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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

満願

2019-09-03 08:21:08 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
満願 (新潮文庫)
米澤 穂信
新潮社

 本書は、米澤穂信による珠玉のミステリー短編集だ。収められているのは次の6編。

1.夜警
 交番勤務の川藤浩志巡査は、暴れる田原勝に向けて発砲・射殺したが、自分も切り付けられて殉職した。

2.死人宿
 楽に死ねると、自殺志願者が集まる「死人宿」。そこで働く語り手の元恋人・佐和子が、脱衣所で遺書の落とし物を見つける。

3.柘榴
 親が離婚することになった。夫の方は全く生活力のない男。当然親権は母親のものになるはずだったが、二人の子供たち(姉妹)は虐待をでっちあげて父親のもとに。

4.万灯
 井桁商事の伊丹は、バングラデシュの天然ガス開発室長だ。開発に反対するアラム・アベッドを、フランス企業OGO勤務の森下といっしょに殺害する。そして罪の意識に怯える森下を日本まで追って殺害する。

5.関守
 ライターである語り手は、都市伝説のネタを求めて、伊豆半島南部にある桂谷峠にあるドライブインで、店主のばあさんから話を聞く。

6.満願
 表題作。弁護士の藤井は、学生のころ下宿していた畳屋の鵜藤重治の妻・妙子が貸金業者矢場英司を殺害。3年がかりで控訴審まで進むも、妙子の希望で控訴が取り下げられ、1審通り、懲役8年の刑が確定する。

 いずれも、「えっ。こんなオチになるの?」といった意表をつくような結末。それぞれの話に関連性はないので、どの話からでも読み始められる。短編集なので1話を読む時間はそれほどかからない。時間がないが良質のミステリーを読みたい人にはお勧めである。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断

2019-08-14 09:05:14 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
喜多 喜久
宝島社

 どうもこの本がシリーズ2冊目のようだ。主要な登場人物は、友永久理子という国立T大に勤務するiPS細胞の専門家という、俗に言うリケジョ。そして懇誠リサーチと言う保険調査会社に勤める江崎誠彦という調査員。江崎が仕事で遭遇した事件の謎を久美子が解き明かしていくというのが基本的な枠組みである。

 二人の関係は、どうも前巻でかなり接近しているようだ。(前巻はまだ読んでいないのでなんともいえないが) 二人は婚約者同志となり、結婚を目前にして、久理子がアメリカ留学から帰ってきたのをきっかけにいっしょに暮らし始めている。なお、久理子は帰国すると助教から准教授に昇進している。

 本書は4つのエピソードで構成されている。収められているのは、江崎の仕事に関係した保険に関する以下の4編。

〇契約と選択
 園部朝子という女性が山中でオオスズメバチの大群に襲われ命を落とした。彼女には5千万円の保険がかけられており、受取人は夫の啓治。

〇死の階段
 増田香奈恵という女性の夫が脳梗塞で亡くなった。彼には5千万円の生命保険がかけられていた。香奈恵の前夫も脳梗塞で亡くなっており、3千5百万円の保険金を受け取っていた。

〇失踪の果つる地
 平泉由里は夫の努と別れることを条件に志摩に二人で旅行した。ところが二人は言い争いになり、努は海に落ちて行方不明に。そのまま7年が過ぎてしまう。死亡扱いとなれば3千万円の保険金が支払われることになる。

〇生命の未来予想図
 ある病院だけがん保険の支払いが多い。

 実はこれ全部、犯罪がらみなのである。アイデアとしてはなかなか面白いのだが、実際にはかなりの無理があると思う。例えば「死の階段」などかなりの偶然性に期待しないといけないし、久理子の推理である「香奈恵は薬剤師なので、降圧剤をビタミン剤にすり替えて出した」というのも無理だろう。そもそも降圧剤は医師の処方箋により出されるもので薬が変わるとすぐわかるはずだ。また薬局でも薬の在庫管理をしているはずなので、もし医師の処方箋通り薬が出されていなければ、そこの薬局の責任者は気が付くだろう。

 また「失踪の果つる地」では血液から、その血液の主の出身地をピンポイントで割り出しているが、それも無理だと思う。サンプルも少ないはずなのに、10年も前に無人島になっている島の出身だとどうしてわかるのか。

 このほかにもツッコミどころは結構あるが、あとは自分で読んで探してほしい。まあ、これもひとつの小説の楽しみ方なんだろう。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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浜村渚の計算ノート 9さつめ 恋人たちの必勝法

2019-08-10 09:12:23 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
浜村渚の計算ノート 9さつめ 恋人たちの必勝法 (講談社文庫)
青柳 碧人
講談社

 数学を始めとする理系教育が迫害される社会。数学テロ組織「黒い三角定規」と戦う警視庁「黒い三角定規・特別対策本部」所属の刑事たっちと、千葉の中学生で、天才数学少女浜村渚の物語。今回も短編集で収められているのは以下の4編。 

〇1を並べよ、並べよ1を
 現状に不満をもつ民衆をあおって暴動を起こそうとする黒い三角定規のジェネラル・レピュニっト。民衆をあやつる25マスの数表のからくりとは。出てくる数学はレピュニット数。レピュニット数とは「1」を並べた数だ。

〇私と彼氏の不等式
 眼科医で都議の平畑武彦が毒入りのマシュマロで殺された。殺人事件現場に残るのは、jn>mjという不等式。

 ところで、この平畑氏、目の悪い中学生の好きな科目は数学だということで、数学の好きな子ほど目が悪くなる傾向があると主張していたらしい。でも一応数学をテーマにした小説なら、それは相関関係であった因果関係じゃないとツッコメよと思ってしまう。

〇新宿恐竜大戦争
 恐竜(ロボット)大決戦。出てくる数学は順列、組み合わせ。

〇恋人たちの赤と黒
 ルーレットで出てくる数字により人質が強酸の水槽に落とされる。出てくる数学は確率。犯人を捕まえる代わりに、せっかく捕まえていた黒い三角定規の幹部キューティ・オイラーを逃がしてしまった。
 
 ここまでこのシリーズを読んでくると、紹介される数学がかなり偏っているのを感じる。どうも数学基礎論や数論のいかにも数学好きな人が興味を持ちそうなことに重点が置かれているのである。私も理系(電気工学)で学んだが、実はこのような方面にはあまり興味が持てない。解析学などもっと実用的な分野ならともかく。

 また「正しい理科知識普及委員会(自称)」からも一つ指摘したい。この本にも「高圧電流」なる表現があった。(p196)。こういった表現を目にすると作者は本当に理系の学問に詳しいのだろうかと疑って、読み進める気が失せてしまう。

 まあ、私の考えでは、数学は理系というより、すべての学問の基礎となるもので、理系と呼ばれる分野では高度なものを使うことが多いということで、本来は理系に区分されるものではないと思うのだが。ただ、理系方面に数学の得意な人が多いことは事実だ。

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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時の娘

2019-06-19 09:39:13 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
時の娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫 51-1)
ジョセフィン・テイ、(訳)小泉喜美子
早川書房

 このタイトルからSF作品を連想してしまいそうだが、実はこてこてのミステリーである。本作は、著者の遺作であり、ベッドディテクティブの嚆矢とも言える作品だ。


 主人公はアラン・グラント。ロンドン警視庁の警部だ。犯人を追跡中にマンホールに落ちて骨折し、入院生活を送る羽目になってしまう。本作は、その入院生活の徒然を慰めようと、グラント警部が、歴史上のミステリーに挑戦するというものだ。

 彼が挑むのは、イングランド王だったリチャード3世。甥2人を殺した極悪人として一般には語られるが、実は無実で、その素顔は全く違うということを色々な資料から証明しようとするのがこの作品の骨子である。

 高木彬光は、この作品にインスパイアされて、「邪馬台国の秘密」や「成吉思汗の秘密」などを書いたと言われる。

 Wikipediaによれば、このタイトルは、"Truth is daughter of time."から来ているという。日本語に直すと、「真実は時の娘」、要するに、このタイトルは、「真実」という意味である。

 イギリス史をまったく知らなくても作品を楽しむことができるが、詳しい方が、一層楽しめると思う。私など〇〇△世と言われても誰だか全く分からない。一応系図はついているのだが、イギリス史を知らないと情報を読み取り難いと思う。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ミスコン女王が殺された

2019-06-16 19:17:25 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
ミスコン女王が殺された (創元推理文庫)
ジャナ・デリオン、(訳)島村浩子
東京創元社

 前作で色々やらかして、犯罪組織の賞金首になってしまったCIA工作員(スパイ)のレディング(フォーチュン)。ほとぼりを覚ますために、長官の姪になりすまして、田舎町のシンフルにやってきた。本作は、前作「ワニの町から来たスパイ」に続く第二弾だ。

 ところが、パンジーという元ミスコン女王が帰ってきた。フォーチュンが成りすましている長官の姪も元ミスコン女王だ。夏祭りで二人はその経歴から、メインイベントの子供ミスコンの運営を任されるが、二人は大喧嘩をしてしまう。

 バンジーというのが、とんでもないビッチなのだが、フォーチュンと喧嘩した後、何者かに殺されてしまう。静かなはずの田舎町で前作に続き殺人事件。どうもフォーチュンは、巻き込まれ体質のようだ。そしてその犯人という濡れ衣を着さされそうになる。その疑惑を晴らそうと、フォーチュンは、ベトナム戦争帰りのアイダ・ベル、ガーティのおばあちゃんズといっしょに事件を調べ始める

 ところで、保安官助手のカーター・ルブランクは、どうもフォーチュンに気があるようだ。かなりのツンデレのようだが、ツンの部分ばかり目立つなあ。フォーチュンもこの町が気に入ってきている。仲間と言える人々もできたようだ。

 それにしてもフォーチュンは腕ききの工作員(スパイ)(本人談)のはず。いくらなんでも、犯人に殺されそうになるかなあ。犯人もビッチなことは間違いないが、素人だろうに。

☆☆☆☆

〇前作のレビュー

ワニの町に来たスパイ

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かがやき荘西荻探偵局

2019-06-15 20:14:06 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
かがやき荘西荻探偵局 (新潮文庫)
東川 篤哉
新潮社

 

 主人公の成瀬啓介は29歳独身。父の営む食品メーカーの4代目だったが、父が急死して会社を追われ無職になってしまった。そんな彼に手を差し伸べたのが、小さいころよく遊んでくれた遠い親戚にあたる法界院(ほうかいん)法子。ちなみにその頃は綺麗なお姉さんだったようだ。

 今は、ノリツッコミの得意な、自分を46歳と言い張る49歳。そして大企業グループの会長という設定だ。啓介は法子の見習い秘書として働くことになる。

 そんな彼に絡んでくるのが「かがやき荘」に住む、関礼菜29歳、占部美緒30歳、小野寺葵31歳のアラサー女子3人組。実は「かがやき荘」というのは西荻窪にあり、元々は法界院家の別邸で、今はアラサー女子3人がルームシェアしている。ここの家賃代わりに、法界院家の周りで起きる事件を彼女たち(主に葵)が、推理・解決していくというのが基本的な骨組みだ。

 本書は4つの事件からなる連作短編集のようになっている。収められているのは次の事件。

〇Case1 かがやきそうな女たちと法界院家殺人事件
 法界院家の離れに住む居候の真柴晋作が殺される。その死体の上には60インチの大画面テレビが倒れていた。

〇Case2 洗濯機は深夜に回る
 礼菜と美緒は、投棄されていたまだ新しい全自動洗濯機を拾う。ところが深夜に何者かが洗濯機を動かしていた。
 一方法子の高校時代の家庭教師だった北沢加奈子のマンションで男が殺され、加奈子は失踪。

〇Case3 週末だけの秘密のミッション
 法子が目をかけている女性経営者松原清美の父である松原浩太郎が毎週週末の夜に家を空けるようになった。清美は父の浮気を疑っているのだが。

〇Case4 委員会から来た男
 葵が、西荻向上委員会副委員長と名乗る、吉田啓次郎という男から声をかけられた。自分が雑誌の表紙を飾ると言う話に舞い上がる葵だが。

 東川作品の特徴の一つとしてその語り口があげられるだろう。殺人事件は出てくるものの、全体的に語り口がユーモラスなのだ。この作品も例に漏れず、ユーモラスな語り口で書かれており、読んでいるとついニヤニヤしてくる。

 そしてもう一つの特徴は、広島出身者らしいカープ愛なのだ。作品中に著者のカープ愛を感じさせる部分がよく出てくるのだが、なぜかこの作品に限ってはカープ成分少な目なのである。私が気が付いたのはCase2での法子の科白、「広島かしら巨人かしら・・・・・・」(p152)くらいだ。これは著者のカープネタを楽しみにしている人には物足りないかもしれない。まあ、私のように野球にまったく興味がない人にはどうでもいいことなのだが。

 ひとつ気が付いたことがある。著者は広島出身だが、大学は岡山大学だ。この作品で法界院法子という人物が登場してくるが、この法界院というのは、岡山大学の最寄り駅(津山線というローカル線の駅なので本数は少ない)で、近くに駅名の元になった真言宗の寺がある。ただし読み方は「ほうかいいん」。何か関係があるのだろうかと想像しながら、読むのも楽しい。

 そして西荻窪という場所。これが、東京や東急周辺に住んでいる人なら、何か感じるものがあるかもしれないのだが、残念ながら東京に住んだことのない私にはよく分からない。

 ところで、解説によるとこの続編が今月単行本ででるらしい。調べてみると、「ハッピーアワーは終わらない: かがやき荘西荻探偵局」というタイトルらしい。アラサー女子3人組の益々の活躍にお目にかかれそうだ。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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百鬼夜行とご縁組 ~あやかしホテルの契約夫婦~

2019-06-13 09:24:49 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
百鬼夜行とご縁組 ~あやかしホテルの契約夫婦~ (メディアワークス文庫)
マサト 真希
KADOKAWA

 この作品のヒロインは、花籠あやねというアラサー女性。東京のイベントプロデュースの会社に勤めていたが、パワハラ上司の失態を押し付けられる形でクビ同然に退職することになった。現在退職を前提の有給休暇消化期間中。

 大学時代の友人の勧めで仙台の高級ホテル・青葉グランドホテルでお茶を飲んでいるとき、そのホテルの総支配人の引退記念パーティで何かトラブルが。あやねは、つい見かねて手を貸すことに。

 ところが、そこに集まっていたのは人間ではない。妖怪たちなのだ。あやねは、この地の妖怪の時期統領でホテルの事業統括部長の高階太白から配偶者として雇いたいとの申し出を受ける。太白は、次々に持ち込まれる縁談を断る口実にしたかったようだ。これがものすごい好条件。

 しかし、縁は異なもの味なもの。二人で妖怪同士のお見合いに立ち会ったり、妖怪と人間の夫婦の観光案内をしたりするうちに次第に二人は魅かれあっていく。

 妖怪の世界も一つにまとまっている訳ではない。反対勢力にあやねが誘拐されたときに見せた、ひ弱と思われていた太白の意外な正体。そして雨降って地固まるの言葉のように、益々強くなる二人の絆。

 この物語は、一種の異類婚姻譚に分類されるのだろう。互いに相手を思いやる心さえあれば、人と妖怪とが、種族を超えることができる。二人で過ごす時間はかけがえのないもの。この作品にはそのようなメッセージが込められているように思える。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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朧月市役所妖怪課 河童コロッケ

2019-05-08 11:34:44 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
朧月市役所妖怪課 河童コロッケ (角川文庫)
青柳 碧人
KADOKAWA / 角川書店

 この作品の主人公は、宵原秀也という青年。自治体アシスタントとして朧月市にやって来た。自治体アシスタントというのは、試験合格後に登録しておけば、自治体からの要請により期間限定で日本各地に派遣されるという設定だ。そして宵原が配属されてのがなんと「妖怪課」。この朧月市には日本全国の妖怪を封じ込める役割があった。事の初まりはマッカーサーの時代らしい。

 妖怪課の職員はそれぞれ妖怪の血を引いているようで、みなちょっとした異能を持っている。しかしなぜ何も特別な力を持っていない宵原が配属されたのか。実は、彼にも妖怪に関する大きな秘密があったのだ(本人は無自覚だが)。そのために彼は妖怪課に来ることになったのである。

 ちょっと内容で気になることがある。

「環境局の井上局長なんかは・・・」(p107)

「G県朧月市、人工八万弱のこの小さな地方自治体が、自分にとっての新しいステージだ。」(p11)

 大きな市ならともかく、この程度の規模の市で局制ではなく部制だろう。Gの頭文字がつくのなら、群馬県か岐阜県ということか。人工八万弱という条件から群馬県なら渋川市か館林市、岐阜県なら中津川市といったところか。念のためにこれらの組織図を調べてみると、やはり部制である。(道府県の場合は地方自治法の絡みで部の下に局が置かれる場合があるが、一般には局はいくつかの部を束ねたものである。)

 著者は、「浜村渚の数学ノート」で知られる青柳碧人。

 ところで、この自治体アシスタントという制度、どうもうまくいっていないという設定のようだ。「お役人の考えることはうまくいかない。」ということか。その他にも著者がお役人に対する考えが出ていて、なんとも興味深い。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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ワニの町に来たスパイ

2019-04-20 09:41:23 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)
ジャナ・デリオン、(訳)島村浩子
東京創元社

 ヒロインはドワイト・レディングというCIAの(自称)凄腕工作員。武器はピンヒール。人事ファイルには、彼女がいろいろやらかした情報があふれているらしい。今回も武器商人の弟をピンヒールで殴り殺したために、賞金をかけられて命を狙われるはめに。

 二年分の工作を1分もかからずぶち壊したということで、今度こそ馘だと思っていたのだが、下ったのは、モロー長官の姪に成りすまして、ルイジアナで暮らせという命令。そこにはモロー長官の姪・サンディ=スー・モローが最近亡くなった大おばのマージ・ブードローから相続した家があった。

 そのようないきさつで、彼女はサンディ=スー・モローとして、ルイジアナにあるシンフルという町にやってきた。ところが、そこでも事件に巻き込まれる。マージの飼い犬・ボーンが骨を拾ってきたのだが、それが人間の骨。その骨は町の嫌われ者で5年前に失踪したハーヴィという男のものだった。そしてその妻のマリーが行方をくらます。

 ドワイトは、マリーに同情的なシンフル・レディス・ソサエティのガーティ・ハバートアイダ・ベルのおばあちゃんズたちと事件の真相を調べ始める。

 シンフル・レディス・ソサエティというのは、シンフルの町を牛耳っているようだが、このおばあちゃんズがパワフルで、なんとも楽しいのだ。そのパワフルさはヒロインのドワイトを喰ってしまうくらいである。なにしろ、アイダ・ベルなどは、拳銃でアリゲータの後頭部にある25セント程度の急所を打ち抜くことができるし、ガーティ・ハバートはブルース・リー並みの蹴りを披露するのだ。

 実は、マリーは意外なところに隠れていたのだ。どんでん返しの末に明らかになる本当の犯人。シンフル・レディス・ソサエティの本当の姿。最後はちょっと手に汗を握るような感じだったが、その前まではどちらかと言えば楽しいという感じで読めるかも。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

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書評:虚構推理短編集 岩永琴子の出現

2019-03-21 13:38:07 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
虚構推理短編集 岩永琴子の出現 (講談社タイガ)
クリエーター情報なし
講談社

・城平京

 本書は、私が今嵌っている、片瀬茶柴さんの漫画による「虚構推理の原作小説だ。妖怪たちの知恵の神である岩永琴子とその彼氏の不死身の桜川九郎のコンビが活躍する話だ。収録されているのは次の5編。

1.ヌシの大蛇は聞いていた
2.うなぎ屋の幸運日
3.電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを
4.ギロチン三四郎
5.幻の自販機

 このうち、1~4までは片瀬さんのコミカライズ版で既に読んでいる。1,2はコミックス版の7巻に、3は8巻に、そして4は9巻に収録されている。5は、まだコミカライズされていないが、化け狸のやっているうどんの自動販売機の置いてある異界に、殺人を犯した者が迷いこんだため、アリバイがヘンなことになっているという話。

 あらためて小説版を読んで、九郎の琴子に対する扱いのひどさに噴き出す。

 なにしろ、1では大蛇に会いに行くという琴子が、一緒に来てくれと言うと、「今夜はダメだ。昼に作った豚汁をゆっくり食べたいから、ひとりで行ってくれ」(p13)との返事。琴子には、保温性に高い水筒にいれて豚汁を持たせる。主の大蛇からは、「そうして汁物を持ってこられるなら、九郎殿もここにいっしょに来て食べられたのでは?」(p20)と突っ込まれる。

 最後に、明日は日本海側のとある断崖に海坊主に会いに行かないといけないというと九郎は、「わかった。こんどはけんちん汁を持たせてやるから」(p57)とのたまう。琴子は、「なぜ汁物を用意して事足りると思う。一緒に来い」(p57)と怒り狂うのだが、そりゃそうだよね。

 こんなことも言っている。「恋人とは人聞きが悪いな」(3.p150)、「ええ、当人は僕の恋人と自称していますが」(4.p195)(( )内の数字は、何番目の話かを表す)

 でもこんなことも言っているのだ。「どうでしょうね。彼女がいなければ、今頃僕はどう暮らしているか見失っていたかもしれません」(3.p159)、「お前は信じないかもしれないが、お前が俺を捨てることがあっても、その逆はないからな。お前は今のままでいいぞ」(5.pp307~308)。それならもっと琴子ちゃんを大事にしないとね。

 でも琴子ちゃんももう少しお嬢様らしくしようね。「今夜、恋人の部屋に泊まるので、精をつけておこうとふと思い立ちまして、そこで目にしたうなぎ屋に入っただけです」(2.p92)、「そりゃあ先輩のおかげで未通女(おとめ)ではありませんが」(3.p150)、この他にも、いいものが手に入ったとして、50cm以上もある自然薯を高々と掲げて九郎の部屋にやってきたこともあるらしい(4.p211)。まあ、色々楽しそうだが。 

☆☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

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