シューベルト:「しぼめる花」による変奏曲 op.160(D.802)
ベートーヴェン:ピアノとフルートのためのセレナード op.41
フルート:オーレル・ニコレ
ピアノ:カール・エンゲル
録音:1963年、ベルリン
LP:キングレコード K17C‐9296
このLPレコードに収められたシューベルトの「『しぼめる花』による変奏曲」とベートーヴェンの「ピアノとフルートのためのセレナード」は、2曲とも誠に愛らしい小品であり、クラシック音楽リスナーのビギナーが聴くのに適している。2曲とも明快なメロディーに彩られており、思わず口ずさみたくなる程だ。昔はこんな曲がラジオからよく流れていたが、どうも最近は聴く機会が少ない。これはクラシック音楽に対する耳が肥えたことによると思われるが、決していいことだとは私は思っていない。ビギナーにいきなりブルックナーの交響曲を聴かせて、「これが本物のクラシック音楽なのだ」と言ってばかりいると、将来、日本のクラシック音楽界は先細りしてしまう。ところでここで演奏しているオーレル・ニコレ(1926年―2016年)は、残念ことに2016年1月29日に90歳で亡くなってしまった。このLPレコードが発売された当時は、一世を風靡したスイス出身の名フルート奏者であった。1948年の「ジュネーブ国際コンクール」で優勝し、ベルリン・フィルなどのオーケストラのフルート奏者さらにソロ奏者としても活躍した。明快で端正な奏法で多くのリスナーから愛された。武満徹は「ヴォイス」のほかに遺作「エア」をオーレル・ニコレの70歳の誕生日を祝して書き遺している。このLPれこーどでピアノ伴奏しているカール・エンゲル(1923年―2006年)はスイス出身で、1951年「フェルッチョ・ブゾーニ国際ピアノ・コンクール」第3位、1952年「エリザベート王妃国際音楽コンクール」第2位という実力の持ち主。おもに伴奏者として活躍した。そんな2人が演奏したこのLPレコードは、昔を知る者にとっては懐かしさが込み上げてくる録音なのである。2曲とも2人のコンビネーションが抜群によく、聴いていて疲れが心底から取れる感じがする。シューベルト:「『しぼめる花』による変奏曲」は、シューベルトが作曲した唯一のフルートとピアノのための作品で、歌曲集「美しき水車小屋の娘」の第18曲「しぼめる花」を主題とした曲。序奏と主題、そして7つの変奏からなっている。一方、ベートーヴェン:「ピアノとフルートのためのセレナード」は、「フルート、ヴァイオリン、ヴィオラのためのセレナード」op.25の編曲であるが、編曲者はベートーヴェン自身でなく、ベートーヴェンは最終的に校正を見ただけのようだ。全曲は6楽章からなり、原曲のフルートのパートは一部を除いてほとんどそのまま残しており、ヴァイオリンとヴィオラのパートをピアノに編曲している。(LPC)