旧式エンジンを積んでプリマスを出た船、アポロ号は七週間かけてニューヨーク、マンハッタン沖に着いた。初めて見る夢の国は黄金色に輝いていた。だがそれはうずたかく積もって街を覆いつくす砂の色だった。一面のブロンズの荒野だった。
太陽にガラスをきらめかせたビルの頭が裾は過去の亡霊のように砂にうずもれ、突き出した先が午後の太陽に虚ろな輝きを跳ね返していた。 「あれは自由の女神じゃないか!!」という叫びもなんのその、海に横たわった女神にアポロ号の竜骨が傷つけられ船は沈みかけたままニューヨーク港にたどり着いた。 湧きかえる船上では、船長は一言脅しかけたがウェインの密航などもうとがめられることもなかった。
船長、機関士、探検隊、科学者と乗組員の希望の国であった夢を全て埋め尽くした砂漠は、今や遠く地の果てまで西部劇の舞台に変えてしまっていた。彼らは狂ったように躍り上がって降り立った。タカラが埋まっているかもしれない。 だがマンハッタン、タイムズ・スクエア、ブロードウェイ、五番街。すべてが見る影もなく静まり返りビルの間から巨大なサボテンが林立していた。 ウェインはとぼとぼとあるいた。
過去のアメリカは世界をリードする国だった。夢の国エルドラド、一世紀が過ぎた今は繁栄の痕跡だけが残ったが。
無尽蔵に見えた資源は徐々に枯渇した。ヨーロッパの官僚主義、社会主義政体だけがかろうじて生き延びた。その国々へヨーロッパへ、移住を決めた人々は東海岸から船に乗り国を捨てて出て行った。
44代、最後の大統領さえも禅寺に逃げ込んだということだった。 最後の一仕事、埋蔵された核燃料は最後の時には爆破して廃棄されたことになっていた。その結果地域的な災害は重なり核被害も広がった。
アジア・ヨーロッパで増大した人口を養うために世界政府は気候コントロールに迫られた、ベーリング海の浅海にダムを築き暖かい水を北極海に流し込み、冷たい水を太平洋に流した。凍土だった北の土地は石炭採掘と耕作が可能になった。一方アメリカは熱帯の海水が押し寄せついにすべてを飲み込み沿岸から砂漠化が始まったのだ。
船長の指示でワシントンまで南下を始める。馬やラバに乗り、砂にうずもれていた使える物資を何とか利用していく。平常なら命を維持することが第一だったが、ブティックには豪奢な服が宝石や化粧品があり、酒やたばこまで見つかった。当時の高級車も貯水タンクの水も、使えるものは掘り出すのだ。 ウェインは命綱の輸送を任され、水や食料を運びついに号令指揮者として一団を率いていく。 船長は割れた船を見捨てた。一行はワシントンからマイアミに向かう計画だった。
ワシントンに着いたがそこも同じく砂漠だった。サソリやトカゲ、空に舞う猛禽類を恐れながらたどり着いた。残った建物に入ってみると二重ガラスで防備された無人のホワイトハウスは居心地がよかった。 そこここに生き残った浮浪者のコロニーがあった。彼らは独自の生き方で命をつないでいた。
スピーカーから声がした。ニューヨークに残った天才機関長はアポロ号の竜骨を修理しその上一基のエレベータ―を修理したという。しかしそこは危ない、残存の核燃料の爆発が続いて放射能は警戒レベルを超えている。
さぁ多少物資に恵まれたここからは、補給して腰を上げて西へ進まなくてはならない。ロッキーを超えて。 サボテンの林には小動物がすんでいた。夢や幻を食って生き延びてきた人々もいた、彼らの人間離れした姿は過去の生活など思いもよらないほど命の危険も増している。 彼らの名前がわけありで面白い。 インターステイトに沿って歩く。西へ西へ今や西部開拓使のように。
山脈に着いたが気候もまるで変わった、山頂に上りきると反対側に雲が見えた下は雨らしい、雨があれば樹木が茂る。生き返った一行は、キリンや猛獣のいる麓のジャングルに着いた。ラスベガス、そこは過去の不夜城のように煌々とネオンが輝き、思いもかけず人が住んでいた。
途中で出会った一団は勝手にエグゼクティブ族と名付けた味のある人達で彼らのそれぞれの名前と活躍も読みどころ。
そこは要塞だった、生き残った小さな国だった。45代と名乗るマンソン大統領がメキシコ移民の少年少女を訓練して兵士として育てていた。 電気設備も、進化した光学機器も通信設備も、最強の攻撃態勢も完備していた。 一行は歓迎され保護されたウェインはお気に入りになった。
一方科学者たちはビジョンを失い、船長は砂丘に消えた、荒野をよみがえらすこと、憧れの夢の国を再建することウェインは大きな幻想に憑りつかれる。
我らの機関長マクネア(気にいったので副主人公にしてしまった^^)が空から現れる、なんと足踏式のグライダー。 薄い箔で作られたゴッサマー・アルバトロスを強靭な脚力で回してきた。スミソニアン博物館から、解体して持ち出し、翼を伸ばして組み立てなおしたという 天才!!面白い! これがウェインにも役立つ。
出会ったフレミング博士はロボット工学が専門で歴代大統領にそっくりなロボットを作って動かしていた。彼はマンソンと袂を分かったのはマンソンは極度の潔癖症で狂人だという、海外から持ち込まれる細菌を恐れて侵入者と闘い続けているという。
作戦室はどこだろうウェインにもわからなかったが、襲ってくる偵察機をマンソンの少年少女が銃を空に向けて撃ち続けている 先進の破壊兵器、ついにガンシップが飛び出してくる。 作戦室で二機のガンシップを操作するコンソールの前に大統領を見つけた。 カメラ画像には6基の巡航ミサイルと一基のタイタンが発射傾斜版に乗っているのが映っている。マンソンの指はルーレットの待機ボタンの上に載っていた。 緊迫の一瞬。 ウェインは進み出てボタンを押す。砂漠の無人都市を狙って。
こうなるお約束だとしても、海外からの偵察隊の波状攻撃と、迎え撃つマンソンの狂気がぶつかる、そう来なくちゃというところ。おもしろかった。
海流の変化でカリフォルニア、ネバダの州境を過ぎるとロングビーチはよみがえっていた。荒れ地は花に覆われ大デルタから太平洋を見た。
面白いはずでバラード原作の映画がたくさん見つかった。原作ももっと読んでみたいけれど、まだ先は長いとメモをした、めもだらけ。
この世界は物語になって過ぎてしまい、今アメリカは45代大統領の下で元気すぎるほど。いまも資源は問題はありつつも供給できている、 理解できないくらい分科した化学式で作られる石油製品は生活を便利にしたが、やっと海の保護のもとに将来について話し合いが始まったばかり。
追 面
白かったので書いておこう、こう来たかさすが人気のSF。
ゴーグルと運転用ケープ姿のハインツは、クライスラーの大型ハンドルにかがみこんでアクセルを踏みっぱなしにし、となりの給炭席に座ったマクネアがスコップですくった石炭を火室の白熱しきった入り口から投げ込むときだけやっとゆるめるのだった。
ウェインは肩越しに後続車を振り返ってみた。GMの運転するビュイックがうしろについて巨大な車輪で砂塵を蹴散らし、二条の蒸気の噴流をまるで怒り狂った鎌髯みたいに、ハイウェイの左右に散らしていく。GMはハンドルに乗り出し気味に座り、そばの機関席では逞しい腕をした若妻が、ゴーグルをかけて眠っている幼い息子を胸に抱えたまま石炭をシャベルですくっていた。ペプソデントの強力なフォード・ギャラクシーはしんがりで水槽車とその屋根に解体されてしっかり括りつけられたグライダーを引っ張っている。放浪民たちの自動車に対する惚れこみようは驚くばかりだが、考えてみれば、彼らこそ真のアメリカ人なのだ
ミシガン湖畔のフォードはなくなったとはいえ砂漠から掘り出した高級車に狂喜乱舞の放浪民と石炭しか使えなくなってそれでも走らす勢いがいい。アポロ号も蒸気船だし。 名前のある浮浪民は最後まで活躍する面白い仲間だった。 海流の変化で太平洋岸は気温が下がって日本も凍り付いたんだって、あら。