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空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「わらの女」 カトリーヌ・アルレー 創元推理文庫

2015-04-28 | 読書


母の残した本を整理していて見つけたので再読。ついでに読みたい本を探すと紙袋に一杯になった。


世界のミステリの名作と言うと上位にランクする、完全犯罪小説。アルレーは1956年に発表したこの作品で一躍世界に知られるようになった。

わらの女。つまらない女、犯罪に巻き込まれてもなすすべの無い女。

彼女は新聞広告で、半身不随で気難しい億万長者の老人の世話係りに採用される。秘書は全ての手はずを整て待っていた。
二人は老人のいる船に乗り込む。

やがて、老人に気に入られて、結婚した。莫大な遺産が転がり込むはずだったが。老人が急死。
身寄りない老人は先に財産を寄付する遺書を書いていたが、それを妻に変更した。だが急死したため
手続きが間に合わなかった。
遺言の効力が発生するまで生かしておかなくてはならない。
老人の遺体を生きていると見せかけて下船させて家に運ぶ。緊張感のある場面。

しかし、警察がかぎつけ、彼女は拘束されて、尋問を受ける。

秘書の計画で、便宜上の養女になっていたがそれも巧妙な罠で、秘書は娘思いの父親役を演じていた。
彼女は、老人の死を狙った財産目当ての打算的で冷酷な女ということになり、世間の非難を一身に受ける。

動機や行動が全て不利に働き、彼女の発言は心境の乱れで、辻褄が会わない虚言と見なされた。
彼女はついに法廷で裁かれることになる。

巧妙な罠にかかって、身動きもままならない。こうして完全犯罪の犠牲になって命を閉じる。

無防備な若い女を言いくるめて実行に移す、犯人の犯人の長い間に練りに練った巧緻な犯罪が成功する。


新訳が出ているので、少し古い訳だったが、追い詰められていく女の進退窮まった閉塞感は重く、反してどうあがいてもほころびがない犯罪計画に追い詰められる女、と言う設定がスリルもあり、スピード感もあるさすが名作だった。



 
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「西行花伝」 辻邦生 新潮社

2015-04-25 | 読書


花の季節に、西行墳のある弘川寺を訪ねようと思っていた。今年になって鳥羽の城南宮を尋ねた帰り、桜の季節までに評伝を読んでおこうと思いたって、辻邦生著のこの本を選んだ。

藤原鎌足を祖とする裕福な領主の家に生まれたが、母の願いで官職を得るために京都に出た。
馬術、弓道、蹴鞠、貴族社会の中で身につけなくてはならないものは寝食を惜しんでその道を極めた。
流鏑馬では一矢も外さない腕を見せ、蹴鞠は高く蹴り上げた鞠を足でぴたりと止めて見せた。
当時の社会で歌の会に連なることも立身出世の道だった。武芸が認められて鳥羽院の北面の武士になり、歌の道でも知られてきた。

鳥羽上皇の寵愛を失った待賢門院を慕ったことや、突然従兄の憲康を亡くし、その失意から出家したといわれてはいるが、辻邦生著の「西行花伝」は著者の想像力と、残る史実を基にした壮大な芸術論で、西行が歌の中で見出した世界が、語りつくされている。
そんな中で出家の動機がなんであろうと、その後、この世を浮世と見て、自然の移り変わりを過ぎ行くものとして受け止める心境を抱く切っ掛けが、出家ということだった。

「惜しむとて 惜しまれぬべき此の世かな 身を捨ててこそ 身をも助けめ」

引用ーーー人間の性には、どこか可愛いところがある。そうした性の自然らしさを大切に生きることが歌の心を生きることでもある。肩肘張って生きることなど、歌とは関係がないーーー

「はかなくて過ぎにしかたを思ふにも今もさこそは朝顔の露」

時代は院政から武家に政がうつっていき、保元・平治の乱が起き、地方領主は領地境で争っていた。
西行は、待賢門院の子、崇徳帝の乱を鎮めるために力を尽くし、高野山に寺院を建立し、東大寺再建の勧進行のために遠く陸奥の藤原秀衡を訪ねたのは70歳の時だった。

「年たけてまた越ゆべしと思ひきやいのちなりけり小夜の中山」

こうして出家したとはいえ時代の流れに関わり続けながら、それを現世の姿に捕らえ、歌は広く宇宙の心にあるとして、四季の移り変わり、人の世の儚さを越えた者になっていった。森羅万象のなかで、花や月を愛で、草庵を吹く風の音を聴いて歌を読み人の世も定まったものではないと思い定めた。
そうした西行の人生を、辻邦生という作家の筆を通して感じ取ることが出来た。

「仏には桜の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば」


「なげけとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな 」(百人一首86番)



「願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」 

と詠んだ時期、春桜が満開の時に900年の後、西行墳を訪れ、遠い平安・鎌倉の時代に生きた人の心が少し実感になって感じられた。



 
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「ノヴァーリスの引用」 奥泉光 集英社文庫

2015-04-17 | 読書

恩師の葬儀に集まった、かつて同じ大学で経済史の研究会に属していた4人が、10年ぶりの再会を機に思い出話をサカナに飲み始める。そのうち研究会に短期間属してはいたが異端の雰囲気を撒き散らし、なおかつ図書館の張り出し屋根から投身自殺をした、石塚の話になる。
恩師の死に続いて、石塚(それは異文化の洗礼を受けた帰国子女だった)の死について話が深まっていく。彼の死に意味づけをし、彼の死を結論付けて、他の死者と同じく終わりにしてしまおうという意味合いがあった。
ミステリ好みの松田が殺害説を出す。推理小説からの薀蓄を披露し、彼なりの根拠を話す。石塚は仲間の神経を逆撫でような行動をとった。学問に対する真摯な誠意と熱意を感じながらも、皆に理解されず時には殺意さえ抱かせるほどだった。少しずつ思い出されるのは石塚の卑屈と傲慢の間を揺れる心の裂け目だった。

死は彼を永久に隔離し閉じ込めたが、残った仲間は彼が10数年経った回想の中で、大きな疑問とともに甦った。

改めて約していた再会の場に集まって、少し肌寒い夜桜の下で飲み、場所を変えて学んだ校舎の研究室に移してから、石塚の論文のコピーを確認しながら話は続いた。
彼の唐突な死は卒業論文に現れていたのではないか。
石塚の論文は書き直すように教授から指導を受けていた、その型破りなアフォリズムで埋まった文字を読み返す。それはノヴァーリスの詩文からの引用だった。そして、その中から当時は認める努力もしなかった、真摯な思考を感じることが出来た。
ノヴァーリスが亡くした恋人の墓の前で体験した神秘を、石塚もまた辿ってのではないか。議論は続き、私は悪酔いをして、静まった校舎のトイレで子供じみた恐怖を感じる。

私はそこで窓に座った石塚が仲間から非難され追い詰められていく幻を見る。

幻想だったのだろうか、覚醒した目で見渡せば仲間は碁盤の前で大戦を続けている。

外からはシューマンの曲が聞こえ、「松田の仕業だな」などといい、「グールドが弾いているやつさ」
「まぁこれが石塚へのレクイエムです、殺人事件だなどと随分遊んじゃいましたからね」ミステリ好みの松田が言った。

死は一つの自己克服である。ノヴァーリスの言葉が浮かんで出た。

シューマンのレクイエム聴きながらそれぞれの時間は幕を閉じる。


当時彼らが研究会で話題にした、学説や論文は十分に理解は難しかったけれど、奥泉さんの硬質で語彙の豊富な作品は、いつも読書の豊かさを感じさせる。前に読んだ「瀧」の青年期に差し掛かる前の少年たちの重い出来事や、この「ノヴァーリス」の名を借りた、葬儀に参加した現実から、石塚の死をめぐる軽いミステリ、幻想体験など様々な要素が一つになって流れていく時間が、不思議な死生観とともに印象的だった。


*ノヴァーリスについて覚書
ルートヴィヒ・ティーク、アウグストとフリードリヒのシュレーゲル兄弟らと親交をもつ。詩文芸の無限な可能性を理論と実践において追求した。雑誌『アテネーウム』に参加し、評論などを書いた。
ノヴァーリスの作品の特徴は、ゾフィーの死、いわゆる「ゾフィー体験」を中核にする神秘主義的傾向、とりわけ無限なものへの志向と、中世の共同体志向にある。

  
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大阪市立大学理学部植物園 2015.03.28

2015-04-13 | 山野草
春の花を見に行ってきました



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「日本の古典50冊」 阿刀田高 三笠書房

2015-04-12 | 読書

時々思い出す「古典」は「万葉秀歌」や「源氏物語」だけではなくて、まだ少しは影が残っている「方丈記」や「平家物語」の冒頭だったり、「徒然草」だったりする。
------古典とは、長い年月にわたってその民族の評価に耐え、尊重され続けてきたものだ。しかもその寿命はとてつもなく長い
五百年、千年、二千年くらいの歴史を持つものもある------

西行の生きた時代を知りたいと思い、時代背景を考えたりしていると、本屋さんでもいつもと違う棚に目が行ってしまった。
そこで見つけたこの本だが、読みやすく面白かった。編集も興味深く仕上がっている。

大見出しもあるが長くなるので、殆ど常識程度のものかもしれないが、私が初めて知ったか、過去に触れたかして興味を持ったものを列記する。それぞれに短いあらすじや読みどころが添えてある。いつか読む機会があるように記録した。

「出雲国風土記」奈良時代に書かれた出雲神話の本拠地の伝承を紹介する地誌。
「金槐和歌集」悲劇的な最期を遂げた鎌倉将軍、源実朝の家集。(名前だけ知っていただけ)
「徳和歌後万載集」古典のパロディを満載した江戸時代の狂歌集。
「山陽詩鈔」詩吟で人気の高い、頼山陽が詠んだ漢詩集。
「俳風柳多留」社会を鋭く風刺した川柳を満載。
「北越雪譜」鈴木牧之が雪国の生活を紹介した江戸時代のベストセラー。
「梁塵秘抄」後白河院が熱中した平安じだいの流行り歌。
「絵入狂言記」能と能の間に演じられるこっけいな台詞の台本集。
「作庭記」陰陽五行説に基づいた平安時代の庭つくりの秘伝書。
「喫茶養生記」鎌倉時代に、栄西が表した日本最古の茶書。
「正法眼蔵隋聞記」道元の弟子、懐奘がわかりやすくまとめた師の法語集。
「山上宗二記」山上宋二が千利休から伝授された茶の湯の秘伝書。
「和俗童子訓(女大学)」システム化した教育法を説いた貝原益軒の教育論。
「守貞謾稿」江戸時代の生活を詳しく記録した風俗百科事典。


大見出しは

栄枯盛衰の必然を知るための5冊
たおやかな感性に触れる5冊
波乱万丈の物語に酔いしれる12冊
日本独自のエンタテインメントに詳しくなる7冊
鋭い人生哲学に対峙する10冊
古人のビジネス感覚に学ぶ4冊
この分け方もわかりやすい。

阿刀田さんのコラム10編 から興味を引いたもの

ж 「花」といえば「桜」? 「梅」?どちらが正解
ж ルックスよりもまずは「和歌」ーーー平安恋愛事情
ж 平安時代の最先端科学「陰陽道」
ж「裏千家」と「表千家」ーーーそのルーツの違いはどこに? etc

この一冊で早分かり! と言うように軽くうわべをなでるだけの紹介分だったが仕方がない。それでも読み物として、とても面白かった。



 

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「金色機械」 恒川光太郎 文藝春秋

2015-04-08 | 読書

やっと読み終えた。時間がかかったのは、物語の流れが緩やかであったことと、内容がわかりやすくて、つい雑念が入り込んでしまう、それでまた読み返すということを繰り返した。
恒川さんの、現実から幻想的な世界に滑り込んでいく物語が好きで読んでいるが、長編は初めてで少し勝手が違った。時系列どおりに進むのではなくて登場人物が現れるごとに、その過去から話が進む。時間の往来があって、現在に合流する形になっている。柔らかい美しい文体で野生的な盗賊たちが描かれているが、何か夢物語めいている。全編を通して恒川ワールドの雰囲気が続いていく。はみ出し物の盗賊たちは殺しもやれば子どもの誘拐もする、情け容赦のない場面もあるが、それも全て絵物語のようで、続けて読めば分厚い400ページを越す話もあっという間だったかもしれない。

山奥に通称極楽園といい、鬼屋敷とも呼ばれる盗賊のがある。子供をさらってきて働かしているが、頭目が殺され手下だった夜隼が実権を握る。
そこに殺されそうになった熊悟郎が逃げ込んできて下働きを始めるが、夜隼に見込まれ、武芸の訓練を受ける。
見る見る上達して仲間に認められるが、彼は長じて、妓楼を任され莫大な利益を得てのし上がっていく。
熊悟郎は人の心が見える目を持っている。

捕縄の名手、同心の柴本巌信のところに遥香と言う娘がやってくる。彼女は手を当てると人を安楽に死なせる技を持っていた。医者の家で、見込みのない患者にその技を使わせていたが、そこからきたと言う。
彼女は過去に鬼屋敷にさらわれてきて逃げた紅葉という娘の子供だった。
遥香は養父の家を出てさまよい、庵に中にいた金色様に出会う。気を失っている間に厳信の元につれてこられたのだった。彼女は父母が殺されたいきさつを話し、厳信が手伝うことになる。

金色様と呼ばれるのは、遠い昔月から来た一族だったが、体が金に覆われ光で生きているため、一族が耐えても生き残っていた。極楽園で暮らしていたが、やがて遥香とめぐりあう。
同心と一緒になった遥香の復讐、極楽園の人々の末路、話は前後しながら進み、やがて幕引きの時が来る。

金色様と呼ばれるロボット様の物体は、言われているようにC-3POの姿を彷彿とさせ、男にも女にも変幻自在、声まで変えられる。花魁の衣装を着て白塗りの顔を長い髪に隠し、文字通りこの世のものでない強さを見せる。月から来たと言うそのときから物語の中に存在し続けて、人々の生き方に関わり続ける。

恒川さんの現実離れのしたストーリーは、離れすぎて荒唐無稽に鳴りそうな部分が、巧妙に異次元に誘う。時々はっと我に返ると、少し齟齬のある部分がみえて、どちらかといえば、短編の方が持ち味に沿っているように思えた。もっと多くの作品を読んでから言うことかもしれないが。





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「パウル・ツェラン詩文集」 飯吉光夫 編・訳 白水社

2015-04-02 | 読書


石原吉郎さんの詩を初めて読んだとき(全詩集でなく、どこかに発表されていた詩や代表作)シベリアに強制収容されていてその上強制労働につかされ帰還した方だと知った。
並んでドイツの詩人、パウル・ツェランが語られることがあるということだったが、そういうことをいつどうして知ったかも覚えがなかった。

別な本を読もうとして、そこにパウル・ツェランの詩の一節が引用されていた。それで読む前の参考にとこの本を読んでみた。
全詩集ではなく代表作を集めたものだった。、特に、その特徴は、思いがけない災厄に出合ったこの詩人の作品のなかから、東日本大震災で被害にあった方たちの心に響く作品が選ばれたということ。
ツェランがユダヤ人で、ナチスに両親が殺され、自分も強制労働につかされた、悲惨な過去が詩の底にあること、そういったものを集めてこの詩文集が編まれている。

参考までにドイツの詩人はと、調べてみるとハイネが出てきた。「ローレライ」の歌詞を書いた人である。

パウル・ツェランの詩は日本の戦後詩に当たる時期に書かれたといえる。サルトルだったか、詩人の言葉で「水車」といっても、それは現実に思い浮かべる「水車」ではない、と言うようなことが述べられている。
パウル・ツェランも言葉をメタファーとして使う詩人であり、言葉にどういうイメージが含まれているか、詩の中に詩人は何を現したかったのか、あるいは訴え、表現したものは何だったのか。
読んでいるうちに深く打たれるものがある。

パウル・ツェランの詩はその技法に慣れて、読んでいると、奥深く潜んでいる原体験、非常に深い傷跡が読み取れる、
詩篇は不思議なリズム感があるが、悲しみと、それとともに両親への追悼の心が、悲しい響きを伝えてくる。
読むうちに、破綻のない詩の形に偉大な詩人が死を見据えた魂の声を聞くことができる。

解説は後部に、一編ずつつに対してつけられ、詩文集は彼の少ない講演の記録や文章を集めている。

代表作「罌栗と記憶」の中の「詩のフーガ」が冒頭にあるが、それではなく、趣旨に沿って

「ひとつのどよめき」を

ひとつのどよめきーーー いま
真実そのものが、
人間どもの中に
歩みいった、
暗喩(メタファ)たちのふぶきの
さなかに

訳者解説

「暗喩たち」というのは、詩の代名詞と考えていい。詩について喋々喃々している間に「どよめき」が(災厄)が持ち上がった。



石原吉郎さんの詩も(手持ちの名詩集から)

泣きたいやつ

おれよりも泣きたいやつが
おれのなかにいて
自分の足首を自分の手で
しっかりつかまえて
はなさないのだ
おれより泣きたいやつが
おれのなかにいて
涙をこぼすのは
いつもおれだ

以下略





 

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