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文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

京都・山口殺人旅行

2020-04-27 08:24:10 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 ミステリーの女王と呼ばれた山村美紗さんの作品のひとつ。私は文庫版で読んだのだが、今現在は古書以外では、電子版しか売っていないようだ。商社の出世争いを背景にした事件として、2時間ドラマを視ているような感覚でサクサクと読める。

 ヒロインは山川理矢子という大学生。商社マンの父とニューヨークに住んでいた。父がロンドンに異動となり、日本に一時帰国したが、そのまま失踪してしまう。父は、京都を観たあと、色々な小京都を呼ばれるところを回るつもりだったようだ。

 理矢子は、父の勤める商社のロンドン支社にいる田村信一から紹介された甥の新聞記者田村陽一そして、理矢子が京都で知り合ったナンシイというアメリカ人留学生と父を探すのだが、やがて明らかになる意外な犯人。

 タイトルに懐かしい地名が並んでいることもあり、面白く読んだのだが、ツッコミどころは結構ある。地理感がどうもおかしいのだ。舞台は、京都と小京都ということなのだが、

「山口は?」「ここよ」「その近くの小京都というと三次、竹原、備中高梁、津和野ですね」(文庫版p45(以下同様))



 地図の上では近いかもしれないが、実感としてはそう近い気はしない。特に備中高梁は岡山県にあり、間に広島県が入っている。それに三次や備中高梁なんかはググってみれば確かに小京都として出てくるが、あまりそんな気はしない。

 それに、山口は小京都とも呼ばれることもあるが、気持ちは「西京」。「東京」が東の京なら、山口は西の京という訳だ。だから山口県には西京銀行(昔の山口相互銀行:本店は周南市にあるが)や西京高校と「西京」の名を冠したものがある。京都が応仁の乱で荒れ果てた時代に大内氏の下で、大いに栄えたのである。

 そして松江への行き方だ。

「新幹線で、倉敷まで行って、そこから伯備線に乗り換え、そのあと山陰本線に乗って行った方がいいかもと考えたが・・(以下略)」(p58)



 確かに伯備線の起点は倉敷だが、新幹線で倉敷には行けない。行けるのは少し西の方にある新倉敷。それに伯備線の特急は岡山発なので、普通の人は岡山まで新幹線で行き、そこから伯備線の特急に乗るはずだ。

 父親の腕は山口県の萩で見つかったのだが、それが島根県の津和野とごっちゃになっている箇所がある。

「(前略)そして、腕を切り取られて、腕だけ津和野に運ばれたのね」(省略)「(前略)津和野で死んだようにみせかけたのよ」(p171)



 他の箇所には、これでもかというほど「萩」、「萩」と書いているにも関わらずにだ。ガイドブックなどには萩・津和野といっしょに扱われているのをよく見るが、萩は山口県、津和野は島根県にあり、全く別の場所である。

 ここもツッコミたい。理矢子が京都でマンションを借りるとき、3LDKの部屋を借りている(p139)が一人暮らしなのに、どうしてそんな広い部屋を借りる必要があるのか。普通ワンルームだろう。

 そうはいっても、本書を読んで初めて知ったこともある。山口県の県獣は「しか」だそうだ。しかなど、生まれてこのかた広島県の宮島でしか見た覚えがないのだが、調べてみると「ホンシュウジカ」が県獣らしい。これはひとつ賢くなった。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)

2020-04-11 09:30:56 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 本書は、若干27歳にして、東京都東久留米市にある天医会総合病院の副院長兼統括診断部長(部と言っても部下は一人しかいない。:小鳥遊(たかなし)という姓なのだが、自分の名前が鷹央なので、鷹がいるということで、鷹央からは小鳥と呼ばれている。)の女医・天久鷹央が、持ち前の医学知識を活かして、事件を解決していくというのが基本的なストーリーだ。連作短編集となっており、収められているのは、次の4篇。

泡:久留米池公園の池に河童がいるという。

人魂の原料:病院内で人魂が目撃された。

不可視の胎児:中絶手術をした女子高生が、中絶したはずの子供が戻ってきたという。

オーダーメイドの毒薬:統括診断部の存在が危機に。

 一応各話は独立して読めるが1つ目の話は4つ目の話と続いている。どれも鷹央がその医学知識を事件解決に活かしているのだが、あまり医学の素養があるとは言えない者からは、これに関して特にいうことはない。しかし、電気工学を学んだものとしては、2つ目の話には異論がある。2つ目の話では、人魂をつくるのにシャープペンシルの芯を延長コードに突っ込んでショートさせている。医療器具用の電源は落ちないようになっているが、普段患者が使用するコンセントはブレーカーを通してあるとのことだ。そうすると、芯がショートした瞬間にブレーカーが落ち、なにかあったことは分かると思う。

 また、鷹央のことはこのように書かれている。

<場の空気が読めない。人付き合いが極端に苦手。光や音に過敏。著しい偏食。すばらしい集中力。多方面にわたる異常な好奇心。音楽や絵画へのずば抜けた芸術的センスなど、いくつもの強烈な個性を兼ね備えている鷹央。特にその記憶能力・計算能力・知能には超人的なものがあった。>(p26)



 要するに欠点もあり、完璧超人ではないということだ。おそらくその道の人が診断すれば、なんらかの発達障害だと言われるかもしれないが、その反面超人的な能力を得ているのだ。

 傍若無人な感じもある鷹央だが、病院の事務長で3つ上の姉・天久真鶴は怖いようだ。そして8階西病棟の看護師長は、子供のころからの知り合いのようで、鷹央の扱いになれている。

 主人公の鷹央がなんとも魅力的だ。こういったのをキャラが立つというのだろう。イラストをいとうのいぢさんが手がけているのもいい。最近あまり小説は読まないのだが、これに限っては、面白くて一気に読んでしまった。

☆☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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トリカブトの花言葉を教えて

2020-03-20 08:46:51 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

トリカブトといって連想するのは毒草ということだろう。ミステリーによく出てくる毒と言えば、東西の正横綱は、青酸カリとヒ素だろうと思う。前者は、現代ものによく出てくるが、後者は石見銀山ネズミ捕り(本当は石見銀山では算出されなかったそうだが)と言う名前で時代ものによく登場する。

 そして、その次の張り出し横綱もしくは東の正大関とでもいうような位置づけがこのトリカブトである。トリカブトという言葉を聞いただけで、毒に関係がありそうだということが推測できるので、これは殺人事件が起こるのかと思っていたが、結局殺人事件とは関係がなかった。

 主人公は、上倉星哉という高校生。アルバイトで、祖母の経営するトランクルームの管理をしている。そのトランクルームの客である西条聖子という年上のお姉さんにほのかな恋心を抱いている。

 この作品には、亡霊というものが大きな役割を果たしている。亡霊というと、普通は幽霊のようなものを思い浮かべるのだが、ここでの亡霊とは、何かに対する強い感情のようなもの。だから本人の生死には関係がないし、複数表れることもある。なぜかこのトランクルームにしか現れないようだ。そして、亡霊が見えるには、「強い殺意」を持つことが条件のようだ。

 聖子はアートフラワー教室でアシスタントをやっているが、最近亡霊が見えるようになった。いったい誰に対して殺意を抱いているのか。
 
 タイトルにあるトリカブトの花言葉は最初「復讐」かと思われたが、実はもう一つの花言葉「騎士道」である。そして描かれるのは、不器用で肉親の縁の薄い二人の結びつきの物語。

 ただ次の記述は疑問だ。アートフラワー教室の千園美先生は、聖子を養女にしたいというのだが、それに対して聖子が星哉に言ったセリフだ。

「話を進めるとなると、私の親の了解がいるみたいなの」(p275)



 聖子は、28歳という設定だ。立派な成年である。成年というのは、自分の責任で色々できるということだ。結婚でも成年になると、両性の合意だけで、親の了解は不要だ。養子になるのに、実親の了解がいるのか、少し引っかかったので、色々調べてみた。しかし、実親の了解という要件は見当たらなかった。もし根拠があるのなら示して欲しいと思う。

 ともあれ、亡霊というものを使って推理を進めていくというのは面白いと思う。

☆☆☆☆

 

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ルビンの壺が割れた

2020-03-18 14:04:07 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 主人公の水谷一馬が、たまたまフェイスブックで見つけた昔の恋人・結城未帆子。30年近く前、2人は結婚する筈だったが、彼女は結婚式に現れないまま失踪してしまったのだ。

 ストーリーは、二人のメッセージのやり取りという形で進んでいく。最初は、元恋人だった二人が、昔を懐かしんでメッセージのやり取りをしているのかと思ってしまう。なぜ彼女は式を控えて失踪したのか。この事情が、このやり取りで次第に明らかになるのだと思っていた。

 確かに、未帆子が失踪した事情は明らかになるのだが、ストーリーは思ってもいないような意外な展開を見せる。最後に書かれていることを引用してみよう。

「とっとと死にやがれ、変態野郎!」(p170)



 どちらの科白かは想像に任せたい。

 ここで30年近くという期間が活きてくるとは思わなかった。しかし、出てくる人物がこれだけ裏の顔を持っているという作品もあまりないだろう。要するに、人を簡単に信じてはいけないということか。

 僅か170ページの中に、これだけの意外性を含んでいるような作品は初めてかもしれない。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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明治開化 安吾捕物 その二 密室大犯罪

2020-03-02 21:49:34 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)



 このタイトルにある「大犯罪」という言い方に時代を感じてしまうのだが、「舞踏会殺人事件」に続く第二弾。

 人形町で小間物屋をやっている藤兵衛が殺される。この藤兵衛、小間物屋の主人だが、土蔵に暮らしていたという変わり者。なんでも土蔵もちになったのがうれしかったらしい。そして犯行現場はこの土蔵。現場はタイトルの通り「密室」になっていた。

 この事件を調査するのは前回と同じメンバーで、結城新十郎と花廼屋(はなのや)因果そして、泉山虎之介の3名。但し名探偵の役は結城新十郎。ただし、花廼屋因果は推理の才はないが、腕っぷしは強いので犯人を捕まえる役。泉山虎之介は、前回と同様勝海舟のところに出向いて、勝の迷推理を聞く役である。

 このシリーズに出てくる勝海舟は、悪血を採ると称して、ナイフで自分の体を切り刻む変態だ。そして自分の推理が間違っていた言い訳をするのもいつもの通り。それにしても、泉山虎之介、勝の迷推理を聞いて、

「虎之介は海舟の読みのひろさに益々敬服の念をかため、その心眼の鋭さに舌をまいて、謹聴しているのである。」



ということらしい。どうしてそうなる!

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。







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明治開化 安吾捕物 その一 舞踏会殺人事件

2020-02-27 09:11:25 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 最近よく岡本綺堂の「半七捕物帳」を読んでいるが、たまには趣向を変えて、坂口安吾の捕物帳を読んでみた。これは「その一」に当たる話である。この話には、名探偵役として、結城新十郎という人物が出てくる。

 なんとこの作品には勝海舟が出てくるのだ。そして狂言回し役は、海舟に幼少のころ彼に剣術を習っていたという泉山虎之介という男。

 事件は、政商加納五兵衛が自ら主宰した仮装舞踏会で殺される。この事件を解決するのが結城新十郎という訳だが、虎之助に頼まれ海舟も推理を拾うする。新十郎の推理の方が正確だったのだが、海舟先生、自分は犯行現場を見ていないからと言い訳をする。

 なんだか語り口が、全体的にユーモラスなのだ。例えば、五兵衛の娘のお梨江。善鬼という男が、X国大使チャメロスにもらった舶来のマッチを、どこでこすっても火が付くと、靴の底でこすり点火して見せて自慢する。まあ、今では見られない黄燐を使ったマッチだったのだろうが、このお梨江

<「まア、珍しい品物。ちょッと、オジサマ」
 と、お梨江は目をかがやかせて、イスを立って進みでると、アッとおどろく善鬼のハゲ頭を片手でおさえて、力いっぱいマッチをこすった。お梨江の期待に反して火がつかないから、
「アラ、ウソつきね」>


という具合なのだ。ちなみに、この善鬼と言う男。フルネームを上泉善鬼といい、時の総理大臣なのである。

 これはしばらく安吾捕物に嵌るかな?

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

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半七捕物帳 60 青山の仇討

2020-02-23 08:26:44 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 これも半七捕物帳の話の一つだ。他の話と同様に、作者が明治になって、半七老人から昔目明しだったころの話を聞く形になっている。

 さて、このお話の方だが、佐倉領にある村から、金右衛門、為吉という百姓がそれぞれ、娘のおさん、妹のお種を連れて、江戸にやってくる。ちなみに、おさんは来年為吉の嫁になることになっている。

 ところが青山六道の辻で、浪人風の男が若党風の男を切り殺すのを目撃する。浪人風の男のいうことには、敵討ちだというが、その男は逃亡。そして言っていたことも嘘だと判明する。

 そして、金右衛門たちは、その夜何者かに襲われ、金右衛門は負傷、おさんはどこかにつれさられる。

 この事件を調べるのが、我らが半七親分という訳だが、2つの事件は果たして関係があるのか。この半七親分、どうも勘で調べを進める傾向があるようで、今回も、金右衛門の親戚の米屋で米搗きをしている藤助が臭いと、部下の庄太に指示している。

「おれの眼についたのは藤助という奴だ。越後か信州者だろうが、米搗きにしちゃあ、垢抜けのした野郎だ。あいつの身許や行状を洗ってみろ」



 操作をする者は、予断によってはいけないというのは大原則なのだが、半七親分、予断ありありである。つまり今でいえば、チャラ男は悪い奴だと。実は、藤助は意外と善人で、悪い奴は他にいたのだが、善人は垢抜けしていてはいけないらしい(笑)。この話の教訓は、チャラチャラしていると、悪い奴だと思われかねないということなのだろうか?

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

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ブラック・トムのバラード (はじめて出逢う世界のおはなし―アメリカ編)

2020-02-19 19:54:44 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 

 舞台は、1920年代のアメリカ・ニューヨーク。ハーレムに住んでいるアフリカ系アメリカ人のチャールズ・トマス・テスターは、ロバート・サイダムという白人老人から高額の報酬と引き換えに自宅でのパーティでギターを演奏することを依頼される。これが恐ろしい事件の幕開けになるのである。

 著者はアフリカ系アメリカ人の血を引いており、彼の作品の大きなテーマとして人種差別問題が挙げられるだろう。

 確かに読み進めると、「白人」と「黒人」は出てくるのだが、少し違和感が湧いてくる。東洋人のような黄色人種は出てこないのである。話の中には、「中国人」という言葉が出てくるが、それは集合名詞としてである。個体の東洋人は全く出てこない。まるでアメリカには白人と黒人がいればいいというようなのだ。

 解説によれば、彼は、少年時代に、ラヴクラフトの作品を愛読していたが、ラヴクラフトが人種差別主義者であることを知り、裏切られた気持になったという。作者は、ラヴクラフトに対して愛憎入り混じった感情を持っていたのだ。だからこそ、次のように書いている。

「相反するすべての思いをこめて、H.P.ラヴクラフトに捧げる」(p3)



 この作品はラヴクラフトの作品を語り直すことを目的として書かれたらしい。基になっているのがラヴクラフトの、「レッド・フックの恐怖」である。ラヴクラフトと言えば、クトゥルフ神話で有名だが、この作品はクトゥルフ神話の一部とは考えられていないようだ。しかし、本作品は、明らかにクトゥルフ神話を意識している。こんなフレーズがある。

「いつでも、おまえたち悪魔の上にクトゥルフを連れてくるからな。」(p151)

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

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巴里マカロンの謎

2020-02-17 08:50:53 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 あの小鳩常悟朗と小佐内ゆきの小市民コンビが11年ぶりに帰ってきた。思えば、「春期限定いちごタルト事件」、「夏期限定トロピカルパフェ事件」、「秋期限定栗きんとん事件」と続いたのだから、次は「冬期限定」なんちゃら事件だと思って待っていたのだが、見事に裏をかかれた(笑)。

 考えてみると、冬期限定のスイーツ材料というのはあまり無いかもしれない。あるのはこたつに入ってのみかん位か。しかし、みかんなら缶詰で年中食べられるだろう。林檎も冬の果物といっていいかもしれないが、年中見ているし。

 ということで、本書は4つの作品が連作短編として収められている。収録されているのは、表題作の、「巴里マカロンの謎」、「紐育チーズケーキの謎」、「伯林あんぱんの謎」、「花府シュークリームの謎」といずれもスイーツにかけた表題がつけられている。なお、最初の3つは東京創元社のミステリー専門誌「ミステリーズ!」に発表されたもので、最後の1つは書下ろしである。どんな作品かをごく簡単に紹介しよう。

〇巴里マカロンの謎
 小鳩くんは、小佐内さんに連れられて、名古屋にオープンしたパテスリー・コギ・アネックス・ルリコで新作マカロンを食べることに。ティー&マカロンセットで選べるマカロンは3種類ところが新作マカロンは4種類。4種類全部を味わいたいと、小鳩君はつれてこられたわけだ。ところが、小佐内さんのマカロンが4つ。そして第4のマカロンには指輪が入れられていた。

 二人は、この事件を通じて、コギのオーナーの娘である、名古屋の私立礼智中学に通う古城秋桜(コスモス)と知り合う。小佐内さんは、秋桜から「ゆきちゃん先輩」とすっかり懐かれたようだ。

〇紐育チーズケーキの謎
 秋桜の文化祭に行った二人だが、小佐内さんがガラの悪い男子生徒に拉致されてしまう。彼らは何かを探しているようで、それを小佐内さんが持っていると疑っていた。

〇伯林あんぱんの謎
 新聞部で記事を書く人間を決めるのに、ジャム入り揚げパンを使ったくじを行った。1つだけマスタード(実はタバスコ)が入っているのだ。しかし、パンを食べた人間は全員おいしいと言う。果たして、当たったのは誰か?

〇花府シュークリームの謎
 秋桜が、無実の罪で停学になった。行ってもいないパーティで飲酒をしたというのだ。その証拠とされたのは、明らかな合成写真。一体誰の仕業か。

 このシリーズ、完全に忘れられていたと思っていたが、新作が発表されてうれしく思う。謎自体は、いかにも小市民を目指す小鳩くんらしいが、このように荒事のないミステリーというのもなかなかいいものである。このシリーズ、一応全部持っているのだが、「秋期限定」のみレビューを書く前に、どこかに行ってしまったのがとても残念。

☆☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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オニキス -公爵令嬢刑事 西有栖宮綾子ー

2020-02-15 11:06:54 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)

 

 この作品は、清原紘さんの描く表紙イラストに一目惚れしたようなところがある。私は、一次審査を、小説の場合には、表紙イラストで行うことが多い。(新書や専門書の場合は、テーマが面白そうかどうかによる。新書って、同じようなデザインの表紙のものが多いし。)

 さて、本作の主人公の西有栖宮綾子という名前は、実は通称で、本名はメアリ・アレクサンドラ・綾子・ディズレーリという生粋のお嬢様。父親がイギリス公爵、母親が宮家(特例で女性宮家を認められている)という設定だ。ただ綾子の階級警視正というのは、大規模警察署の署長ができるもので、今の制度では、いくらキャリアでもさすがに20代ではなれないようだ。作品中にも歳の話があったが、ヒロインの年齢は・・・(以下略)。

 収められているのは3つの事件。どれも検察の裏組織一操会が裏で糸を引いていて、綾子が箱崎警察庁長官の依頼で、「監察特殊事案対策官」として、それらに挑むというもの。

 一つ目の事件「消えた八、五七二万円を追え」は、I県警の安芸中央警察署で拾得した現金が警察署の中で消えたという事件だ。正確には八、五七二万三、一一〇円。モデルは明らかに一時よく報道されていた広島中央警察署で特殊詐欺の証拠品八、五七二万円が消えうせたあの事件だ。私がネットで調べたところ端数があるのかないのか分からなかったのだが、ここでは三、一一〇円という派数がつけられている。実はこの端数が伏線の一つになっている。綾子には安藤隼警視が下にいるが、この事件で鳥居巡査部長という二人目の下僕いや、部下を手に入れた。

 二つ目の事件「警察の不祥事なし」は、O県警の鹿川警察署という小規模警察署の署長が庶務嬢と署長室で不倫の最中腹上死してしまったというもの。検察から派遣されてきた「銀鷲の鬼池」という悪徳検事に一杯食わせる方法がなんともすごい。

 三つ目の事件、「あの薬物汚染を討て」では、L県警で県警本部や所轄に覚醒剤が蔓延していた。そして御子柴県警本部長が鞄に仕掛けられていた爆弾で大怪我をする。御子柴本部長は、2週間前にこの覚せい剤汚染に対処するため、切り札として赴任したばかりだった。この事件の悪徳検事は、白蜥蜴の剣崎。この剣崎の化けの皮を剥がす綾子の方法が面白い。ところでL県警となっているが、作品を読むと舞台は明らかに京都府だ。

 本作の内容を一言で言えば、ハチャメチャということだろう。何しろお金持ちのお嬢様で、やっていることは無茶苦茶。薬師寺涼子(田中芳樹:「薬師寺涼子の怪奇事件簿」シリーズ)と岬美由紀(松岡圭祐:「千里眼」シリーズ)を足して(2で割らずに)もっとハチャメチャにしたと思えばいい。1000億や2000億などは、はした金の扱い。父親のディズレーリ公爵からはもっと使えと発破をかけられるくらいの大金持ちである。

 買収あり、拷問あり、殺人ありで、検察の中に秘密組織があり、平気で殺人を犯す。失敗は死。そして検事に銀鷲だの白蜥蜴といった二つ名がついているのだ。でもこんな作品は意外と好きかもしれない。なろう系の異世界ものでは主人公が無双するようなものが多いが、この作品も警察小説やミステリーとして読むとツッコミどころが満載なのだろうが、一種の異世界ものとして読めば結構読める。なんとも痛快なのだ。

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

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