バッハ:ハープのための組曲BWV1006a(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番による)
ヘンデル:主題と変奏ト短調
コレルリ:ソナタニ短調
シュポーア:ハープのための変奏曲
フォーレ:塔の内の王妃
アルベニス:ソナタニ長調
:マラゲーニア(組曲「エスパニア」から)
ハープ:ニカノール・サバレタ
録音:1963年10月28~29日、ハノーファー、ベートーヴェン・ザール
LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5199
ニカノール・サバレタ(1907年―1993年)は、スペイン出身の偉大なハーピスト。当時は、ハープといえば”サバレタの前にサバレタなし、サバレタの後にサバレタなし”といった感じで、絶大な人気を誇っていた。自分で考案した8つのペダルを持つハープを用いての鮮やかな演奏は、当時の聴衆を完全に魅了したようだが、このことはこのLPレコードでもはっきりと聴き取ることができる。例えば、第1曲目のバッハ:ハープのための組曲BWV1006aを聴いてみると、原曲のヴァイオリンのための作品とは雰囲気がらりと変わり、ハープ特有の柔らかさが前面に打ち出され、新しい曲を聴いているような気分にさせられる。サバレタは、ミヨー、クシェネック、タイユフェール、ヴィラ=ロボスなど著名な作曲家から数多くの作品を献呈されているほか、自ら作曲や編曲を行った。さらに、埋もれていた作品の発掘も熱心に行い、この結果、サバレタは当時、ハープのレパートリーを広げることでも大いに貢献したのだ。このLPレコードでは、サバレタの豊かなその音楽性を存分に味わうことができる。サバレタのハープの奏でる、あたかも天国で弾いているようなその音色を一度でも聴いたら、二度と忘れられなくなる。それほど、サバレタのハープ演奏は、曲の核心をしっかりと掴み、その曲が持つ豊かな音楽の世界をリスナーに存分に伝えてくれる。ハープは、朝聴いても、昼聴いても、さらに夜聴いても、その時々の別な表情を見せてくれる、地味な存在ながら他に変えがたい愛すべき楽器ではある、と思う。ニカノール・サバレタは、スペイン北部のバスク地方のサン・セヴァスティアンで生まれた。マドリード音楽院で学んだ後、パリ音楽院に進む。1925年にパリのサル・エラールでデビューを果たし、たちまちのうちに評判となる。そして、ヨーロッパ各地でリサイタルおよびオーケストラとの共演を行う。1934年からはアメリカを中心とした演奏活動を展開して人気を集める。第二次世界大戦後は、ヨーロッパを中心として世界中で演奏活動を行い、“世界最高のハープ奏者”としてその名が世界に知られるようになる。フランスの伝統的で華麗な奏法を身に着けた上で、自ら考案した8つのペダルを持つハープを駆使して、鮮やかなテクニックと多彩な表現で聴衆を魅了した。スペインに居を定め、欧州各地に演奏旅行に出かけ、1959年から1962年までシエナのキジアーナ音楽院でハープ科を担当した。また、自ら作曲を行ったほかに、編曲や当時埋もれていた作品の発掘にも熱心に取り組んだ。(LPC)