに　鹿子かこぞ鳴くなる　あはれその鹿子かこ
《名児なご海を　朝漕いでくと　海の上　鹿鳴いとるで　あぁあの昔鹿しかも（遠い昔に　死んで仕舞もたんや）》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻七・一四一七）

【　昔の鹿のものがたり】
昔刀我野とがのに　棲む番つがい鹿しか
牡鹿おじか通うよ　淡路の野島
待つは年若　側妻そばめの雌鹿めじか
ある夜夢見た　牡鹿おじかが問うた
「背中せなに雪積み　薄すすきが生えた」
聞いた妻つま鹿じか　占うらのて答う
「薄すすき生えるは　射られし矢ぞよ
　雪の積もるは　塩漬け運命さだめ
　海を渡れば　猟師りょうしに射られ
　塩漬け肉に　されるが前兆しるし」
妻鹿つまの諌いさめに　聞く耳持たず
牡おじ鹿か野島へ　海へと渡る
待つは釣船　矢番つがえ猟師りょうし
夜明け静寂しじまに　鹿子かこ鳴く声が
（　摂津国風土記逸文より）






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