空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

ミステリのシリーズ作品を読むということ

2012-12-30 | その外のあれこれ


ミステリを読み始めてから、少しこうるさいことを思うようになった。表面に写る影を喜んで眺めていたのが、興味のままに少し潜ってみると、深い所に何かが見えてきた。

話は違うが、読書と並ぶくらい映画が好きだと思ってきた。それが少し前に近所に新しいレンタルビデオ店がオープンした、オープン価格は50円くらいだったので一気に週10作品を二年ほど続けて見た。

古今東西、見直しも含めて1000作ほどになった。その後困ったことに、それまで無邪気に楽しんでいた映画が、単に面白い、面白くないという印象から、その不満な理由がふつふつと生まれてきた。
面白くないのは脚本が悪い、原作も編集も悪い、役者が下手、画面がうるさい。結論が曖昧。テーマが興味本位で醜悪。カメラアングルが悪い照明も汚い。監督が悪乗りだ、等々。
映画を見るワクワク感が薄れてきた。
哀しいことになってしまった。
そこで、映画は出来るだけ映画館で。料金を払って観ると、はるばる出かけたことでもあるし、多少結果の責任は自分に帰る気がするもので。
時間の無駄は安いレンタルビデオだと相手のせいにすることが出来る。選んだ自分の安直さはさておき。
今後レンタルビデオは見逃した評判のいいものにしよう。と。
そして現在に至っている。

本だって買ったものは失敗したかなと思っても読みきる。図書館で借りたものは、途中で止めても少しは心が痛まなくなった、これも恐ろしい。
昔の活字飢餓感に謝らねばという気持ちをおさえる。まぁ買ったということで作者には許されるかも。

ミステリ小説についても、まだ読み始めたのは浅いけれど、少しあれこれと思うことが出てきた。将来が恐ろしい。

そこで、時間の無駄をなくすように、無難なシリーズものに頼ろうと思って借りたり買ったりしてきた。
ところが、そういうシリーズものはなぜか最初から読まないと面白くない、途中で、シリース最高の傑作、というのにつられて手にとってしまうと、内輪話についていけないことがある。よその家庭を覗いたような半端な思いがする。

へぇそんなことがあったの?と言いたくなる。
いつからそこに住むようになったの。私に断りもなく、などと勝手な不満が出てくる(笑)
あなたはどこから登場?見たことがないけど。
彼女とはそうなったの(野次馬)

ジェフリー・ディーヴァーは、 ロバート・B・パーカーは、 デニス・レヘインは、
クックは、コリン・デクスターはゴダードは。
そのほかまだお目にかかってないあの作品やのあの人この人は。



途中から読むと、たまに見る再放送の「相棒」で、片割れが薫チャンでは無くなったことに気づいたような、うら寂しさがある。


ただ 
次作が出るまでが長いし、読んでいても少し出来の悪いものもある。ファンだというのでたまにはそういうのもありさ、と許せるものもあるが、それでもいささか悲しい。
欲張ればきりがないとは思うけれど、限りある時間。限りない作品、次々に出てくる面白そうなミステリ。


普通の主婦が本の虫になるにはマダ早く、寝食を忘れていては生活が成り立たない。

年末だ、少しずつ御節の材料は揃えた、今日は挨拶にお墓参りに行こうと思ったが、朝ははげしい雨で順延。道はやたら混んでいるそうな
読書の総括でもしようかと思ったが。

一年間のちっぽけな悩みでも悩みは悩みだな。






↑ 上のイラスト、化けすぎてないかいという声に、私にカマワナイデ('-'*)エヘ



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「月への梯子」 樋口有介 文春文庫

2012-12-30 | 読書



この作家には、もっと違った秀作があったと思うが、なぜか図書館からの通知は書名が違っていた。
きっと私が選択を間違えたのだろう。と思うほど、よみやすくて一気読みにしても秀作とは思えなかった。残念。
面白くないというわけではない。ただ後に残すほどでもない。
一応、記録するけど。
別の作品で、自分なりの印象の訂正をしたい。

* * *

知能が小学生並みで、自分のことを僕というので、周りからボクちゃんと呼ばれている、福田幸男。

母が亡くなり独り暮らしになる前に、今後を心配した母からアパートを譲られ管理人になっている。
生活の心配はないので、器用な腕を生かして家の保全は自分でやってしまう、ついでに近所のものも手伝う。人柄は素朴で器用で、正直者なので評判がいい。

6部屋に住んでいるアパートの住人も個性はあるが穏やかに暮らしていた。

だが、アパートで殺人事件が起き、壁塗りに上がった二階の窓から死体を見たボクちゃんは驚いて、梯子から落ちてしまう。

そのショックで、頭の働きは元に戻り、ついでに体形も痩せて引き締まり、犯人探しの推理が出来るようになる。
事件のあと、平和そうに見えた住人の背景が、なかなか面倒なものだったと分かってくる。

* * *

というように話は始まるが、犯人探しの部分も少し興味を引くが、ボクちゃんの変身後が面白い、体も痩せてちょっとした二枚目になり、もてる。
過去のボクちゃんは心の隅に、こういう憧れも秘めていたのだろうか。
などと思いながら、それでも矛盾の多いこの話を楽しんだ。

終盤は、そうだったのかと、多少納得する部分も有るが、なんだか少し足りない、あまり深く考えないで読むのにはいいかな。
この作家には評価の高いものもあるようで、読み直して感想の記憶は上書きすることにする。





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「特捜部Q Pからのメッセージ」 ユッシ・エーズラ・オールスン 早川書房 ポケミス1860

2012-12-29 | 読書

特捜部Qを二冊読んで、3冊目のこの本を楽しみにしていた。

北欧ミステリ賞「ガラスの鍵」受賞に輝く著者の最高傑作!
と紹介がある。勢いに乗って「!」マークは私がつけた(^∇^)
600ページ近くますます大部になっていた。

何しろ、奇人変人の助手のアサドともローセとも友人気分、カール警部補とは同僚気分になって馴染んできた。

漏れ聞くとボトルメールが始まりらしい。波に運ばれたビンの中の手紙なんてロマンかも。

ケヴィン・コスナーのあのかゆくなるような悲恋映画まで頭の中に顔を出してきた。

海に囲まれたデンマーク、入り組んだ湾のコペンハーゲンならこういう話も生まれるだろう。

* * *

特捜部Qに、未解決だった誘拐事件の証拠品らしい、手紙が入った壜が届いた。スコットランドの北端で仕事をサボって海を見ていた警察官が拾ったものだ。
手紙は痛んでいたがかすかに文字が読み取れた。

書き出しは「助けて」

アサドとローセはこの手紙を拡大コピーして壁に貼り、何とかして読み解こうとしていた。二人は何を話しかけても夢中で壁のコピーを見上げている。
カールはしぶしぶこの捜査をすることになってしまった、もうこの二人には、ほかの事件の捜査は無理だとさじを投げた。

それでもカールは、よその管轄であったが連続放火事件の方が気になって仕方がなかった。

ローセは体調が悪く双子のユアサがやってきた、これもまたローセに輪をかけて変人だったが顔かたちはローセにそっくり、さすがに双子。幸いにアサドとも気が合って捜査が進んで行く。

手紙には差出人はPとだけしか読めなかったが、海辺の小屋に監禁された兄弟らしい。

アサドは例によって「可愛そうな兄弟をわれわれが」と息巻いている。


一方、子どものいる夫婦がいた。夫は仕事を口実に長期に家を空けることが多かった。
妻は夫の粗暴さを危険だと思っていたが、彼こそ、兄弟を誘拐して大金を稼いできた犯人だった。

デンマークにも国教とは別に巷には小さな閉鎖的な宗教が多くあった。その中でもひときわ外部から隔絶した宗教団体がいくつもあった。
彼はその中で子沢山の信者を選び、二人の子どもを誘拐、身代金を受け取ると一人を殺し一人を親元に帰していた。信者同士は家庭内のこのような事件は他人には隠していて、外部に、死んだ子は破門して追放した、というのを知っていた。財産のありそうな家族の中に入り込み、子どもを狙った犯人は常に成功を収めてきた。

Pもこうして誘拐された、手紙を書いた兄は殺され、帰ってきた弟は家族から離れた家に住んでいた。しかしやっとここまで辿り着き、あとを追って来たカールたちには、家族ともども閉鎖的で協力しない。

手紙は優秀な科学捜査部門の処理と、二人の助手の活躍でほとんど解読され、カールの鼻は、手がかりを少しずつ嗅きつけ、追いつめながら犯人に近づいていく。

* * *

大筋はこうだが、その中には犯人との知恵比べのような部分もある。犯人の過去も現在も事件に深く関わっている。
夫を怪しんだ妻の追跡劇もある。

一方なぜか連続放火の話が入る。話は次回まで続いて持ち越しということらしいが、こんな話はどうも紛らわしく、何のかかわりがあるのだろうと思った。

そんなこんなで、少し捜査が多岐にわたり、すっきりしない部分もある。

犯人が早くから登場するものは多く、話に厚みがあるが、今回は少しハードボイルドな部分が多い。

三作の中では一番の出来だと、裏表紙の力の入った紹介も分かる、標準以上の作品で読んでよかったが、どうも前作二つの方が面白かった。

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「ツナグ」 辻村深月 新潮社

2012-12-28 | 読書




ベストセラーで吉川英治文学賞新人賞受賞作。
一週間ほど前に借りて、期待して読み始めたが、気力が最低のときで、死者と繋がれたくないわ、と読むのを止めてしまった。
今日になって、そうだ「死神の精度」という面白い本を読んだなと思い(別に題名がそこはかとなく似た印象だったに過ぎないけど)読むことにした(笑)

この本は知識不足で、後回しにしてしまっていた。現実離れのしたフィクションではないかと思い直して読了。
映画化もされていたのに、これも知らなかったが。
映画紹介で、作者の「この小説が、必要にしている人のもとに、きちんと届いたらいいな」とメッセージがあった。

私には最初はどうもまっすぐに届かなかったけれど、力のある、感動的ないい作品だった。

ジャンルを問わず本好きの多くの方々にお勧めする。

図書館の本は、『待っている人が多いので出来るだけ早く返してください』に弱い。
そうでしょうそうでしょう、いつもより遅くなったが、メモしてすぐに返しに行くことにする。

* * *

短編集。
主人公は死者と生きている人をつなぐ使者<ツナグ>で、代々受け継がれてきた役目である。
高校生の渋谷歩美は祖母から頼まれて、後継者になる。

祖母からの教え、使者のマニュアル。
「こんにちは、僕がツナグです。」
「使者は生きている人間から依頼を受けます。物理的にはすでに,会うことが不可能になった、死んでしまった人間の誰に会いたいか受け、持ち帰って、対象となった死者に交渉します。」


引き継がせる祖母にはさまざまな理由があるが、それは最終章「使者の心得」に詳しい。


「アイドルの心得」
突然死したアイドルにファンのOLが会う。
沢山の志願者がいると思ったアイドルに思いがけなく会えることになるが。

「長男の心得」
山を売ることにした長男は、権利書のありかが分からない。
場所を知るために,亡くなった母に会いに行く。

「親友の心得」
高校生の二人は親友だった、お互いに半身ずつで一人のような深い付き合いだったが、演劇部で主役の座を巡って、亀裂が入り始める。
一方が自転車の事故で死んでしまった。残った一人は通学路に細工をした覚えが有り慙愧の念に縛られている。
二人は<ツナグ>を通して会うことになる。

「待ち人の心得」
7年前に失踪した女と結婚の約束をしていた。だが偶然道で出会ったその女は偽名で、故郷に帰るといったまま行方が分からなかった。<ツナグ>に頼んで会うということは、男女ともに、生きているかもしれないというかすかな望みを打ち砕き、現実を確かめることだった。

「使者の心得」
<ツナグ>を継ぐと決めた歩美は両親が亡くなっていた。
殺人か、心中か。
幼い記憶では、其の頃の出来事はおぼろげに覚えているだけだった。
祖母は彼の将来のため、<ツナグ>を継がせようとする。
今彼が会いたいのは両親だろうか、歩美の選択は。

* * *

それぞれの章は、人生の暗部を照らし出す光でもあり、不明だった過去の闇を明るみに出すことであったりする。
<ツナグ>ことで、人は救われたり、自分の本性と向き合ったりすることになる。
作者の温かい目に覆われた、よい作品だった。
その上、こういった世界に現実感を持たせる仕組みがうまく処理されて、納得できる作品になっている。面白い。


ネタバレになるかもしれないし、ならないかもしれないが、祖母が<ツナグ>のシステムを説明するシーンは、米ドラマの「ボーンズ」でアンジェラが作り出すPC映像を思い出した(^^)



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「アイアン・ハウス」 ジョン・ハート 早川書房 ポケミス1855

2012-12-22 | 読書


 


帯より
孤児院で育ち、生き別れた兄弟。兄は殺し屋に、弟は作家になった。二人りの人生がふたたび交わるとき、壮絶な過去が甦る。
「川は静かに流れ」「ラストチャイルド」を越えるジョン・ハート待望の長編小説。


555ページの力作。本が重かった。内容もまた一段と重く面白かった。
貧困の中の、それも極貧の生活ではどんな人間もまともに生きてはいけないだろう。アイアン・マウンテンの奥、崩れかけた孤児院から始まるこの物語は、弱い弟の生活と、兄の強さゆえに味わう悲哀の深さがより深く、こころに残る。

* * *

アイアンハウスは戦後の負傷兵の収容所だった。そこを買い取り孤児院にしたときは、すでに時の流れで崩れかけた骸のような建物になっていた。
荒廃は建物だけでなく、収容された子どもたちの心までも荒れ果て、中では暴力と盗みが横行していた。

孤児院にいた、捨てられた兄弟、弟のジュリアンは弱く、常に彼らの獲物になり虐待を受けていた。これを兄のマイケルがかばってきた。しかし追い詰められたジュリアンは、ヘネシーというボスを刺してしまう。

兄はその罪を代わり、孤児院からのがれ出る。

そのとき皮肉にも兄弟を引き取りに、上院議員夫人が来たところだった。
富豪の妻になった彼女は、残ったジュリアンを引き取り、目を向けた窓の外を、汚れた子どもが走って逃げるのを見た。

23年後、ジュリアンは流行作家になっていた。

一方マイケルは、孤児を集めてさまざまな生きるすべを探しながら、したたかに成長していった。

ギャングのボスがマイケルを見つけて手下にした。いつかボスとは親子のような情愛が生まれていたが、ボスは末期がんの苦痛の中でマイケルに殺してくれと頼む。ボスの莫大な遺産は、できの悪い息子にではなく、マイケルに託され、それが闘争の元になった。

ボスの息子たちはマイケルを追って、銀行口座や暗証番号を聞き出そうとする。

マイケルには妊娠中の妻がいたボスが死ぬ前に組織から抜ける許しを得ていたが、それで、妻も危なくなる。
妻はおびえ、子どものために姿を隠したいという、マイケルは別れが来たとこと知る。
妻は空港から故郷に帰り、マイケルは孤独と苦痛にさいなまれる。

ギャングとの闘争は目を覆うばかりに生々しくおぞましい。だがそこをくぐりぬけ、追っ手を逃れて、ジュリアンの屋敷で再会する。23年経って二人はよく似た顔立ちになっていた。

だが、その屋敷内の湖で、孤児院当時ジュアリアンを虐待したメンバーが次々に殺されて沈められていた。
ジュリアンは、夫人に守られ成長したが、子ども時代の悪夢からは開放されていなかった。

マイケルはほかの幼い子どもの中から、兄弟だけを引き取ろうとした上院議員夫人の過去を突き止める。

* * *

極貧がいかに過酷に神経を蝕むか、いじめられた恐怖がどのように尾を引いているか、哀切極まりない過去が、現在でもまだ癒えず、兄弟はそれから逃れるために命をかける。

ジュリアンは弱く、マイケルは強い、それぞれが背負った運命と戦う様子が重く、したたかに語られている。

予想以上の力作だった。精神の異常をきたしたジュリアンのことも、やはり状況によっては必要だったかも知れない。弱さを書きつくしているので、予想される展開ではあるが。ひとつの要素でもある。

ギャングとの闘争シーンや、残酷な描写は前作と少し違った荒々しさがあるが、彼の新しい面を見せている。

夫人と運転手の繋がり、かっての孤児院の監督者と頭の怪我で子どものままの孤児との暮らし。

複雑な過去も全てにかたちをつけ、解決に導いたジョン・ハートに拍手を送る。


 

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「月に歪む夜」 ダイアン・ジェーンズ 創元推理文庫

2012-12-21 | 読書

詳しいプロフィールがないが、中年のイギリス作家で、これが長編のデビュー作。
最近は、あまり翻訳小説が出ないので、出版されたものは有名作家のものか、ある程度読めるものなのだろうと思っている。
2012年9月刊の新しい本。

* * * 

50代になったケイトは、30年以上昔に恋人だったダニーの母から、会いたいという手紙を受け取る

1972年の夏休み、ダニーとサイモンは大学生だった、私(ケイト)と三人でサイモンのおじの家で、過ごすことになった。私は厳しい両親にフランスのおじの家で果物の収穫を手伝うと嘘をついていた。

うだるような夏の日、海岸でトゥルーディーという女の子に出会い、同居することになった。

二組のカップルが出来そうだったが、なぜかサイモンとトゥルーディーは友人以上には見えなかった。

しかし家事の出来ない私と違ってトゥルーディーは食事の用意もできて、当時のヒッピー風放逸な自堕落な生活を少しは引き締めていた。
ジミーとサイモンは、家を借りる代わりに、庭の管理と池を作る条件があった。

夏の日が照りつける中、彼らの作業は遅遅として進まなかった。
そのうち期限が近づくにつれ、なんとか掘り進んで形が出来てきていた。

だがこの頃、うまくいっていたはずの4人の生活は、暑い夏の日にあぶられ、
きまりのない崩れた暮らしの中から少しずつ崩壊し始める。

* * *

事件が起きてから(事件にはならなかったが)ケイトは、ダニーの母が瀕死の床で書いたらしい手紙を無視出来ず会いに行く。

若い日のダニーの写真を見せられても、息子を失った母の疑問には答えられない。

遠い夏のあの日、なにが起きたのを知っているのはもうケイトだけだった。

ケイトの現在と過去が交互に書かれる。面白い構成で、夏の暑さの中で狂っていく生活が、不気味な低音になり、それとなく先をにおわせる手並みは面白い。
単調にも見える生活描写が、次第に歪んでいく日々を写して、先を急がせる。
こうした中で起きた事件の原因も、謎も、ありそうな設定だが、興味深い展開になってクライマックスまで引きずられていく。
新人の作品にしては、瑕疵のない出来で、ダイナミックといえないまでも、暑い夏の描写も、狂って行くさまも、それぞれのキャラクターもよく出来ている。

登場人物も少なく、読みやすかった。

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「天地明察」 上下 沖方丁 角川文庫

2012-12-19 | 読書
 


 
 
将軍や大名に碁を指南する名家に生まれた渋川晴海は、譜面にある碁を打つことに飽いていた。
彼は、奉納の絵馬の中に算額というものがあるのを知る。


 そこで、算術と衝撃的な出会いをする、掲げられた算額にてんでに答えを書き込んであるのだが、中でも「関」という人物が即答して、出題者は「明察」と書いてある。彼は問題と回答を見て心身が震えた。

こうして晴海は算術と深く関わることになる。碁の相手は、江戸の家老であり老中であり、時には将軍の御前での展覧試合だった。
 
「暦」編纂の下地になる、北極星を目標にして全国の地を歩く、天文観測をするメンバーに選ばれる。

そして、当時使われていた「暦」が実情に合っていない、多少のずれがあるを確認する。
800年前に制定された「暦」は使っている間に一年のわずかなずれが重なって、結局は大きく二日の誤差を生んでいた。
それは、「暦」のずれが農業に関わることで有り、日食、月食が予想とずれることでもあった。

彼は、不動の北極星の角度から得意の算術で、各地の緯度と経度を測定する。

それを元に作り出した「暦」は自信作で公にも賞賛された。しかしまだ誤差が生じた。
なぜか、そして辛苦の末に、ついに基本になっているのが、中国の「暦」であることに気づく。
中国との距離と時間の差を埋めるべく彼は新しい「暦」大和の国の「暦」の編纂を始める。 
 
 
ストーリーのあらましをメモしたが、彼とともに「暦」編纂に加わった人々との交わりは爽やかで熱く胸を打たれる。
難しい算術や天文観察から割りだされる各地の位置計算などはさらりと流され読みやすくなっている。
和算の天才「関孝和」の話も、まさに天才とはこういうものだろう、一筋に打ち込む才能が、文化を深め、大衆を導いた様子が感動的だった。
若いころ、小学生と「旅人算」や「和差算」「鶴亀算」などを解いたことがある。
数学は苦手で特に幾何は悪夢だった。今でも穴の開いた二つの桶に水を入れる計算は苦手だ。ただ言葉の意味がわかる分大人になったということのようでw。
小学生向けだったが、即答できないで、こっそり代数で解き、途中でその意味を考えたこともある。
小学生達の受験はかわいそうだ、いつ遊ぶのかと公立育ちは内心首をひねったが。

この時代に、こんな難しい言葉のものを解いたのだろうか、読むさえ難儀するものを、と舌を巻いた。


読みやすく、人情話を交えて、言葉遣いも現代的、新しい世界を見たような、一冊だった。

 


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「湿地」 アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由美子訳 東京創元社

2012-12-06 | 読書


ガラスの銀賞2年連続受賞
CWAゴールドダガー賞受賞
いま世界のミステリ読者が最も注目する北欧の巨人ついに日本上陸

この帯を読んで期待して待っていた。久しぶりに完成度の高いミステリが読める。留守の間に来ていた図書館の予約確保のメールを開けてすぐに、借りてきた。
ストーリーは分かりやすく、読みやすいのだが、悲しいかな舞台が北極圏に近いアイスランド、登場人物の名前が出るたびに、コツンコツンとぶつかり、慣れるまで流れに乗りにくかった。

* * *

事件は、湿地帯に建った住宅地の中にある、石造りのアパートで起きた。
半地下にある部屋は湿気と、猛烈な馬屋に似た匂いが充満した居間で、70歳前後の白髪の男が頭から血を流して倒れていた。

レイキャヴィク警察の犯罪捜査官、エーレンデュルとジグルデュル=オーリ、エーリンボルクが男の過去、背後関係を調べ始める。

エーレンデュルは娘と居間に腰を下ろした、殺人事件の捜査と経緯と現状をくわしく話した。頭の整理でもあった。ここ数日間におきたことをはっきり把握するためでもあった。死体の発見、アパートの臭い、意味不明の走り書き、引き出しの奥から発見された写真、パソコンに満載されたポルノ、墓石に刻まれた言葉、コルブルンと姉のエーリン、ウイドルと謎の死因、いつも見る夢、刑務所のエットリデ、グレータルの失踪、マリオン・ブルーム、もうひとつのレイプの可能性、エーリンの家の窓の外に立った男、もしかするとホルベルクの息子かもしれない。エーレンデュルはできる限り論理的にこれらを話した。


異常な臭気から、湿地の上に建つアパートの床を調べ、破壊された下水道のために陥没した穴を見つける。

殺されたホルベルクの港湾労働者仲間、エットリデ、グレータルを追う。エットリデは刑務所にいて、ホルベルクにはコルブルンのレイプだけでなくもう一件レイプ事件があったことを匂わす。

40年前のレイプ被害者を探す。だが女性たちには家庭があり、難航する。

最初のレイプ被害者のコルブルンは警察に届けたが、ホルベルクが、合意だった、誘われた結果だと主張して不起訴になっていた。
もう一人の被害者にたどり着く。そしてその時期に生まれた息子がいるという。

事件はホルベルクの過去とともに意外な展開を見せて終結する。

* * *

アイスランドは10月の長雨で、垂れ込めた雲の下で暗い話が続いていく。
小さな島国に暮らす人たちの生活が伺える。
エーレンデュルはこの事件に関わる仕事にたまらなくうんざりして述懐する。

「どうしたらいいのかわからない。もしかすると何もしないほうがいいのかもしれない。なにも手を出さずに、ことが起きるままにさせておくのがいいのかもしれない。全てを忘れて。なにか意味のあることをするのがいいのかもしれない。なぜこんな惨めなことに首を突っ込むんだ?なぜエットリアのような悪党と話をしなければならないんだ。エディのようなごろつきと取引をしたりホルベルクのような人間がどんな楽しみをもっていたかなど知りたくもないのに、レイプの報告書を読んだり、ウジ虫ののたくる肥だめとなった建物の土台を掘り返したり、子どもの墓を掘り返したり、もううんざりだ!」

また

「人はこんなことに影響など受けないと思うものだ、こんなことすべて、なんとなくやりこなすほど自分は強いと思うものだ。年とともに神経も太くなり、悪霊どもをみても自分とは関係ないと距離をもって見ることができると思うのだ。そのようにして正気を保っていると。だが、距離などないんだ。神経が太くなどなりはしない。あらゆる悪事や悲惨なものを見ても影響を受けない人間などいはしない。へどがのどまで詰まるんだ。悪霊にとり憑かれたようになってしまう。一瞬たりともそれは離れてくれない。しまいには悪事と悲惨さが当たり前になって、普通の人間がどんな暮らしをしているのかを忘れてしまうんだ、今度の事件はそういうたちのものだ。しまいにはおれ自身、頭の中を勝手に飛びまわる悪霊のようなものになってしまうんだ」
エーレンデュルは深いため息をついた。
「この話はすべてが広大な北の湿地のようなものだ」


かれは自分の仕事に飲み込まれないようにつぶやく。
暗い悲惨な事件は、こうして彼の人となりも浮き彫りにする。

エンターテインメントとして成功しているが、不明な部分もある。双子の姉妹を襲った迷彩服の男はどうなったのか。結婚式から消えた花嫁は何の意味があるのか。

レイプ犯が集めた容量いっぱいのポルノ映像はいたずらに醜悪感を増すばかりで、殺された男の写真趣味も思わせぶりだ。
話を人間の醜悪さに徹するなら、上記のような独白は警察官の感傷に思える。


ストレートな簡潔なストーリーは面白いし、犯罪原因も目新しい。

読むには値するが、少し期待が過ぎたようだ。


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「植物図鑑」 有川浩 角川書店

2012-12-04 | 読書



「植物図鑑」って、どんなストーリーなのかとても興味があった。
勿論植物が絡んだ話にしても、植物にもいろいろある。
何度も書いているが、人に勧められると確かめもしないで読んでみる。そういう方法は当たりはずれがある。
この本も予備知識がなかった。

* * * 

集合住宅の1階に住む「さやか」がほろ酔い加減で帰ってくると入り口に若い男が倒れていた。
「拾ってくれませんか」という。怪しい風体でもなく、結構いい男だと感じたので拾うことにした。

一緒に暮らし始めると、彼は家事もうまい、特に料理がいい。さやかは夕食はコンビニ弁当で済ましていて料理は下手だったが、彼はこれでさらに得点アップ。高校生くらいから旅に出ているという、アウトドアの遊びも好きで、ついつい、さやかも外に出るようになる。

拾った男性(イツキ)に付き合って「さやか」も野山を歩いて、教えられた野草を摘んだりする。
彼はそれをうまく料理して出してくれる。さやかは野の風景を楽しみ季節の植物の料理の味を覚え、自然に触れて、生活観が変化していく。

勿論、お互いに理解が深まると愛情もわく。そして甘い同棲生活になる。

* * *

という話だった。最初の野草は「へくそかずら」から始まる。

恋愛中の二人が、野を歩いて、摘んで、料理して食べる。
イツキが作って持たせてくれるお弁当は、同僚にうらやましがられ、暖かい、いいお話になっている。

春の野草は、つくし、ふきのとう、たんぽぽ、クローバー、せいようからしな、のびる、よもぎ、すべりひゆ、など。
摘むのも楽しいが料理もおいしい。

面白い名前だという「へくそかずら」は何度か、「おおいぬのふぐり」も出てくる。

突然いなくなった彼が、いったい何者なのか、ちょっと気にかかるところもあって面白かった。

現実でも若い人たちはそうなのかもしれないが、二人のあまりの甘さ加減に渋茶が欲しくなった。

田舎で育つと、野草を食べるのは今でも楽しい。一年に一度は春菜を摘んで食べることにしているが、都会周辺の野山は、のびるなど、見られなくなり、たらの芽はスーパーに並んでいる。

花はかわいらしいのに可哀想な名前に「はきだめぎく」というのもあって、あちこちで見るたびに気の毒になる。
こういうことを書き出すと植物図鑑は止まらなくなるだろう。

図鑑コーナー並んだら楽しいなと有川さんは思ったそうだ。


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