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トマス・H・クック 「沼地の記憶」 文春文庫 村松潔訳

2010-10-04 | 読書
フロリダのレークランド高校が舞台になっている。
「MASTER OF THE DELTA」という原題なので沼地にしたのだろう。
記憶シリーズに続くスタイルで、ファンとしては何もかも嬉しくてすぐに読み終わった。

* * *
レークランド高校の特別教室で「悪」について講義をしている、ジャック・ブランチは地方では名家の生まれで、苦労もなく育ち、周りからは一目置かれる存在だった。

彼の教室にエディという目立たない生徒がいた。彼の父親は殺人犯だった。ブランチはレポートの課題を出し、エディには父親のことを書くようにいう。そうすることで彼は今より自由に生きることができるのではないかと考えた。
そして、エディは過去の事件を調べ始める。

ブランチの父も同じ高校の教師で、狭い町にすむ子供たちはほとんどが教え子だった。

当時の新聞や関わりのあった人を訪ねてエディはレポートを書いていく。彼は成績は優れていいとは思えなかったが、文章は彼の思いやりのある人柄と感受性を反映していて、ブランチは彼の将来を引き受けようかとまで思うようになる。

貧困層と富裕層にきちんと住み分けられた土地にある学校で、あえて「悪」についての授業は、恵まれない彼らの将来にいい影響があると信じていた。

美しい女生徒が、見栄えも、環境も最低だと言うことで相手にもされなかったエディを選んだことが、生徒間にトラブルを起こし始めていた。

ブランチもその間、同僚の高潔な教師と恋仲になる。

そして、それらの事柄を巻き込んで悲劇の種子は徐々に膨らんでいった。

* * *

クックの作品では「死の記憶」の評価が高い。
それに加えて「蜘蛛の巣の中へ」という父親と息子の心の交わりが書かれた作品が特に好きだと思っている。

これもそれらのように、ブランチと父親のかかわりが繊細に書れている。

これも老ブランチの回想で、話されるこの時はすでに彼は老いて父親も亡くなっている。

当時はまだ未成年であった生徒たちも、今では中年を迎えそれまでの人生の軌跡を見せている、美貌には影が差し、幾人かは亡くなり、中には刑に服していたり、町も面代わりしている。

ブランチ今でも立ち直れずにいる、過去の悲劇が何時までも尾を引いて、解決されない罪の意識に、悲しんでいる。
そして足の長さの違う郵便配達が外のニュースを届けてくれるのを待っている。

親友の批判ができないように、好きな作家の作品は黙って読むしかない。


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憔悴した父の体は人生の終わりになってようやく編み上げられたものが、息をするたびに少しずつほぐれていくように見えた。あたかも人生をつかみとろうとして怒りを買い、人生からしかえしされて、生きることが生理的に苦しくなり、生きることが少しも重要でなく、これっぱっちも楽しくなくなってしまったように
ーーー

こういうフレーズが特に好きで、、、。

http://www.sora-m.jp/honf/h/1-1/





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