空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「ミミズクと夜の王」 紅玉いづき 電撃文庫

2015-01-31 | 読書
  


ファンタジックで心優しいお話を読んだ。お天気がいい休日にふさわしい、現実離れをしたお伽噺ふうの世界が広がっていた。
電撃大賞受賞作、電撃文庫と言うのは、門戸の広い印象を受けた。

人間の世界で奴隷でも最下層の仕事をしていた少女は、手足に鎖をつけたまま森に逃げてくる。そこは魔王が治めていた。彼女は自分をミミズクだと言って、魔王に食べてもらいたいと思っていた。懇願してみても魔王は人間は食べないと言って断る。少女はなぜか魔王が恐ろしくない、できれば食べて欲しいと思いながら、次第に馴染んでいく。

森のある国を収めている王様は魔王を捕まえて、殺してしまいたいと思っていた。聖なる剣士と呪術師たちは森を襲って魔王の住処を焼き払ってしまう。つかまった魔王を助けるために少女は刑場に行く。

ミミズクだというしかない、人間から乖離するほどの悲惨な過去を持っている少女の額に奴隷の番号が付いていた、魔王はそれを記憶を消す印に変える。魔王の過去も、絵を書く趣味も、何か淋しく、少女も過去の記憶は消えたが、何か物足りない。

城には生まれながら手足の不自由な王子もいた、二人は友達になっていく、ここらあたりも、事の成り行きが夢の様でもある。

呪術師が総力を挙げて処女の記憶を回復させようとする、そしてかすかな記憶が甦り、魔王の元に行く。

と言うあらすじだが、騎士や魔法を扱う巫女も登場して、中世ロマンの気配やラブストーリーの側面もあり、王様と王子の親子の情愛も絡む。騎士と巫女と言う子供の持てない夫婦が少女を可愛がり引き取りたいと思ったり、何か善意に溢れた話は、大人が読む童話のようで、たまにはこういう別世界で遊んでみるのも楽しい。  

すぐに忘れてしまうようなものかもしれないが、何か心に残って、いつか読み返したくなるかもしれないと思う。

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「蟻の菜園 アントガーデン」 柚月裕子 宝島社

2015-01-30 | 読書
 
   


このミス大賞シリーズだが。私は特に選んで読むつもりはないけれど、手元に来てから知ることが多い。
これは残念ながら、テーマが現実の事件に似ていることもあってそんなに新鮮でもなかったし、話の流れも薄味だった。

山林の車の中で練炭で死んだ男が見つかった、自殺かと思われたが車のキーが消えていることから、殺人として捜査が行われることになった。
容疑者に浮かんだのは円藤冬香。しかし介護施設に勤める彼女には、同僚の証言で完璧なアリバイがあった。

だか婚活サイトに名があり複数の男と付き合っていた、男の口座から何回にも分けて冬香の口座に入金があった。



父親が二人の娘を心身ともに虐待する。学校にも生かせず戸籍のない二人は車を家にして、寒さに震えながら育った。ついに姉が父親をカッターで切りつけて逃げる。

寒い粉雪の舞う冬の東尋坊が始まり
冬香は断崖の上に片方の靴が残っていたところから、東尋坊で死んだと思われていたが、、お決まりの戸籍課、学校野同級生の線で生きていたことや身元がわかってくる。

あの日姉を待っていた妹も養護施設に入って育つ。

このあたりから事件の流れが大まかにの推測される。

 独身のフリーライタ-である由美の捜査が特に冴えているわけでもないが、仕事を持もちバツイチの彼女の暮らしや女性上司との絡みも、クセの或る新聞記者の男も最初登場したほどのインパクトがない、個性的ですべりだしたたものの、彼もさして印象に残らない。
まして情報を集めて、気安さで漏らしてくれる刑事も影が薄い。
おいしそうな材料をそろえたが生かしきれてないし、キャラター造形が余り印象的でない。

題名は面白いが、蟻の変わった習性になぞらえた作品ならもう少し面白くなっていたように思う。
表紙の色合いやデザインはとても綺麗で、誘われて読む気になっておかしくないが、作品はありきたり感が残念だ。


父親の虐待場面は醜悪さの描写も程よい感じで作者に好感が持てた。

まだこなれてないときの作品だとしたら、この後の作品も読んでみたら印象が換わるかもしれない。


待っている人が多い本だそうで図書館のお知らせが入っていた、これから返却する。


  
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「罪悪」 フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一 東京創元社

2015-01-29 | 読書

「犯罪」に続いて読んだが、こちらの方が憎しみや、悪や、心の暗い部分が濃いためか、読後感はあまりよくない。
ただ、、前作のように読みやすい文体で、簡潔にまとめてあるのが好感が持てた。

普通の人たちが、お祭りに浮かれて、来ていた娘を犯してしまった。娘は黙秘を続けたので、犯人は立証できなかった、背後で泣いていた父親が目に留まったが、私は仲間と去っていった。(ふるさと祭り)

酒を飲んでいた男女が親切な老人に招かれ家に行き、勧められて風呂に入った、が過失で老人を殺してしまった。金を盗ってから平和に暮らしていた19年後、進んだ遺伝子捜査でつかまってしまったが(遺伝子)

ヘンリーは寄宿舎でも目立たなかった。苛められているところを女教師が発見、通報したが運悪く階段から落ちて死んでしまった。苛めた子供たちは一たん放免されたが後に事件を起こし禁錮刑になった、だが女教師の詩は不幸な事故で処理されていた(イルミナティ)

彼は解剖学に興味があり道具をそろえていた。実行しようとした日ベンツに跳ねられた、はねた運転手は執行猶予つきの有罪になった(解剖学)

いきさつがパズルのように面白い(アタッシュケース)

家庭が平和すぎてちょっとした盗みをした。つかまったが金額も少なく初犯で前科もなかった。検察官は手続きを打ち切り、家族は誰もそのことを知らなかった(欲求)

麻薬取引に手を染めた老人か捕まった。彼は黙秘したがポケットにナイフを入れていたので拘留された。審理中にパンをナイフで細かく切っているのを見つけた、老人は歯がなかった。その日はクリスマスイブで雪が降って来た(雪)

(鍵)(寂しさ)(司法当局)まずまずだった。

結婚してから夫の暴力が始まった。ベッドで殴り殺してしまったが。忙殺か、故刹か。(清算)

日本に来て成功した男に手に終えない息子が出来た。彼はあらゆる手を尽くして守ってきたが殺人事件を起こしたのを機に見放すことにした。(家族)

連日訊ねてきて面談をする男がいた。口からでまかせの身の上話などをするので精神科の緊急医療に任せることにした。診察室に入ると、男は開口一番自己紹介をした(秘密)
これが面白い、4ページ足らずの短い話だが、ユーモアたっぷりで笑いのツボまで刺激する(^∇^)

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「犯罪」 フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄進一訳 東京創元社

2015-01-27 | 読書

図書館に予約を入れると続刊の「罪悪」も一緒に来た。読み始めたら面白くて二冊とも一日で読めた。お昼前から夜中までかかったが、休日の読書を満喫した。
作者はドイツの現役、刑事弁護士で扱った事件にヒントを得て書いた短編集。本人が実名で出てくる(^^)
文章は端正で気持ちよく切れがある。余分なものをマッシュしない、素材を形のままナイフでスパッと切って盛り付けたサラダのようで、読んだ後の感じにはおいしいドレッシングも振りかけてある。
話の締めには、なんだか大岡裁きのような情愛が感じられる部分もあって、評判のよさの一端もこういうところにあるのではないかと感じた。
題名が硬いしデザインも暗いので、大きな犯罪小説のように見えるが、犯罪の元は貧困だったり、無知、劣悪な環境、男女の縺れ、など身近なところで起きた事件がおおく、ドイツという国の法、裁判制度の現状がかいまみれれるのも面白い。


フェーナー氏
フェーナー氏はイングリットと知り合い結婚を誓った。彼は模範的な開業医で、信頼も厚かった。だが次第にイングリットが大声でののしりはじめ、それは絶え間なく続いた。72歳になるまで結婚の誓いを思い出して耐えた。そして斧を振り上げた。私には弁護の余地がなかったが、懲役三年の判決を受け、開放処置がとられた。夜は刑務所で過ごし、職さえ持てば昼間は自由に行動できた。彼は趣味の園芸から手を広げ林檎を作り、果実販売を始めた。私のところにも赤い林檎が届いた。

タナタ氏の茶碗
サミールと二人の友達はタナタていに盗みにはいって、金庫の中から金と茶盌を盗んだ、タナタ氏は激怒した。サミールと二人の悪事は続いたが、茶碗は巡りめぐってタナタ氏のもとに帰った。
この間の様々な出来事が面白い。

チェロ
建築会社の二代目は娘テレーザのチェロを聞かせるパーティーを開いた、音楽はり理解できないし、教育には関心がなかったので
看護婦が厳しくしつけた。テレー図画音楽大学に入るとき家を離れた、大学には行かず弟と旅をして暮らした、二年後弟が自己で廃人になり、テレーズは看病を続けた。痛みが増してきた弟を風呂場で殺した。私は独房にいる彼女に面会に行ったが、いつも本を読み聞かせてくれるだけだったが。

ハリネズミ
犯罪一家に八人の似た顔をした兄弟がいた、皆そろって出来が悪く前科があった。そのうち一人が窃盗で逮捕された。裁判ではまたかという空気だったが、タリムが証言台に立って口を開いたので驚いた。彼は兄弟の中に隠れてはいたが、別部屋で勉強し知能の高さを誰にも見せなかった。彼は非常に面白い証言をした。

幸運
イリーナは戦争でベルリンに逃げてきた。そこで体を売っていたが、カレと言う青年と知り合って同棲した、そこに客だった男が来るようになり、部屋で死んだ。カレはイリーナを助けるために解体して埋めた。イリーナが逮捕されたがカレは助けたかった。
私はイリーナに弁護士をつけた。カレは自白したが。私は過去の判例を持ち出した。

サマータイム
素行の悪いアッバスはついに麻薬の売人になった。だがボスに知られて指を切られ、恐れて足を洗った、シュテファニーと知り合ったが生活のアテが無く、彼女はこっそり客をとるようになった。その一人で実業家だと言うアッバスに殺された。事件を追う警察は手がかりがない、アッバスの証言は揺るがなかった。私は調べを進める。携帯電話、防犯カメラ、現代の道具が役に立つ、込み入った話が面白い。

正当防衛
ベッグと仲間は地下鉄で男をみつけて襲ってみたが一瞬のうちにやられてしまった。男は逮捕された。私は弁護を依頼された。男は黙秘を続けていた。この顛末と結びが面白い。


店のまえに血のついたナイフを持った若者が立っていた、通報して逮捕されたが、彼は羊を殺して目玉を集めていた。女の子が行方不明になっていた、彼に誘拐されたのではないか、だが彼女は帰ってきて彼は釈放された。私は羊を殺した彼の話を聴く。


警備員の仕事に就いたが、係りがローテーションのカードを入れ忘れてしまった。結果、彼の仕事は毎日同じ部屋に詰める事だった。気分転換にさまざまなことをして時間を潰したが、とうとう切れた。

愛情
パトリックは愛しすぎて彼女の背中を刺してしまった。軽い傷害罪だったが精神科の診察を拒んで姿を消した。私はカニバリズムを思い浮かべたが彼の弁護を降りた。

エチオピアの男
ミハルカは見掛けも悪く智恵もない孤児で、引き取られた家でも厳しく小言を言われながら育った。仕事もクビになったり盗難事件の犯人にされたりした。娼婦館で雑用係になったがそこでも懸命に働いた。娼婦のために借金をして返せなくなり逮捕された。生活資金を得るのに銀行に入った。手に入れた金でバスに乗り、アデスアベバまで行って住み着いた。彼は勤勉で珈琲作りにも向いていた、育て方や運搬方法や販売ルートを改善し、村人に感謝されて村も彼も裕福になり家庭を持った。当局に身元を知られドイツに送られた。家族も村人も泣いた。5年の禁錮刑になった。ミハルカは村の名前を知らなかったので連絡も取れなかった。だが、、、。心温まる話でほっとする。





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「大いなる不満」 セス・フリード 藤井光訳 新潮社 クレストブックス

2015-01-26 | 読書

あなたは絶対認知症にならないと、太鼓判を押してくれた人がいた。そんなこと解るものかと思ったが、最近海馬の底の方がモヤモヤしてきた。なにかを取り出そうとしても、おもちゃ箱のように雑多なものが見えるだけでなかなかな影が捕まえられない。”絶対”ほどあてにならないものは無いと思い当たる始末。その中に気になっていたこの本のかけらを見つけた、そうしたらずるずると付いてきたものがある。アメリカ文学最先端、セス・フリード。クレストブックスで面白かった「遁走状態」訳者の柴田元幸と言う名前。
この本に納められている話が奇怪だとしたら、それは人間そのものの奇怪さの反映なのだーー柴田元幸

ねじれたユーモアと奇想が爆発する鮮烈なデビュー短編集。

と紹介されている、実に見事なずれ感覚と溢れるような言葉の構築物と言うか、目にするものが一度脳に達した後、はきだすように書かれた文章が面白おかしく、ねじれたり変形して、刺激的で忘れられない読後感を残す。そして、読み終えた後は現実の平凡な日常の中ですっかり忘れてしまうような話だった。

11編の目次から

ロウカ発見
7千年前のミイラ(ロウカ)が発見されて科学者たちは狂喜乱舞、しかし二体目が発見され・・・

フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺(プッシュカート賞)
ピクニックは恒例の行事で、みんなして山のふもとに出かけるが、そこで必ず襲撃されて、死者や重軽傷者が出る。だが子供は楽しみにし、大人もワクワクする、もう今更やめることが出来ない。集団の不思議な心理。

ハーレムでの生活
王さまの美女たちの中に醜男が一人選ばれて加わった。呼び出しを畏れながら待っている間に、女性に関する美意識や新鮮だった欲望が次第に変化していく。

格子縞の僕たち
僕たちは火山に投げ込む猿をカプセルにつめる仕事をしていたが、猿に近親感を覚えてしまった。ついに猿が叛乱を起こす。

征服者のみじめさ
穏やかな生活を夢見てはいるが、隙を見せると部下に馬鹿にされる、進むしかない。黄金を盗り女を犯し人格は分裂していく。

大いなる不満
エデンの園の動物たちは襲うことも襲われることもない安寧と平安の中で、次第に膨らんでくる本能の黒い影を感じ始める

包囲戦
長い間敵に包囲され、町は崩れ、環境は劣悪で荒れ果てている。どうしたらいいか考えることはあるが、まだ完全に征服されたわけでないと思う。
だが起きてしまった事は仕方がないとも思っている。

フランス人
主役に選ばれた僕は図らずも頑張ってしまった。

諦めて死ね
父さんは生まれる前に死んだ、母さんは誘拐されて行方不明、様々な犯罪や凄惨な死に様や、自殺や、ありえないような事故の歴史を持つ血筋に生まれついた僕。

筆写僧の嘆き
「ベオウルフ」の写本作りをする僧たちは、修道士が演じる「ベオウルフの戦い」を見て書き留めることになるが、それぞれ違った記述になっていく。

微小生物(プッシュカート賞)
微小生物を観察し魅入られてしまう。名前をつけた固体はそれの持つ特性は奇妙でまた美しく、微小なせいで詳細が解明できなかったものたちも不思議な世界を見せてくれる。
「ケッセル」の寿命は一億分の四秒なので生まれたかと思うと死んでいるその生涯を見たものがない
「ミートライト」は対になって誕生する。細い巻きひげでつながっていて空に舞い上がり、切り離されると痙攣し身もだえし元に戻ろうとするそれが更に遠くに離されることになる。
「パートレット」は存在が肉眼では見えない、存在反応もない、だがパートレットに発見され認識されている。確認するには地上の存在が持つ特徴一つでも確認されればパートレットは存在するということである。
など発見されて名づけられた極微小な生物の特徴を正確な言葉でありえない現状をしっかりと表現している。
中でも「観察の原理」
遥か遠方の惑星が実在するばしょであり、諸君が踏みしめている大地と同じく現実のものであるとは考えにくいのと同様に、微小生物の多くを実在の生物だと考えることはしばしば困難である。望遠鏡を通して見る惑星と同様、顕微鏡越しに見える微小生物は、物というより物のイメージであると見なされがちである。どちらの器具も物体を近くに見せたり大きくしたりといった、ひどく初歩的なやり方で現実を操作するにすぎないが、それでも我々は自分が見ているものは虚偽なのだと思い込んでしまう。 

これは最高に面白い一編。


  
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「凍りのくじら」 辻村深月 講談社文庫

2015-01-25 | 読書
  

珍しく二度読んだ。どのくらい評価されているのかわからないが、この本に出合ったことを幸せに思った。読み終わってからもなかなか頭から離れず、もう一度読んだ。そしてレビューを残すためにまた読んでいる。

名作とされる作品には、人生の普遍的な深い意味があって、どこかに誰にでも思い当たる箇所がいくつかある、そして時間が経って読み返すとまた別なところに自分と同じ人を見ることができる。そして全ての作品の中にどんな時でも心の支えになるないかが見つかる。それが後世に残る名作と言うものではないだろうか。

この作品はそういう読むたびに、どこか自分と照らし合わせて考えることが出来る。本を読むことが本当に面白い、心から共感できるということを感じさせる傑作だった。

どらえもんの道具がでてくる。作者はドラえもんの道具を自在に使いこなせるくらい読み込んでいて、読んでいるうちに、子供向きのマンガ、アニメだと思っていたものが次第にそれだけではなくて、意味の深い、大人にはまた違った価値がある名作だと感じ始める。

それは、主人公の亡くなった父と娘が親しんできた世界が今も共有されている証にもなっている。

ドラえもんの出す道具が、ストーリーにぴったり嵌っていく様子は、文字で読むよりも理解を深めるのに役立っている。

父を亡くし、母は治る見込みのない癌に侵されて死を待っている。そんな環境の独り暮らしの高校生で、作者はそれを、題名の示すように凍りに閉じ込められて、空気穴を見つけられず苦しんでいるくじらに例えている。
そして彼女に写真のモデルになってくれといって近付いて来る高校三年生の別所と言う学生も、親しくなるにつれ、彼もまた冷たい海の中で暮らしているのが解ってくる。

だが、彼の飄々とした環境の受けとめ方に触れ続け、いつか理帆子も凍りの割れ目から広い未来を見つけ、読後感のいい明るい終わり方にほっとする。

作者と主人公の理帆子をつい結びつけたくなる。幼い頃から本ばかり読んで、いつも世間と距離のある感覚を持ってきた、それが自分と重なってくる。

付き合っている若尾と言う青年が「カワイソメダル」をぶら下げているのに気がつく。彼は常に失敗を他人のせいにして逃げている、プライドを守ることだけを生きがいにしていることに理帆子が気づいて離れていった時、彼は自滅する。そういった生き方を絡めて、ドラえもんの道具を使った作者の慧眼は、ドラえもん好きからこういう物語が出来たのかと思いながら、何か新しい目が開いた気持ちがした。


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「虫樹音楽集」 奥泉光 集英社

2015-01-19 | 読書




カフカの「変身」のように「孵化」~「幼虫」~「変態」をなぞりながら狂気をはらんだジャズ演奏家(テナーサックス・バスクラリネット)の「イモナベ」と呼ばれる音楽家の奇妙な人生。それに巻き込まれるメンバーの一人で畝木(ピアノ)。70年代のジャズメンの奇妙な「ザムザ」との関わりを9の短編にしている。


最初の語り手は、そのころ高校生だった私
「川辺のザムザ」と言う小説を書いていた。
偶然イモナベの「孵化」という、全裸のパフォーマンスを見たとき、書割の、後ろの窓の前に、椅子を置いて、観客に背中を見せて、ザムザのように窓から外を見る形でくねりながら演奏していた。その後ふっと消えてしまったが、偶然古書店で「変態コンサート」のビラを見る。多摩川河川敷に行って見ると、そこには窓に向かって置かれたたソファー座って窓に向かって演奏するイモナベがいた。

アフリカで発見されたザムザの名を持つ虫、アメリカで活躍した「窓辺のザムザ」と言うセッショングループ、リーダーこれも全裸で体中に世界の言語を彫っていたという話もある。

またザムザという名を持つダンサーは「変身」を振りつけて踊った。
そして彼は「虫樹」伝説について語った。
それはアフリカにあって、発見したゾロフ博士の話で彼はその後消息を絶ったが。
ーー<宇宙樹>あるいは<虫樹>とは地球上の虫たちが天空から降り来たれる<宇宙語>を聴き取るいわばアンテナである。虫たちは<虫樹>を通じて<宇宙語>を聴き、また<虫樹>を通して自分らの言葉を天空に響かせる。(略)<虫樹>は人跡未踏の地、滝水のせいで毎日虹のかかる深い谷の底にあるーーー 
と言うがこれは確証のない伝説になっている。

消えたザンサー、ザムザはあちこちで目撃されたが、ついにテムズ川で溺死体で発見された。

この「王虫伝」は面白い。

大学生のアルバイト先での話。父は脳の老廃物を食べる生き物を注射している。世界的に流行して、それで能力が格段に上がるということで息子に勧めていたが、措置を受ける段になって突然死する、その治療のせいらしい。彼は父の死で生活に不自由はしなくなったが、中古車の洗車のアルバイトを続けている。そしてタイヤの基山に人間がびっしりと貼りついて溶けたタイヤの汁を吸っているのを見る。そこに一本の木があって、表皮には世界の言語が隙間なく彫ってあった。「スゲー、まさにゲージュツだ」寄せ書きに参加した。

この「虫樹譚」はなかでも出色の面白さ。

そして作家はまた昔のDVDを手にいれる。そこには傷つけられる畝木が写っていた。それはアルバム「Metamorphosisー変態」の儀式のように。

虚構であるのかないのか、興味深いストーリーは今回はジャズを絡めた奥泉風の奇妙な世界を形作っている。面白かった。

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「空の名前」 高橋健司 角川書店

2015-01-15 | 読書


2004年の発行なので、もう10年になる。主治医の先生と雑談をしていたら「これいい本ですよ」と言って貸してくれた。少し読んですぐに買うことにした。
それ以来手元にあって、四角に開いた部屋の窓から空を見ては”雲模様”を観察している。
季節ごとに自然の様々な現象が見出しになって、そこに美しい日本語と、見出しにちなんだ俳句や短歌が添えてある。
筆者は写真家協会員で美しい写真もあり、それを見るだけでも気持ちが広がってくる。
四季に恵まれた国に住んで、古代から農業も含め生活の指針を自然に求めていた証は多くの言葉にあることを知った。
名前はその命と思えば、読み返すごとに豊かな気持ちになる。
索引は500をゆうに越えていて素晴らしい写真とともに紹介されている。


目次

序章 気象学による雲の分類法
    雲の類 巻雲、巻積雲、巻層雲、高積雲、高層雲、乱層雲、層積雲、層雲、積雲、積乱雲、毛状雲、鉤状雲、濃密雲、塔状雲、
房状雲、層状雲、霧状雲、テンズ雲、断片雲、扁平雲、並雲、雄大雲、無毛くも、多毛雲。

雲の変種   肋骨雲、波状雲、もつれ雲、放射状雲、蜂の巣状雲、半透明雲、二重雲、隙間雲、不透明雲。
雲の副変種  鉄床雲、乳房雲、尾流雲、降水雲、アーチ雲、漏斗雲、頭巾雲、ちぎれ雲。

1.雲の章
     羊雲 羊が牧場で群れているように見える雲で、高積雲の一種です。この雲が太陽や月を横切ると、美しい光冠が見えることがあります、西洋ではこれを黄金の羊、神の使いの羊と呼ぶそうです。
     ほかに 鰯雲、鱗雲、むら雲、朧雲、入道雲、雲の峰、飛行機雲、雲の根、凍て雲、などなど。 
2.水の章
     小糠雨 春先にしとしとと降る雨で、雨粒の大きさは0.2~0.5ミリと小さくいわゆる霧雨です。糠雨とも言いますが、傘をさすほどの雨ではありません。ひそか雨の名もあります。よもすがら音なき雨や種俵(蕪村)
     ほかに 驟雨、春時雨、菜種梅雨、卯の花腐し、五月雨、篠着く雨、海霧 など

3.氷の章
     風花 冬型の気圧配置で日本海側に雪が降っているとき、脊梁山脈を越えた空っ風に乗ってきらきら光りながら雪片が舞い降りてきます。これが風花で群馬県では吹越といいます。雪と言うには余りにも量が少なく、地面に舞い降りるとたちまち乾いてしまいます。
     ほかに、氷の花、御神渡り、霜道、忘れ霜、霜華、など

4.光の章
     天使の梯子 「ヤコブが、イザヤから祝福を受けてイスラエルの地に旅した時、ある土地で石を枕に寝ていると、天に通じる階段が出来て天使が上がったり下がったりしているのを夢に見た。ヤコブはここが天の門の地と知り、神に祈ってここにイスラエルの国を作った。(旧訳聖書 創世記代28章)雲に切れ間から射し込む、行く筋もの神々しい光はあたかも天と地を行き交う階段のように見えます。そこでヨーロッパではこれを天使の梯子、ヤコブの梯子などと言っています。
     ほかに 彩雲、幻日、光冠、虹、蜃気楼、オーロラ、白夜、などなど 
    
5.風の章
     青嵐 青々とした草木や、野原の上を吹き渡っていく風で、嵐の文字を用いることから解るように、薫風よりも幾分強い風を言います。長雨のそら吹き出せ青嵐(素堂)
     ほかに 春一番、比良の八荒、風光る、春疾風、山背、野分、木枯、颪、鎌鼬、風の色、など

6.季節の章
      光の春 立春を過ぎてもまだ余寒が厳しく、寒い日があります。けれども陽の光は日増しに強くなってきて、寒い中にも張るの訪れを感じることがあります。これが光の春です。光の春と言う言葉は、もともとはソ連で使われていた言葉で、緯度の高い国に住む人々の、春を待ちわびる気持ちが伝わってくるような響きがあります。
      余寒、麦秋、油照り、老婦人の夏、インディアン・サマー、二十四節気、白露、半夏生、など 


参考文献・索引・あとがき

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「特捜部Q 知りすぎたマルコ」 ユッシ・エーズラ・オールスン 吉田薫訳 角川ポケミス1885

2015-01-13 | 読書



待っていました、昨年7月から半年。予約の1/1になってから6ヶ月、私の前の返さない人は誰かと思いつつ、読みたい本は次々に出てくるし、マァいいか。でもやっと「用意できました」のメールが来たので、窓口で言ってしまった。「半年も一人目になったままで、待ちくたびれました」「そうなんですが長かったですね」そんな返事でいいのだろうか。おまけに、「次の方がお待ちなので延滞しないでくださいね」
二段組、566ページ。ますます長くなってきたが、読みかけの本を置いて急いで読んでメモして返す。これぞ男の中の男「武士道」だ。あの占いはシバリだ、これから何度でも使わせてもらう(笑)


これが特捜部Qは5作目。長いのであとがきから引用させてもらう。

ーーー2008年秋、カメルーン。熱帯雨林で原住民の農業指導にあたっていた青年が非業の死を遂げた。死にぎわに青年は最後の力をふりしぼって1通のメールを打つ・・・。
   2010年秋。デンマーク。コペンハーゲンから50キロ北の小さな町で、一人の少年が家を飛び出した。少年の名はマルコ。15歳。幼いころから、叔父が率いる窃盗団で物乞いやスリをさせられてきた。その腕はピカイチ。組織の秘密を耳にしてしまい、逃げ込んだ森で偶然、あることを知る・・・。
    2011年5月。コペンハーゲン警察本部特捜部Qのリーダー、カール・マーク警部補は釘打ち機事件の情報交換会議が行われていたロッテルダムから戻ってくる。そして、助手のアサドがいまだ完全復帰できないことに乗じて一人でのんびりしようと、聞き込み捜査の研修と称してローセを街に出す・・・。ーーー


のんびりするどころか、ローセはヨット爆発事件を拾ってくる。てんやわんやで解決したかに見えたが、更に厄介な事件が飛び込んでくる。
アフリカ、カメルーンに多額の開発資金援助をしていたが、現地視察に出かけた政府の高官が行方不明になる。その前に現地の窓口になって指導していた青年の不審死。これが公金横領につながることを特捜部チームは確信する、そこまでの捜査がなかなか長い。
カールはプロポーズして振られ悶々としている。重傷を負ったアサドは次第に回復し得意のラクダねたも出るようになる。ローセは今回はぶっ飛んだ方が活躍するが、新入りのゴードンに付きまとわれ、陥落寸前。寝たっきりのハーディはミカの介護で車椅子に乗れるまでに回復する。

一方逃げ出したマルコは、追っ手を逃れて隠れた森の穴で、官僚の死体と一夜を明かす。ここで事件の手がかりを掴んだマルコは、組織や横領仲間が雇った兵士といわれる殺し屋にまで追われることになる。

このマルコという少年、敏捷で頭がいい。隠れながら図書館で多方面の知識を吸収する。自由な身になって知識を生かし、暖かい家庭を持つことを夢見ている。

カールたちはやっと、マルコが決定的な証人になることに気づくが、なかなか出会うことが出来ない。
マルコは命がけで逃げ、何度も危ういところで命拾いをするが、警察にはいけない身分なので、いつカールたちが見つけるのか。
帯にあるように ”お願い!早くマルコを助けてあげて” どうなるのか、読みすすめなくては。

サイドストーリーのような横領事件も関係者がお互いに疑心暗鬼に陥り次々に事件を起こす。公金ついては洋の東西を問わず、群がって甘い汁を吸う。吸い過ぎて身を滅ぼす。騙しあいの面白さはあるが。
マルコの逃走劇も長いはなしで、特捜部の面々に親しみがなければ途中で緊張感が薄れそうになる。今回はいつもの緊張度は低い。物語として面白いけれど、シリーズを読み続けていなければここからはじめるのはきついかもしれない。
犯人探しの部分も一部あるが、今回は特捜部Qチームのやり取りの面白さと、マルコがどう逃げ切るか、彼の将来は?と言う点が読みどころ。

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「心に龍をちりばめて」 白石一文 新潮文庫

2015-01-08 | 読書



表紙がとても爽やかで美しい、流れ下る小川のせせらぎと両岸に咲き乱れるクレソン(おらんだからし)の白い花。
何か、この物語を象徴しているようだ。

フードライターとして成功している美穂は美貌と知性をもち、理想的なエリート記者、丈二と婚約もしていた。だが丈二は政界に出馬するという野心があり、美穂は将来に不安を感じる。家族、特に母親には軋轢も感じていた。
故郷に帰ったとき、偶然幼馴染の優司に再会する。彼は弟がおぼれそうなところを救ってくれたことがあった。子供のころ「俺はお前のためならいつでも死んでやる」といってくれた優司は、ヤクザ時代に彫った大きな昇り龍の刺青を背負っていた。
美穂は次第に優司に惹かれていく。

先に読んだ「一瞬の光」は嘱望された、将来に向けて開けた生き方を捨て、完璧な恋人も捨てて、悲惨な経験から昏睡状態になっている若い女性の傍で暮らすことを選択した男の物語だった。

今回は過去に傷のある男を選んだ女の話だった。言い換えればどちらも純愛小説で、読者を喜ばせる設定が揃っている、男は男らしく頼りがいがあり見かけのいい。女は振り返るよう美人だが、本人はそれが自身の美点だとは思っていない謙虚さがある。
出合った、今で言う「運命の人」に一途に思いを寄せ、困難を覚悟で人生をかける。勇気のある選択は読後感もいい。

ただ何か美しすぎて眩しい、川の向こうの現実感のない世界を見たようだった。


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「昆虫はすごい」 丸山宗利 光文社新書

2015-01-07 | 読書


子供も私も昆虫が好きなので図鑑など昆虫関係の本は沢山ある。
昨年暮れに、本屋さんでこの本を見つけてまた買ってきた。
虫嫌いの方には申し訳ありません。

人類は地球を凌駕する勢いで増え続けていますが、数で言えば昆虫は100万種以上が認められているそうです。

昆虫好きの方にとっては目新しいことではないかもしれませんが、昆虫の生態は知るたびに面白く興味深いものです。

ーーー私たちのやっていることのほとんどは、昆虫に先にやられてしまっている。狩猟採集や農業、牧畜、建築。あるいは恋愛、嫉妬、異常な交尾・・・。そして戦争から奴隷制、共生まで。あらゆることを彼らは先取りしてきた。もはや”虫けら”なんて呼べない、昆虫の営みの凄さと巧みさを痛感する、常識が覆る一冊!ーーー

と裏表紙に書いてある。

写真と読みやすい文章で改めて昆虫は美しく面白く、題名のように凄い!ことが分かった。

ゴキブリ嫌いの方もビックリの一枚です。↓
http://dantyutei.hatenablog.com/entry/2014/05/07/194336


こどものころ山で見たタマムシやミチシルベ、カミキリムシなどは故郷の山でも見ることがなくなりました。
葉っぱを丸めて道に落とす、オトシブミなんていう名前もあったなと思い出しながら読みました。


フェンスに絡まっているモッコウ薔薇で、毎年テントウムシがたくさん孵化します。春先になると、子供が枝を切らないでと言います。
暫くするとフタツボシテントウからナナホシテントウなどいろんな点々がついたテントウムシが花の陰にいるようになります。
どこか近くで越冬して出てくるのでしょう、さなぎは少しグロテスクですが、すぐに羽化してアブラムシを食べてくれ、白いモッコウ薔薇が咲き乱ます。

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「その女アレックス」 ピエール・ルメートル 橘明美訳 文春文庫

2015-01-03 | 読書





話題の本を今年の初読みにした。大いにサスペンス色が加わったフランスのミステリで、今年の読書傾向もこれで定まった感じがする。
堂々6冠という、発売当時には違う帯がついていた、2014年のミステリランキングが出た後は、帯に6冠の文字が躍る。
6冠(このミス、文春、早川、IN☆POCKET、英国ダガー賞、仏リーヴル・ド・ボッヂュ読者賞)まず珍しい国内1位独占で、これで読む気が出る。年が明けても、雑用が多く本ばかり読んでいられない、それでも面白くて一日かけて読み終わった。

アレックスという美女が主人公で、彼女の現在と過去が複雑に絡み合っている。
三章に分かれているが、肝心の書き出しを忘れてはならない、作者の優れているところはこの何気ない書き出しが全ての底に流ていて低音部をなしていると言うことで、読み飛ばしそうな冒頭から実力を知ることが出来る。

ーーーアレックスはその店で過ごす時間が楽しくてたまらなかった。今日も先ほどから一時間も、とっかえひっかえ試してみている。一つ着けてみても、どうかしらと迷い、試着室を出てほかのを選んできてまた着けてみる。その店にはヘアウィッグとヘアピースがいくらでもあり、毎日でもここに来て午後を過ごしたいくらいだった。
(略)試しに赤毛のをかぶって鏡を見たら、まるで別人のような自分がいたので驚き、こんなに変われるものなのかと感動してその場で買ってしまった。ーーー

店を出てすぐに誘拐される。人気のない建物の地下室に用意された箱に入れられ、宙吊りにされる。「死ぬのを見たい」と言う男に裸のまま身動きできない状態で水とペットの餌で放置される。体力が消耗してくると放たれた鼠が襲ってくる。

一方、パリ警察に女が誘拐されるのを見た、という通報があった。現場にかけつけたがまったく手がかりはない。

アレックスの現状と、警察の捜査が交互に語られる。

ここで捜査は絶望的だと読んでいて思う。警察がやっとたどり着いたとき誘拐犯は自殺してしまう。お手上げである。
しかしこれで物語りは終わるはずがなく、鼠に狙われながら、それを利用して、固まった姿勢のまま太いロープを切り、箱を揺らして落とし、抜け出して逃走する。
アレックスのこの監禁場面は、最悪の環境描写と、逼迫した心理が読むのをためらうほどおぞましい。

しかし警察の捜査は進み、アレックスの足跡を辿って物語りは進んでいく。

ここからはもう読んでいただくしかない。

アレックスと言う一人の美しい女が、転々と異動して、一つところにとどまってはいない。
主だった四人の警官の捜査がどこまで足跡を辿れるか。アレックスが巧妙に逃げながらどういう生活をしているのか。
交互に進んでいく物語は読み出すと止まらない。

4人の警官も特徴が際立っている、145センチで背の低いカミーユ警部、富豪で知的礼儀正しいルイ、けちに見える倹約家アルマン、縦横ともに大きすぎる上司ル・グエン。

第二章でアレックスの逃走劇が悲劇的におわる。

第三章は、彼女の背景がやっと明らかになる。ここが、裏表紙にある梗概「孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭へと突進するのだ」という結末になる。

結びに立ち会う4人の警官、妊娠中の妻が誘拐殺害されたカミーユの再生話にもなっている。


6冠が並でないところを探すとすれば、ストーリーが二転三転して見事な構成になっていること。文章がたくみで描写に優れ、情感もある。ときには箴言を思わせる記述に味がある。ミステリと言う枠をはずしても深い部分に余韻が残る。


ただここではネタバレになるので書けないが、ささやかな疑問が残ったが、ごくささやかなことで(笑)








コメント (2)
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あけましておめでとうございます」

2015-01-01 | 日日是好日



今年もどうぞよろしくお願いいたします。
冷え込んだ朝ですが、庭にはもう水仙や素心蝋梅が開いています。
今年は季節の花を追ったり、本を読んだり、明るい日々を過ごしたいと
思います。

どうぞお健やかでよい一年でありますよう


2015.1.1
コメント (2)
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