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「去年の冬、きみと別れ」   中村文則  幻冬社

2014-06-18 | 読書


  
図書館ばかり利用していたが、新しい本も読みたくなって久し振りに、ゆっくり本屋さんを歩いてみた。
本屋さんはスーパと並んでいるので、必ず通ってみるのだが、読みかけの本があると、買わないでざっと一覧して帰ってくる。同じ傾向のものは集められているし、話題の本は特に目立つところに有って、売れ筋がわかる。

今読んでいるシリーズ本の続きを探したが置いてなかった。少し古くなって人気が無いと見ると探しても見つからなくなってしまう。大阪駅あたりの大型店と違って、探す本がすぐ見つかる事は無くなった。注文するくらいなら図書館で待とうと思ってしまう。

新刊本コーナーで立ち止まって、初めての作家のものを読んでみようと思った、少し買って、中古本の店舗の方に入ってみると、誰も読んでなさそうな綺麗な本が半額くらいで並んでいた。開けるとページがぱりぱりと音がするくらい新しい。
もう嬉しくなって、見たことのある題名の本をどんどん籠に入れると重くて持ちきれないくらいになった。
帰って数えてみると新旧あわせて丁度40冊あった。
気持ちがふわふわとなるくらい嬉しかったが、図書館の本と違って自分の物だと思うと喜びが違う。

ただ読んだ後どうしよう、、、とチラッと考えた。


しばらく雑談しなかったので前置きが長くなった。

さて、この本「去年の冬、きみと別れ」ファンも多いと言う中村文則さんを読んでみるかなと思った。この作者の「掏模」でも「遮光」でもなく順不同でこの本から読んでも、初めてなら作風はわかるだろう。200ページ足らずだし、すぐ読めるツモリだった。
だが、てこずった。

ジャンルもミステリでは有るが、人物の絡みや流れはホラーかもしれない。重要な登場人物で精神的に安定してる人がいない。自覚があったりなかったり、やはりどこか狂っている、そういう人間の話なので、読むほうも何か不安定な状況に紛れ込んでしまう。

「君と別れたのは冬」なので、物悲しい別れとなると男女の別れか親子、友人、あたり、もしかしてラブストーリーかな、背表紙を見て思った。しかし帯を読んでみると凄い。それでも結局買ったけれど。

愛を貫くのは、こうするしかなかった。
 ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は、二人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けていた。調べを進めるほど、事件の異様さにのみこまれていく「僕」。そもそも、彼はなぜ事件を起こしたのか?それは本当に殺人だったのか?何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かをなくした人たちが群がる人形師。それぞれの狂気が暴走し真相は迷宮入りするかに思われた。だが――――。 

大筋は話せるところだけで帯に載せるとこうなるのだが。実は冬に誰と誰が別れたか、それもひとつのポイント。

ライター(僕)が一応主人公で、被告と会って話し(録音もして)真相に近づいていくと言うのは普通の進み方。そこを作者は難しい転開にしている。これが短いセンテンスの文章になって進行する。

取材も何も、カメラマンだった被告自身、自分がわかってない。チョウの舞う幻想的な写真が一時評判になったが、それを越える作品が撮れないでいる。それで撮影状況を作り殺人を犯す。
被告の理屈の多い芸術論や、現状をわかってない話に巻き込まれ、ライターも自分の位置が不明になってくる。その絡まった様子を作者はどんどん書いていく、被告は写真に取り憑かれて女性を焼き殺すと言う残虐な殺人を犯した、と回りも思い自分もそうだと思っている。蝶を超える作品を生み出すために、芥川の「地獄変」の迫力を現実の写真で試そうとしたと言う理由がある。

姉は、被告とともに養護施設の出身である。遺産があり食べるに困らない。姉を取材をするために遭いにいき、不思議な魅力に引き込まれてしまう。
ライターには恋人がいるが、姉の魅力に逆らえず、姉は暗に恋人と別れろというようなことを言う。
ライターまで迷わせるのね。

被告を取材している中でK2というグル-プが出てくる。被告もライターもメンバーで、そのな中に人形師がいる。
被告はその人形師が天才だといい、彼の作る人形は愛する対象をそのまま模倣するのではなく、愛している本人が作り上げた恋人の幻想(イメージ)を的にその特徴をデフォルメしている、それが天才と言われる所以でごく一部の人形マニアは、恋人に執着しすぎるという時点で既に精神にヒビが入っているが、その結果、依頼者は人形のほうにより愛情をそそぐようになる、と言う。

人形師の取材で、彼は人形を作って入るが、その後の出来事からもう手を引きたいと思っていた。人形が呼んだと思われる事件に、人形師は戸惑っているようだ。

ミステリだし大雑把なストーリーを書いたが、それでも作者の意図は最後までわからない。こういうのをどんでん返しと言うのだろうか。
病んだ人たちのドラマがこんな小説になるなら、ストーリーは混乱する。
それが意図なら少しは糸口をつけないと、読むほうはよほど注意しても混乱の中に埋まってしまう。

どんな面白い設定でも、多少は読み解けるくらいの正常な部分があってほしい。作者以外でも。
作者の中では全てが解決しているのだろうが。最後を読んでもう一度読み返すと随分明らかになるところも有るが、文字や文章だけで引っ張るのは、引っ張られるほうも力の込めようが無い。

面白いストーリーで、文章も嫌いではない。だがスッキリ解決してくれる病んでいない探偵はもう古いかもしれないが(一応気づくのは僕だけれど)、周りが皆おかしいと、方向音痴になりそうだ。最後まで読まないとわからないストーリーもある、だがそうでっても筋は通してあって欲しい。私の理解力が及ばなかったのかもしれないが。この作品が嫌いでない読者のお願いとしてでも。


人形師の薀蓄や、引き合いに出した「地獄変」はどうなのかな。無くてもわかりすぎるくらいなのに。
カポーティの「冷血」は象徴的でうまいと思う。

最後のイニシャルは読者と関わりないお遊びでしょうね(笑)

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