文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件

2019-12-07 11:41:29 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件 (角川文庫)
横溝 正史
KADOKAWA

 

本書は、3つの中編から構成されている。表題作の「本陣殺人事件」は、金田一耕助シリーズの第一作目となるものだ。舞台は岡山県の農村にある一柳家。一柳家は江戸時代には本陣だった旧家だ。一柳家の長男・賢蔵と女学校の教師久保克子が婚礼の夜に無残な死体となる。その現場は密室の状態になっていた。果たして誰がどのようにして犯行に及んだのか。そして不気味な三本指の男の影が。

 この作品では、金田一のパトロンで、岡山で果樹栽培をした久保銀造に呼ばれて登場する。銀蔵は、克子の叔父にあたる。金田一はアメリカで銀造としりあったのだが、その当時、金田一が麻薬の常習者だったという設定はシャーロック・ホームズを意識したようだ。

 しかし、意外な真実が金田一によって明らかにされる。だが、これが事件の動機なら、現代ではちっと考えにくい。

 私も岡山県出身ではないが、倉敷に住んでいたこともあり、馴染みのある地名が出てくるのがうれしいもっとも地名は昔のものが出てくるうえ、例えば川ー村といったように、真ん中の文字が隠してあるのだが、岡山の地名になじみがあればなんとなくわかってしまうのだ。

 二作目の「車井戸はなぜ軋る」は、K村の名主の家柄である本位田家で起こった事件描いたをものである。この村は本位田、秋月、小野の3家が3名といわれて、江戸時代には年番で名主を務めていたのだが、他の2家は没落して、本位田家のみが栄えていた。

 本位田家の長男大助と秋月家の長男伍一は、どちらも本位田大三郎を父に持ち、二人は驚くほどよく似ていた。大助が二重瞳孔の持ち主であることを除けば。そして大助と伍一が押収され、大助のみが帰ってきた。戦傷で目をやられ義眼となって。伍一は戦死したという。そして大助とその妻梨枝が殺される。描かれるのは、人間の妬みと疑心暗鬼の恐ろしさか。

 一応金田一は出てくるのだが、事件を見通したのは鶴代という本位田家の娘。生まれつき心臓弁膜症で体が弱いという設定の薄幸の少女だ。

 三作目の「黒猫亭事件」では、探偵小説のトリックの三典型が示される。「密室の殺人」型と「顔のない屍体」型、「一人二役」型らしい。もっとも、DNA鑑定が進んだ現代では、後ろの二つは難しいだろうから、ミステリー作家は「密室の殺人」型のトリックを考えるのに頭をひねることになるだろう。

 G町の黒猫亭という酒場の庭で、隣接する寺・蓮華院の日兆という若い僧が女の腐乱死体を掘り出したところを、長谷川という巡査が見つける。黒猫亭の主人だった糸島夫婦は1週間前に店を閉めて転出していた。

 一作目の「本陣殺人事件」が密室の殺人なら、この作品は「顔のない屍体」型、と「一人二役」型の二つを組み合わせたような作品だ。これは金田一が事件解決にだいぶ働いている。

 時代的なものもあるので、少し文体が古いかなという気がするが、ファンには十分楽しめるものと思う。いずれも横溝作品の魅力であるおどろおどろしさが良く出ているのではないだろうか。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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