ドビュッシー:弦楽四重奏曲
ラヴェル:弦楽四重奏曲
弦楽四重奏:イタリア弦楽四重奏団
パオロ・ボルチアーニ(第1ヴァイオリン)
エリーザ・ペグレッフィ(第2ヴァイオリン)
ピエロ・ファルッリ(ヴィオラ)
フランコ・ロッシ(チェロ)
録音:1965年8月11日~24日、Vevey Theatre
発売:1979年
LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード)13PC‐11(835 361 LY)
このLPレコードでドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲を演奏しているイタリア四重奏団は、1945年にデビューし、1980年に解散した弦楽四重奏団。全盛期には“黄金のかがやき”と評され、そのはつらつとした弦の音色は、他の弦楽四重奏団には決して求められない魅力を秘めていた。明快にして息の合った絶妙なアンサンブルに加え、現代的でいて、しかもイタリアの室内楽団らしく、歌ごころを常に宿していた。その実力は、世界第一流のカルテットとしての評価を定着させ、世界各地の音楽祭にもしばしば招かれて花を添えていた。そのレパートリーは幅広く、この分野におけるほとんどすべてに渡っており、ベートーヴェン、モーツァルト、シューマン、ブラームス、ウェーベルンの弦楽四重奏曲の全曲録音を完成させている。そんなイタリア弦楽四重奏団が、このLPレコードにおいては、ドビュッシーとラヴェルの弦楽四重奏曲を演奏している。これらの2曲は、当時一世を風靡していたワグナーのドイツロマン派音楽に対するアンチテーゼとも言うべき曲であり、ドビュッシーとラヴェルのフランス音楽への強烈なメッセージが込められている作品だ。2曲とも、どことなく水墨画を思い出させるつくりとなっており、限りなく幽玄で繊細な世界へとリスナーを導く。ドビュッシー:弦楽四重奏曲は、丁度「牧神の午後への前奏曲」と同じ頃の1893年に作曲された。ドビュッシーが書いた室内楽作品は、極めて少なく、このLPレコードに収められた弦楽四重奏のほかは、晩年に書き遺した3曲のソナタがあるだけである。一方、ラヴェル:弦楽四重奏曲は、1902年から翌年にかけて作曲され、1904年にパリで初演されている。弦楽四重奏曲だけとると、ラヴェルの曲は、ドビュッシーの後となるが、ピアノ曲としてのフランス印象派音楽としての作品としては、ラヴェルはドビュッシーに先駆け、「水のたわむれ」(1901年)を書いている。弦楽四重奏曲においては、ドビュッシーが幽玄さに徹しているのに対し、ラヴェルは、理性と典雅さが勝ったような作風に仕上がっている。知的な作品ではあるが、同時に表情が生き生きとしていて、情熱の高まりにも、抒情のふくらみにも不足はない。イタリア弦楽四重奏団は、フランス印象派音楽を象徴するかのようなこれらの2曲を、実にしっとりとした味わいと同時に、明快さも加味させて、全体を説得力のあるものに仕上げている。(LPC)