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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

半七捕物帳 51 大森の鶏

2020-01-23 08:54:17 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この話も明治になって、半七老人が、岡っ引き時代の話を作者に語っているという形式である。今回の話は、不思議な話である。

 世の中には「トリ頭」という言葉がある。要するに、直ぐ物事を忘れてしまうということだ。しかし、その代表である鶏が、敵の顔を覚えていたのだから。

 半七親分が、子分の庄太といっしょに川崎大師に詣でた帰り道の話、大森にある、ある店で休んでいたところ、その店で飼っていた雄鶏が、突然休んでいた中年増の女に飛びかかったのだ。

 半七親分も庄太も、どうもその女に見覚えがあると、いろいろ調べてみると、とんでもない事件が潜んでいた。

 その女・お六は、浅草の鳥亀という軍鶏屋で女将をしていた。その鳥亀の亭主が鮒釣りに出て死んでしまったため、店を閉めたのだが、お六を襲った雄鶏は、その鳥亀で飼っていた鶏だったのである。その亭主の死の真相と、もう一つ予想もできないような事件がこれに絡んでくるのだが、どうして鳥亀から売られた鶏がお六を襲ったのか?果たして死んだ亭主の魂が鶏に乗憑ったのか?これについては、不思議という結論でそこに論理的な因果関係はない。ホラーとしては面白いのかもしれないが、ミステリーとしてはどうだろう。それとも三津田信三作品のように、ホラーとミステリーの融合の走りとなるのだろうか?

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 16 津の国屋

2020-01-05 10:04:53 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 宮部みゆきさんの「ほのぼのお徒歩日記」で半七捕物帳の中でも名作と紹介されていたので、興味を持って読んでみた。この話も半七老人が、語り手に昔の話を語るという形式である。半七は江戸時代の岡っ引き。岡っ引きという存在は歴史的にはいろいろあるものの、要するに、探偵役。捕物帳は、江戸時代を舞台にした日本独特のミステリーだ。

 津の国屋とは、裏伝馬町にある酒屋のことだ。元々は、3代前に、本家からのれん分けしてもらった店だが、本家の方はとうに潰れて、この店はますます繁盛してきた。今の主人は3代目だが、子がないということで、八王子の遠縁のものから、お安という娘を養女にした。ところが、実子が二人もできたもので、お安がじゃまになり、あらぬ言いがかりをつけて追い出してしまった。そして、お安は八王子に帰ってしばらくすると死んだそうだ。自殺らしい。

 ところが津の国屋の実子であるお清が、お安の死んだ17で病により死んでしまう。そして妹のお雪もことし17になる。赤坂裏伝馬町に住む常磐津の師匠文字春は、堀の内の御祖師様への参詣の帰りに、八王子から津の国屋のお雪に逢いに来たという不思議な娘と出会う。そして、津の国屋の女房と番頭が心中事件を起こす。このように前半は怪談風味で進むが、最後は人が企んだ事件になっている。

 私は、読んでみて、二つの点で不満があった。まず、この話に半七親分は出てくるといえば出てくるのだが、最後の方で少し出てくるという感じだ。その代わりに活躍するのが桐畑の常吉という若い目明し。半七は、その親父の幸右衛門に世話になったことがあるということから、彼に協力するという立ち位置なのだ。

 二つ目は、それまでまったく登場していない人物が、事件の解決時点で出てくることだ。事件解決の時にそれまで出てこなかった人物を登場させるというのは、ミステリーとしてどうかと思う。

 まあ、1話当たりがそう長くなく、気軽に読めるので、あまり読書時間を取れないときにはいいだろう。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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メビウスの守護者 法医昆虫学捜査官

2019-12-30 09:44:13 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 本書は、著者による「法医昆虫学捜査官」シリーズの第4弾にあたる。

 主人公は、法医昆虫学の大学准教授赤堀涼子。36歳だが童顔で、JKのようなノリだ。彼女と行動をともにするのが、警視庁の岩舘裕也警部補。そして、事件の起きた場所を管轄する所轄の刑事の組み合わせで、今回は犯行現場の仙谷村を管轄する四日市署の牛久弘之巡査長。山岳救助隊員でもある。

 この3人が主に動いて、赤堀の昆虫学の知識で、事件を解決に導いていくというのがシリーズ共通の流れだ。

 今回の事件は、牛久が、バラバラ死体の一部を見つけたことに始まる。関節の部分から三つに切断された男の両腕が見つかったのだ。しかし、解剖医の出した、死亡推定月日と、赤堀の見た昆虫の生態から導かれる死亡推定月日は大きく異なる。これはどういう訳だろう。

 この作品では、主な登場人物はウジによる洗礼を受けることになっている。今回は、発見された腕から湧きだした大量のウジ。そして、死体が埋められていた場所で遭遇したウジの雨。想像しただけでゾッとして食欲が無くなる。

 最後に意外な犯人が明らかになるが、そんな理由で殺人をするのなら、ちょっと、いやかなりサイコな人だろう。

 ちょっとがっかりしたのは、警視庁管理官の伏見香菜子。捜査一課唯一人のキャリア組という設定だ。彼女は、最初から赤堀の言うことを否定している。反赤堀の急先鋒であり、言うなれば赤堀の天敵のような存在だが、やっていることは的外れなことばかり。

 赤堀の能力を認めて、良い理解者になるというのならまだ話は分かるのだが、この管理官、あるところから全く出てこなくなった。要するに無能で先例主義を絵に描いたような人物なのだ。こんな上司がいれば、私なら、絶対に転職を考えるだろう。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件

2019-12-07 11:41:29 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
金田一耕助ファイル2 本陣殺人事件 (角川文庫)
横溝 正史
KADOKAWA

 

本書は、3つの中編から構成されている。表題作の「本陣殺人事件」は、金田一耕助シリーズの第一作目となるものだ。舞台は岡山県の農村にある一柳家。一柳家は江戸時代には本陣だった旧家だ。一柳家の長男・賢蔵と女学校の教師久保克子が婚礼の夜に無残な死体となる。その現場は密室の状態になっていた。果たして誰がどのようにして犯行に及んだのか。そして不気味な三本指の男の影が。

 この作品では、金田一のパトロンで、岡山で果樹栽培をした久保銀造に呼ばれて登場する。銀蔵は、克子の叔父にあたる。金田一はアメリカで銀造としりあったのだが、その当時、金田一が麻薬の常習者だったという設定はシャーロック・ホームズを意識したようだ。

 しかし、意外な真実が金田一によって明らかにされる。だが、これが事件の動機なら、現代ではちっと考えにくい。

 私も岡山県出身ではないが、倉敷に住んでいたこともあり、馴染みのある地名が出てくるのがうれしいもっとも地名は昔のものが出てくるうえ、例えば川ー村といったように、真ん中の文字が隠してあるのだが、岡山の地名になじみがあればなんとなくわかってしまうのだ。

 二作目の「車井戸はなぜ軋る」は、K村の名主の家柄である本位田家で起こった事件描いたをものである。この村は本位田、秋月、小野の3家が3名といわれて、江戸時代には年番で名主を務めていたのだが、他の2家は没落して、本位田家のみが栄えていた。

 本位田家の長男大助と秋月家の長男伍一は、どちらも本位田大三郎を父に持ち、二人は驚くほどよく似ていた。大助が二重瞳孔の持ち主であることを除けば。そして大助と伍一が押収され、大助のみが帰ってきた。戦傷で目をやられ義眼となって。伍一は戦死したという。そして大助とその妻梨枝が殺される。描かれるのは、人間の妬みと疑心暗鬼の恐ろしさか。

 一応金田一は出てくるのだが、事件を見通したのは鶴代という本位田家の娘。生まれつき心臓弁膜症で体が弱いという設定の薄幸の少女だ。

 三作目の「黒猫亭事件」では、探偵小説のトリックの三典型が示される。「密室の殺人」型と「顔のない屍体」型、「一人二役」型らしい。もっとも、DNA鑑定が進んだ現代では、後ろの二つは難しいだろうから、ミステリー作家は「密室の殺人」型のトリックを考えるのに頭をひねることになるだろう。

 G町の黒猫亭という酒場の庭で、隣接する寺・蓮華院の日兆という若い僧が女の腐乱死体を掘り出したところを、長谷川という巡査が見つける。黒猫亭の主人だった糸島夫婦は1週間前に店を閉めて転出していた。

 一作目の「本陣殺人事件」が密室の殺人なら、この作品は「顔のない屍体」型、と「一人二役」型の二つを組み合わせたような作品だ。これは金田一が事件解決にだいぶ働いている。

 時代的なものもあるので、少し文体が古いかなという気がするが、ファンには十分楽しめるものと思う。いずれも横溝作品の魅力であるおどろおどろしさが良く出ているのではないだろうか。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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珈琲店タレーランの事件簿 6  コーヒーカップいっぱいの愛

2019-11-29 08:41:41 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
岡崎 琢磨
宝島社

 なんと3年ぶりに新作が出たこのシリーズ。前巻でアオヤマ氏が、切間美星にプロポーズの言葉らしき言葉を言っていたので、てっきり前巻で完結したと思っていたら、まさかの新作。

 逆に言えば、この3年間全く二人の仲は進展していなかったことになる。何をやっているんだアオヤマ。

 この巻では、タレーランのオーナーで美星の大叔父でもある藻川又次が狭心症で倒れてしまう。又次の妻千恵が生きていたころ、又次がコーヒーカップを割ってしまったときに、怒った千恵が1週間帰ってこなかったことがあった。今回のテーマは、この謎解きをすること。そして明らかになってくる、画家で故人の影井城と千恵との関係。

 アオヤマ、美星は、静岡からやってきた又次の孫という藻川小原(オハラ)といっしょに当時のことを調べ始める。最後にどんでん返しなんかがあったりして、なかなか楽しめる。

 こんどこそ、最後にプロポーズの言葉があったので、これで完結だろう。

「僕はあなた以外と結婚なんてしない。(中略)藻川さんと奥さんのような、素敵な二人になりたいと思っています。美星さん、僕と正式にお付き合いしていただけませんか」(p296)



 でもヘタレのアオヤマ君のことひょっとしたら、また何の進展もないまま、次巻が発売される可能性もある。おまけに作家には、プロポーズを無かったことにするという必殺技もあるからなあ。 

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ブタカン!~池谷美咲の演劇部日誌~

2019-11-25 08:39:07 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
ブタカン!~池谷美咲の演劇部日誌~(新潮文庫)
青柳 碧人
新潮社

 ブタカンというとあなたは何を連想するだろうか。決して鯖缶や鰯缶のような、豚の缶詰という意味ではない。舞台監督の略だ。ヒロインの池谷美咲は、父が餃子屋の経営に失敗して極貧の暮らし。何しろ、白飯だけの弁当に、幼馴染の親友の北条ナナコからおかずをのせてもらっていたくらいである。

 このナナコ、人を驚かせるのが得意である。家出をすれば、鹿児島の漁師の家に居候していたり、温泉を掘るといって、不発弾を掘り当てたり、昆虫採集に行っては、絶滅したはずの古代トンボを捕まえる。

 家に生活費を入れようと、アルバイトに明け暮れ、美咲には、部活などに割く時間はなかった。ところが美咲が高校2年になったころ、伯父が、宝くじに当たり、そのおかげで借金は完済。アルバイトに明け暮れなくとも良くなったのだ。美咲は遅まきながら部活をやって高校生活を謳歌しようと、ナナコの入っていた演劇部に入ることにする。

 ところが、今度はナナコが病に倒れる。本人曰く「白血病的な」病気らしい。病に倒れた親友の代わりに、舞台監督をやることになった美咲だが、この部、奇人・変人ばかり。

 いかにも著者らしく、変なネタが満載なのである。なにしろ演じる劇が、「走るなメロス」だったり、「白柚子姫と六人の忍者」だったり。でも全体を通して、美咲が舞台監督として成長していく物語なのだろう。

☆☆☆☆

※書評は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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困った作家たち 編集者桜木由子の事件簿

2019-10-07 19:28:30 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
困った作家たち 編集者桜木由子の事件簿 (双葉文庫)
両角 長彦
双葉社

 本書は、ある出版社に勤める編集者・桜木由子と彼女の担当する作家たちに関するミステリーを扱った連作短編集である。


 収録されているのは、次の6つの短編と5つのショートショート。

(最終候補)
 ミステリー新人賞の最終候補者として集まったとして残った4人。その中の一人はいやに応募作に自信満々だが。

(盗作疑惑)
 売れっ子ミステリー作家の前山樹の書いた「フライト・インポッシブル」。誰も分からないはずの種明かしを記した手紙が彼のところに来た。

(口述密室)
 ミステリー作家の有坂真悟が、密室で亡くなった。彼は、新作「軌道上密室」の最終部分を執筆中(といっても彼はカセットテープに吹き込んで、それを姪が口述筆記していた)だった。果たして事故か、殺人か?

(死後発表)
 官能小説家の鳴海基之が肺ガンで亡くなる。彼は最後の原稿を残し、元妻がOKすれば発表されるという。彼は10年前、元妻の妹の障害致死事件で、作家活動を休止していた。

(公開中止)
 映画「ノット・エターナル 永遠にあらず」の試写を観た原作者大和範子が映画の公開中止を求めてきた。彼女はこれまでそのようなことをしたことがない。いったいなぜ。

(偽愛読者)
 辻本遼という男が、一人暮らしをしている老人臼木を殺した。辻本は、作家芝哲雄の最新作「三日間」の影響を受けたと主張している。ところが、辻本は、作品を読みもせず、書評などから批判的な意見を拾い、作品を批判する常習者だった。果たして辻本の言うことは本当か。

 この6篇の短編小説の間に「short short story」と銘打ったショートショートが挿入されている。これらの短編を読むと、いかにも作家には「困ったちゃん」が多いように思えるが、どこの世界にも「困ったちゃん」はある程度いるのだから、作家の中にもこんな困った人たちがいるということだろうか。

 実は一番面白いと思ったのは、ショートショートの一つで学歴詐称という作品。若手人気作家は自分の学歴を「東大中退」としていたが、そんな事実はなかった。そこで桜木が紹介したのがお金で卒業証書を発行してくれる大学。要するにディプロマミルだ。これで作家はめでたく「束大中退」になったそうな。めでたしめでたし(笑)

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

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スクールカースト殺人教室

2019-09-30 12:59:14 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
スクールカースト殺人教室 (新潮文庫nex)
堀内 公太郎
新潮社

 最近「スクールカースト」なる言葉を聞くことがあるが、正直私は意味がよく分からない。どうして、せいぜい3年程度の中高時代にこんなものができるのか。誰がスクールカーストを決めるのか。下位に位置付けられたものは、どうして学校にしがみついてその位置に甘んじなくてはならないのか。いくら自分が高校でカースト上位に居たといっても、大学に進学したり、社会に出たときには、まったくと言っていいほど役に立たないものだ。もしかすると、社会に出て、カースト上位にいたものが落ちぶれて、下位にいたものがそれを見て満足するという暗い喜びを満たすためではないかと思ってしまう。

 本書は、このスクールカーストなるものを扱ったミステリーだ。舞台は、私立西東京学園高校。ここの1年D組には、女優の娘である和木麻耶を頂点とした序列があった。この教室で担任の羽田勝が殺される。この教師、麻耶におもねるために自分もいじめに加担する最低の教師だった。最後の方でもうひとつこの男の最低ぶりが暴露される。そしてこの事件に関連して第二、第三の死者が出る。

 出てくるのは、最低の犯罪集団。なにか勘違いして、自分を偉いと思っている連中だ。自分を偉いと思うのは別に構わないし、それを皆が偉い人だと思うような行動で示せばいいと思うのだが、やることは、完全に犯罪である。そして教師もそんな犯罪集団におもねり、いじめに加担する。いやいじめという言葉では収まらない。完全に犯罪である。

 最後に何人かは逮捕されるが、手ぬるい。もっと逮捕される者が出ても良かったと思う。とにかくやっていることが完全に犯罪である。そして、刑法犯は訴えがなくとも親告罪でない限り、捜査・逮捕ができるのだ。

 こういうやつらは全員捕まえて重労働の刑にでもすればいいと思う。不思議なのは、どうして犯罪被害にあったものが、直ぐに警察に通報しないのか。私なら即通報するだろう。最後には、シナリオを書いた人間が分かるのだが、最後まであまりいい感情は持てなかった。これは「イヤミス」としては成功していることになるのだろうか。

☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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卑弥呼の葬祭:―天照暗殺―

2019-09-18 09:48:34 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
卑弥呼の葬祭 :―天照暗殺― (新潮文庫)
高田 崇史
新潮社

 高田崇史といえば、「QED」シリーズや「毒草師」シリーズでおなじみだが、本書もこの流れを汲んでいるといえるだろう。この作品のヒロインは萬願寺響子。毒草師シリーズの最新作である「七夕の雨闇」に出てきた女性だ。

 高千穂神楽の舞手である、杉橋吾郎が神楽の最中殺される。なぜかその死体には首がなかった。これが一連の事件の幕開けとなる。一方大分県の宇佐神宮にある三つの井戸から後藤弓美という女性の生首と腕が見つかる。そしてその恋人の葛城亨が凶首塚古墳入り口で首を吊り、さらには弓美の遺体発見者である森山秋子が殺される。

 マンションで毒草師・御名形史紋の隣の部屋に住んでいるのは、西田真規という医薬品業界向けの出版社「ファーマ・メディカ」の編集部員。「毒草師」シリーズではお馴染みの人物だが、響子も西田と同じ「ファーマ・メディカ」編集部に勤めている。

 響子の従弟である鳴上蓮が九州で行方不明になる。蓮は邪馬台国のことを調べていたという。響子は蓮を追って、九州へ飛ぶ。一連の事件の背後にあったのは邪馬台国と卑弥呼の謎、そして大和王朝創成期や伊勢神宮の秘密。

 御名形はずっとどこかに出かけているようで、この作品中には、名前しか出てこない。代わりに出てくるのがQEDシリーズの桑原崇。実は崇も最初は不在だったのだが、九州でばったりと響子と出会いそれからは事件の解決に向けていっしょに行動している。

 だからこの作品QEDシリーズの一つとして数えてもいいと思うのだが、一応QEDシリーズの本編は終了していることになっているし、棚旗奈々も出てこないので、あえてそうしてないんだろうなあと思う。なお、響子や蓮は他の作品にも出てくるようで、このような作品間の関連性を探すというのも楽しいのではないか。

 作品は、他の作品と同様、歴史の秘密に関して現実に起こった事件を崇が解決するというもの。崇の歴史に関する蘊蓄もいつものように披露されているが、正直よく分からない。蘊蓄の多さで圧倒しているという感じだが、もっとすっきりと謎解きができないものだろうかと思う。まあ、すっきりできるようなら、とっくに邪馬台国の謎には結論が出ているだろうが。

 そして、現実の事件の方。普通はこんなことが殺人事件に繋がるとは思わないが、狂信者、サイコパスと呼ばれる連中はどこにでもいるだろうから、絶対ないとはいいきれない。でもちょっと数が多い気が。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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天才月澪彩葉の精神病質学研究

2019-09-07 09:31:16 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
天才月澪彩葉の精神病質学(サイコパス)研究ノート (アルファポリス文庫)
玄武 聡一郎
アルファポリス

 〇〇学ミステリーと本書を位置付けるなら心理学ミステリーと言っていいだろう。ヒロインは表題の通り月澪彩葉という、木之瀬准教授の研究室の修士2年で、サイコパスの研究をしている。彼女はサイコパスの気持ちが理解できてしまうので、自分が理解できないサイコパスに出会いたいと思っている。ちなみに、ものすごい美女で、そこら辺の男より強いと言う設定だ。性格も男前(笑)。

 そしてこれに絡んでくるのが同じ大学の学生・北條正人。人の本質や感情を見ることができる共感覚の持ち主である。

 そして、起こる三つの異常な殺人事件。体の一部を切り取ったり、顔をすりつぶしたり。果たしてこれが月澪の理解できないサイコパスなのか?

 驚くようなオチに読者は驚くに違いない。そして読者をミスリードさせるような書きぶりと、見事な卓袱台返し。この巻の評判が良かったのだろう。2巻も出ており、これが彩葉と正人の出会いの物語になっている。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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