モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番「春」
弦楽四重奏曲第15番
弦楽四重奏:バリリ四重奏団(第14番)
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(第15番)
発売:1964年
LP:キングレコード MR5049
モーツァルトは生涯で23曲の弦楽四重奏曲を書いた。それらは、次のような4つのグループに分けられている。第2番~第7番=「ミラノ四重奏曲」、第8番~第13番=「ウィーン四重奏曲」、第14番~第19番=「ハイドン四重奏曲」、第21番~第23番=「プロシャ王四重奏曲」。これらのうち、第8番以降はすべてウィーンで書かれている。モーツァルトの弦楽四重奏曲の先生に当る人はハイドンである。ハイドンこそが弦楽四重奏曲の古典的形式を完成させたのである。それは1789年に書き上げた6曲からなる「ロシア四重奏曲」と名付けられている弦楽四重奏曲であり、これらは、それ以前の弦楽四重奏曲とは異なり、全く新しい特別の手法によって作曲れた。一方、ザルツブルクからウィーンに移ったモーツァルトは、ハイドンが新たに編み出した弦楽四重奏曲の手法を参考に6曲からなる弦楽四重奏曲を完成させ、ハイドンに献呈した。これが「ハイドン四重奏曲」であり、このLPレコードには、このうち、第14番(ハイドンセット第1番)と第15番(ハイドンセット第2番)が収められている。モーツァルトは、6曲のハイドンセットを完成させた翌日の1785年1月15日と2月12日に、ハイドンを自宅に招き、弦楽四重奏曲を披露したという。第14番は、ハイドンが編み出した新しい手法が、モーツァルトという天才を経過することによって、一層の高みにたどりついたことが聴き取ることができる作品となっている。実に落ち着いた弦楽四重奏曲に仕上がっており、均整の取れた構成は弦楽四重奏曲の醍醐味を存分に味わせてくれる。この作品を作曲した頃に、モーツァルトは交響曲第35番「ハフナー」や歌劇「後宮からの誘拐」などを作曲している。バリリ四重奏団の演奏は、深みのある中に、如何にもウィーン情緒が漂う洒落た趣も伝えてくれる。一方、第15番はニ短調の作品(モーツァルトは短調の弦楽四重奏曲を2曲書いた)で、深い諦観に覆われた中にも、起伏に富んだ軽快さが何とも心地良い弦楽四重奏曲であり、如何にもモーツァルトらしい天衣無縫さがさが横溢した作品となっている。この曲は、モーツァルトの妻コンスタンツェが最初の出産の最中に作曲されたという。演奏するのはウィーン・コンツェルトハウス四重奏団で、独特の透明感のある優雅な雰囲気が、何ともいえない雅な趣を演出して秀逸な演奏となっている。(LPC)