★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇「メシアン・コンクール」の優勝者ミシェル・ベロフらによるメシアン:「世の終わりの四重奏曲」

2022-01-13 09:52:03 | 室内楽曲


メシアン:「世の終わりの四重奏曲」

       (ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノのための四重奏曲)

ヴァイオリン:エーリッヒ・グリーエンベルグ
チェロ:ウィリアム・ブリース
クラリネット:シルバーズ・ド・ペイエ
ピアノ:ミシェル・ベロフ

LP:東芝EMI EAC‐30347

 メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」は、1940年に作曲された。メシアンが、第二次世界大戦においてドイツ軍の捕虜となり、ゲルリッツにあった収容所に収容されていたときに作曲した曲で、曲想は「ヨハネの黙示録」第10章第1節から第2節、第5節から第7節からメシアンが必要部分を抜き書きした文章に基づいている。初演は、極寒の収容所内の数千人の捕虜を前で、ジャン・ル・ブーレール(ヴァイオリン)、アンリ・アコカ(クラリネット)、エティエンヌ・パスキエ(チェロ)、オリヴィエ・メシアン(ピアノ)によって行われたという。全曲は、8つの楽章からなる。「8」は、天地創造の6日の後の7日目の安息日が延長し、そして不変の平穏な8日目が訪れるが、8つの楽章はその「8」に由来する、とされている。第1楽章:水晶の典礼。第2楽章:世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ。第3楽章:鳥たちの深淵。第4楽章:間奏曲。第5楽章:イエスの永遠性への賛歌。第6楽章:7つのトランペットのための狂乱の踊り。第7楽章:世の終わりを告げる天使のための虹の混乱。第8楽章:イエスの不滅性への賛歌。私は、このメシアンの「世の終わりの四重奏曲」を初めて聴いたときは、実は「何とも奇妙な曲だな」という感想しか持ち合わせなかった。通常、普通の曲ならこれで正に終わってしまうのだが、最初に聴いた後になっても、この曲の存在が何となく気になってしょうがなかった。特に、最後にピアノの音が消え去っていくような荘厳な趣のある終楽章は、耳の奥に響き続けるのだ。そして、その後何回も聴いていくうちに、何か呪文でも唱えている人に自然に引き寄せられるように、今ではこの曲を聴くと一種の安らぎすら覚える程になった。こんなことを経験する曲などは滅多にあるものではない。メシアンがキリスト教に深く帰依しており、この曲が「ヨハネ黙示録」に基づいて作曲されということが、何か人を引き付けずにはおかない源泉なのかもしれない。このことと、現代作曲家としてのメシアンの才能とが融合し、不思議なメロディーと和声を持った、この名曲が生まれたのだ。メシアンの真に独創的な作曲技法は、他の多くの凡庸な現代作曲家とは大きく隔たりがある。そんな、メシアンの初期の傑作を、「メシアン・コンクール」の優勝者で、メシアンの権威者の一人、ピアニストのミシェル・ベロフ、それにクラリネットの名手ド・ペイエを含むメンバーが演奏したのがこのLPレコードである。この曲の持つ不思議な美しさを最大限引き出した名演奏といって過言なかろう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管弦楽団のモーツァルト:交響曲第38番「プラーハ」/ 交響曲第39番

2022-01-10 09:45:25 | 交響曲(モーツァルト)


モーツァルト:交響曲第38番「プラーハ」
       交響曲第39番

指揮:パブロ・カザルス

管弦楽:マールボロ音楽祭管弦楽団

録音:1968年7月7日&14日(第38番)/1968年7月12日(第39番)、米国マールボロ(ライヴ録音)

LP:CBS/SONY 13AC 947

 このLPレコードは、マールボロ音楽祭(米国バーモント州)における “チェロの神様” パブロ・カザルス(1876年―1973年)が指揮したライヴ録音盤である。カザルスは、スペインのカタルーニャ地方の出身で、チェロの近代的奏法を確立したことで知られる。その演奏内容は、深い精神性に根差したもので、20世紀最大のチェリストとも言われる。特に、「バッハの無伴奏チェロ組曲」(全6曲)の価値を再発見し、広く知らしめたことで知られる。また、カザルスは平和活動家としても名高く、あらゆる機会を捉え、音楽を通じて世界平和を訴え続けた。最晩年の1971年10月24日には、ニューヨーク国連本部においてチェロの演奏会を行い、「私の生まれ故郷カタロニアの鳥は、ピース、ピース(平和)と鳴くのです」と語り、「鳥の歌」を演奏したことが、当時大々的に報道され、日本でも大きな話題を呼んだ。カザルスはその2年後、96年の生涯を終えている。指揮はいつ頃から開始したかというと、1908年(32歳)からのようだ。マールボロ音楽祭は、1951年にピアノの巨匠ルドルフ・ゼルキンらによって始められたが、このLPレコードでのカザルスの指揮は、これまでのモーツァルトの音楽の概念を一掃してしまう程、実に堂々とした構成美で貫かれている。流麗なモーツァルトでなく、男性的な力強いモーツァルト像を描き出す。第38番「プラーハ」は、ゆっくりとしたテンポと軽快なテンポを相互にからみつかせて、実に爽やかなモーツァルト像を描く。一方、第39番は、どの指揮者よりもスケールが大きく、雄大なモーツァルトの音楽を構築しており、モーツァルトがこの曲に投入したエネルギーの全てを、カザルスは我々の前に余す所なく再現してくれている。私は、こんなに堂々とした第39番をこれまで聴いたことがない。いずれの録音も演奏中のカザルスの肉声が入っていることでも分る通り、カザルスはその音楽性をこの演奏に全て投入したことが歴然と分る演奏内容だ。他に較べるものがないくらい風格のある演奏であり、同時に記念碑的な貴重な録音でもある。このLPレコードのライナーノートに諸井 誠(1930年―2013年)は、「カザルスはモーツアルトのシンフォニーを、遠慮会釈なくドラマチックに表現してみせる。時にはグロテスクなほどに・・・。そこには、これまで私の知らなかったモーツァルト像がある。 ・・・それにもかかわらず、超絶の人、パブロカザルスは、依然として私を敬虔な気持ちにさせるのである」と書いている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジョコンダ・デ・ヴィトーのブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」/第3番

2022-01-06 09:40:32 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


ブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」/第3番

ヴァイオリン:ジョコンダ・デ・ヴィトー

ピアノ:エドウィン・フィッシャー

LP:東芝音楽工業 AB 7080

 このジョコンダ・デ・ヴィトー(1907年―1994年)の弾くブラームスのヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」/第3番のLPレコードは、現在に至るまでこの盤を凌駕する録音は現れていないと断言してもいいほどに優れた演奏内容となっている。深く思考するような、そのヴァイオリンの弓遣いは、他の誰にも真似のできないほどの高みに達しており、圧倒される。曲の進め方も実にメリハリが利いたものに仕上がっていおり、その高い完成度は他の追随を許さない。同時にブラームス特有のロマンの香りも感じられ、決して堅苦しい感じは受けないところがさらに凄いところだ。第1番は「雨の歌」という愛称が付けられているが(第3楽章冒頭の主題が、グロートの詩にブラームスが作曲した歌曲「雨の歌」op.53からとられているため)、何かシトシトとそぼ降る雨を肌で直接感じられるような名演だ。第3番は、力強くあると同時に、曲の持つ深遠でスケールの大きな骨格を忠実に再現しており、ヴァイオリンソナタの限界まで追い求めるジョコンダ・デ・ヴィトーの執念みたいなものが聴くものに伝わって来る。ジョコンダ・デ・ヴィトーは、南イタリアのマルティーナ・フランカ出身。パリ音楽院で学ぶ。1921年16歳で楽壇デビューを果たしたが、演奏活動を本格化せずに、パリ音楽院に戻り、さらに研鑽を積んだ。1932年25歳で「ウィーン国際ヴァイオリン・コンクール」で優勝。その後あまり多くは演奏会には出演しなかったが、1942年35歳で11年間研鑽を積んだブラームスのヴァイオリン協奏曲でローマにおいてデビューを果たし、一躍イタリアのヴァイオリン界にその名を知られることになった。要するにジョコンダ・デ・ヴィトーは、典型的な大器晩成型のヴァイオリニストであったわけである。バッハとブラームスを得意としていた。パリ音楽院で学んだためか、イタリアの演奏家にしては内省的で精緻な演奏内容との評価を受けていた。このLPレコードでのエドウィン・フィッシャー(1886年―1960年)のピアノ伴奏も実に的確で、完全にヴァイオリンと一体化している。この録音に際しては、確か、当初は天才ヴァイオリニストとして知られていたジネット・ヌヴー(1919年―1949年)が予定されていたが、ジネット・ヌヴーの航空機事故による不慮の死によって、急遽ジョコンダ・デ・ヴィトーにバトンタッチされたということを、何かの本で読んだことがある。そう思って聴くと何か、ジネット・ヌヴーの執念が籠った、鬼気迫るような演奏にも感じられる録音だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のベルリオーズ:レクイエム

2022-01-04 09:37:35 | 宗教曲


ベルリオーズ:レクイエム

         永遠の安息を与えたまえ、主よ憐みたまえ
         怒りの日
         妙なるラッパの響き
         哀れなるわれ
         みいつの大王
         われをたずねんと
         涙ながらの日よ
         奉献誦―主、イエス・キリスト
         讃美のいけにえ
         聖なるかな
         神の子羊

指揮:シャルル・ミュンシュ

管弦楽:ボストン交響楽団

テノール:レオポルド・シモノー

合唱指揮:ローナ・クック・デ・ヴァロン

合唱:ニューイングランド音楽学校合唱団

発売:1973年

LP:RVC(RCA) RGC-1097~1098

 ベルリオーズは、「最後に1曲だけ手元に残すとすればどの曲?」と質問を受けたとき、即座に「レクイエム」と答えたそうである。それだけベルリオーズにとって思い入れが深い曲なわけである。時の政府が作曲家に4000フランの賞金を出し、ミサまたはオラトリオを作曲させるという施策を打ち出し、白羽の矢が立ったのがベルリオーズであった。1837年3月に正式な依頼があり、完成したのが同年6月なので、ベルリオーズは4か月という短時間でこの大曲を完成させたことになる。ベルリオーズが最初に考えた編成は、次のような大規模のものだったようだ。合唱310人、テノール1人、ヴァイオリン50人、ヴィオラ20人、チェロ20人、コントラバス18人・・・で、事情が許せば合唱団は2~3倍に増やし、それに見合ってオーケストラも増やすという途方もない計画だったようだ。このため、このレクイエムは「システィンの壁画を描いたミケランジェロに匹敵する」とさえ評された。この曲は、レクイエム(死者のためのミサ曲)であるので宗教曲であるのには間違いないのであるが、例えば、バッハのロ短調ミサのような宗教曲そのものというより、何かフォーレのレクイエムのような、ロマンの香りがそこはかとなく漂い、聴きやすい宗教曲仕上がっている。このLPレコードで指揮をしているシャルル・ミュンシュ(1891年―1968年)は、当時ドイツ領であったアルザス・ストラスブールの出身で、のちフランスに帰化した名指揮者。1926年ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の奏者となり、1932年まで楽長のフルトヴェングラーやワルターの下でコンサートマスターを務める。1929年パリで指揮者としてデビュー。1937年~1946年パリ音楽院管弦楽団の指揮者、1949年~1962年ボストン交響楽団の常任指揮者を務める。1967年パリ管弦楽団が設立された際には初代の音楽監督に就任したが、翌年同団とともに演奏旅行中、アメリカのリッチモンドで急逝した。テノールのレオポルド・シモノー(1918年―2006年)は、カナダ出身。ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン劇場、ローマ国立歌劇場などで世界的に活躍し、特に同時代を代表するモーツァルト歌手として名声を博した。このLPレコードでのシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏は、この大曲の持つスケール感を存分に表現すると同時に、美しい表情も盛り込み、聴くものを魅了する。特にボストン交響楽団の管楽器群の迫力には圧倒される。この曲を代表する名盤。(LPC)

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