★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アルトゥール・シュナーベルのベートーヴェン:ピアノソナタ第27、31、32番

2023-12-07 09:38:55 | 器楽曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノソナタ第27番/第31番/第32番

ピアノ:アルトゥール・シュナーベル

録音:1932年1月&2月(第27番)/1932年1月(第31番)/1932年1月&4月&5月(第32番)

LP:東芝EMI EAC‐30209

 アルトゥール・シュナーベル(1882年―1951年)は、オーストリア生まれの名ピアニスト。ウィーン音楽院で学んだ後、ベルリンで活躍する。さらにアメリカに渡り、ベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏を7夜にわたって開催し、以後“ベートーヴェン弾き”として名声を得る。そして1932年から1939年にかけて、世界で初となるベートーヴェン:ピアノソナタ全集とベートーヴェン;ピアノ協奏曲全集の録音を完成させた。同時にベートーヴェンのピアノソナタの研究者としても名高く、解釈を詳細に楽譜に記載したことでも知られる。このLPレコードは、世界で初のベートーヴェン:ピアノソナタ全集の録音から、後期の第27番/第31番/第32番の3曲を収めた一枚。現在の録音レベルからすると、このLPレコードの音質はかなり貧弱(SPレコードからの複製)なもので、一般的には薦めることは憚れるが、しかし、ピアノタッチの音は一音一音しっかりと捉えられているので、充分とは言えないまでも、鑑賞には耐えられる。なにより大切なことは、ベートーヴェンのピアノソナタ演奏史上からは、このLPレコードは、現在でも不滅の光を放っている、ということである。藁科雅美氏はこのLPレコードのライナーノートに「レコードとの長い付き合いの中で、もっとも画期的な出来事は、アルトゥール・シュナーベルのベートーヴェン:ピアノソナタ全曲盤であった」と書いてある通り、当時は、あらゆるピアニストが録音したレコードを買い集めても、ベートーヴェン:ピアノソナタ全曲を聴くことはできなかったのである。さらに藁科氏は「“ベートーヴェンを発見した男”という彼の例えは、原点に立ってベートーヴェンの作品を見直し、ロマン的に歪曲された解釈を排除すると共に、ベートーヴェンの全ピアノ曲にあまねく光を与えて、その真価を世人に認識させた巨匠」とシュナーベルの功績を称えている。このLPレコードで第27番/第31番/第32番の3曲を演奏を聴くと、実にオーソドックスで、力強さに満ちた演奏であることが分る。要するに我々が思い描くベートーヴェン像がそこにはあるのだ。このようなベートーヴェンのピアノソナタの解釈は、現在では当たり前のことのようになっているが、当時はロマン派的な解釈が主流で、シュナーベルのような解釈はむしろ異端であった。しかし、現在では、シュナーベルの解釈こそが正統であると広く認められている。その意味でも、これは時代を越えて、存在価値のある貴重なLPレコードなのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルのベートーヴェン:交響曲第1番/第2番

2023-12-04 09:54:53 | 交響曲(ベートーヴェン)


ベートーヴェン:交響曲第1番/第2番

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音:1961年12月27日~28日(第1番)/1961年12月30日、1962年1月22日(第2番)、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MG4001(2535 301)

 このLPレコードの録音記録を見ると、ベートーヴェン:交響曲第1番が1961年12月27日~28日、同第2番が1961年12月30日、1962年1月22日とある。場所は、ベルリンのイエス・キリスト教会である。この頃、カラヤンはどのような指揮活動を展開していたのであろうか。カラヤンが生まれたのが1908年であるから、この当時、53歳と指揮者としては正に円熟期を迎えたときの録音となる。カラヤンは第2次世界大戦後、1948年にウィーン交響楽団の首席指揮者に就任。1951年には、戦後再開したバイロイト音楽祭の主要な指揮者として抜擢されている。そしてフルトヴェングラーが急逝した翌年、1955年にベルリン・フィルの終身首席指揮者兼芸術総監督に就任し、1989年まで34年もの長期間この地位にとどまった。1957年には同楽団と初の日本演奏旅行を行う。また、1956年にはウィーン国立歌劇場の芸術監督に就任(1964年に辞任)し、正に“帝王”の名をほしいままにしていた。このLPレコードの録音は、丁度その頃行われたもので、カラヤンの“帝王”ぶりが、いかんなく発揮された演奏内容を聴くことができる。第1番の第1楽章は、ゆっくりと始まる。実に恰幅のいい演奏である。こんな堂々とした「第1番」は滅多に聴けるものではない。何かこれから始まるベートーヴェンの傑作交響曲の出現を預言するかのような指揮ぶりだ。一般にベートーヴェンの交響曲第1番は軽く、軽快に演奏されることが多いが、カラヤンとベルリン・フィルは、軽く、軽快には演奏しない。カラヤンもベルリン・フィルもその真逆を行くのだ。第2楽章は、静かな広がりが印象的。第3楽章になって、ようやく軽快なベートーヴェンの足取りが聴き取れるようになる。第4楽章におけるベルリン・フィルの演奏技術の巧みさとカラヤンの演出力の確かさには脱帽だ。特に交響曲第2番は、カラヤンとベルリン・フィルの本領発揮の録音。第1楽章は、張りつめた緊張感がひしひしとリスナーに伝わってくる演奏内容だ。第2楽章の、この輝かしさと美的感覚のバランスの良い名演奏ぶりはどうだ。第3楽章は、伸び伸びと機智に飛んだ演奏とでも表現したらいいのか。そして第4楽章は、ベートーヴェンとカラヤンとベルリン・フィルの心が一つとなって、音楽を楽しんでもいるかのような、厚みのある音と盛り上がりがとにかく素晴らしい。これは、巨匠カラヤンの存在感を存分に見せつけた録音だ。(LPC)

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