今日返すので、大急ぎでメモ。
前半は、前作「ぼんくら」の続編のようで、人物はほとんどが同じ、「ぼんくら」で起きた事件の深層を辿るような展開になっている。
真夏の暑さが続いている今、季節的にもぴったりで、夏に弱い平四郎のぐったりしたしおれぶりから始まるこの物語を、クーラーの下で読む。
「夏は暑いものですよ」
「それだからこそ、めりはりがあるのです。暑いときは暑いように暑がって過ごす。これがいちばん身体にはよろしい。しかし、最前からお顔を見ていると、井筒さまは少々暑がり過ぎのようですな。」
上巻の冒頭から平四郎はこう町医者に言われる。
耳が痛い(笑)
下巻の半ば過ぎまでは、「ぼんくら」でおきた事件や人物のかかわりの裏側がうまく短編集風にまとめられている。
江戸時代の長屋の人情深い付き合いや、それゆえ巻き込まれる悲しい運命や、避けられない生き方が語られている。
生活の営みの中には、ねたみや憎しみや、欲望や、自己保身といった人の持つ思惑がからんでさまざまな形を作っている。
そんな中にいて、並の世間からは浮いたような平四郎の味のある存在が光る。
聡明な弓之助、驚異的な記憶力を持つ「おでこ」気風のいい政五郎、手足になって動く手下たち。
キャラクターも面白い。
そして締めになる最後の章「鬼は外、福は内」でつつがなく、幸せな幕切れになる。
いい人はいい人のまま、読者を裏切らない幕切れになっている。
ちょっと辛味が効いていてもいいなと思うのは欲張りすぎか。
この暑い日、すべてが丸く収まるほどいいことはないだろう。
★4.5
あっさりと読める。「ぼんくら」から読むのが順当だろう