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★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ウィーン・アルバンベルク弦楽四重奏団のアルバン・ベルク:弦楽四重奏曲op.3/弦楽のための抒情組曲

2021-04-05 09:39:33 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

アルバン・ベルク:弦楽四重奏曲 op.3
         弦楽のための抒情組曲

弦楽四重奏:ウィーン・アルバンベルク弦楽四重奏団
          
           ギュンター・ピヒラー(第1ヴァイオリン)
           クラウス・メッツル(第2ヴァイオリン)
           ハット・バイエルレ(ヴィオラ)
           ヴァレンティン・エルベン(チェロ)

発売:1977年

LP:キングレコード SLA 6301

 シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの3人は、新ウィーン楽派と呼ばれる。これは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの古典ウィーン楽派に倣って名付けられたもの。古典ウィーン楽派が、調性音楽の土台を築いたとするなら、新ウィーン楽派は、20世紀の初めに生まれた新しい音楽技法として一世を風靡した、12音技法に基づいた12音音楽をその土台とした。このLPレコードは、12音音楽華やかなりし1977年に発売となった盤で、新ウィーン楽派の一人、ベルクの弦楽四重奏曲を2曲を収録してある。アルバン・ベルク(1885年ー1935年)は、当初、公務員となるが2年で辞職し、ウィーン国立音楽院で正規の音楽教育を受けることになる。1907年、本格的に作曲家としてのデビューを飾る。そして、1925年に完成した歌劇「ヴォツェック」によって、ベルクの作曲家としての名声は揺るがぬものとなって行く。しかし、1933年にナチス・ドイツ政権が発足すると、師シェーンベルクと共にベルクの音楽は、“退廃音楽”のレッテルが貼られてしまう。今でもしばしば演奏されるヴァイオリン協奏曲を完成させた後、歌劇「ルル」を未完のままに、ベルクはこの世を去ってしまう。弦楽四重奏曲op.3は、高度な対位法と、無調性が自在に駆使された作品で、2つの楽章から成っている。一方、弦楽のための抒情組曲は、1925年から1926年にかけて作曲された弦楽四重奏曲で、ベルクが12音技法を用いて作曲した最初の大曲。全体は6つの楽章からなっており、12音音楽と無調音楽が1楽章ごとに交互に現れる構成となっている。このLPレコードで演奏しているアルバン・ベルク弦楽四重奏団は、1970年、ウィーン国立音楽大学教授でありウィーン・フィルのコンサートマスターを務めていたギュンター・ピヒラーが同僚ともに結成したもので、名称については、アルバン・ベルク未亡人ヘレネから許諾を得て付けたという。現代音楽に積極的に取り組み、1980年代には世界を代表するカルテットと評されたが、残念ながら2008年に解散してしまった。このLPレコードに収められたベルクの2曲の弦楽四重奏曲の演奏において、アルバン・ベルク弦楽四重奏団は、完璧なまでに精緻な演奏内容に徹しており、ベルクの不安げな気分が横溢する曲想を巧みに表現し切っている。そこには現代音楽にありがちなとげとげしさは少しもなく、ベルクの音楽そのものに対する深い共感が強く滲み出ている。これは、ベルクの音楽を論ずるときには欠かせない録音であることは間違いあるまい。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇バルトーク弦楽四重奏団のバルトーク弦楽四重奏曲第3番/第4番

2021-02-04 09:40:29 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

バルトーク:弦楽四重奏曲第3番/第4番

弦楽四重奏:バルトーク弦楽四重奏団

         ペーター・コムローシュ(第1ヴァイオリン)
         シャーンドル・デヴィッチ(第2ヴァイオリン)
         ゲーザ・ネーメット(ヴィオラ)
         カーロイ・ボートバイ(チェロ)

LP:RVC(ΣRATO) ERX‐2055(STU-70397)

 これは、バルトーク弦楽四重奏団が録音したバルトーク:弦楽四重奏曲全曲集(第1番~第6)の中から第3番と第4番を収録したLPレコードである。バルトークは、ピアノの名手であったことでも分かるように、古典派やロマン派の作品を完全に消化した土台に立って、無調音楽に代表される現代音楽の作曲技法を身に着け、さらに自ら収集したハンガリー民族音楽を駆使して作品を完成させていった。特に6曲からなる弦楽四重奏曲に、このことが見事に結実している。弦楽四重奏曲はベートーヴェンが頂点を極めてしまい、その後、シューベルト、シューマン、ブラームスなどの名だたる作曲家が何度も挑戦しても、ベートーヴェンの域に達することはできなかった。そんな中、バルトークは唯一、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に拮抗しうる作品を残したのである。バルトークは、古典派とロマン派のクラシック音楽から出発し、民俗音楽それに現代音楽という要素を組み込み、独自の音楽の世界を切り開いて行った。そしてその頂点にあるのが6曲かなる弦楽四重奏曲であるということができよう。第3番は、複雑な対位法とリズムの込み入った組み合わせによって構成されている。技術的に見て高度なものへの挑戦と、抽象的な表現が、往々にしてこの曲を難解にしがちである。しかし、その中にバルトークの新しい音楽の地平線を求める並々ならぬ情熱が隠されており、独自の魅力を持った作品に仕上がっている。一方、第4番は、その構成の緻密さと統一感により、ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲にも匹敵する内容を持った作品と評価されている。このLPレコードで演奏しているバルトーク弦楽四重奏団は、ハンガリーの首都ブタペストのリスト・フェレンツ音楽院を卒業したメンバーにより1957年に結成された。バルトーク弦楽四重奏団の名称は、その演奏の素晴らしさに対し、バルトーク夫人およびハンガリー政府から贈られたものという。1964年に、ベルギーで開かれた「世界弦楽四重奏団コンクール」で優勝を飾り、一躍その名を世界に知られることとなった。1970年には、ハンガリーで最高の文化功労賞「コシュート・プライズ」を受賞している。最初の来日は1981年で、その後しばしば来日を果たした。このLPレコードでのバルトーク弦楽四重奏団は、実に緻密で、同時に起伏に富んだ深い内容の演奏を披露してくれる。音自体に広がりがあり、弦楽四重奏曲というジャンルを飛び越えたようなスケール感が何とも言えない。優美であると同時に、バルトーク独特の鋭さも合わせ持ったところに、この四重奏団の真骨頂を見て取れる。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇巨匠カール・ズスケ率いるベルリン弦楽四重奏団のモーツァルト:弦楽四重奏曲第16番/第17番「狩」

2020-10-12 09:33:08 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

モーツァルト:弦楽四重奏曲第16番/第17番「狩」

弦楽四重奏:ベルリン弦楽四重奏団

           カール・ズスケ(第一ヴァイオリン)
           クラウス・ペータース(第二ヴァイオリン)
           カール=ハインツ・ドムス(ヴィオラ)
           マティアス・プフェンダー(チェロ)

発売:1980年4月

LP:日本コロムビア OC‐7292‐K

 モーツァルトは、生涯でで23曲の弦楽四重奏曲を作曲している。14歳の誕生日を迎えて直ぐの1770年1月末に、ザルツブルクを立ちイタリアのミラノに到着した。そして同年3月末にミラノからローマに向かう途中のローディという町で第1番の弦楽四重奏曲が書かれている。1772年10月、16歳となったモーツァルトは、第3回目のイタリア旅行へと旅立つ。この直前書き上げられたのが第2番の弦楽四重奏曲である。続く、第3番から第7番まではミラノ到着後に書かれたため、”ミラノ四重奏曲”と呼ばれている。6曲とも3楽章形式で、ディヴェルティメント風な作品となっている。1773年7月、17歳となったモーツァルトは、ウィーンに職を求める旅に出て、そのウィーンで一気に書き上げられたのが”ウィーン四重奏曲”と呼ばれる第8番から第13番の弦楽四重奏曲である。これら6曲はハイドンの弦楽四重奏曲に倣い、すべて4つの楽章からなっており、ここにモーツァルト独自の世界を持つ弦楽四重奏曲が完成することになる。その後、10年余りの歳月が経ち、モーツァルトはザルツブルグを引き払い、ウィーンに居を構えることになるが、そんな中、1782年に第14番の「春」と呼ばれる弦楽四重奏曲を完成させる。そして、その後書かれた5曲とともにハイドンに献呈された。”ハイドン・セット”の完成である。今回のLPレコードは、モーツァルトが作曲した”ハイドン・セット”の中から、第16番と第17番「狩」を収録したもの。演奏するのは、ベルリン弦楽四重奏団。このカルテットは、旧東ドイツの団体で、第一ヴァイオリンのカール・ズスケを中心に結成され、全員がベルリンのシュターツ・カペレで重要なメンバーであった奏者たちだ。1966年「ジュネーヴ国際音楽コンクール」で受賞するなど、当時国際的に活躍したカルテットであった。1973年に初来日を果たしている。カール・ズスケはヴァイオリンの独奏者としても有名で、日本でも多くのファンを有していた。このLPレコードでのベルリン弦楽四重奏団の演奏は、2曲とも正統的な演奏と言えるもので、何より格調が高いのが特徴。澄んだ弦楽器の音色が、何とも言えない微妙なニュアンスを醸し出し、その優雅さにおいてこれを上回るカルテットを、私は今日に至るまであまり聴いた記憶がない。4人の奏者の息がぴたりと合い、一部の隙がないのだが、リスナーに少しの緊張感も与えず弾き進む。普通、弦楽四重奏曲というと内向的な雰囲気が漂いがちだが、このベルリン弦楽四重奏団の演奏は、そんなことは微塵も感じさせず、清々しい印象をリスナーに与え続ける。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇バリリ四重奏団の弦楽四重奏曲第10番「ハープ」/第11番「厳粛」

2020-08-24 09:41:56 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第10番「ハープ」
        弦楽四重奏曲第11番「厳粛」

弦楽四重奏:バリリ四重奏団

発売:1965年 

LP:キングレコード MR5094

 これは、往年の名カルテットのバリリ四重奏団が録音した、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集のLPレコードの中の1枚で、弦楽四重奏曲第10番「ハープ」と弦楽四重奏曲第11番「厳粛」が収められている。バリリ四重奏団は、1954年に創設された弦楽四重奏団であり、第1ヴァイオリンは、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めたワルター・バリリ、第2ヴァイオリンは、ウィーン・フィルの第2ヴァイオリンの首席奏者を務めたオットー・シュトラッサー、ヴィオラは、創設時のモラヴェッツから、ウィーン・フィルのヴィオラの首席奏者を務めたルドルフ・シュトレンク、そして、チェロは、創設時のクロチャックさらにエマヌエル・ブラベッツがそれぞれ担当している。いずれもウィーン・フィルの有力メンバーであり、彼らが演奏するスタイルは、ウィーン情緒たっぷりなところが大きな特徴となっている。しかしながら、単にウィーン情緒に流されることはなく、その曲の持つ本質をずばりと言い当てる能力は、他の弦楽四重奏団を大きく凌駕していた。弦楽四重奏曲第10番「ハープ」は、第1楽章の随所に現れるピッツィカートの動機から「ハープ」という愛称を持つ。この幸福感に満たされた作品をバリリ四重奏団は、本来持っているウィーン情緒をふんだんにちりばめた内容の演奏を繰り広げる。しかも、表面的なウィーン情緒とは無縁な奥深い感情が込められた演奏なので、この作品が持つ伸びやかさが鮮やかに表現尽される結果となっている。一方、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番「厳粛」は、1810年5月に劇音楽「エグモント」を完成させた後に着手された。何故「厳粛」と名づけられたかというと、草稿に「真面目なる四重奏曲。1810年10月ズメスカに捧ぐ。10月その友人これを書く」ということから来ているようだ。もっとも「真面目なる(セリオーソ)」という言葉は出版に際しては削除されたという。この曲は、規模は小さいものの、「内容の充実度ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中でも一番」とする評論家がいるほど優れた作品に仕上がっている。第10番「ハープ」の後に続けて聴くと、第11番「厳粛」の内省的で厳格さとの落差に驚かされるが、こちらの方が本来のベートーヴェンの弦楽四重奏に近い性格の曲だ。ここでのバリリ四重奏団の演奏は、第10番「ハープ」の大らかな演奏をがらりと変え、ベートーヴェンの内省的で激しい闘争心を的確に捉え表現する。それでも、ぎすぎすした感情表現ではなく、深淵さを感じさせるところはさすがバリリ四重奏団である。(LPC)


◇クラシック音楽LP◇ウィーン・コンツェルトハウスのシューベルト:弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」

2020-08-17 09:44:57 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

シューベルト:弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」

弦楽四重奏:ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団

          アントン・カンパー(第1ヴァイオリン)
          カール・マリア・ティッツェ(第2ヴァイオリン)
          エーリッヒ・ヴァイス(ヴィオラ)
          フランツ・クヴァルダ(チェロ)

発売:1976年5月

LP:日本コロムビア OW‐8016‐AW

 シューベルトは、生涯に弦楽四重奏曲を20曲以上作曲したようだが、その中には楽譜が消失してしまったものもあり、正確な数字は分からない。このLPレコードは、「ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団/シューベルト弦楽四重奏曲全集」の中の1枚で、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社の全集版によって演奏されている。この全集版には、シューベルトの自筆楽譜をもとに考証された15曲が収められている。初期の頃のシューベルトの弦楽四重奏曲は、家庭で演奏されるような作品であり、特別に深い内容は持っているわけではない。しかし、中期、後期と進むに従い、内容の濃い作品も作曲され始める。それらの作品に共通する特徴は、歌曲のように流れるような美しいメロディーが、次ぎから次へと湧き上がってくることで、如何にもシューベルトらしい弦楽四重奏の世界を形成しているのが特徴。弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」は、1824年2月から3月にかけて作曲され、初演時には第3楽章がアンコールで演奏されたほど好評だったという。第1楽章の第1主題は、初期の歌曲「糸を紡ぐグレートヒェン」に基づいたもので、また第2楽章は、変奏曲の主題が劇音楽「ロザムンデ」から取られている。このため、この曲全体が「ロザムンデ」と呼ばれるようになった。ただ、この曲の中で中心をなす楽章は、第3楽章メヌエット:アレグレットの楽章と言われている。いずれにせよ、この第13番の弦楽四重奏曲は、1824年の第14番「死と乙女」、1826年の第15番と並び、シューベルトの弦楽四重奏曲の後期の3大作品を形成する作品であり、内容の充実した作品に仕上がっている。これらの3つの作品は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のような深い精神性を持ったものというより、ロマン派の作品のような抒情味溢れるところが特徴となっている。歌曲のような流れるメロディーが魅力を発散させ、今でも多くのファンから支持を受けている曲。演奏しているのは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団。同四重奏団は1934年に創立され、ウィーンのコンツェルトハウスを舞台に演奏活動を展開していた。このLPレコードでは、創立当時のメンバーが演奏している。その後、第1ヴァイオリンのアントン・カンパー以外のメンバーの交代があり、1967年を最後に解散した。活動中は、全員がウィーン・フィルのメンバーであったことから、ウィーン情緒を強く反映した演奏内容に特徴があった。このLPレコードの演奏でも、どのクァルテットと比べても、抒情性が色濃く、深いロマンの味わいが表現された充実した演奏を聴かせてくれている。(LPC)