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「切り裂きジャックの告白」 中山七里 角川文庫

2022-07-08 | 読書
 
 
「カインの傲慢」を読み始めてあれ?このメンバーに覚えがあると気がついた。先に「切り裂きジャックの告白」を読んでいた。犬養隼人シリーズだ。記録がなくて、改めてまた読み返した。
スト―リーは残念ながらあまり覚えてなくて、その上人間関係が思い出せない、登場人物の人間関係は大切。まぁ知らないでも作品を楽しむことはできるけれど。シリーズ作品は順番通りに読めれば流れに乗りやすく面白い。

中山七里という作家は一度テーマを決めると、どんどん深堀をして話に厚みを持たせる人らしい。ここでは犯罪の元になるのは臓器移植だが、非常に臨場感があり考えさせられるところも多く時間がかかった。
命の重みを考えると単に臓器の受け渡しだけでは済まない多くの問題があり、関係者の心情も複雑になる。


殺害方法は、絞殺後にY字に切り裂いて内臓を全て取り出しているという、残忍な方法だった。
犯人は声明文を新聞社に送り付けてジャックと名乗った。
切り裂きジャックの模倣犯なら一件では済まないだろう、捜査本部も緊張する。

第一の殺人は、マラソンランナーが発見する、公園の椅子に何気ない様子で座っていた女性は、絞殺され見事なメス捌きで内臓が取り出されていた。
深川署と公園は道路を隔てただけの至近距離だった。

本庁から麻生班が捜査本部に参加した、犬養と古手川もペアを組んで捜査に当たる。
二枚目の犬養は30代、元気な古手川は20代。

一人目の犠牲者は劇症肝炎で肝臓移植を受けていた。二人目は細菌性肺炎だったが治療が遅れて肺移植が必要になる。成功して仕事に戻っていた。
臓器移植法が制定されてドナーからの移植が可能になっても、ドナーについての情報はコーディネーターだけが知る、ドナーと患者の詳細は漏らせない。
それがなぜ漏れてこの事件になったのか。
まずコーディネーターを疑え、しかし彼女にはアリバイがあった。だがここまでくると彼女も職業倫理などを振りかざしている状況ではない。
三人目は腎臓を移植された男だという。最近のひどい遊びぶりが話題になっていた。
まだ間に合う、彼を張り込もう。
だが競馬場にいた男は男の声で連絡が入り一足違いで殺された。

二週間に三人、犯人は医療関係者か、それでもなぜ情報が漏れた。

四人目の移植患者は三田村という青年、次は彼を狙うだろう。彼には身辺警護の承諾を得た。

犬養は執刀医のアリバイも調べる、だが全員疑わしいところはなかった。その上執刀医にもドナー情報は開示されていなかった。

執刀した神の手と言われる真境名教授と榊原教授。立場は移植推進派と慎重派に分かれていた。

ついにドナーの情報を得る。高野冴子の倫理観と道徳観、その上情報が洩れて殺人事件が起き四人目も危うい彼女は決心した。ドナーは鬼子母志郎。交通事故死したが彼は母一人子一人の母子家庭だった。

ジャックも最後の目的に向かう。
最後はなぜか人情がらみで解決する。少々犯人も人間的で。

ストーリーの展開は、様々な要素が織こまれている。
応援に加わった犬養・古手川コンビもいい。
犬養は古手川に対する先入観が少しずつ変わってくる。古手川の野生人風でいて繊細なところもある。
傍若無人に見えるキャラクターで別のシリーズにも顔を出すらしい。
お馴染み警察内部のキャリア官僚との軋轢。

移植については
脳死判定は慎重にも慎重に。、時間を争いながら様々な医療手続きがある。脳が死んでも体は生きている。
声明文を受け取った新聞社やマスコミの反応。
医師と宗教家との対談(これは臓器移植に対する歴史に育まれた宗教観、死生観、と現場医師の立場を超えた話が興味深い)こういう心理を織り込むところ効果的。
患者は苦痛から解放されてもまだ長い治療時間が必要になる、移植は完全な治癒ではなく代替の臓器との共存であり、莫大な費用が掛かるということ。

中山七里さんが書くミステリはこういう医療問題を取り上げても説得力がある。それをつないで物語にする力を持った稀有な作家なのだろう。
犯人を追いながら臓器移植が必要な娘を持つ父親として、二度の離婚の後別に住む娘を見舞う父親の心理も盛り込み、グロテスクな話の裏に柔らかいところもある。
 
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