★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ルイ・フレモー指揮モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団のフォーレ:レクイエム/ラシーヌの雅歌

2021-10-11 09:55:28 | 宗教曲


フォーレ:レクイエム/ラシーヌの雅歌

指揮:ルイ・フレモー

管弦楽:モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団

合唱:フィリップ・カイヤール合唱団

オルガン:シャノワーヌ・H・カロル

バリトン:ベルナール・クルイセン

ボーイ・ソプラノ:ドゥニス・ティリェス

発売:1975年

LP:ビクター音楽産業(RCA) ERA‐1045

 フォーレのレクイエムを聴くたびに心が洗われる思いがする。宗教に疎い俗人の私が聴いても、聴くたびにその深い宗教的雰囲気に圧倒される。圧倒されると言ってもフォーレのレクイエムの場合は、静かで、あらゆる俗世間の束縛から解放され、ただ、ひたすら質素で純粋な祈りの精神に圧倒されるのだ。こんなにも美しい宗教音楽があるなんて信じられないくらいである。誰が聴いても、例えクラシック音楽をあまり聴かない人が聴いても、聴きやすいメロディーに背後にある、精神性の高さに自然と引き寄せられることは間違いない。フォーレは自分の父の死に際しこの曲を書いたようであるが、自分自身の葬儀においても演奏されたそうである。フレモーの指揮はそんな曲の真髄を存分に聴かせてくれる。フォーレは、ある人に宛てた手紙に「私のレクイエムは、死に対する恐怖感を表現していないと言われており、なかにはこの曲を死の子守歌と呼んだ人もいます。しかし、私には、死はそのように感じられるのであり、それは苦しみというより、むしろ永遠の至福の喜びに満ちた開放感に他なりません」と書いている。これを読めば分かる通り、このレクイエムは、伝統的な慣習に則ってつくられた曲ではなく、”永遠の安らぎに対する信頼感”を根底に書かれた曲だ。フォーレのレクイエムは、当時のカトリックの死者のためのミサに欠かせない「怒りの日」などが欠けており、そのままでは、ミサに用いることはできない。このため、初演の時は、「斬新すぎる」「死の恐ろしさが表現されていない」などといった批判が出たという。しかし、現在ではフォーレの狙いが理解され、演奏会用レクイエムの傑作として高い評価を得ている。このLPレコードで指揮しているルイ・フレモー(1921年―2017年)は、フランスの出身。レーニエ3世の依頼でモンテカルロ歌劇場管弦楽団(現モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団)の首席指揮者を務めた。モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団は、モナコのモンテカルロに本拠を置き、1856年に設立された。1980年からはモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団という名称に統一された。その後、バーミンガム市交響楽団の音楽監督、シドニー交響楽団の首席指揮者を務めた。このLPでのフレモーの指揮ぶりは、フォーレの意図した”永遠の安らぎに対する信頼感”をベースに置き、”苦しみというより、むしろ永遠の至福の喜びに満ちた開放感”をオーケストラの音から引き出すことにものの見事に成功している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジークフリート・ベーレントのロドリーゴ:アランフェス協奏曲/テデスコ:ギター協奏曲第1番 

2021-10-07 09:40:13 | 協奏曲


ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
テデスコ:ギター協奏曲第1番 

ギター:ジークフリート・ベーレント

指揮:ラインハルト・ペータース

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5192

録音:1966年5月9日~13日 ベルリン、イエス・キリスト教会

 私は、ギター音楽を聴く機会はそう多いとはいえないが、昔、AMラジオのスピーカーから流れてくるロドリーゴのアランフェス協奏曲だけは例外で、よく聴いたものだ。その第2楽章の何とも言えないエキゾチックなメロディーを聴くと、何か時空を超えてはるか遠くのアランフェスの城はどんな処であろうかと想像を働かせながら聴いたものである。そして今、このLPレコードを改めて聴いてみると、何か遠くのアランフェスの空気が、ジークフリート・ベーレント(1933年―1990年)の柔らかいギターの音色に乗って、頬に吹きかかるような錯覚に捉われる。アランフェスに行ってみたくなる気分に捕らわれる。これはLPレコードの音質だからこそ余計言えることだと思う。ほぼ同時代に書かれたB面のテデスコのギター協奏曲第1番も、心に沁みわたる佳作である。現代スペインの楽壇の大御所ホアキン・ロドリーゴ(1901年―1999年)は、悪性ジフテリアのため4歳で失明するが、バレンシア音楽院からパリのエコールノルマルへと留学し、音楽を習得。また同時に、デュカスの教えを得ることもできた。スペイン戦争時代はドイツにいたこともあったが、1939年からは、マドリードに定住し、作曲に集中。ヴァイオリン、チェロ、ハープ、さらにギターによる作品を次々と発表した。ロドリーゴ自身はギターを弾かなかったようであるが、このスペイン的楽器をこよなく愛し、独奏曲の十数作品に加え、管弦楽との協奏曲も作曲した。アランフェス協奏曲のアランフェスとは、マドリードから約47㎞ほど南の土地の名前だ。乾燥した中央スペインの高原地帯にあって、アランフェスは森の緑に恵まれ、オアシスを形成しているため、昔から王侯の憩いの場所になっていた。ロドリーゴ自身の言葉によると、アランフェス協奏曲は、「憂愁にとらわれたフランシス・デ・ゴヤの影、貴族的なものが民衆的なものと溶け合っていた18世紀スペイン宮廷の姿」を表した作品だという。一方、このLPレコードのB面には、テデスコ:ギター協奏曲第1番が収められている。マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895年―1968年)は、イタリアのフィレンツェ生まれ。ファシスト勢力の圧迫を避け、1939年にアメリカに渡り、以後アメリカを拠点に作曲活動を行った。如何にもイタリア人らしい表情豊かな作曲家であったが、中でも目立つのがアンドレス・セゴビア(1893年―1987年)との出会いから生まれた数十におよぶギター曲で、その代表作がギター協奏曲第1番である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヴンダーリッヒ、最期のリート録音盤

2021-10-04 09:45:07 | 歌曲(男声)


ベートーヴェン:アデライーデ/あきらめ/こまやかな愛(君を愛す)/キス
シューベルト:夕映えの中で/リュートに寄せて/ます/
       双子座の星に寄せる舟人の歌/ミューズの子
シューマン:歌曲集「詩人の恋」

テノール:フリッツ・ヴンダーリッヒ

ピアノ:フーベルト・ギーゼン

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5186

録音:1965年10月31日~11月3日、ミュンヘン高等音楽院

 このLPレコードは、不世出の名テナーのフリッツ・ヴンダーリッヒ(1930年―1966年)が、1965年にウィーンとザルツブルク音楽祭で行ったリサイタルと全く同じ曲目と伴奏者で録音した、最期のLPレコード。ヴンダーリッヒは、不慮の事故死を遂げてしまうのだが、当時、戦後ドイツが生んだ最高のリリック・テノールと評され、将来が嘱望されていただけに、その突然の死は多くの人に驚きと悲しみを与えた。フリッツ・ヴンダーリヒは、ドイツ出身のテノール歌手。フライブルク音楽大学で声楽を学ぶ。1954年、モーツァルト:歌劇「魔笛」のタミーノ役でオペラ・デビューを果たす。1955年シュトゥットガルト州立歌劇場と契約し、同じくタミーノ役でデビューを果たし、一晩にしてスターとなった。その後、バイエルン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場と契約。ザルツブルク音楽祭にも定期的に出演した。しかし、1966年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場デビューを数日後に控え、自身の誕生日を目前にして、友人の別荘の階段から転落して頭蓋骨を骨折し、翌日死亡した。ヴンダーリヒとしばしば共演した名バリトンのフィッシャー=ディースカウ(1925年―2012年)は「ヴンダーリッヒは、大きな希望であり、才能ある人物の出現が永く希求されていた声楽界にあって、その成就でもあった。彼の永遠の沈黙は、それ故に、私たちにとっての限りない衝撃であり、悲しみである」と、このLPレコードのジャケットのライナーノートに記されている。ヴンダーリヒは、この録音の後、グラモフォンに「椿姫」「皇帝と船大工」などのオペラの抜粋版を録音し、カラヤンの指揮でハイドンのオラトリオ「天地創造」を録音中に亡くなった。ヴンダーリッヒは、20世紀最大のリリコ・テノールと目されており、ドイツの歌手史上最も重要な歌手の一人とされている。ルチアーノ・パヴァロッティは、インタビューで、歴史上もっとも傑出したテナーはと聞かれ「フリッツ・ヴンダーリッヒ」と答えたほど。このLPレコードでのヴンダーリッヒの歌声はビロードのように美しく、また優しくリスナーを包んでくれる。LPレコード特有の温かみのある音質が、ヴンダーリッヒの例えようもない美しい声を今に伝えてくれる貴重な録音である。特に、B面に収められたシューマン:歌曲集「詩人の恋」は、ヴンダーリッヒの澄んだ美しい歌声が、シューマンの心情を余すところなく表現した、今でもこの曲の代表的録音の一つに挙げられる。(LPC)

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