全米を回って大統領選のことを話していると、こんな質問に出くわすことが多いそうです。「無所属の候補が本気で大統領選に出馬することはできるのか」。われわれは今、事実上の無所属候補を目の当たりにしています。その人物の名はドナルド・トランプです。
となれば新たな質問は「無所属で大統領選に勝つことはできるのか」となります。恐らく同じくらい重要な問いは「仮に勝つことができたとして、政権を効果的に運営できるのか」です。
トランプ氏はその中核的な支持層とともに、共和党上層部からの決別の度合いを強めています。トランプ氏自身は共和党全国委員会から大きな組織的支持を得ており、10日も全米各地の委員会メンバーの多くが同氏の味方に付きました。しかし同時に、共和党幹部や議員の多くはトランプ氏から離れつつあります。トランプ氏は移民や貿易、財政赤字、給付金改革といった政策面で同党の党是に挑戦しただけでなく、そうした党是を形成してきた人々のことを笑いものにすることも時折ありました。
先週末、この不和はついに離婚に発展しました。トランプ氏が既婚の女性に性的な関係を迫ったことがあるなどと語る録音が公開されたことを受け、党の重鎮らが次々とトランプ氏支持を翻意したのです。トランプ氏も共和党のエスタブリッシュメント(主流派)に別れを告げました。同氏はツイッターへの投稿で、同党の要人らを「独善的な偽善者」と呼び、「彼らの支持率が落ち、選挙で落選するところを見ようではないか!」と言い放ちました。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースが週末に実施した世論調査によると、共和党支持者を自認する回答者の3分の2が共和党はトランプ氏を支持すべきだと回答しました。党主流派をやっつけるよう、あからさまに同氏をけしかける支持者も多いといいます。このような状況は極端に異例であり、大統領選やその後の政権運営に関するこれまでのシステムに対する挑戦となっています。
歴史をひもとけば、見劣りはするものの同じような先例はあります。1972年の大統領選の民主党候補ジョージ・マクガバン氏は同党を左傾化し、党員の多くは不満を抱えていたものの、上層部の大半は名高い現職議員だった同氏の支持で結束しました。
現在の状況に最も近いのは1964年の共和党候補バリー・ゴールドウォーター氏のケースかもしれません。同氏は筋金入りの保守派で、同党候補の指名獲得はリベラル派――そう、当時は共和党内にリベラル派がいた――を怒らせました。このため同氏は指名受諾演説の中で、党員に「何も考えていないバカというレッテル」を拒否するよう呼びかけ、自分に反発する党員にやんわりと苦言を呈したのです。
そして次の言葉を発するのだが、恐らくこの発言が対立候補のリンドン・ジョンソン大統領に勝つチャンスを失わせることになりました。ゴールドウォーター氏は「自由を守るために過激であることは悪徳ではない。正義を求めるために中庸であることは美徳ではない」と述べたのです。
ゴールドウォーター氏は自身を党の主流派と対立する過激主義者として描いてみせました。そして大敗を喫したのです。しかし、同氏は当時、現職の上院議員であり、党内の緊張は現在のような亀裂には達していませんでした。
現在に話を戻すと、激戦州でトランプ氏が選挙活動を行う際に、その州の上院議員選で再選を狙う共和党議員が同氏に同行する姿が多く見られると期待してはいけません(そもそも同行する議員がいればの話だが)。加えて、トランプ陣営は同氏に反発する共和党員に対して攻撃をしかけるとも遠回しに脅しています。こうした状況下で選ばれた大統領にとって統治という職務はどのようなものになるのでしょうか。
孤独なニクソンとの共通点
米国の連邦議会は各党の党員が全員一致で共同歩調をとるような議会ではなく、リーダーの存亡は議員の中のまとまった支持に左右されます。とはいえ、大統領が大きな仕事をする際には、出発点として自分の党の議員からの強固な支持に大きく依存します。大統領を支持する議員は大統領の政策に利害関係があり、そうした政策の実現を手助けし、実現した暁にはそうした政策を擁護する強い動機をもっています。
もちろん、規模の大きな仕事については単に党という線引きによる支持を上回るものが必要になります。オバマ大統領と与党・民主党は、例えば医療保険制度改革(オバマケア)のように、その成功に野党・共和党が関心を持たない大きなプロジェクトを持続させることの難しさを痛感しています。
しかし、そうしたプロジェクトの推進プロセスは党派による政治的支持という頼れる土台を確保することから始まります。通説に反して、大統領というものは組織的な支持なしに物事を成功裏に進められるほど力を持っているわけではありません。そうした支持を失った大統領は行き詰まり、孤独になることもあります。在職中に辞任を決めたリチャード・ニクソンの最後の日々がそうでした。
ただニクソンの場合は辞任前の最後の時期でした。トランプ氏は、当選の暁には就任早々から与党内の大部分と対立する大統領になるという印象を事実上広めています。
現在のシステムは党に対する忠誠心を強調しすぎているのかもしれません。だが一方で忠誠心がなさすぎれば、その報いを受けることにもなります。今当選すると仮定して、トランプ氏にとって肝心なことは、ワシントンで失われた党への忠誠心を穴埋めするために、一般国民から多くの支持を得なければならないということです。(ソースWSJ)
となれば新たな質問は「無所属で大統領選に勝つことはできるのか」となります。恐らく同じくらい重要な問いは「仮に勝つことができたとして、政権を効果的に運営できるのか」です。
トランプ氏はその中核的な支持層とともに、共和党上層部からの決別の度合いを強めています。トランプ氏自身は共和党全国委員会から大きな組織的支持を得ており、10日も全米各地の委員会メンバーの多くが同氏の味方に付きました。しかし同時に、共和党幹部や議員の多くはトランプ氏から離れつつあります。トランプ氏は移民や貿易、財政赤字、給付金改革といった政策面で同党の党是に挑戦しただけでなく、そうした党是を形成してきた人々のことを笑いものにすることも時折ありました。
先週末、この不和はついに離婚に発展しました。トランプ氏が既婚の女性に性的な関係を迫ったことがあるなどと語る録音が公開されたことを受け、党の重鎮らが次々とトランプ氏支持を翻意したのです。トランプ氏も共和党のエスタブリッシュメント(主流派)に別れを告げました。同氏はツイッターへの投稿で、同党の要人らを「独善的な偽善者」と呼び、「彼らの支持率が落ち、選挙で落選するところを見ようではないか!」と言い放ちました。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とNBCニュースが週末に実施した世論調査によると、共和党支持者を自認する回答者の3分の2が共和党はトランプ氏を支持すべきだと回答しました。党主流派をやっつけるよう、あからさまに同氏をけしかける支持者も多いといいます。このような状況は極端に異例であり、大統領選やその後の政権運営に関するこれまでのシステムに対する挑戦となっています。
歴史をひもとけば、見劣りはするものの同じような先例はあります。1972年の大統領選の民主党候補ジョージ・マクガバン氏は同党を左傾化し、党員の多くは不満を抱えていたものの、上層部の大半は名高い現職議員だった同氏の支持で結束しました。
現在の状況に最も近いのは1964年の共和党候補バリー・ゴールドウォーター氏のケースかもしれません。同氏は筋金入りの保守派で、同党候補の指名獲得はリベラル派――そう、当時は共和党内にリベラル派がいた――を怒らせました。このため同氏は指名受諾演説の中で、党員に「何も考えていないバカというレッテル」を拒否するよう呼びかけ、自分に反発する党員にやんわりと苦言を呈したのです。
そして次の言葉を発するのだが、恐らくこの発言が対立候補のリンドン・ジョンソン大統領に勝つチャンスを失わせることになりました。ゴールドウォーター氏は「自由を守るために過激であることは悪徳ではない。正義を求めるために中庸であることは美徳ではない」と述べたのです。
ゴールドウォーター氏は自身を党の主流派と対立する過激主義者として描いてみせました。そして大敗を喫したのです。しかし、同氏は当時、現職の上院議員であり、党内の緊張は現在のような亀裂には達していませんでした。
現在に話を戻すと、激戦州でトランプ氏が選挙活動を行う際に、その州の上院議員選で再選を狙う共和党議員が同氏に同行する姿が多く見られると期待してはいけません(そもそも同行する議員がいればの話だが)。加えて、トランプ陣営は同氏に反発する共和党員に対して攻撃をしかけるとも遠回しに脅しています。こうした状況下で選ばれた大統領にとって統治という職務はどのようなものになるのでしょうか。
孤独なニクソンとの共通点
米国の連邦議会は各党の党員が全員一致で共同歩調をとるような議会ではなく、リーダーの存亡は議員の中のまとまった支持に左右されます。とはいえ、大統領が大きな仕事をする際には、出発点として自分の党の議員からの強固な支持に大きく依存します。大統領を支持する議員は大統領の政策に利害関係があり、そうした政策の実現を手助けし、実現した暁にはそうした政策を擁護する強い動機をもっています。
もちろん、規模の大きな仕事については単に党という線引きによる支持を上回るものが必要になります。オバマ大統領と与党・民主党は、例えば医療保険制度改革(オバマケア)のように、その成功に野党・共和党が関心を持たない大きなプロジェクトを持続させることの難しさを痛感しています。
しかし、そうしたプロジェクトの推進プロセスは党派による政治的支持という頼れる土台を確保することから始まります。通説に反して、大統領というものは組織的な支持なしに物事を成功裏に進められるほど力を持っているわけではありません。そうした支持を失った大統領は行き詰まり、孤独になることもあります。在職中に辞任を決めたリチャード・ニクソンの最後の日々がそうでした。
ただニクソンの場合は辞任前の最後の時期でした。トランプ氏は、当選の暁には就任早々から与党内の大部分と対立する大統領になるという印象を事実上広めています。
現在のシステムは党に対する忠誠心を強調しすぎているのかもしれません。だが一方で忠誠心がなさすぎれば、その報いを受けることにもなります。今当選すると仮定して、トランプ氏にとって肝心なことは、ワシントンで失われた党への忠誠心を穴埋めするために、一般国民から多くの支持を得なければならないということです。(ソースWSJ)