★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのメンデルスゾーン&シューマン:ヴァイオリン協奏曲

2020-12-03 09:37:12 | 協奏曲(ヴァイオリン)

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
シューマン:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:アンタール・ドラティ

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1975年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) PL‐1325

 このLPレコードは、名ヴァイオリニストのヘンリク・シェリング(1918年―1988年)がメンデルスゾーンとシューマンのヴァイオリン協奏曲を、アンタール・ドラティ指揮ロンドン交響楽団の伴奏で録音したもの。ヘンリク・シェリングは、ポーランド出身で、後にメキシコに帰化した。ベルリンに留学してカール・フレッシュにヴァイオリンを師事。その後、パリ音楽院に入学、ジャック・ティボーに師事する。このことで、ヘンリク・シェリングは、ドイツ=ハンガリー楽派の奏法とフランコ=ベルギー楽派の双方の奏法を習得することができたのだ。このことが、すなわちヘンリク・シェリングの後の大成の礎となったのである。第二次世界大戦中、メキシコシティにおける慰問演奏を行い、それがきっかけで同地のメキシコ市立大学に職を得て、1946年にはメキシコ市民権を得ることになる。その後は教育活動に専念していたが、1954年、メキシコを訪れたアルトゥール・ルービンシュタインにその実力を認められ、これが契機となりニューヨーク市でデビュー。これが高い評価を得て、以後、各国で演奏会活動を展開し、世界的なヴァイオリニストとしての地位を不動のものとした。このように、ヘンリク・シェリングは、努力のヴァイオリニストであり、大器晩成型のヴァイオリニストであった。このLPレコードのA面に収められているメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲の演奏は、如何にもヘンリック・シェリングらしく真正面から曲を捉え、少しの誇張もない。あくまで正攻法で臨む。もう、耳にタコができるほど聴いてきたこの曲が、ヘンリック・シェリングの手にかかるとたちどころに、生き生きとした躍動感溢れる曲に、変身を遂げてしまう。この謎への回答は、ヘンリク・シェリングが、ドイツ=ハンガリー楽派の奏法とフランコ=ベルギー楽派の双方の奏法を身に着けていることと考えられる。いろいろな要素が何重にも重なって、それらが何とも言えないような香りとなってリスナーに届けられる。同様なことは、B面のシューマン:ヴァイオリン協奏曲の演奏により顕著に現れる。このヴァイオリン協奏曲は、シューマンの曲の中でもロマンの香りが強く漂う曲である。複雑な要素が絡み合い、葛藤しながら曲が進行する。表面的な演奏しかできないヴァイオリニストがこの曲を弾くと、ただ混乱だけしか生み出さないが、ヘンリク・シェリングの演奏は、まずきちっとした曲の解釈が土台にあり、その上にシューマン独特のロマンの世界が花開く。ここには、名人しか成しえない、隠された至高の技がある(LPC)

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