「血」とは三代に亘って、地域警護に勤めた警察官の「血脈」を表す物語である。
第一部 清二
戦後の混乱を警戒して、警視庁は警官の大量募集をした。復員して定職のなかった清二は、それに応募して採用された。
研修中に3人の親友ができ、希望通り谷中の派出所の巡査になる。公園には浮浪者が溢れ、孤児も住んでいた。
ここで仲間同士の争いがあり、ミドリというホモが殺される。彼はこの事件の捜査を内偵していたが、捜査員でなく、巡査の身分では思うように進まなかった。
派出所のすぐ裏にある天王寺の五重の塔が不審火で燃える。そのとき、不審な動きをする人物をつけていき、跨線橋から落ちて死ぬ。
第二部 民雄
父を尊敬し、自分も地域を守る警官になりたいと思っていた。成績が良かったが進学をあきらめかけたとき、父の同期で友人だった三人が「血のつながらないおじ」だと言って援助をし彼に高等学校の教育を受けさせる。
無事、警察学校に入り訓練を受けることになったが、成績が優秀だったので、急遽北大に行けと言われる。そこではロシア語をべと命じられたのだが、内実は、北大内部の左翼グループの動きを探る役だった。
この、学生生活と偵察員の二重生活は民雄を蝕み、精神を病む。
やがて学生運動は鎮圧され、開放された彼は、父と同じ駐在所の警官になる。
彼はなぜか殉職扱いされなかった父の死に強い不審を抱いてきた。
だが、人質を取って立てこもった指名手配犯に向かっていき、射殺される。
第三部 和也
和也も大学を出て、地域警官になることを選んでいた。だが卒業間際に捜査官の素行調査を命じられる。
彼が内偵を命じられた警官は、加賀谷と言った。加賀谷は一匹狼の刑事として数々の実績を上げていた、暴力団相手の刑事だった。和也は彼からさまざまな訓練を受ける。
一方、祖父の不審死を父が探っていたことを知り、その遺志を継いで行こうとしていた。
加賀谷は地域暴力団の顔になっている。やはり裏で繋がっているのだろうか。
聞き込みで、父に援助した「三人のおじ」は亡くなったり引退していたりする。彼は当時のことを調べていく。
警官三代の物語が、それぞれの時代背景の中でつながっているのが面白い。戦後の荒廃した街で生きている浮浪者や孤児に暖かいまなざしを向ける民雄。
民雄は裏切りの生活の中で壊れていく。父が殉職扱いにならないという警視庁の判断のために、貧しい暮らしを余儀なくされた。しかし彼は父のような警官になることを目指した、だがあたら優秀な頭脳を認められたために特命を受けて利用される。貧しさ故といえるかもしれない。
恵まれた頭脳が生かしきれない環境というものもあるだろう。
和也もやはり組織の中では自由に生きられなかった、上司をスパイするという運命を受け入れなくてはならなかった。
和也の最終章になって事件は解決するが、長い年月をかけた割にはあっけない。調査方法が進んだこともあるかも知れないが、話としてはいささか簡単すぎるように思った。
祖父を殺したのは誰か、早くに思い当たる部分もある。
読書
37作目 「警官の血」佐々木譲 ★4
38作目 「ウッドストック行最終バス」 コリン・デクスター
クロスワード好きらしい作者の謎解きミステリ。
バスが来ないというのでヒッチハイクをするつもりだったが、
ちょうどやってきた赤い車に拾ってもらった。だが、そのうちの独りが殺された。
モース警部は、パズルを解くように聞き込みをして、事件を構築してみる。
何度か振り出しに戻ってやり直さなくてはならない。
何がどう繋がって犯罪が成立するのか、とても面白かった。
★4
39作目 「隠し剣 孤影抄」藤沢周平
短編8編 まず題名に惹かれる。
それぞれが避けがたい運命の重さを背負っている。
剣を交えなくてはならなくなる武士の生き方に、現代にも通じる哀しみがある。
「女人剣さざ波」がいい。 ★4