★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ギーゼキングとカンテルリのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ライヴ盤)

2020-02-06 10:09:17 | 協奏曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

指揮:グィード・カンテルリ

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

録音:1956年3月25日、ニューヨーク(ライヴ録音)

発売:1980年

LP:キングレコード(Cetra) SLF 5013
 
 このLPレコードは、1956年3月25日にニューヨークで開催されたコンサートのライヴ録音である。ピアノはドイツ出身の巨匠ワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)、指揮はイタリア出身で35歳の若さで飛行機事故で亡くなったトスカニーニの後継者と目されていた天才指揮者グィード・カンテルリ(1920年―1956年)、そして、管弦楽はニューヨーク・フィルハーモニックという、当時考え得る最高の演奏家達による演奏で、しかも、曲目はベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」。これだけを見ても、目も眩みそうな組み合わせの演奏であるが、しかもライヴ録音というから凄い。音質も当時のライヴ録音としては上出来な部類に入るもので、現在でも充分に鑑賞に耐え得る。こんな豪華なコンサートであったが、その直後に、大きな悲劇が待ち受けていたなどということは、当日のコンサートの演奏に酔いしれた聴衆は誰ひとり予想もしなかったであろう。何と、ギーゼキングは、このコンサートの直後に、交通事故に遭い、同乗の夫人を失うととともに、自身も怪我をし、1956年11月26日に世を去ってしまう。一方、指揮者のグィード・カンテルリは、1956年11月24日、飛行機事故のため、パリのオルリー飛行場付近で35歳という短い生涯を終えることになる。つまり、カンテルリが飛行機事故で死んだ2日後に、ギーゼキングが交通事故のためこの世を去ってしまったのだ。これは、単なる偶然なのであろうか。あたかも、神が死ぬ前に、2人をコンサートで共演させたかのようにも感じられるほどである。ギーゼキングは、すでに当時、新即物主義のピアニストとして、その右に出るものはいないという巨匠中の巨匠であった。新即物主義というのは楽譜に忠実に演奏するスタイルであり、当時、ロマン主義で恣意的に演奏されていたピアノ演奏法をギーゼキングが根底から覆してしまったのだ。この流れは脈々と現在まで受け継がれている。ギーゼキングは、「皇帝」の録音をこのほか2つ残しているが、いずれもスタジオ録音盤。トスカニーニは、「カンテルリが自分と同じような指揮をする」と言ってNBC交響楽団の副指揮者として招き、1956年には、スカラ座の音楽監督に指名した。このLPレコードで、ギーゼキングは、ライブ録音でしか聴けないような即興的な背筋のぴーんと張った迫力あるピアノ演奏を聴かせる。一方、カンテルリの指揮は、ギーゼキングに一歩も引かず、如何にもベートーヴェンの曲だと納得させられる、構成力のある伴奏が見事である。(LPC)

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