①モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番
ピアノ:イヴォンヌ・ルフェビュール
指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー
管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
②リパッティ名演集
バッハ(ケンプ編):フルートソナタ第2番より
バッハ(ブゾーニ編):衆讃前奏曲「来たれ、異教徒の救い主よ」
:衆讃前奏曲「イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ」
ブラームス(ピアノ連弾):円舞曲集(Op.39)第6、15、2、1、14、10、5、6番
ピアノ:ディヌ・リパッティ
ナディア・ブーランジェ(ブラームス:ピアノ連弾)
録音:1954年5月15日(モーツアルト)/1950年7月(バッハ)/1937年2月(ブラームス)
発売:1970年
LP:東芝音楽工業 AB‐8125
このLPレコードは、ドイツ出身の大指揮者、フルトヴェングラー(1886年―1954年)とルーマニア出身の名ピアニスト、リパッティ(1917年―1950年)の両ファンの熱烈な要望に応えて企画され、発売されたものである。つまり、フルトヴェングラーとリパッティの演奏を1枚のLPレコードに収めなければならない必然性は特にはない。このため、他の1枚のLPレコードように全体として一貫性のある内容とはなっておらず、当時絶大なる人気を誇ったフルトヴェングラーとリパッティを、共演ではなく1枚のLPレコードに収めること自体に意義があったのである。結果的に、このLPレコードは、音質はともかく、演奏内容の高さにおいては超一流なものとなった。まずA面のモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番は、イヴォンヌ・ルフェビュール(1898年―1986年)の純粋な演奏内容に心が奪われる。LPレコード化の狙いは、フルトヴェングラーの伴奏指揮にあったのではあるが、結果的にリスナーは、ルフェビュールのピアノの素晴らしさを発見することになる。フルトヴェングラーの伴奏指揮は、ピアニストに何のお構いもなく、従来通りの厳格な演奏姿勢は一切崩していない。イヴォンヌ・ルフェビュールは、フランスのピアニスト、音楽教育者。ほとんど遺された録音がなく、このLPレコードが唯一の録音盤と言ってもいいほど。その唯一遺されたこのLPレコードにおけるルフェビュールの演奏内容は、如何にもモーツァルトらしい典雅さに満ち溢れ、きちっと整ったモーツァルトを聴かせてくれている。一方、B面の“リパッティ名演集”においては、リパッティが、バッハのピアノ用に編曲された作品を3曲に加え、リパッティのピアノの先生であったナディア・ブーランジェ(1887年―1979年)との連弾でブラームスの円舞曲集を弾いている。録音はあまり芳しくないが、その高貴な演奏内容は相変わらずで、リスナーの心を揺さぶらずにはおかない。ブーランジェとの連弾演奏は、聴いているだけでその楽しさが伝わってくるようだ。ナディア・ブーランジェは、フランスの作曲家、指揮者、ピアニスト、音楽教育者。今でこそ女性の指揮者はそう珍しくもないが、ブーランジェは、1912年デビューを果たした女性指揮者の先駆者といえる存在であった。さらに、音楽教育者としては、数多くの人材を輩出しており、当時の有名なピアニストの先生として、ブーランジェ女史の名前はしばしば登場していた。(LPC)