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「ピンクとグレー」 加藤シゲアキ 角川文庫

2022-06-25 | 読書

 

ピンクとグレー (角川文庫)

この本は加藤ヒデアキさんのデビュー作だというので、読んでみた。タレント本という読みを離れて、一日もかからず読了した。#カドブン夏フェア2022
 
住んでいる芸能界が舞台で話の展開も滞ることがなく、主人公たち二人の青年の成長と挫折を真正面に見ている。
文芸作品のような暗い泥沼ではなく、精神的には重そうなタレントの世界の明暗も、新鮮な描写が印象的だった。

小学生の時に父親の転勤で大阪から横浜に来た河田大貴。
子供ながら少し斜に構えていたりする。
ところが真吾を「ごっち」と呼ぶようになり気がつけば同じマンションに住んでいる同級生の二人も加わって一緒に行動するようになる。
周りがスタンドバイミーのようだなどと言い、河田は少しリバー・フェニックスに似ているというので「りばちゃん」などと呼ばれるようになる。

学年が進み中学生になるころ真吾と大貴は親友になって同じ大学に進む。
学生時代はバンド仲間で、真吾は作詞、大貴はボーカル。
部屋代を折半して大学に近い安マンションに住んでいた。

ふたりに小さい芸能事務所から声がかかりとくにこだわってもいない世界から時々都合のいい仕事がくる。
アルバイトとは言っても、地味にチラシのモデルや通行人といった仕事をするようになった。

次第に写真などが認知され人気が出てくる鈴木真吾。
真吾にドラマの仕事が来て、芸名も白木蓮吾になった。主役の映画も作られた。
いつが彼は麻布十番のタワーマンションに住むようになり、その時当然同居するものだと思っていたりばちゃんが実家に帰るといった。

忙しくなって二人はいつか会うこともなく距離は開いていった。

久しぶりに同窓会が開かれ、スターの蓮吾は周りを囲まれ話す機会がなかった、別れ際に翌日に会いたいといった。
そして蓮吾を訪ねて行った日、彼の姿を目にすることになる。


ふたりの想い出が大貴を過去に呼び戻す。蓮吾との友情と裏に潜んでいるそれぞれの孤独を感じてはいるが、それは芸能界の持っている影に次第に飲み込まれていった。
大貴は今も芸能界から離れることもなく、細い糸でつながりながらも定職はなく今ではフリーターと呼ばれる生き方をしていた。
蓮吾と共に彼はすべてを失った。

芸能人が芸能界を書く事で物語に真実味が加わっている。
若い頃の喪失感はどの時代でも、その時を過ごした後で多少は思い当たるような部分がある。

よくできた青春小説というものは、読んでみれば何かもの悲しい思いで帰らない時代を思い出す。
加藤シゲアキという作家のデビュー作は新鮮な感覚が満ちたいい作品だった、描写も巧みで、文章も爽やか、内容は重い悲しみに満ちていても、読後感はよかった。

思えば文豪も青春小説から始めていたりする。井上ひさし作「モッキンポット氏の後始末」
石川達三だと「青春の蹉跌」漱石「坊ちゃん」海外でも続々と名作が浮かぶ。

若い作家が初めて世に出す作品ということで、世代の差だろうか共有する世界が少しずれる感は致し方ないと思う。もうとっくに通り過ぎた思い出の世界ということで。

 
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