アップルは16日に行われた発表会にてヘッドホン端子がない新型iPhone(アイフォーン)を発表し、最新モバイルOS「iOS10」も公開しました。しかしそれ以上に大きな出来事が起きていたことに気付いただろうか。同社が長年苦労してきたSiriが、ついに会話型アシスタントとして大きな変貌を遂げたのです。何年にもわたってSiriに罵声を浴びせてきた筆者も、最新版を利用してみたらその性能の向上を実感することができました。
iOS10と利用することで、Siriは配車サービスのウーバーやメッセージアプリのワッツアップなどサードパーティーのアプリも操作できます。20日にリリースされたデスクトップ向け基本ソフト「Mac OSシエラ」を使えばSiriはデスクトップでも利用でき、メール送信などの基本的なタスクもこなせます。新たに発表された「アップルウオッチ・シリーズ2」上でも、Siriは素早く情報を処理します。そして10月に発売されるエアポッズを通せばSiriは無線で操作できます。まるで映画「her/世界でひとつの彼女」の主人公のように、利用者の耳元でSiriが甘い言葉をささやいてくれるのです。人工知能が日常生活に大きくかかわっていく未来社会がついに幕を開けたと言っていいでしょう。
とは言え、最新のSiriの進化を実感すればするほど、その欠点も浮かび上がってきたのも事実です。「すみません、ジョアンナ、よくわかりません」と何度言われたことか。Siriは機能面でもグーグルやアマゾンの音声アシスタントの域にはまだ到達していないと感じたのです。
筆者がこれまでSiriを活用していた唯一のタスクが、朝の目覚まし時計を設定することでした。眠気と戦う中で目覚ましを操作する手間と比べ、Siriは簡単にアラームを設定してくれる。最新版のSiriではそのような使い方がアップル以外のアプリでも可能になるのは便利です。
スマートホンを使って配車を呼ぼうとする場合、これまでは利用するアプリを開き、メニューを操作しなければいけなかったのですが、今は「Siri、ウーバーを呼んで」と言うだけで済みます。「Siri、午後2時にあのキューバ料理屋でランチをしたいとワッツアップでジャラードに連絡して」といったような指示でも、Siriはスペルミスすらせずにちゃんとメッセージを作成し、送信をします。「お昼の割り勘代の10ドルをジャラードに送って」と指示すれば、Venmoなどのサービスで送金をすることも可能です。
しかし一番使う類のアプリの多くがまだSiriには対応していないのも事実。音楽サービスややることリストのアプリ、そしてメールアプリも、アップルが提供している開発キットがサポートしていないのです。それと比べて米アマゾンの音声アシスタント機能「アレクサ」を搭載した機器は、サードパーティー製のアプリを操作できるだけでなく、そのアプリをデフォルトとして設定することすら可能です。
現時点でSiriが対応しているサードパーティーのアプリはとてもよく機能しており、正確に動きます。筆者もSiriと話す機会を増やしましたが、Siriが普段の会話で使われるShoot an email (メールを送る)というような表現でもちゃんと理解していたことには感心しました。
ただし質問をする時は分かりやすいように言葉を選ぶ必要もあります。例えば「次の電車はいつ?」と聞いた際、Siriはウィキペディアの「電車」の項目を立ち上げました。そこで質問を変えて「乗り換えの順序を教えて」と聞き直してみたところ、やっと時間も含む情報を正確に表示してくれたのです。
一般常識に関してはSiriはグーグルやアマゾンの音声アシスタントに後れを取っていることは否めません。「2016年の米国大統領選の第1回候補者討論会はいつ?」という質問で人工知能同士にクイズ対決をさせてみたところ、グーグルは9月26日の月曜日の午後9時からだと正確な答えを教えてくれました。アレクサは日付は合っていたものの、時間は間違えていました。一方のSiriの返事は「ウェブで、2016年の米国大統領選の第一回候補者討論会はいつ?を検索しました」でした。アップルによると、Siriには2週間に一度のペースで新たなデータを追加し、改善作業を行っているといいます。
デスクトップで利用する場合、Siriはマウスやトラックパッドの代役にはなりませんが、それら機能を大きく補助することができます。大きなスクリーンでマルチタスクをこなしたい場合、こつさえつかめばかなり便利になるはずです。
マウスやキーボードを操作してカレンダーアプリを起動し、そこに予定やメモを書き込む作業も、Siriに代行してもらえば半分の時間で済みます。フェイスブックとツイッター以外は現時点ではMac上でSiriがサポートしているサードパーティーのソフトはありません。なので残念ながらアップル製のアプリを使わなければなりません。
デスクトップ上でひとつの作業をこなしながらSiriに違うアプリを起動してもらう使い方も便利です。音声コントロールやファイルの検索といったシステム関連の作業も、Siriに代行してもらえると助かります。筆者のデスクトップ画面はかなり散らかっているので、この機能は本当に便利でした。
ただしSiriの起動方法には問題があります。iPhoneの場合は呼びかければ自動的にSiriが起動しますが、デスクトップではコマンドボタンとスペースバーを同時に押すか、ドックにあるSiriのアイコンをクリックしなければなりません。それと比較してアマゾンのマイク付き音声認識スピーカー「エコー」やマイクロソフトの「コルタナ」は(プライバシーの観点から少し怖い気はするものの)利用者の声を聞き続けていて、部屋の反対側から話しかけても反応してくれます。
エアポッズを使ってSiriと会話をすると、家にいても仕事をしていても、用事がなくても話を続けたくなってしまうはずです。無線のエアポッズで操作する場合は、エアポッズを2回軽くたたくとチャイム音が鳴りSiriが起動します。声を拾うマイクの性能は驚くほどいいです。地下鉄に乗っている時に曲を早送りし、洗い物をしながら天気予報を立ち上げることもできました。もちろん、従来通りの有線イヤホンを使っても同じことはできますが、無線イヤホンでこれができるのはクールです。人工知能がワイヤレスで人の生活に寄り添う未来の世界がついに到来した感があります。
ただし、そのような夢の未来が完全に実現したというにはまだ早く、エアポッズは確かに近未来的さが魅力ですが、それ以上の製品にはなりきれていません。Siri以外のアシスタントにも言えることですが、音声認識をするアシスタントは人間と自然な会話を続けることがまだできないのです。例えばアップルの最高経営責任者(CEO)であるティム・クックとミーティングを入れるようにSiriに指示したあと、「彼に関する情報」を調べるように追加でお願いしても、Siriはその「彼」が誰を指しているのか理解してくれないのです。
グーグルのアシスタントは利用者に関する情報を集め蓄積して分析しますが、アップルはそのような行為はしないとしています。ライバル会社がそのようなデータを使う中でアップルが今後も彼らと争い続けられるかは不透明です。
SiriはSRIインターナショナルが開発し、その技術をアップルに売却しました。SRIでSiriを共同開発したノーマン・ウィナースキー氏は、音声認識アシスタント開発の難しさは「一言一言を着実に聞き取り、テキスト化すること」ではなく、「会話の内容や意図を理解することだ」と話ししています。
しかしウィナースキー氏は今後20年で、人間の活動の90%が人工知能によって補助されるだろうとも予測さす。「今ジョアンナが行っていることの10%はジョアンナ本人が処理しなければいけませんが、他の90%はSiriのような人工知能に任せることができるだろう」と同氏は筆者に話してくれました。
最新のSiriはそんな時代に向けての第一歩となるかもしれません。まずは「今年の米大統領選の候補は?」といった質問に答えられるようになるところから、取りかかるべきだが。(ソースWSJ)
iOS10と利用することで、Siriは配車サービスのウーバーやメッセージアプリのワッツアップなどサードパーティーのアプリも操作できます。20日にリリースされたデスクトップ向け基本ソフト「Mac OSシエラ」を使えばSiriはデスクトップでも利用でき、メール送信などの基本的なタスクもこなせます。新たに発表された「アップルウオッチ・シリーズ2」上でも、Siriは素早く情報を処理します。そして10月に発売されるエアポッズを通せばSiriは無線で操作できます。まるで映画「her/世界でひとつの彼女」の主人公のように、利用者の耳元でSiriが甘い言葉をささやいてくれるのです。人工知能が日常生活に大きくかかわっていく未来社会がついに幕を開けたと言っていいでしょう。
とは言え、最新のSiriの進化を実感すればするほど、その欠点も浮かび上がってきたのも事実です。「すみません、ジョアンナ、よくわかりません」と何度言われたことか。Siriは機能面でもグーグルやアマゾンの音声アシスタントの域にはまだ到達していないと感じたのです。
筆者がこれまでSiriを活用していた唯一のタスクが、朝の目覚まし時計を設定することでした。眠気と戦う中で目覚ましを操作する手間と比べ、Siriは簡単にアラームを設定してくれる。最新版のSiriではそのような使い方がアップル以外のアプリでも可能になるのは便利です。
スマートホンを使って配車を呼ぼうとする場合、これまでは利用するアプリを開き、メニューを操作しなければいけなかったのですが、今は「Siri、ウーバーを呼んで」と言うだけで済みます。「Siri、午後2時にあのキューバ料理屋でランチをしたいとワッツアップでジャラードに連絡して」といったような指示でも、Siriはスペルミスすらせずにちゃんとメッセージを作成し、送信をします。「お昼の割り勘代の10ドルをジャラードに送って」と指示すれば、Venmoなどのサービスで送金をすることも可能です。
しかし一番使う類のアプリの多くがまだSiriには対応していないのも事実。音楽サービスややることリストのアプリ、そしてメールアプリも、アップルが提供している開発キットがサポートしていないのです。それと比べて米アマゾンの音声アシスタント機能「アレクサ」を搭載した機器は、サードパーティー製のアプリを操作できるだけでなく、そのアプリをデフォルトとして設定することすら可能です。
現時点でSiriが対応しているサードパーティーのアプリはとてもよく機能しており、正確に動きます。筆者もSiriと話す機会を増やしましたが、Siriが普段の会話で使われるShoot an email (メールを送る)というような表現でもちゃんと理解していたことには感心しました。
ただし質問をする時は分かりやすいように言葉を選ぶ必要もあります。例えば「次の電車はいつ?」と聞いた際、Siriはウィキペディアの「電車」の項目を立ち上げました。そこで質問を変えて「乗り換えの順序を教えて」と聞き直してみたところ、やっと時間も含む情報を正確に表示してくれたのです。
一般常識に関してはSiriはグーグルやアマゾンの音声アシスタントに後れを取っていることは否めません。「2016年の米国大統領選の第1回候補者討論会はいつ?」という質問で人工知能同士にクイズ対決をさせてみたところ、グーグルは9月26日の月曜日の午後9時からだと正確な答えを教えてくれました。アレクサは日付は合っていたものの、時間は間違えていました。一方のSiriの返事は「ウェブで、2016年の米国大統領選の第一回候補者討論会はいつ?を検索しました」でした。アップルによると、Siriには2週間に一度のペースで新たなデータを追加し、改善作業を行っているといいます。
デスクトップで利用する場合、Siriはマウスやトラックパッドの代役にはなりませんが、それら機能を大きく補助することができます。大きなスクリーンでマルチタスクをこなしたい場合、こつさえつかめばかなり便利になるはずです。
マウスやキーボードを操作してカレンダーアプリを起動し、そこに予定やメモを書き込む作業も、Siriに代行してもらえば半分の時間で済みます。フェイスブックとツイッター以外は現時点ではMac上でSiriがサポートしているサードパーティーのソフトはありません。なので残念ながらアップル製のアプリを使わなければなりません。
デスクトップ上でひとつの作業をこなしながらSiriに違うアプリを起動してもらう使い方も便利です。音声コントロールやファイルの検索といったシステム関連の作業も、Siriに代行してもらえると助かります。筆者のデスクトップ画面はかなり散らかっているので、この機能は本当に便利でした。
ただしSiriの起動方法には問題があります。iPhoneの場合は呼びかければ自動的にSiriが起動しますが、デスクトップではコマンドボタンとスペースバーを同時に押すか、ドックにあるSiriのアイコンをクリックしなければなりません。それと比較してアマゾンのマイク付き音声認識スピーカー「エコー」やマイクロソフトの「コルタナ」は(プライバシーの観点から少し怖い気はするものの)利用者の声を聞き続けていて、部屋の反対側から話しかけても反応してくれます。
エアポッズを使ってSiriと会話をすると、家にいても仕事をしていても、用事がなくても話を続けたくなってしまうはずです。無線のエアポッズで操作する場合は、エアポッズを2回軽くたたくとチャイム音が鳴りSiriが起動します。声を拾うマイクの性能は驚くほどいいです。地下鉄に乗っている時に曲を早送りし、洗い物をしながら天気予報を立ち上げることもできました。もちろん、従来通りの有線イヤホンを使っても同じことはできますが、無線イヤホンでこれができるのはクールです。人工知能がワイヤレスで人の生活に寄り添う未来の世界がついに到来した感があります。
ただし、そのような夢の未来が完全に実現したというにはまだ早く、エアポッズは確かに近未来的さが魅力ですが、それ以上の製品にはなりきれていません。Siri以外のアシスタントにも言えることですが、音声認識をするアシスタントは人間と自然な会話を続けることがまだできないのです。例えばアップルの最高経営責任者(CEO)であるティム・クックとミーティングを入れるようにSiriに指示したあと、「彼に関する情報」を調べるように追加でお願いしても、Siriはその「彼」が誰を指しているのか理解してくれないのです。
グーグルのアシスタントは利用者に関する情報を集め蓄積して分析しますが、アップルはそのような行為はしないとしています。ライバル会社がそのようなデータを使う中でアップルが今後も彼らと争い続けられるかは不透明です。
SiriはSRIインターナショナルが開発し、その技術をアップルに売却しました。SRIでSiriを共同開発したノーマン・ウィナースキー氏は、音声認識アシスタント開発の難しさは「一言一言を着実に聞き取り、テキスト化すること」ではなく、「会話の内容や意図を理解することだ」と話ししています。
しかしウィナースキー氏は今後20年で、人間の活動の90%が人工知能によって補助されるだろうとも予測さす。「今ジョアンナが行っていることの10%はジョアンナ本人が処理しなければいけませんが、他の90%はSiriのような人工知能に任せることができるだろう」と同氏は筆者に話してくれました。
最新のSiriはそんな時代に向けての第一歩となるかもしれません。まずは「今年の米大統領選の候補は?」といった質問に答えられるようになるところから、取りかかるべきだが。(ソースWSJ)